転生しました、脳筋聖女です

香月航

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STAGE14-02

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 いつもより少しだけ早く食事をお腹に収めて確認をしてみたところ、やはり仲間たちの行き先は昨日戦いがあった外壁の向こうとのことだった。
 一応戦闘もできるように支度を整えてから、ジュードと共に馬を借りて街へ出ていく。
 ……しかし、そこで私たちの視界に入ってきたものは、少々予想外のものだった。

「……なんか、活気があるわよね」

「そうだね。昨日僕たちが来たばかりの頃と、あんまり変わってないように見えるよ」

 外は昨日の土砂降りが嘘のような快晴であり、太陽の温かな光の下、エリーゴの街中はかなり賑わっている。通りに面した店はどこも全て開いているし、店主たちの笑顔は明るく、宣伝文句を高らかに叫ぶ。
 凶悪な魔物に囲まれて、皆避難をしたはずなのに。あの緊急事態の痕跡はどこにも見当たらない。

「この領地は魔物が多く出るって言っていたし、もしかして慣れてるのかな、昨日みたいなこと」

「……その可能性は大いにありそうね」

 そういえば、この街へ来るまでにもかなりの数の戦闘をしていた。魔物が多い地域にあるエリーゴの人々は、避難をする機会も頻繁にあるのかもしれない。
 ……もっとも、昨日のような絶対絶命の事態は、そうそうあるものではないと思うけど。

「慣れてしまうのはどうかと思うけど、無事ならすぐに日常へ戻るっていう切り替えは大事かもしれないわね。いつまでも震えて隠れていたって、お腹は空くもの」

「そうだね。逆に言えば、昨日の大群を僕たちが退しりぞけられたっていう証明でもあるんだから、喜ばしいことなのかも」

「それはそうね」

 もし少しでも私たちがり負けていれば、この街は大木とそれを食らう【寄生種】によって蹂躙じゅうりんされていたのだ。
 かなり大変な戦いではあったけれど、こうして“何ごともない日常”を取り戻せたのだから、私たちは活動を誇ってもいいかもしれない。

 わいわいと盛り上がる人々を温かい気持ちで眺めつつ、ジュードの駆る馬は通りを抜けて行き、やがて悪夢の戦いがあった外壁までたどり着いた。
 さすがに外壁周辺はまだ緊張感が残っているような様子で、革鎧などの軽い武装をしている人もいる。恐らくは、この街の公安機関や自警団の団員だろう。

「あれ? 皆いないわね」

 しかし、現場へ行けばすぐに見つかると思っていた仲間たちは、外壁の内側には一人もいなかった。皆特徴的な外見だから、見逃すようなことはないだろうし。もしかして、入れ違いにでもなってしまったのかしら。

「アンジェラ、確認したよ。ディアナさんたちは外壁の外で片付け作業をしているみたい」

「ディアナ様が!? 昨日あんなに戦ってらしたのに、お体は大丈夫なのかしら?」

 ジュードが示したのは、昨日も出入りに使った外壁の管理用の扉だ。もちろんその先は、死闘を繰り広げた戦場の跡地である。

(昨日の戦いで、一番動いていたのはディアナ様なのに……)

 勝手な行動が多かったとはいえ、ディアナ様は最初から最後までずっと木こりに勤しんでくれていた。私が怪我を治した回数も、彼女が一番多いはずだ。
 いくらここが彼女の故郷だからといって、昨日の今日で片付け作業に出向くのは相当きついと思うのだけど。

「もちろん行くよね?」

「当然でしょう。マグマの被害も見ておきたいしね。ジュードは体は大丈夫?」

「大丈夫だよ。じゃあ行こうか。足元に気を付けて」

 頷きあって近くの人に声をかければ、すぐに扉は開かれた。

「…………あ」

 次に目に飛び込んだ光景は、想像よりもずいぶん酷い有様だった。
 外壁の周囲は、私の腰下ぐらいの高さまでゴツゴツした黒い岩のようなものが覆っていた。それも、目測でも数十メートルに渡って。
 先が見えないほどに集まっていた魔物たちの残骸も、全てこの中に収まっているのだろう。

