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STAGE14-06
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穏やかながら色々とあった夜が明けて、私たちの部隊は朝から早速旅立つ支度を整えていた。
と言っても、ディアナ様のご実家が沢山の物資を用意してくれたので、補給はいつもよりもずっと早く終えることができた。お屋敷に泊めてもらっただけでもありがたいのに、何から何まで至れり尽くせりで、本当に感謝の言葉もないわ。
「えーここからヘルツォーク遺跡まで、普通だったら五日ぐらいなんだけど。今回はマグマ跡地を遠回りしたりと色々ありそうだから、七日ぐらいと見積もってる。極力街や村に泊まっていくけど、場合によっては野宿もありえるから。皆、準備はしっかりなー」
「はーい」
学校の引率の先生のように語るダレンを、王子様が微笑ましそうに見守っている。
ここエリーゴの街を出てからの進路だが、本当に目的地をヘルツォーク遺跡に変えてくれたらしい。
本来の予定とは道が違うのはもちろん、日数的にもオーバーしてしまうのに。巻き込んでしまった皆には本当に申し訳ない。
その分、何かしらの『答え』が得られるといいんだけどね。
「…………」
夕食の席で何とも言えない反応をしていた三人は、やっぱり朝になっても複雑な面持ちでダレンの話を聞いている。
謎が多いカールはもう放っておくにしても。今回の戦いでトラウマと対峙したばかりのディアナ様と、何やら思いつめている様子のジュードは要注意だわ。
(行く先にあの泥女がいるとわかっている以上、本当は連れて行きたくないぐらいなんだけど。三人ともめちゃくちゃ強いから、戦力として失いたくないのよね)
かつてのゲームでも、ヘルツォーク遺跡は難関のダンジョンだった。今のメンバーだけでも勝てなくはないだろうけど……相手の正体はわからないし、できることなら最高戦力で臨みたい。
「こっちの荷物は全部積み終わったよ」
「あ、ハルトさん」
そうこう考えている間に、積み込みの手伝いをしていたハルトが仕事を終えて近付いてきた。
彼は出会った時と同様に白を基調とした魔術師の装いをしているのだけど、ローブを脱いで気崩されたそれは、どちらかと言えば普段着だ。
……もちろん、これから旅に出るような支度には見えない。
「やはりハルトさんは、街に残られるのですよね?」
「うん、ごめんねアンジェラさん。魔物には慣れている街だけど、さすがに今回は堪えたと思うから。僕はここに残って復旧に努めるよ。……そもそも、僕がいても大した戦力にはなれないだろうしね」
チラッと彼の視線が示したのは、不機嫌そうに佇むカールと、彼の隣でおろおろしているウィリアム。そして、我関せずとのんびり石壁にもたれかかっているノアの三人だ。
――いずれも我が部隊が誇る、人外(仮)の魔術師たち。
「あー……あの人たちはホラ、半分以上人間じゃありませんし」
「それならなおさらだね。僕は魔術師だけど、しょせん人間の枠からは外れられないから。僕程度の力でも役に立つこの街で、皆のために尽くすよ」
「ハルトさん……」
穏やかに微笑む彼には、卑屈な様子はない。言葉はアレだけど、きっと冗談として言っているのだろう。彼は自らの実力を理解して、いるべき場所を正しく選んだ。
(仲間になってくれないのは残念だけど、実際、彼が増えたところで戦力はそれほど変わらないでしょうしね)
むしろ、彼を守るために人手を割くことになるかもしれない。申し訳ないけど、クロヴィス同様に弱体化している彼では、今の私たちと並ぶことはないだろう。戦いはもっと激化するだろうし……仕方ない。
「わかりました。残念ですけど、街のほうをお願いします」
「うん、任されたよ。……そういえば、ディアナと傷の話はできた?」
「あっ!! すみません、真っ先にその話をするべきでした!!」
ふいに顔を近付け、こそっと囁いた彼に、私も慌てて小声で答える。あの頼まれごとは、ハルトにとっても大事な話だったはずだ。
お互いにこそこそと身を屈めて、とりあえず馬車の陰に隠れておく。
「……すみません、治療はさせてもらえませんでした。亡きご友人との大切な繋がりなのだそうで」
「ああ、やっぱりディアナはそう言ったか。僕だってそれは同じだけど、女性のディアナはきれいな肌のほうが都合も良いだろうに」
