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STAGE12-13
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「ああ、これもうちょっと沢山食べておきたかったな」
奇妙な泥たちとの戦いから一夜明けて、朝――と呼ぶには少々日が高くなりすぎた頃。
私と部隊の仲間たちは、出立の準備と並行して軽食をつまんでいた。もちろん、この街の特産品である鶏肉だ。
塩をかけて焼いただけというシンプルな料理法のそれは、いわゆる焼き鳥串。質の良いお肉は旨味たっぷりモッチモチで、それほど食べるほうではない私でも何本でもいけてしまう。
泥魔物の襲撃さえなければ、昨夜はもっと色々な鶏肉料理が食べられたかもしれないのに。非常に残念だわ。
「この戦いが全部終わったら、またこの街に来ればいいよ。赤ちゃんともあんまり遊べなかったしね」
すぐ隣で同じく焼き鳥を頬張るジュードが、慰めるように頭を撫でてくれる。
そうよ! 目的の一つだったあの可愛い天使とも、あんまり交流できなかったのだったわ。
おのれ【混沌の下僕】め! 美味しい食べ物と可愛い癒しを私から奪った罪、必ず償わせてくれるわ!!
「……次にここへ来る時には、サリィさんも元気になっているといいですね」
ジュードとは反対側の隣に座るウィリアムは、ちまちまと串から肉を外して食べているようだ。私より女子っぽいけれど、それがまた嫌味にならず似合うのが彼のいいところね。
「サリィさんか……そうね」
最後の一口を片付けてから、視線を動かす。
私たちから少し離れた席で、クロヴィスと他の仲間たちがやや深刻な表情で話をしている。別れの挨拶というよりは、どうもクロヴィスを励ましているようだ。
……まあ、今回の戦いのことを考えれば、仕方ないだろう。
結果から言えば、サリィの体は無事だった。
ノアの魔術は絶妙な加減で泥魔物だけを攻撃しており、彼女は少しの火傷を負うこともなく泥から解放された。
……その前のジュードの蹴りでちょっと骨を痛めてしまっていたけど、それも街のお医者さんと私の回復魔法の二重治療できっちり治している。
体は無事だった……しかし、問題は中身。
サリィは、あの泥魔物に取り憑かれていた期間の記憶を失っていたのだ。
いや、それどころか、他の記憶や知識にも欠損が出てしまって――昨夜、私が泥を浄化した後に目が覚めた彼女は、なんと自分の名前すら思い出せなくなっていた。
シエンナさんの協力もあり、今は名前や家族のことなどは思い出せたみたいだけど、それ以外の記憶は曖昧なまま。
意識もどこかぼんやりとしており、結局、しばらくは入院しなければならないそうだ。
命があっただけ良かったといえばその通りだけど、今回魔物に付け入られる理由にもなった『クロヴィスへの恋心』もすっかり失ってしまい、何とも居たたまれない気持ちだ。
――あの泥女の目的がサリィ本人ではなく、『クロヴィスへの嫌がらせ』だったものだから、なおさらにね。
(なるべく被害者は出したくなかったのに)
全く予定外の出来事に、被害者は見知らぬ一般人。
先のキュスターもそうだったけれど、『ゲーム』のイベントとして考えても、防ぐのはとても難しいだろう。それはわかってる。
それでも、やっぱり悔しい。
私も仲間もゲームの時より強くなったのに、それだけではまだ完璧には届かないのか。
チートをもってしても、全ての人を救うことは叶わないのか。
リトライのきかない現実だからこそ、余計に悔しいわ。
「……大丈夫だよ、アンジェラ。彼女は五体満足で生きているんだ。きっとすぐに元気になるよ」
「そうだといいんだけど」
「それに、きっとまたクロヴィスさんを好きになるよ。一度忘れてしまっても、好みは変わらないだろうしね」
ぽんぽんと頭を撫でていたジュードの手が、私の髪を優しく梳いていく。
