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STAGE13-03
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(――これが、この世界のハルトか)
ディアナ専用攻略対象のハルトの登場で、不在だった攻略対象は全員登場した。
プレイヤーとしては喜ぶべき事態なのだけど……残念ながら、クロヴィス同様に彼もまた、私が知るハルトとは違う人物になっているようだ。
その決定的な違いは、彼のデザイン。
黒々しいウィリアムと比べて、彼は白魔術師というイメージでデザインされており、口調はもちろん全体的に爽やかな色合いでまとめてある。
色素の薄い私と褐色黒髪のジュードが対照的であるように、ディアナ側のキャラ設定は赤と青の対比なわけだ。
ただ、今目の前にいるハルトは、色合いこそ私が知っている彼のままだけど――何故か左目を、長く伸ばした前髪で隠している。
爽やかが売りのキャラに、ミステリアス要素のこの髪型はなかったと思う。
片目隠し髪と言えば、ぶっちゃけた話乙女向けのジャンルでは定番だ。
本当に隻眼であったり、オッドアイを隠すためであったり、またはただのファッションだったり。
理由はそれぞれだけど、このハルトというキャラはそういうデザインではなかったし、きちっと両目を見せていたはずだ。
(というか、前髪長い系デザインは鎧ジュードでやってるから、他のキャラではやらないと思うのよね)
まさか限定攻略対象の両方が前髪鬱陶しい系男子ということはないだろう。色違いとは言え、デザインかぶりは極力避けるだろうし。
妻子持ちになっていたクロヴィスのように、彼もまたゲームとは違うということなのかしら。
「アンジェラ? どうしたの、何か考えごと?」
「ん、いや……ごめん、なんでもないわ」
私がハルトを観察している間に、皆はすでに案内を受けて応接間への移動を開始している。
まあ、ゲームとの違いはきっとこの後にわかるわよね。今夜はここに泊まらせてもらえるんだもの。
「……もしかしてアンジェラ、ああいう爽やか系な男の人が好み? なんだかじっと見ていたし!」
「ジュードって、うらやましいぐらいに恋愛脳よね」
毎度のことながら何でもかんでも恋愛に結び付ける彼に、つい呆れてしまう。
私に対してのみ発揮されるみたいだし、喜ぶべきところなのかもしれないけど。
「心配しなくても、彼だけは絶対にないわ。だって彼は、ディアナ様のものだもの」
「あ、やっぱりそういう感じなんだ。なんとなくだけど、二人の仲が良さそうな雰囲気は僕にもわかったから」
「それに、外見の好みでいうなら、貴方が一番好き」
「…………いきなり僕を殺しにくるのやめてくれない?」
流れでさらっと返したら、途端に真っ赤になったジュードは顔を俯かせた。
毎度毎度自分から恋愛ネタをふってくるくせに、私が少し返すとすぐに狼狽えるのだから、本当に可愛い男だわ。
外見は肉食系なのに中身が乙女だから、余計に可愛く感じるのよね。このギャップの宝庫め。
「ほら、置いてかれちゃったわ。行きましょうジュード」
「アンジェラずるい。弄ぶなら責任とって欲しい」
「いくらでもとるし、とらせてあげるわよ。この戦いが全部終わったらね」
皮が硬くて大きな手を掴んで、先に行ってしまった仲間たちを追いかける。
ジュードは可愛いけど、とりあえず今はハルトの違いを見つけるほうが重要だわ。ディアナ様にも、何かトラウマ的なものがあるかもしれないし。
……サリィの時のように、誰かが傷付いたりしないように気をつけないとね。
さて、皆に追いついて応接間に通された私たちだけど、ディアナ様のお父様ことトールマン伯爵は視察に出ていて不在なのだそうだ。
いかにも執事なおじいさんと年かさのメイドさんが、ディアナ様に頭を下げながら色々と話をしている。そこに王子様が加わって、領地の件などの難しい話に発展しているようだ。
領地運営などには干渉できない私たちは、用意された席について紅茶とお茶菓子をいただいている。
さすがに応接間には絵画なども飾ってあり、花瓶には大輪の生花が活けてある。花が一つも枯れていない辺り、やはりこの屋敷は隅々まで手入れがいき届いているようだ。