(確かに敵は多かったけど、この街の周りは自然が多くてきれいな景色だったのに)

 今はもう面影すら残っていない。できれば見たくなかった荒れた光景に、言葉を失ってしまう。

「お嬢さん、ちょっと道を空けてくれ」

「えっ、あ、すみません」

 そんな中、突然かけられた声に慌てて体をよければ、工事現場の運搬などで見る一輪車を押した男性が、私たちのすぐ横を通りすぎていった。

「道……? そういえば、なんとなく道っぽい部分があるね」

「本当だわ」

 隆起した地面はぱっと見全てを覆っているようだけど、その中に岩が砕かれた“道らしきもの”があった。幅は人が二人並んで通れる程度。自然にできるものには見えないし、片付け作業の皆が作ってくれたのだろう。
 しかしこの岩の塊、高さもあるし、かなり硬そうな印象を受ける。普通の人間の力で、砕いて道を作ることなんてできるのかしら。

「あっアンジェラさん、ジュードさん。こっちですよー!」

「…………ああ」

 抱いた疑問は、直後に聞こえてきた青年の呼び声で解決した。

「いたのね、破壊師弟の弟子のほう」

 一輪車の男性と入れ替わりで、黒いローブをなびかせた青年が近付いてきた。
 可愛い系の容姿で性格も穏やかな彼、ウィリアムは外見に似合わず攻撃魔術が大得意の破壊魔だ。彼がいるのであれば、硬い岩の壁が相手でもそう苦にはならないわね。壊すことに関してだけ、だろうけど。

「遅くなってごめんなさい。貴方のお師匠さんはまだ死んでるみたいだけど、体は大丈夫なの?」

「あ、はい、ぼくは大丈夫です。元々魔力が多い上に特化型だったから、お師匠様の元にいたのですし。それにその、ぼくはお二人よりも全然働いていませんし……」

「いや、決して責めてないからね。昨日はよく戦ってくれたと思ってるし、貴方がここにいてくれて安心したわよ」

 うっかり彼の顔が曇り始めてしまったので、慌ててフォローをしておく。というか、元々ヒト種族じゃないノアと人間を辞めているカールと比べて遜色そんしょくないウィリアムも、実は人間卒業間近なのよね。強いことはとてもありがたいけど、できればまだ人間枠に残っていて欲しいわ。

「それで、ディアナ様もいると聞いてきたのだけど、彼女は大丈夫なのかしら?」

「は、はいっ。ディアナさんは、もう少し奥で作業を手伝っています。ぼくとあの方がこの岩を壊す係で、ハルトさんが街の皆さんと協力しながら運搬と片付けをしています」

 なるほど、ちゃんと能力に適った分担だわ。……昨日の戦いの疲労を考慮しなければね。

「壊す係ってやっぱり肉体労働じゃない。ディアナ様、大丈夫なのかしら」

「まあ、彼女なら問題はなさそうだけど……」

 いくらか砕いてあるとはいえ、見渡す景色のほとんどはまだ岩に囲まれている。こんな硬そうなものと戦って、体は大丈夫なのかしら。できれば、昨日のような無茶はもうして欲しくないのだけど。

「ん? アンジェラ殿か?」

 そうこう悩んでいたら、正に捜していた人の声が耳に届いた。

「ディアナ様、お体は大丈夫なんですか!?」

 慌てて声のほうへ顔を向ければ、そこにいたのは普段の服よりも質素な作業着を着て、斧ではなくツルハシを肩に担いだディアナ様だった。ツルハシが似合いすぎて怖いです、ディアナ様!