肌の上をゆっくり滑る感触が、なんだか少しくすぐったい。
「僕だって、もし忘れてしまったとしても……また君を好きになるよ。必ずね」
「その前に、まず忘れないでよ」
「はは、それもそうか」
いちゃつくと言うには少々重たい会話をしながら、二人で笑い合う。
……ただし、私が心の中で祈るのは、ジュードとは違うことだ。だって、同じことを繰り返しても、サリィは幸せになれないもの。
(願わくばどうか、大変な目に遭ってしまった彼女に、素敵な恋を。……今度はクロヴィスではなく、ちゃんと想いが叶う相手を好きになれますように)
それからもう少し話をしてから、私たちの一行はまた旅路へと戻った。
街の門まで見送りに来てくれたクロヴィスは、苦笑を浮かべたまま静かに手をふっている。
夢の中で『アンジェラ』を足手まといなどと呼んでいた彼は、もうどこにもいない。
私たちの戦いの旅に、ついて来ることすらない。
(……これで、よかったのかしらね)
変わってしまった世界。変わってしまった立場。……そのおかげで産まれた新しい命と、そのおかげで巻き込まれてしまった女性。
今後も、こういった人々が出てくるかもしれない。何せ、不参加の『攻略対象』が確実にもう一人いるもの。
彼にまつわる場所でもまた、何かが起こるのだろう。……いや、今回のサリィのように、もしかしたらもう仕込まれているかもしれない。
(あのべらべら喋っていた泥女は、まだ生きているだろうしね)
意思を持たない魔物の中で、極めてイレギュラーな存在である泥女は……多分、今の私たちがもっとも倒さなければならない相手だ。
すなわち、【無垢なる王】に協力している“人間”……そして恐らく、魔物を操っている司令塔の片割れ。
今回サリィに取り憑いていた分は倒せたけど、あれが泥女の本体だったとは思えない。確実にどこかに隠れているはず。
これ以上、あんな厄介なものを蔓延させるわけにはいかない。
(クロヴィスを知っていて、私のことも知っている……それも、殺したいほど憎んでいる相手か)
正直に言って、身に覚えはない。ゲームのアンジェラとは違う人生を歩んではきたけど、さりとて人様に恨まれるような生き方はしていないはずだ。
聖女に就任もしていないから、その線で嫉妬を受けることもないだろうし。
(そもそも、登場人物が男だらけの『乙女ゲーム』の世界で、女性キャラクターなんて数が限られる。あんな敵キャラ、ゲームで見かけた覚えはないわ)
それこそ、王位簒奪を狙う貴族とか、世界征服を企む悪の魔術師とか。そういうわかりやすい敵なら検討もつけられたのに。
あの泥女は、一体何が狙いで私たちを襲うのかしらね。
今後も行く先で関わってくるだろうと思うと、ちょっと気が滅入る。
もっとも、それが『主人公』の役割なら、腹をくくるしかないけどね。
「……さよなら、クロヴィス。かつてここに居た騎士。貴方に足手まといと言われたアンジェラが、世界を救ってくるわね」
晴れ渡る青空の下に、規則正しい車輪と蹄の音が響く。
次の戦いの舞台へ向けて。
奇妙な泥たちとの戦いから一夜明けて、朝――と呼ぶには少々日が高くなりすぎた頃。
私と部隊の仲間たちは、出立の準備と並行して軽食をつまんでいた。もちろん、この街の特産品である鶏肉だ。
塩をかけて焼いただけというシンプルな料理法のそれは、いわゆる焼き鳥串。質の良いお肉は旨味たっぷりモッチモチで、それほど食べるほうではない私でも何本でもいけてしまう。
泥魔物の襲撃さえなければ、昨夜はもっと色々な鶏肉料理が食べられたかもしれないのに。非常に残念だわ。
「この戦いが全部終わったら、またこの街に来ればいいよ。赤ちゃんともあんまり遊べなかったしね」
すぐ隣で同じく焼き鳥を頬張るジュードが、慰めるように頭を撫でてくれる。
そうよ! 目的の一つだったあの可愛い天使とも、あんまり交流できなかったのだったわ。
おのれ【混沌の下僕】め! 美味しい食べ物と可愛い癒しを私から奪った罪、必ず償わせてくれるわ!!
