転生しました、脳筋聖女です

香月航

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STAGE13・脳筋と得た者、失くした者

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 ――よく晴れた青空の下を、大きな馬車と二頭の馬で構成された一行が、ぱかぱかと進んで行く。
 本日も風が心地よい旅日和。そういえば、この旅で天気が崩れたのは先日のドネロンの街の時ぐらいで、あとはほとんど晴れている気がするわね。
 ゲームの時は薄暗い曇りの日も多かった気がしたけど、魔物の出現量と比べて国そのものはまだ平和なのかもしれない。

「アンジェラもたまには中に入ったらいいのに。大丈夫? 日に焼けちゃうよ?」

 もはや御者席が定位置になってきているジュードが、器用に手綱を操りながら声をかけてくれる。
 ジュードがここにいるので、私もその隣がお決まりの席だ。今日も今日とて、魔物を捜しつつ景色を眺めている。うん、風が心地いいわ。

「一応屋根もあるし大丈夫よ。日に焼けたら焼けたで、貴方とおそろいになるしね」

「せっかく白くてきれいな肌なのに。いや、君がいいなら止めないけどさ。ゆっくりしたい時は、いつでも言ってね」

 ぽんと軽く私の頭を撫でてから、ジュードは再び前へと視線を戻す。さらさらと風にゆれる黒髪が、青空に映えてきれいだ。
 こういう彼の姿を見られるだけでも、役得ってものよ。

(しかしまあ、ジュードも『運転手役』としてずいぶん慣れたものね)

 旅に出た当初は役割をローテーションしていく予定だったのだけど、結局スキルや立場的な問題もあり、皆の役割は固定になってきている。
 護衛の馬を駆るのは騎士二人で、馬車を任されるのが騎士職に準ずるジュードだ。
 御者席のほうは馬車の質が良いおかげで問題はないけど、馬を駆っている二人はお尻が痛くなりそうよね。いくら騎士として慣れているとはいえ、ディアナ様もダレンも大丈夫なのかしら。そこだけちょっと心配だわ。

(ま、私もここにいるほうが気楽だから、役割固定はありがたいけどね)

 ちらっと視線を向ける馬車の中。席に座っているのは、魔術師三人と部隊長の王子様の四人だ。
 カールはともかく、他の皆と私は仲が悪いわけじゃない。大きな馬車だし、私が加わったところで中のスペースも問題ないだろうけど。

(十年以上一緒にいるジュードと皆とでは、やっぱり気楽さが違うわよ。恋愛的に攻略する気もないし)

 彼らは一緒に戦う仲間であって、ゲームのように好感度を上げるつもりはない。……つまり、長い移動時間を共にする理由がないのだ。
 
(それなら、ずっと外でもジュードの隣が気楽でいいわ。魔物も早く発見できるし、一石二鳥よね)

 だいたい、中に座ったらカールと喧嘩になっちゃうかもしれないし。戦闘以外で疲れるのはごめんだわ。
 
「……あ」

 そうこう考えていたら、早速前方に赤い文字が見え始めた。名前はまだ読めないけど、数は三体。視認できない程度の大きさなら、多分普通の魔物ね。

「アンジェラ? 何かいたの?」

「うん、姿が見えないから大した敵ではないと思うけど……もう少し先に、三体いるわ」

「了解。じゃあ、速度を少し落とすね」

 目ざとく反応したジュードが、手綱の動きを変えていく。さて、今回は誰の番だったかしらね。
 役割は固定になっているものの、魔物との戦闘に関してだけは、馬車の外も中も関係なく平等に戦っている。
 多少は外にいる私たちや護衛組の戦闘が多いけど、群れや強い魔物が出た時は魔術師組もちゃんと戦ってくれるので、協力関係は充分だ。もともと私たちは戦うための部隊だしね。

 三体なら必要ないかな、と思いつつも、一応私も相棒のメイスに手をかける。
 馬車に乗っている時は軽量化の魔法を使っているので、解くタイミングに注意が必要だ。適当なところで解放したら、床板がメイスの重さで抜けちゃうからね。

「あ、見えた。【小鬼】だね。一体だけ少し大きいかな?」

「私も見えたわ。二体が【小鬼】で一体だけ【豪脚の小鬼】よ。珍しいわね」

 視認したジュードとほぼ同じタイミングで、私も敵ネームを確認する。
 ゴブリン系の魔物の第一、第二進化体だけど【剛腕】ではなく【豪脚】はちょっと珍しい。
 大抵のゴブリンは腕を中心に進化するものだけど、【豪脚】は足を中心に進化しているのだ。見た目そのままに、蹴り攻撃が厄介だったはず。

「僕らが前に群れを倒したヤツの別進化かな? とにかく、ささっと片付けようか」

「そうね。ヒト型は周囲から増援を呼びやすいし、手早く片付けましょう」

 馬のスピードが落ち始めたところで、ジュードもすっと腰の剣に手をかけた。
 魔術を頼むほどの敵でもないし、二人でさくっと片付けて……

「いや、必要ない。我が片付けてこよう」

 ――馬車から降りようとしたその瞬間、私たちの横を巨大な馬とそれを操る鋼の鎧が駆け抜けた。
 正しく『人馬一体』となったお方――ディアナ様は、颯爽と小鬼たちの前へ辿りつくと、ほんの数秒でそれらを倒しきってしまった。
 ちょっと珍しい進化個体だったのに、動きをほとんど見られずに倒されてしまったわ。