「ああ、心配をかけてしまったのか。それはすまぬな。そなたのおかげで傷もないし、我はこの通り頑丈ゆえ、まだまだ戦えるぞ」

 私の声に目を瞬かせた後、彼女はいつも通りのニカッとした笑顔を返してくれた。
 そのまま、手にしたツルハシが小気味よい音を立てて、近くの岩に突き刺さる。途端に、大きな亀裂を走らせたそれは、さすがとしか言いようがない破壊力だ。

「ご無事なら良いのです。ですが、あまり無茶はなさらないで下さいね。神聖魔法で怪我は治せても、筋肉疲労や心の摩耗までは治せないのですから」

「……そうだな。忠告、感謝しよう。だが、この辺りに最低でも馬車が通れる道を作るのは急務でな。仕入れなどもままならぬし、このままでは我が父であるトールマン伯も家に帰れぬのだ」

「あ」

 そういえば、ディアナ様のお父様はちょうど領地の視察へ出かけているのだと言っていたか。
 この街は外壁が立派な分、ちゃんと入口がある場所からでないと街の中へ入ることはできない。そして、そのほとんどの入り口は現在マグマの残骸が塞いでしまっている。
 人間だけなら管理用扉からも入れるけど、大きな荷物や馬車はとても入れないわ。……というか、私たちの旅の馬車も、このままじゃ街から出られないわね!

「そういうことでしたか、失礼いたしました! では、不肖ながらこのアンジェラも手伝わせていただきます!」

「えっ!?」

 そういうことなら話は早い。私も作業を手伝うべく名乗りをあげたら、ジュードとウィリアムから戸惑いの声があがった。

「無理しちゃダメだよアンジェラ。君こそ昨日は倒れてしまったのだし、できれば今日は安静にしていて。もしまた倒れられたら、僕はご両親に顔向けできないよ」

「そうですよ、アンジェラさん。そのお気持ちだけで十分です。もし可能なのであれば、ディアナさんたちに強化の魔法を使ってあげて下さい」

「……私、そんなに弱そうに見えるかしら」

 眉を下げてはらはらと慌てる彼らに、ついため息がこぼれる。まあ、この体は相変わらず細いし、昨日倒れてしまったのは事実だから心配されるのも仕方ない。
 けど、病弱だったのは昔の話だし、今日はお昼まで休ませてもらってからここに来ている。心配されることなんて全くないんだけど。

「ディアナ様、マグマの召喚を提案したのは私です。この惨状の責任は私にもあります。ぜひお手伝いをさせて下さい」

「…………」

 男どもは聞いてくれなさそうなので、実際に作業をしているディアナ様に頼んでみる。しかし、彼女もまたゆるやかに首をふった。な、なんでだ!?

「どうしてダメなのですか? 私などがいては、足手まといだと?」

「そうではない。そなたが加わってくれるのなら我も心強いが……ツルハシは刺す武器としても使えるからな。聖職者のそなたに使わせることはできぬさ」

「なっ!?」

 ひょいと彼女が持ち上げた工具は、確かに先端が尖っている。刺突武器として使えなくもないけど、それは私が禁じられている刃物とは違うと思う! そもそも私、エセ聖職者!!

「あー確かにそうだね。聖女の君が人の命を奪う武器を持つのはダメだね」

「ジュード! 貴方わかって言ってるわね!?」

 ディアナ様の予期せぬ発言に男二人もうんうんと同意を示す。普段最前線で戦う私を知っているのに、こんな時ばっかり立場の話を出すなんてずるいわよ!

「あ、聖女さんも来てくれたんだね。補助魔法が使えるのなら、こっちの片付けを手伝ってもらえる? 力仕事じゃなくて、魔法での補佐で」

 わいわいやっていたら、ディアナ様の後ろから現れたハルトがトドメを刺してくれた。
 皆はここぞとばかりに頷いて、私を体を動かさなくてもいい手伝いへと向かわせていく。

「……ひどいです。私はただ、貴女様のお役に立ちたいだけなのに」

「その気持ちだけ受け取っておこう。なに、アンジェラ殿が我を案じてくれたように、我もそなたが心配なのだ。……仲間、だからな」

 ――こうして結局、私は日が落ちるまで“動かない作業”にて手伝いを続けたのだった。
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