女神様はご実家も素晴らしいのね。アンジェラはますます尊敬したくなります。
――さて、と。
「…………ん? お嬢さんは僕に何かご用かな?」
不躾とわかった上でじーっと視線を送ってみたところ、人の良いハルトは予想通り彼のほうから話しかけてくれた。
ディアナ様と彼がこの世界ではどんな関係なのかは知らないけど、私にとっての彼はディアナ専用の攻略対象だもの。
二人きりで話し合いなんてことは避けて、皆が側にいる時に話を済ませてしまいたいのよね。
「失礼いたしました。お顔を隠していらっしゃるようなので、ちょっと気になってしまって。せっかくおきれいなのに、もったいないなあと」
「はは、貴女みたいな美少女に褒めてもらえるなんて、光栄だな」
それなりに好意的に、かつ当たり障りなくを意識して訊ねれば、ハルトは気分を害した様子もなく笑ってくれる。
途端に、隣のジュードから嫉妬の視線を感じたけど、彼の手を握って黙らせた。
私は大事な話をしてるのよ。全く、貴方の顔のが好みだって言ったばかりなのに、困った男だわ。
「……ごめんね。これはちょっと、お嬢さんに見せるのは憚られる理由なんだ」
ハルトに視線を戻すと、彼はどこか憂いを含んだ声で、前髪ごと左目を押さえている。やはり、何かを隠しているのだろう。ほんの一瞬だけ、髪の隙間から違う色が見えていた。
(……あれは)
私は神聖魔法は使えるけど、お医者さんではない。それでも、皆の治療を担当する者として、敏感になってしまう自覚はある。
……先ほど見えたのは、多分。
「詮索するようでごめんなさい。もしかして、傷があるのですか?」
「ん、正解。古い傷があるから隠しているんだ。ごめんね」
ああ、やっぱりか。かすかに見えた左目付近は、肌とは違うくすんだ色だった。いわゆる、色素沈着だ。
(眼帯じゃなく前髪で隠しているってことは、結構広い範囲で傷があるのかしら)
水色の前髪は、顎のあたりまでしっかりと覆っている。
……ゲームのハルトに、そんな過去はなかったはずだけど。
「ごめんなさい。不躾なことを聞いてしまって」
「気にしないで。左目は一応見えるし、生活に支障はないから。むしろ、野暮ったい髪でごめんね」
頭を下げる私に、ハルトはつとめて穏やかに「気にしないで」と笑ってくれる。
しかし顔に傷なんて。ハルトは男だからまだよかったものの、女だったら相当なトラウマだろう。せっかくきれいな顔立ちなのに、もったいないわ。
「……治せるんじゃねえか、お前なら」
「え?」
ふいに、ソファでお菓子を頬張るカールが呟いた。
古傷の回復はやったことがないけど、導師たる彼が言うのなら、もしかして前例があるのだろうか。
「治せる? 見たところ修道女のようだけど、お嬢さんは治療師か何かなのかい?」
「あ、私はアンジェラ・ローズヴェルトと申します。この部隊では治療などを担当しておりますが……実は『聖女』でして」
「ああ! もしかして、君が神聖教会で名前だけ上がってた聖女様か! へえ、こんなに若い女の子だったんだね」
引き受けていないから、エセ聖女だけどね。
ハルトは驚いたというよりは、珍しそうに私を見返している。教会の権力が強いという話は聞かないけど、それなりに知れ渡ってはいるみたいね。
「そういうことですので、強力な神聖魔法を使うことができるのは確かです。古い傷の治療はまだしたことがありませんが……導師サマ、前例があるのよね?」
「お前の魔法なら理論的には可能だと思うぞ。あとは、本人のやる気次第だ」
……なんだ、そういう例があったわけじゃないのか。
まあ、私がチートなのは確かだし、試してみてもいいかもしれない。もし治すことができたら、攻略対象のきれいな顔が復活して目の保養になるものね。
「えっと、確約はできませんが……もしよろしければ、少し見せていただけませんか?」
「僕の傷を見せるのは構わないけど……ねえアンジェラさん。君は女性の仲間として、ディアナと一緒にお風呂に入ったことはない?」
「へ!? わ、私などがディアナ様とご一緒するなんて、恐れ多いです!!」
「ん? ディアナ“様”?」
予想もしなかった質問を返されて、思わずカッと顔が熱くなる。
そりゃ女同士だし、裸の付き合いとかしてみたいと思ったことはあるわよ? 多分、いや間違いなく、私は鼻血吹いて倒れるだろうけど!!
