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STAGE14・脳筋と嵐の前の休日
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――もしも貴女に寄り添うことができていたなら、今のこの時間はなかったのだろうか。
……それは嫌だと思ってしまう自分に、少しばかり罪悪感が募る。
貴女のことが大切だったのは嘘ではない。『私』は貴女を守りたいと、心からそう思っていた。
……それでもきっと、貴女に“今感じているような想い”は抱けなかった。
『僕』は君のことが好きだ。
きっと、君だからこそ、恋を知ったんだ。
* * *
「……ぅ、ん」
まぶたにかかる光が眩しくて、ゆっくりと目を開ける。
「ああ、アンジェラ起きた? おはよう」
「ジュード……?」
私を起こしたのは、カーテンの隙間から差し込んだ太陽の光だったらしい。
白くぼやけた世界の中に茶色と黒が浮かび上がって、それは微笑む幼馴染の顔を形作っていく。
とても幸せそうな、蕩けんばかりの笑みを浮かべたイケメンさん。……寝起きすぐに見るには、ちょっと目に毒ね。
「おはよう……の時間じゃないかしら?」
「そうだね、そろそろお昼前だよ。ぐっすり眠ってたね」
「うわ、寝すぎちゃったわ……」
彼をベッドに招き入れたところまでは覚えているのだけど、あれから爆睡していたらしい。
おかげで体は軽くなったけど、よそのお屋敷でみっともないことをしてしまったわ。
「ジュード、起きていたなら私も起こしてくれてよかったのよ?」
「ごめんごめん。実は二時間ぐらい前にメイドさんも来てくれたんだけど、君があまりにも気持ちよさそうに寝てたから、あちらも気を遣ってくれてね」
「うう、ディアナ様のご実家にご迷惑をおかけするなんて……不覚」
ハルトを連れ去った前科がある以上、これ以上印象を悪くしたくなかったのだけど。
まあ、寝すごしてしまったものは仕方ない。今からでも起きて謝りに行くとしましょう。
上半身を起こせば、私を抱えていたたくましい腕が離れていく。途端に触れた外気が寒くて、つい名残惜しさを感じてしまったのだけど、
「…………うん?」
離れていった腕は、何故か肌が露出していた。そこから視線を下ろせば、寝転がるジュードの胸やらお腹やらが全部見える。……素肌、が。
「待って、貴方なんで服着てないの!?」
「ああ、上だけだよ。さすがに騎士団の服を着たままだと寝苦しくて」
「メイドさんが起こしてくれなかったのは貴方のせいじゃない!?」
一つのベッドに同衾している男女。起きている男のほうは上半身裸で、女のほうは『よく眠っているから寝かせておいてあげて』なんて――そういうことを察してくれと言っているも同然じゃない!! ガッデム!!
「絶対に誤解されてるわ、どうしよう!! しかもこれ、言い訳したら余計に怪しいやつじゃない!!」
「あー……確かにそうだね。まあいいんじゃないかな? 実際には何もしていないし、ベッドも汚していないのだし」
「誤解されることが問題だから!! ここは、ディアナ様のご実家なのよ!?」
起きて早々がくりとうな垂れる私に、ジュードは特に気にした様子もない。同衾を頼んだのが私である以上、追及もできないのが悔やしい!
「ああもう、こんなことなら街の宿に泊まればよかったわ。それなら見られても平気だったのに」
「……一応聞くけど、僕とそういう関係に思われるのは嫌じゃないんだ?」
「嫌? 何が? むしろ、私が貴方以外とどうこうなるほうが不自然だと思うけど」
「あ……そ、そう、だね」
よくわからない質問に首をかしげて見せれば、平然と笑っていたジュードの顔がさっと赤く染まった。
普段からぐいぐい押してくるくせに、私が受け入れると弱いらしい。つくづくギャップの宝庫ねえ。
そもそも、他の男と恋愛フラグを立てるヒマなんてどこにあるのよ。それを潰しているのは、他ならぬジュードなのに。
「えっと、メイドさんの誤解は僕が解いておくよ! とりあえず起きようか。屋敷の人たちがご飯も用意してくれるらしいしね!」
「そうなの? だったら急がなくちゃ。まだご飯を食べる時間があるといいんだけど」
「うん、そうだよ。急ごうアンジェラ!」
慌てた様子で起き上がったジュードは、放ってあった上着を拾うと、そそくさと客間から出ていってしまった。今更何を照れているのかしらね、あの人。
(……それにしても、ジュードの素肌はいい触り心地だったわ)
しっかりと厚みがあって、硬いのにしなやかで、良質な筋肉のついた体。ああ、羨ましい。
私もあれぐらい筋肉がついていたら、強化魔法なしでもメイスをふり回せるかもしれない。
この胸の脂肪が、筋肉に変わってくれればいいのに!