「……次にここへ来る時には、サリィさんも元気になっているといいですね」
ジュードとは反対側の隣に座るウィリアムは、ちまちまと串から肉を外して食べているようだ。私より女子っぽいけれど、それがまた嫌味にならず似合うのが彼のいいところね。
「サリィさんか……そうね」
最後の一口を片付けてから、視線を動かす。
私たちから少し離れた席で、クロヴィスと他の仲間たちがやや深刻な表情で話をしている。別れの挨拶というよりは、どうもクロヴィスを励ましているようだ。
……まあ、今回の戦いのことを考えれば、仕方ないだろう。
結果から言えば、サリィの体は無事だった。
ノアの魔術は絶妙な加減で泥魔物だけを攻撃しており、彼女は少しの火傷を負うこともなく泥から解放された。
……その前のジュードの蹴りでちょっと骨を痛めてしまっていたけど、それも街のお医者さんと私の回復魔法の二重治療できっちり治している。
体は無事だった……しかし、問題は中身。
サリィは、あの泥魔物に取り憑かれていた期間の記憶を失っていたのだ。
いや、それどころか、他の記憶や知識にも欠損が出てしまって――昨夜、私が泥を浄化した後に目が覚めた彼女は、なんと自分の名前すら思い出せなくなっていた。
シエンナさんの協力もあり、今は名前や家族のことなどは思い出せたみたいだけど、それ以外の記憶は曖昧なまま。
意識もどこかぼんやりとしており、結局、しばらくは入院しなければならないそうだ。
命があっただけ良かったといえばその通りだけど、今回魔物に付け入られる理由にもなった『クロヴィスへの恋心』もすっかり失ってしまい、何とも居たたまれない気持ちだ。
――あの泥女の目的がサリィ本人ではなく、『クロヴィスへの嫌がらせ』だったものだから、なおさらにね。
(なるべく被害者は出したくなかったのに)
全く予定外の出来事に、被害者は見知らぬ一般人。
先のキュスターもそうだったけれど、『ゲーム』のイベントとして考えても、防ぐのはとても難しいだろう。それはわかってる。
それでも、やっぱり悔しい。
私も仲間もゲームの時より強くなったのに、それだけではまだ完璧には届かないのか。
チートをもってしても、全ての人を救うことは叶わないのか。
リトライのきかない現実だからこそ、余計に悔しいわ。
「……大丈夫だよ、アンジェラ。彼女は五体満足で生きているんだ。きっとすぐに元気になるよ」
「そうだといいんだけど」
「それに、きっとまたクロヴィスさんを好きになるよ。一度忘れてしまっても、好みは変わらないだろうしね」
ぽんぽんと頭を撫でていたジュードの手が、私の髪を優しく梳いていく。
肌の上をゆっくり滑る感触が、なんだか少しくすぐったい。
「僕だって、もし忘れてしまったとしても……また君を好きになるよ。必ずね」
「その前に、まず忘れないでよ」
「はは、それもそうか」
いちゃつくと言うには少々重たい会話をしながら、二人で笑い合う。
……ただし、私が心の中で祈るのは、ジュードとは違うことだ。だって、同じことを繰り返しても、サリィは幸せになれないもの。
(願わくばどうか、大変な目に遭ってしまった彼女に、素敵な恋を。……今度はクロヴィスではなく、ちゃんと想いが叶う相手を好きになれますように)
それからもう少し話をしてから、私たちの一行はまた旅路へと戻った。
街の門まで見送りに来てくれたクロヴィスは、苦笑を浮かべたまま静かに手をふっている。
夢の中で『アンジェラ』を足手まといなどと呼んでいた彼は、もうどこにもいない。
私たちの戦いの旅に、ついて来ることすらない。
(……これで、よかったのかしらね)
変わってしまった世界。変わってしまった立場。……そのおかげで産まれた新しい命と、そのおかげで巻き込まれてしまった女性。
今後も、こういった人々が出てくるかもしれない。何せ、不参加の『攻略対象』が確実にもう一人いるもの。
彼にまつわる場所でもまた、何かが起こるのだろう。……いや、今回のサリィのように、もしかしたらもう仕込まれているかもしれない。
(あのべらべら喋っていた泥女は、まだ生きているだろうしね)
意思を持たない魔物の中で、極めてイレギュラーな存在である泥女は……多分、今の私たちがもっとも倒さなければならない相手だ。
すなわち、【無垢なる王】に協力している“人間”……そして恐らく、魔物を操っている司令塔の片割れ。
今回サリィに取り憑いていた分は倒せたけど、あれが泥女の本体だったとは思えない。確実にどこかに隠れているはず。
これ以上、あんな厄介なものを蔓延させるわけにはいかない。
(クロヴィスを知っていて、私のことも知っている……それも、殺したいほど憎んでいる相手か)
正直に言って、身に覚えはない。ゲームのアンジェラとは違う人生を歩んではきたけど、さりとて人様に恨まれるような生き方はしていないはずだ。
聖女に就任もしていないから、その線で嫉妬を受けることもないだろうし。
(そもそも、登場人物が男だらけの『乙女ゲーム』の世界で、女性キャラクターなんて数が限られる。あんな敵キャラ、ゲームで見かけた覚えはないわ)
それこそ、王位簒奪を狙う貴族とか、世界征服を企む悪の魔術師とか。そういうわかりやすい敵なら検討もつけられたのに。
あの泥女は、一体何が狙いで私たちを襲うのかしらね。
今後も行く先で関わってくるだろうと思うと、ちょっと気が滅入る。
もっとも、それが『主人公』の役割なら、腹をくくるしかないけどね。
「……さよなら、クロヴィス。かつてここに居た騎士。貴方に足手まといと言われたアンジェラが、世界を救ってくるわね」
晴れ渡る青空の下に、規則正しい車輪と蹄の音が響く。
次の戦いの舞台へ向けて。
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