「それなんですけど……ディアナ様はトールマン伯爵家を継がないそうですよ。それと、お婿さんをとるつもりもないみたいで……」
「あ、そうなのかい? そっか、おじ様が言っていたのは冗談じゃなかったのか……」
謝罪も込めてしょんぼりしながら報告をしたのだけど、それを聞いたハルトの表情は思ったよりも落ち込んだりはしなかった。
……いやむしろ、きょとんとした片目には、いくらかの喜びの感情すら浮かんでいる。
「……もしかして、治せなくてよかったですか?」
「そんなことはないよ。ただ、傷があることで一番不利になるのは婿養子をとることだったからさ。その必要がないのなら、ディアナの好きなようにさせようと思ってね」
「は、はあ」
トールマン家は騎士を輩出している血筋だけど、一代限りの騎士爵位ではなく、大きな領地を治めている『伯爵位』の貴族だ。となければ婚姻関係は、貴族同士で結ぶのが普通。
……ハルトはディアナ様の幼馴染で、共に戦ってきた同胞だけど貴族ではない。よほどの武功をあげたりしなければ、貴族に釣り合うことは難しい立場だ。
(――あれ? 婿をとらなくてよくなって、ハルトが喜ぶってことは……)
「……ハルトさん。もしかして、そういうことですか?」
「どうだと思う? まあ、おかげで僕が街に残る理由がもう一つ増えたよ。ディアナが帰って来る故郷を守らないとね」
まさかのまさか。ここにきて乙女ゲームっぽい雰囲気を感じとり、思わず目が輝いてしまう。
そっか、やっぱりハルトはそういう感情を隠してここに残っていたのか。何よもう、そういう楽しいことは早く言ってくれれば協力したのに!
「…………アンジェラ。そんな隅っこで何してるの? それも、ハルトさんと二人きりで」
「あら、鬱々していたくせにちゃんと気付くのね」
背後からかけられた声にふり返れば、いつの間にか私のほうの幼馴染が近付いてきていたらしい。殺気とまではいわないものの、どこかトゲトゲしい空気をまといながら私たち二人を見つめている。
「ちょっと真剣な話と、恋バナをね」
「こいばな、かなあ?」
「って何? えっと、アンジェラは何か相談に乗っていたってこと?」
相談というとちょっと違うけれど、根底にあるのが『大切に想う感情』であったのなら、おおよそ間違ってはいないのかもしれない。
顔を見合ってくすりと笑いをこぼした私たちに、ジュードはやや不服そうだ。
「心配しなくても、私は浮気はしないわよ。昨日もそう言ったでしょう?」
「……アンジェラってずるいよね」
とは言え、誤解をされるような仲ではないと告げれば、ジュードの頬がぽっと朱に染まった。
本当にこの男、自分からはグイグイ行くくせに、応えられることには慣れていないのねえ。
「ま、この話は君たちがまたここに立ち寄ってくれた時にしようか。魔物の巣のような遺跡に行くんだろう? 大変だと思うけど、アンジェラさんも無理はしないでね」
「ええ、ありがとうございます。貴方もお元気で。……応援してますからね!」
屈んでいた体を起こし、ビッと親指を立てて伝えれば、ハルトは眩しいものを見るように片方だけの紫眼を細めて笑ってくれた。
仲間として連れて行くことはできないけれど、なんだかんだで良好な関係は築けただろう。
あとは彼がディアナ様と二人きりで話せる時間を作ってあげなくちゃね。せっかくの里帰りなのに、魔物のせいで話す時間があまりとれなかったはずだもの。
(補給が早く済んだから、出発まではもう少し余裕がある。私とジュードは早々に離れましょう)
ジュードの手を引いて馬車の陰から離れていけば、すぐ様ディアナ様が近寄ってきてハルトと何かを話し始めた。
……端から見る限り甘いような雰囲気はないけど、つつくのも無粋というものだわ。
「…………あ、なんだ。そういうこと?」
「うん、そういうこと」
幼馴染特有の遠慮のない雰囲気の二人を見て、ジュードも悟ったらしい。つい先ほどまで不機嫌そうだった黒眼は、穏やかな笑みに変わっている。
大変な旅路の前に楽しい思いをさせてもらえて良かったわ。自分の恋愛フラグはどうでもいいけど『乙女ゲーム』を嗜んでいた人間としては、やっぱりちょっと浮かれちゃうわよね。
これからまた長い旅に出て、あの泥女に会わなければならない。色々と思うところはあるけれど、今のテンションなら強気で立ち向かえそうだ。うん、良かった良かった!