「……って、これセクハラかしら。ま、いいや。お腹も空いたし急ぎましょう」
手早く身支度を整えて客間を出れば、私たちは屋敷の食堂へと案内される。
寝坊をしてしまったにも関わらず、声をかけたらすぐに温かな食事を提供してもらえた。
……まあ、朝食ではなく昼食として用意されたものらしいけど、とにかく食事は食事だ。
使用人さんたちにできる限りのお礼を言ってから、二人並んで席につかせてもらう。ちょうど向かい側では、私たちのよく知った人物が先に食事を始めていた。
「……ノア? えっと、起きてる?」
「…………はっ! あ、ああ……お前たちか……」
席についていたのは、昨夜の戦いの功労者の一人であるノアだ。美しい白銀の髪は適当に結い上げられ、スープ皿に銀のスプーンをつっこんだまま、頭がゆらゆらと揺れている。
(ああ……ダメそうだわ、これ)
向かいの私たちに気付き、少しだけ反応を示したものの、その数秒後には再び舟をこいでしまっている。放っておいたら眼鏡がスープ皿に落ちそうだ。
「起きてないわね」
「一応、起きているつもりなんだが……ダメかもしれない」
「とりあえず、スプーンを置きましょうか」
適当につっこまれたせいで、スプーンは半分ほどスープに沈んでしまっている。
ジュードが腕を伸ばして救出してあげれば、彼はそのままカトラリーを皿の横に置いた。
「……無作法なことをしても、構わないだろうか」
「ここには私たちしかいないから大丈夫よ。というか、もう少し寝てきたら?」
「……そう、させてもらう……」
たった二言三言の会話の間にも、彼のまぶたはすっかり閉じてしまっている。
そのまま、ノアは皿をガッと掴むと、勢いよくスープを飲み干して席を立った。
……無作法ってそういうことか。繊細な外見に似合わず、ワイルドなことするわ。
「……導師は、まだダメだそうだ……俺も、休ませてもらう。悪いな」
「気にしないで、ゆっくり休んで。……っていうか、大丈夫なの!?」
彼の頭は揺れっぱなしで、気を抜いたら立ったままでも眠ってしまいそうだ。
見かねた執事さんが助けてくれたので倒れることはなかったけど、彼には休んでもらったほうがよさそうね。
「僕は魔術が使えないからわからないけど、かなり無理をしてもらっていたんだね」
「そうみたいね。あの破壊魔な導師もダメらしいし、もう一日この街にいても大丈夫かしら」
運ばれていくノアを見送り、私もスープの皿にスプーンを入れる。温かなそれには、ごろごろと大きめの具が沢山入っている。
とても美味しそうだけど、ノアはよくこれを一気飲みできたわね。
(……それにしても、ずいぶん静かな食卓ね)
食堂に他の仲間たちの姿はない。
寝坊した私たちは別としても、時刻はちょうどお昼時だ。他の皆が来てもおかしくないはず。
カールはまだ眠っているらしいけど、その他の皆はどこへ行ったのだろう。
「ジュード、他の皆のことは聞いてる?」
「ごめん、僕は君にずっとついてたから把握してないや。全員このお屋敷に泊めてもらったから、ここの人に聞けばわかると思うけど」
そういえば、この屋敷は昨夜の騒動の際に避難場所の一つとして使われていたわよね。避難した人たちがいるのなら、もっと騒がしいと思うのだけど。
(他には誰もいないし、ずいぶん静かね)
「ねえジュード、私たち置いていかれたりしてないわよね?」
「それはないよ。僕はともかく、唯一の回復役であるアンジェラを置いていくことはありえない」
言われてみれば、それはそうね。
ここから先、戦闘はますます激化するだろうし、回復役なしで進むのは自殺行為だわ。
ジュードも主力の一人だし、あの王子様はそんなことはしないか。
「魔術師二人も休んでいるみたいだし、動ける人たちは多分街へ出ているんじゃないかな」
「うわぁ、元気ね……」
寝坊するほどぐっすり寝た私でさえ、疲れが完全にとれたとは言い難い体調なのに。