……ただ残念ながら、その機会はまだ一度もない。
何度も宿に泊まってはいるし、元々風呂好きの私は、お風呂つきの宿なら必ず利用しているのだけど……ディアナ様は、なかなかお風呂に行ってくれないのだ。
大半の時間を護衛の騎士として務める彼女は、たとえ王子様が良しといってもあまり持ち場を離れない。
一度だけ私が見ている間にお風呂へ行ったことがあったけれど、『烏の行水』レベルの超スピードで帰ってらしたのだ。
騎士の鑑といえばその通りだけど、自由な時間を作らないようにしている気がしてならない。
色々と思い出してしょんぼりしてしまった私に、ハルトは苦笑を浮かべながらスッと前髪に手をかけた。
「聞いちゃいけない話だったかな。ごめんね。……とりあえず、僕の傷を見せるよ。女の子相手だから、少しだけね」
二重の意味で私を気遣ってくれたのだろうか。
彼は本当に少しだけ前髪をずらして――
「……これ、は」
その光景に、私の頬に上っていた熱は一気に消し飛んだ。
酷い言い方だけど、そこにあったのは隠すのも納得の傷だったのだ。
顔の左半分、額から頬まで引き攣れた皮膚がぐしゃっと皺まみれになっている。
目は無事だと言っていたけど、歪んだまぶたが半分覆っているので、恐らく視力は期待できないだろう。
(しかもこれ……ただの切り傷じゃない)
線状の傷とともに刻まれているのは、多分火傷の痕だ。考えたくはないけど、切った後に焼かれたのか。あるいは、火のついた凶器でつけられた傷なのか。
いずれにしても、普通の負傷ならこんな傷痕は残らないはずだ。
右半分がきれいなだけに、ひどく痛々しい。
「……ごめんね。気持ち悪かった?」
「いいえ……いいえ! 軽々しく聞いてしまって本当にごめんなさい!」
鳥肌が止まらない腕を押さえながら、深く彼に頭を下げる。
別にゲームのハルトが好きだったわけではないけど、ここまでの傷とあっては話は別だ。これはなんとしても、治してあげたい。
しかし、決意を固める私に、ハルトはゆるく首をふった。
「僕の傷はいいんだ。だから、代わりにディアナの傷を治してあげてくれないかな。……実はね、ディアナの体には、もっと大きな痕が残ってしまっているから」
ディアナ専用攻略対象のハルトの登場で、不在だった攻略対象は全員登場した。
プレイヤーとしては喜ぶべき事態なのだけど……残念ながら、クロヴィス同様に彼もまた、私が知るハルトとは違う人物になっているようだ。
その決定的な違いは、彼のデザイン。
黒々しいウィリアムと比べて、彼は白魔術師というイメージでデザインされており、口調はもちろん全体的に爽やかな色合いでまとめてある。
色素の薄い私と褐色黒髪のジュードが対照的であるように、ディアナ側のキャラ設定は赤と青の対比なわけだ。
ただ、今目の前にいるハルトは、色合いこそ私が知っている彼のままだけど――何故か左目を、長く伸ばした前髪で隠している。
爽やかが売りのキャラに、ミステリアス要素のこの髪型はなかったと思う。
片目隠し髪と言えば、ぶっちゃけた話乙女向けのジャンルでは定番だ。
本当に隻眼であったり、オッドアイを隠すためであったり、またはただのファッションだったり。
理由はそれぞれだけど、このハルトというキャラはそういうデザインではなかったし、きちっと両目を見せていたはずだ。
(というか、前髪長い系デザインは鎧ジュードでやってるから、他のキャラではやらないと思うのよね)
まさか限定攻略対象の両方が前髪鬱陶しい系男子ということはないだろう。色違いとは言え、デザインかぶりは極力避けるだろうし。
妻子持ちになっていたクロヴィスのように、彼もまたゲームとは違うということなのかしら。
「アンジェラ? どうしたの、何か考えごと?」
「ん、いや……ごめん、なんでもないわ」
私がハルトを観察している間に、皆はすでに案内を受けて応接間への移動を開始している。
まあ、ゲームとの違いはきっとこの後にわかるわよね。今夜はここに泊まらせてもらえるんだもの。
「……もしかしてアンジェラ、ああいう爽やか系な男の人が好み? なんだかじっと見ていたし!」
「ジュードって、うらやましいぐらいに恋愛脳よね」
毎度のことながら何でもかんでも恋愛に結び付ける彼に、つい呆れてしまう。