(…………そういえば、ハルトの目って紫色なのね)
ふと、彼の笑顔を思い出して気付いた。赤髪のディアナ様と対のデザインをされていたハルトのイメージカラーは『青』だ。
髪もふわっとした淡い水色で、衣装は白が基調。この辺りは真っ黒なジュードと対になっているのかもしれないけど、とにかく彼のイメージカラーは青だったはずだ。
(ジュードはわかりやすいわよね、髪も目も真っ黒で。金銀コンビと緑のダレンも髪と目がだいたい同じだから、イメージカラーは見たままそのままだわ)
白、あるいは灰色がイメージのウィリアムは、心の傷ともなっている赤い目。
桃と黄色という女の子のような華やかな色で作られているのが、少年の姿をしているカールハインツ。桃色の髪に金色の目だ。
(…………あ、れ?)
――さあっと、喜びに溢れていた体から、血の気が引いていく。
……何故だろう? 私はどうして今まで、こんな単純なことに気付かなかったんだろう。
「……アンジェラ? どうかしたの?」
ジュードの心配するような声が、遠くに聞こえる。
仲間にならなかったクロヴィスのイメージカラーは赤。赤い髪に焦げ茶色の目。全体的に暖色だ。
同じ赤髪のディアナ様は、対照色である緑色の目をしている。鋭いけれど、笑うと優しい私の好きな色だ。
では、アンジェラ・ローズヴェルトは?
「………………」
おもむろに覗いた伯爵家の屋敷の窓。
よく磨かれたガラスは、太陽の光を受けて鏡のように輝いている。
そこに、修道服を着た華奢な少女が映り込んだ。
「……私」
そよ風が亜麻色の長い髪を揺らす。白い肌を滑り落ちるその髪の下で、驚愕に見開かれる瞳の色は、
「――――青」
サファイアのように澄んだ色の虹彩。
見覚えがあるその美しい色に、背筋を怖気が走る。
……ああ、何故。何故こんな単純なことに気付かなかった。
私を『殺したいほど大嫌い』だと言っていた、あの奇妙な泥の中にあった目は、
「あれは……私と同じ目だったんだ」
と言っても、ディアナ様のご実家が沢山の物資を用意してくれたので、補給はいつもよりもずっと早く終えることができた。お屋敷に泊めてもらっただけでもありがたいのに、何から何まで至れり尽くせりで、本当に感謝の言葉もないわ。
「えーここからヘルツォーク遺跡まで、普通だったら五日ぐらいなんだけど。今回はマグマ跡地を遠回りしたりと色々ありそうだから、七日ぐらいと見積もってる。極力街や村に泊まっていくけど、場合によっては野宿もありえるから。皆、準備はしっかりなー」
「はーい」
学校の引率の先生のように語るダレンを、王子様が微笑ましそうに見守っている。
ここエリーゴの街を出てからの進路だが、本当に目的地をヘルツォーク遺跡に変えてくれたらしい。
本来の予定とは道が違うのはもちろん、日数的にもオーバーしてしまうのに。巻き込んでしまった皆には本当に申し訳ない。
その分、何かしらの『答え』が得られるといいんだけどね。
「…………」
夕食の席で何とも言えない反応をしていた三人は、やっぱり朝になっても複雑な面持ちでダレンの話を聞いている。
謎が多いカールはもう放っておくにしても。今回の戦いでトラウマと対峙したばかりのディアナ様と、何やら思いつめている様子のジュードは要注意だわ。
(行く先にあの泥女がいるとわかっている以上、本当は連れて行きたくないぐらいなんだけど。三人ともめちゃくちゃ強いから、戦力として失いたくないのよね)
かつてのゲームでも、ヘルツォーク遺跡は難関のダンジョンだった。今のメンバーだけでも勝てなくはないだろうけど……相手の正体はわからないし、できることなら最高戦力で臨みたい。
「こっちの荷物は全部積み終わったよ」
「あ、ハルトさん」
そうこう考えている間に、積み込みの手伝いをしていたハルトが仕事を終えて近付いてきた。