皆は筋肉痛とか残っていないのかしら。羨ましいわ。
「食べ終わったら僕たちも街へ行ってみようか。雨は止んだみたいだし、昨日のマグマがどうなったのか僕も気になるな」
「ああ、それはそうね!」
……そうだ、すっかり忘れていたわ。
カールは「鎮火が必要」と言っていた。つまり、召喚されたマグマは火山には戻らず、そのまま街の外に残されるということだ。
魔術師組が休んでいるのだから、危険な状態は脱したのだろうけど。
それでも、外壁の向こう側がどうなってしまったのかはとても気になる。
「寝坊してる場合じゃなかったわね。ジュード、急ぎましょう」
「それは構わないけど、早食いは体によくないよ。招集されているわけでもないし、ご飯はきちんと食べよう?」
慌ててご飯をかきこもうとすれば、ジュードから待ったがかかる。
確かに、せっかくディアナ様のご実家に用意してもらった食事だもの。適当に片付けたり、ましてや残すなんて申し訳ないことはできないわね。
ならば、適切な早さで食べようとカトラリーを握り直せば……そう言った隣のジュードの食事は、ほとんど残っていなかった。
「……私を止めた割に、貴方は食べるの早いのね」
「ご、ごめん。お腹空いてて」
照れくさそうに視線を逸らした彼は、使用人さんからちゃっかりおかわりまで受け取っている。
まあ、あの立派な体を維持するためには、ご飯が沢山いるのも当然かもね。
こうして、いつになく“普通っぽい”一日は、のんびりと幕を開けた。
……それは嫌だと思ってしまう自分に、少しばかり罪悪感が募る。
貴女のことが大切だったのは嘘ではない。『私』は貴女を守りたいと、心からそう思っていた。
……それでもきっと、貴女に“今感じているような想い”は抱けなかった。
『僕』は君のことが好きだ。
きっと、君だからこそ、恋を知ったんだ。
* * *
「……ぅ、ん」
まぶたにかかる光が眩しくて、ゆっくりと目を開ける。
「ああ、アンジェラ起きた? おはよう」
「ジュード……?」
私を起こしたのは、カーテンの隙間から差し込んだ太陽の光だったらしい。
白くぼやけた世界の中に茶色と黒が浮かび上がって、それは微笑む幼馴染の顔を形作っていく。
とても幸せそうな、蕩けんばかりの笑みを浮かべたイケメンさん。……寝起きすぐに見るには、ちょっと目に毒ね。
「おはよう……の時間じゃないかしら?」
「そうだね、そろそろお昼前だよ。ぐっすり眠ってたね」
「うわ、寝すぎちゃったわ……」
彼をベッドに招き入れたところまでは覚えているのだけど、あれから爆睡していたらしい。
おかげで体は軽くなったけど、よそのお屋敷でみっともないことをしてしまったわ。
「ジュード、起きていたなら私も起こしてくれてよかったのよ?」
「ごめんごめん。実は二時間ぐらい前にメイドさんも来てくれたんだけど、君があまりにも気持ちよさそうに寝てたから、あちらも気を遣ってくれてね」
「うう、ディアナ様のご実家にご迷惑をおかけするなんて……不覚」
ハルトを連れ去った前科がある以上、これ以上印象を悪くしたくなかったのだけど。
まあ、寝すごしてしまったものは仕方ない。今からでも起きて謝りに行くとしましょう。
上半身を起こせば、私を抱えていたたくましい腕が離れていく。途端に触れた外気が寒くて、つい名残惜しさを感じてしまったのだけど、
「…………うん?」
離れていった腕は、何故か肌が露出していた。そこから視線を下ろせば、寝転がるジュードの胸やらお腹やらが全部見える。……素肌、が。
「待って、貴方なんで服着てないの!?」
「ああ、上だけだよ。さすがに騎士団の服を着たままだと寝苦しくて」
「メイドさんが起こしてくれなかったのは貴方のせいじゃない!?」
一つのベッドに同衾している男女。起きている男のほうは上半身裸で、女のほうは『よく眠っているから寝かせておいてあげて』なんて――そういうことを察してくれと言っているも同然じゃない!! ガッデム!!