私に対してのみ発揮されるみたいだし、喜ぶべきところなのかもしれないけど。
「心配しなくても、彼だけは絶対にないわ。だって彼は、ディアナ様のものだもの」
「あ、やっぱりそういう感じなんだ。なんとなくだけど、二人の仲が良さそうな雰囲気は僕にもわかったから」
「それに、外見の好みでいうなら、貴方が一番好き」
「…………いきなり僕を殺しにくるのやめてくれない?」
流れでさらっと返したら、途端に真っ赤になったジュードは顔を俯かせた。
毎度毎度自分から恋愛ネタをふってくるくせに、私が少し返すとすぐに狼狽えるのだから、本当に可愛い男だわ。
外見は肉食系なのに中身が乙女だから、余計に可愛く感じるのよね。このギャップの宝庫め。
「ほら、置いてかれちゃったわ。行きましょうジュード」
「アンジェラずるい。弄ぶなら責任とって欲しい」
「いくらでもとるし、とらせてあげるわよ。この戦いが全部終わったらね」
皮が硬くて大きな手を掴んで、先に行ってしまった仲間たちを追いかける。
ジュードは可愛いけど、とりあえず今はハルトの違いを見つけるほうが重要だわ。ディアナ様にも、何かトラウマ的なものがあるかもしれないし。
……サリィの時のように、誰かが傷付いたりしないように気をつけないとね。
さて、皆に追いついて応接間に通された私たちだけど、ディアナ様のお父様ことトールマン伯爵は視察に出ていて不在なのだそうだ。
いかにも執事なおじいさんと年かさのメイドさんが、ディアナ様に頭を下げながら色々と話をしている。そこに王子様が加わって、領地の件などの難しい話に発展しているようだ。
領地運営などには干渉できない私たちは、用意された席について紅茶とお茶菓子をいただいている。
さすがに応接間には絵画なども飾ってあり、花瓶には大輪の生花が活けてある。花が一つも枯れていない辺り、やはりこの屋敷は隅々まで手入れがいき届いているようだ。
女神様はご実家も素晴らしいのね。アンジェラはますます尊敬したくなります。
――さて、と。
「…………ん? お嬢さんは僕に何かご用かな?」
不躾とわかった上でじーっと視線を送ってみたところ、人の良いハルトは予想通り彼のほうから話しかけてくれた。
ディアナ様と彼がこの世界ではどんな関係なのかは知らないけど、私にとっての彼はディアナ専用の攻略対象だもの。
二人きりで話し合いなんてことは避けて、皆が側にいる時に話を済ませてしまいたいのよね。
「失礼いたしました。お顔を隠していらっしゃるようなので、ちょっと気になってしまって。せっかくおきれいなのに、もったいないなあと」
「はは、貴女みたいな美少女に褒めてもらえるなんて、光栄だな」
それなりに好意的に、かつ当たり障りなくを意識して訊ねれば、ハルトは気分を害した様子もなく笑ってくれる。
途端に、隣のジュードから嫉妬の視線を感じたけど、彼の手を握って黙らせた。
私は大事な話をしてるのよ。全く、貴方の顔のが好みだって言ったばかりなのに、困った男だわ。
「……ごめんね。これはちょっと、お嬢さんに見せるのは憚られる理由なんだ」
ハルトに視線を戻すと、彼はどこか憂いを含んだ声で、前髪ごと左目を押さえている。やはり、何かを隠しているのだろう。ほんの一瞬だけ、髪の隙間から違う色が見えていた。
(……あれは)
私は神聖魔法は使えるけど、お医者さんではない。それでも、皆の治療を担当する者として、敏感になってしまう自覚はある。
……先ほど見えたのは、多分。
「詮索するようでごめんなさい。もしかして、傷があるのですか?」
「ん、正解。古い傷があるから隠しているんだ。ごめんね」
ああ、やっぱりか。かすかに見えた左目付近は、肌とは違うくすんだ色だった。いわゆる、色素沈着だ。
(眼帯じゃなく前髪で隠しているってことは、結構広い範囲で傷があるのかしら)
水色の前髪は、顎のあたりまでしっかりと覆っている。
……ゲームのハルトに、そんな過去はなかったはずだけど。
「ごめんなさい。不躾なことを聞いてしまって」
「気にしないで。左目は一応見えるし、生活に支障はないから。むしろ、野暮ったい髪でごめんね」
頭を下げる私に、ハルトはつとめて穏やかに「気にしないで」と笑ってくれる。
しかし顔に傷なんて。ハルトは男だからまだよかったものの、女だったら相当なトラウマだろう。せっかくきれいな顔立ちなのに、もったいないわ。