彼は出会った時と同様に白を基調とした魔術師の装いをしているのだけど、ローブを脱いで気崩されたそれは、どちらかと言えば普段着だ。
……もちろん、これから旅に出るような支度には見えない。
「やはりハルトさんは、街に残られるのですよね?」
「うん、ごめんねアンジェラさん。魔物には慣れている街だけど、さすがに今回は堪えたと思うから。僕はここに残って復旧に努めるよ。……そもそも、僕がいても大した戦力にはなれないだろうしね」
チラッと彼の視線が示したのは、不機嫌そうに佇むカールと、彼の隣でおろおろしているウィリアム。そして、我関せずとのんびり石壁にもたれかかっているノアの三人だ。
――いずれも我が部隊が誇る、人外(仮)の魔術師たち。
「あー……あの人たちはホラ、半分以上人間じゃありませんし」
「それならなおさらだね。僕は魔術師だけど、しょせん人間の枠からは外れられないから。僕程度の力でも役に立つこの街で、皆のために尽くすよ」
「ハルトさん……」
穏やかに微笑む彼には、卑屈な様子はない。言葉はアレだけど、きっと冗談として言っているのだろう。彼は自らの実力を理解して、いるべき場所を正しく選んだ。
(仲間になってくれないのは残念だけど、実際、彼が増えたところで戦力はそれほど変わらないでしょうしね)
むしろ、彼を守るために人手を割くことになるかもしれない。申し訳ないけど、クロヴィス同様に弱体化している彼では、今の私たちと並ぶことはないだろう。戦いはもっと激化するだろうし……仕方ない。
「わかりました。残念ですけど、街のほうをお願いします」
「うん、任されたよ。……そういえば、ディアナと傷の話はできた?」
「あっ!! すみません、真っ先にその話をするべきでした!!」
ふいに顔を近付け、こそっと囁いた彼に、私も慌てて小声で答える。あの頼まれごとは、ハルトにとっても大事な話だったはずだ。
お互いにこそこそと身を屈めて、とりあえず馬車の陰に隠れておく。
「……すみません、治療はさせてもらえませんでした。亡きご友人との大切な繋がりなのだそうで」
「ああ、やっぱりディアナはそう言ったか。僕だってそれは同じだけど、女性のディアナはきれいな肌のほうが都合も良いだろうに」
「それなんですけど……ディアナ様はトールマン伯爵家を継がないそうですよ。それと、お婿さんをとるつもりもないみたいで……」
「あ、そうなのかい? そっか、おじ様が言っていたのは冗談じゃなかったのか……」
謝罪も込めてしょんぼりしながら報告をしたのだけど、それを聞いたハルトの表情は思ったよりも落ち込んだりはしなかった。
……いやむしろ、きょとんとした片目には、いくらかの喜びの感情すら浮かんでいる。
「……もしかして、治せなくてよかったですか?」
「そんなことはないよ。ただ、傷があることで一番不利になるのは婿養子をとることだったからさ。その必要がないのなら、ディアナの好きなようにさせようと思ってね」
「は、はあ」
トールマン家は騎士を輩出している血筋だけど、一代限りの騎士爵位ではなく、大きな領地を治めている『伯爵位』の貴族だ。となければ婚姻関係は、貴族同士で結ぶのが普通。
……ハルトはディアナ様の幼馴染で、共に戦ってきた同胞だけど貴族ではない。よほどの武功をあげたりしなければ、貴族に釣り合うことは難しい立場だ。
(――あれ? 婿をとらなくてよくなって、ハルトが喜ぶってことは……)
「……ハルトさん。もしかして、そういうことですか?」
「どうだと思う? まあ、おかげで僕が街に残る理由がもう一つ増えたよ。ディアナが帰って来る故郷を守らないとね」
まさかのまさか。ここにきて乙女ゲームっぽい雰囲気を感じとり、思わず目が輝いてしまう。
そっか、やっぱりハルトはそういう感情を隠してここに残っていたのか。何よもう、そういう楽しいことは早く言ってくれれば協力したのに!