「絶対に誤解されてるわ、どうしよう!! しかもこれ、言い訳したら余計に怪しいやつじゃない!!」
「あー……確かにそうだね。まあいいんじゃないかな? 実際には何もしていないし、ベッドも汚していないのだし」
「誤解されることが問題だから!! ここは、ディアナ様のご実家なのよ!?」
起きて早々がくりとうな垂れる私に、ジュードは特に気にした様子もない。同衾を頼んだのが私である以上、追及もできないのが悔やしい!
「ああもう、こんなことなら街の宿に泊まればよかったわ。それなら見られても平気だったのに」
「……一応聞くけど、僕とそういう関係に思われるのは嫌じゃないんだ?」
「嫌? 何が? むしろ、私が貴方以外とどうこうなるほうが不自然だと思うけど」
「あ……そ、そう、だね」
よくわからない質問に首をかしげて見せれば、平然と笑っていたジュードの顔がさっと赤く染まった。
普段からぐいぐい押してくるくせに、私が受け入れると弱いらしい。つくづくギャップの宝庫ねえ。
そもそも、他の男と恋愛フラグを立てるヒマなんてどこにあるのよ。それを潰しているのは、他ならぬジュードなのに。
「えっと、メイドさんの誤解は僕が解いておくよ! とりあえず起きようか。屋敷の人たちがご飯も用意してくれるらしいしね!」
「そうなの? だったら急がなくちゃ。まだご飯を食べる時間があるといいんだけど」
「うん、そうだよ。急ごうアンジェラ!」
慌てた様子で起き上がったジュードは、放ってあった上着を拾うと、そそくさと客間から出ていってしまった。今更何を照れているのかしらね、あの人。
(……それにしても、ジュードの素肌はいい触り心地だったわ)
しっかりと厚みがあって、硬いのにしなやかで、良質な筋肉のついた体。ああ、羨ましい。
私もあれぐらい筋肉がついていたら、強化魔法なしでもメイスをふり回せるかもしれない。
この胸の脂肪が、筋肉に変わってくれればいいのに!
「……って、これセクハラかしら。ま、いいや。お腹も空いたし急ぎましょう」
手早く身支度を整えて客間を出れば、私たちは屋敷の食堂へと案内される。
寝坊をしてしまったにも関わらず、声をかけたらすぐに温かな食事を提供してもらえた。
……まあ、朝食ではなく昼食として用意されたものらしいけど、とにかく食事は食事だ。
使用人さんたちにできる限りのお礼を言ってから、二人並んで席につかせてもらう。ちょうど向かい側では、私たちのよく知った人物が先に食事を始めていた。
「……ノア? えっと、起きてる?」
「…………はっ! あ、ああ……お前たちか……」
席についていたのは、昨夜の戦いの功労者の一人であるノアだ。美しい白銀の髪は適当に結い上げられ、スープ皿に銀のスプーンをつっこんだまま、頭がゆらゆらと揺れている。
(ああ……ダメそうだわ、これ)
向かいの私たちに気付き、少しだけ反応を示したものの、その数秒後には再び舟をこいでしまっている。放っておいたら眼鏡がスープ皿に落ちそうだ。
「起きてないわね」
「一応、起きているつもりなんだが……ダメかもしれない」
「とりあえず、スプーンを置きましょうか」
適当につっこまれたせいで、スプーンは半分ほどスープに沈んでしまっている。
ジュードが腕を伸ばして救出してあげれば、彼はそのままカトラリーを皿の横に置いた。
「……無作法なことをしても、構わないだろうか」
「ここには私たちしかいないから大丈夫よ。というか、もう少し寝てきたら?」
「……そう、させてもらう……」
たった二言三言の会話の間にも、彼のまぶたはすっかり閉じてしまっている。
そのまま、ノアは皿をガッと掴むと、勢いよくスープを飲み干して席を立った。
……無作法ってそういうことか。繊細な外見に似合わず、ワイルドなことするわ。