「…………」

「うわあ、相変わらず凄まじいね、ディアナさんの戦いは」

 仕事を奪われた私たちは、いそいそと元の位置へと戻っていく。
 ジュードは感心しながら馬たちに声をかけているけど……私のほうは内心穏やかではない。

 私の筋肉の女神様が、強くて素晴らしいのはわかる。よおっく、わかっている。それこそ、黄色い声を上げて応援したいぐらいよ。

 でも、今はちょっと喜ぶ気分にはなれない。
 何故なら――“また”守られてしまったから。

(ディアナ様……またなんですか)

 クロヴィスたちと別れてからずっと続いている違和感。
 ……ディアナ様が、私を戦わせてくれないのだ。

 ドネロンの街を出て以降、ディアナ様はずっと一人で戦っている。援護も拒絶し、スピードアタッカーのダレンさえも押しのけて、出てくる魔物を全部一人で倒している。
 そりゃ、旅に出る前なら戦わせないようにするのもわかるわよ。私の外見はモヤシだもの。
 だけど、ここまで一緒に旅をしてきた今は、私が戦えることを知っているはずだ。

 何故今になって、私を戦わせてくれなくなったのだろう。
 ドネロンの戦いで、私は何かやってしまったんだろうか。戦いを任せられないと思うような、何かを。

「アンジェラ殿」

 しょんぼりと俯いていれば、馬車の席のほうからノックが聞こえる。
 中と繋がる窓を開ければ、王子様が苦笑を浮かべて私を窺っていた。

「エルドレッド殿下、何かありましたか?」

「ディアナのことだよ。気になるとは思うけど、どうか許してやってくれ。君の実力を低く評価しているわけではないんだ」

「やっぱり、私の勘違いじゃないんですね……」

 どうやら他の人から見ても『私を守っている』のは確かなようだ。
 ますます悲しくなれば、王子様は私を気遣うように小さく笑った。

「この辺りはトールマン伯爵の治める土地なんだよ。それでディアナは、いつもより『守る』ことに固執しているのだと思う」

「えっ!? この辺がもう領地なんですか!」

 トールマン伯爵といえばディアナ様のご実家だ。いつの間に領地に入っていたのかしら。ずっと御者席で見ていたのに、全然気付かなかったわ。

「……ずいぶん広い領を任されているんですね」

 ジュードも私を気遣いつつ、ゆっくりと馬車を走らせ始める。
 穏やかに周囲を流れていく景色は、のどかで美しいものだ。なるほど、ここがディアナ様の育った土地なのね。

「トールマン伯爵家は古くから騎士を輩出する家として王家に仕えてくれている、戦うことに長けた血筋でね。特にディアナは、子どもや老人などのいわゆる『弱い人々』を守ることに強いこだわりを持っているんだ。己の領地ではなおさらに」

「なるほど……」

 『女性や子どもを大切に』とは、正しく騎士道精神だ。
 よくよく観察すれば、確かにディアナ様はいつも以上に周囲を警戒している。

「最初の頃に話した気がするけど、トールマン伯爵領には魔物の頻出帯が含まれていてね。この辺りは平和だけど、ところによっては激戦区だったりと、気の抜けない土地でもあるんだ。それでディアナも気を張っているのだろうね」

「……殿下。今走ってる道も、別に平和じゃないですからね?」

 王子様の感覚がマヒしておられるようなので、一応ツッコミを入れておく。
 実は今日だけでも、もう結構な数の戦闘をこなしている。私が守られていると気にせざるをえないぐらいには。
 それこそ、普通の旅人ならとっくに心が折れている魔物の出現量である。

(景色自体はきれいだから、戦闘慣れした私たちは平和に感じてしまったのね)

 戦闘部隊だから仕方ないけど、慣れって恐ろしいわ。

「そうだったかな? とにかく、君を戦わせないようにしているのは実力どうこうではなく、ただのディアナのこだわりだろうから、気にしないでくれ。ディアナの手が回らない時は、いつも以上に戦って欲しいな」

「わかりました。いつでも戦えるように準備しておきます」

 優しい声でそう告げると、彼は姿勢を正し、静かに窓を閉じた。
 しかしそうか……ご実家が近いってことは、これから先はディアナ様にまつわる出来事が起こるかもしれないのね。

(守られ続けるのも困るけど、統治者の娘の顔を立てると思えば、気にする必要はないのか)

 どうせ魔物が沢山出れば、嫌でも戦うことになるだろうし。
 それより私は、ディアナ様のご実家に失礼がないようにするほうが大事かもしれない。

 馬車は規則正しい音を立てながら、先へ先へと進んでいく。
 次の目的地――エリーゴの街へ向けて。
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