「……治せるんじゃねえか、お前なら」
「え?」
ふいに、ソファでお菓子を頬張るカールが呟いた。
古傷の回復はやったことがないけど、導師たる彼が言うのなら、もしかして前例があるのだろうか。
「治せる? 見たところ修道女のようだけど、お嬢さんは治療師か何かなのかい?」
「あ、私はアンジェラ・ローズヴェルトと申します。この部隊では治療などを担当しておりますが……実は『聖女』でして」
「ああ! もしかして、君が神聖教会で名前だけ上がってた聖女様か! へえ、こんなに若い女の子だったんだね」
引き受けていないから、エセ聖女だけどね。
ハルトは驚いたというよりは、珍しそうに私を見返している。教会の権力が強いという話は聞かないけど、それなりに知れ渡ってはいるみたいね。
「そういうことですので、強力な神聖魔法を使うことができるのは確かです。古い傷の治療はまだしたことがありませんが……導師サマ、前例があるのよね?」
「お前の魔法なら理論的には可能だと思うぞ。あとは、本人のやる気次第だ」
……なんだ、そういう例があったわけじゃないのか。
まあ、私がチートなのは確かだし、試してみてもいいかもしれない。もし治すことができたら、攻略対象のきれいな顔が復活して目の保養になるものね。
「えっと、確約はできませんが……もしよろしければ、少し見せていただけませんか?」
「僕の傷を見せるのは構わないけど……ねえアンジェラさん。君は女性の仲間として、ディアナと一緒にお風呂に入ったことはない?」
「へ!? わ、私などがディアナ様とご一緒するなんて、恐れ多いです!!」
「ん? ディアナ“様”?」
予想もしなかった質問を返されて、思わずカッと顔が熱くなる。
そりゃ女同士だし、裸の付き合いとかしてみたいと思ったことはあるわよ? 多分、いや間違いなく、私は鼻血吹いて倒れるだろうけど!!
……ただ残念ながら、その機会はまだ一度もない。
何度も宿に泊まってはいるし、元々風呂好きの私は、お風呂つきの宿なら必ず利用しているのだけど……ディアナ様は、なかなかお風呂に行ってくれないのだ。
大半の時間を護衛の騎士として務める彼女は、たとえ王子様が良しといってもあまり持ち場を離れない。
一度だけ私が見ている間にお風呂へ行ったことがあったけれど、『烏の行水』レベルの超スピードで帰ってらしたのだ。
騎士の鑑といえばその通りだけど、自由な時間を作らないようにしている気がしてならない。
色々と思い出してしょんぼりしてしまった私に、ハルトは苦笑を浮かべながらスッと前髪に手をかけた。
「聞いちゃいけない話だったかな。ごめんね。……とりあえず、僕の傷を見せるよ。女の子相手だから、少しだけね」
二重の意味で私を気遣ってくれたのだろうか。
彼は本当に少しだけ前髪をずらして――
「……これ、は」
その光景に、私の頬に上っていた熱は一気に消し飛んだ。
酷い言い方だけど、そこにあったのは隠すのも納得の傷だったのだ。
顔の左半分、額から頬まで引き攣れた皮膚がぐしゃっと皺まみれになっている。
目は無事だと言っていたけど、歪んだまぶたが半分覆っているので、恐らく視力は期待できないだろう。
(しかもこれ……ただの切り傷じゃない)
線状の傷とともに刻まれているのは、多分火傷の痕だ。考えたくはないけど、切った後に焼かれたのか。あるいは、火のついた凶器でつけられた傷なのか。
いずれにしても、普通の負傷ならこんな傷痕は残らないはずだ。
右半分がきれいなだけに、ひどく痛々しい。
「……ごめんね。気持ち悪かった?」
「いいえ……いいえ! 軽々しく聞いてしまって本当にごめんなさい!」
鳥肌が止まらない腕を押さえながら、深く彼に頭を下げる。
別にゲームのハルトが好きだったわけではないけど、ここまでの傷とあっては話は別だ。これはなんとしても、治してあげたい。
しかし、決意を固める私に、ハルトはゆるく首をふった。
「僕の傷はいいんだ。だから、代わりにディアナの傷を治してあげてくれないかな。……実はね、ディアナの体には、もっと大きな痕が残ってしまっているから」
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