「……導師は、まだダメだそうだ……俺も、休ませてもらう。悪いな」
「気にしないで、ゆっくり休んで。……っていうか、大丈夫なの!?」
彼の頭は揺れっぱなしで、気を抜いたら立ったままでも眠ってしまいそうだ。
見かねた執事さんが助けてくれたので倒れることはなかったけど、彼には休んでもらったほうがよさそうね。
「僕は魔術が使えないからわからないけど、かなり無理をしてもらっていたんだね」
「そうみたいね。あの破壊魔な導師もダメらしいし、もう一日この街にいても大丈夫かしら」
運ばれていくノアを見送り、私もスープの皿にスプーンを入れる。温かなそれには、ごろごろと大きめの具が沢山入っている。
とても美味しそうだけど、ノアはよくこれを一気飲みできたわね。
(……それにしても、ずいぶん静かな食卓ね)
食堂に他の仲間たちの姿はない。
寝坊した私たちは別としても、時刻はちょうどお昼時だ。他の皆が来てもおかしくないはず。
カールはまだ眠っているらしいけど、その他の皆はどこへ行ったのだろう。
「ジュード、他の皆のことは聞いてる?」
「ごめん、僕は君にずっとついてたから把握してないや。全員このお屋敷に泊めてもらったから、ここの人に聞けばわかると思うけど」
そういえば、この屋敷は昨夜の騒動の際に避難場所の一つとして使われていたわよね。避難した人たちがいるのなら、もっと騒がしいと思うのだけど。
(他には誰もいないし、ずいぶん静かね)
「ねえジュード、私たち置いていかれたりしてないわよね?」
「それはないよ。僕はともかく、唯一の回復役であるアンジェラを置いていくことはありえない」
言われてみれば、それはそうね。
ここから先、戦闘はますます激化するだろうし、回復役なしで進むのは自殺行為だわ。
ジュードも主力の一人だし、あの王子様はそんなことはしないか。
「魔術師二人も休んでいるみたいだし、動ける人たちは多分街へ出ているんじゃないかな」
「うわぁ、元気ね……」
寝坊するほどぐっすり寝た私でさえ、疲れが完全にとれたとは言い難い体調なのに。
皆は筋肉痛とか残っていないのかしら。羨ましいわ。
「食べ終わったら僕たちも街へ行ってみようか。雨は止んだみたいだし、昨日のマグマがどうなったのか僕も気になるな」
「ああ、それはそうね!」
……そうだ、すっかり忘れていたわ。
カールは「鎮火が必要」と言っていた。つまり、召喚されたマグマは火山には戻らず、そのまま街の外に残されるということだ。
魔術師組が休んでいるのだから、危険な状態は脱したのだろうけど。
それでも、外壁の向こう側がどうなってしまったのかはとても気になる。
「寝坊してる場合じゃなかったわね。ジュード、急ぎましょう」
「それは構わないけど、早食いは体によくないよ。招集されているわけでもないし、ご飯はきちんと食べよう?」
慌ててご飯をかきこもうとすれば、ジュードから待ったがかかる。
確かに、せっかくディアナ様のご実家に用意してもらった食事だもの。適当に片付けたり、ましてや残すなんて申し訳ないことはできないわね。
ならば、適切な早さで食べようとカトラリーを握り直せば……そう言った隣のジュードの食事は、ほとんど残っていなかった。
「……私を止めた割に、貴方は食べるの早いのね」
「ご、ごめん。お腹空いてて」
照れくさそうに視線を逸らした彼は、使用人さんからちゃっかりおかわりまで受け取っている。
まあ、あの立派な体を維持するためには、ご飯が沢山いるのも当然かもね。
こうして、いつになく“普通っぽい”一日は、のんびりと幕を開けた。
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