「…………アンジェラ。そんな隅っこで何してるの? それも、ハルトさんと二人きりで」
「あら、鬱々していたくせにちゃんと気付くのね」
背後からかけられた声にふり返れば、いつの間にか私のほうの幼馴染が近付いてきていたらしい。殺気とまではいわないものの、どこかトゲトゲしい空気をまといながら私たち二人を見つめている。
「ちょっと真剣な話と、恋バナをね」
「こいばな、かなあ?」
「って何? えっと、アンジェラは何か相談に乗っていたってこと?」
相談というとちょっと違うけれど、根底にあるのが『大切に想う感情』であったのなら、おおよそ間違ってはいないのかもしれない。
顔を見合ってくすりと笑いをこぼした私たちに、ジュードはやや不服そうだ。
「心配しなくても、私は浮気はしないわよ。昨日もそう言ったでしょう?」
「……アンジェラってずるいよね」
とは言え、誤解をされるような仲ではないと告げれば、ジュードの頬がぽっと朱に染まった。
本当にこの男、自分からはグイグイ行くくせに、応えられることには慣れていないのねえ。
「ま、この話は君たちがまたここに立ち寄ってくれた時にしようか。魔物の巣のような遺跡に行くんだろう? 大変だと思うけど、アンジェラさんも無理はしないでね」
「ええ、ありがとうございます。貴方もお元気で。……応援してますからね!」
屈んでいた体を起こし、ビッと親指を立てて伝えれば、ハルトは眩しいものを見るように片方だけの紫眼を細めて笑ってくれた。
仲間として連れて行くことはできないけれど、なんだかんだで良好な関係は築けただろう。
あとは彼がディアナ様と二人きりで話せる時間を作ってあげなくちゃね。せっかくの里帰りなのに、魔物のせいで話す時間があまりとれなかったはずだもの。
(補給が早く済んだから、出発まではもう少し余裕がある。私とジュードは早々に離れましょう)
ジュードの手を引いて馬車の陰から離れていけば、すぐ様ディアナ様が近寄ってきてハルトと何かを話し始めた。
……端から見る限り甘いような雰囲気はないけど、つつくのも無粋というものだわ。
「…………あ、なんだ。そういうこと?」
「うん、そういうこと」
幼馴染特有の遠慮のない雰囲気の二人を見て、ジュードも悟ったらしい。つい先ほどまで不機嫌そうだった黒眼は、穏やかな笑みに変わっている。
大変な旅路の前に楽しい思いをさせてもらえて良かったわ。自分の恋愛フラグはどうでもいいけど『乙女ゲーム』を嗜んでいた人間としては、やっぱりちょっと浮かれちゃうわよね。
これからまた長い旅に出て、あの泥女に会わなければならない。色々と思うところはあるけれど、今のテンションなら強気で立ち向かえそうだ。うん、良かった良かった!
(…………そういえば、ハルトの目って紫色なのね)
ふと、彼の笑顔を思い出して気付いた。赤髪のディアナ様と対のデザインをされていたハルトのイメージカラーは『青』だ。
髪もふわっとした淡い水色で、衣装は白が基調。この辺りは真っ黒なジュードと対になっているのかもしれないけど、とにかく彼のイメージカラーは青だったはずだ。
(ジュードはわかりやすいわよね、髪も目も真っ黒で。金銀コンビと緑のダレンも髪と目がだいたい同じだから、イメージカラーは見たままそのままだわ)
白、あるいは灰色がイメージのウィリアムは、心の傷ともなっている赤い目。
桃と黄色という女の子のような華やかな色で作られているのが、少年の姿をしているカールハインツ。桃色の髪に金色の目だ。
(…………あ、れ?)
――さあっと、喜びに溢れていた体から、血の気が引いていく。
……何故だろう? 私はどうして今まで、こんな単純なことに気付かなかったんだろう。
「……アンジェラ? どうかしたの?」
ジュードの心配するような声が、遠くに聞こえる。
仲間にならなかったクロヴィスのイメージカラーは赤。赤い髪に焦げ茶色の目。全体的に暖色だ。
同じ赤髪のディアナ様は、対照色である緑色の目をしている。鋭いけれど、笑うと優しい私の好きな色だ。
では、アンジェラ・ローズヴェルトは?
「………………」
おもむろに覗いた伯爵家の屋敷の窓。
よく磨かれたガラスは、太陽の光を受けて鏡のように輝いている。
そこに、修道服を着た華奢な少女が映り込んだ。
「……私」
そよ風が亜麻色の長い髪を揺らす。白い肌を滑り落ちるその髪の下で、驚愕に見開かれる瞳の色は、
「――――青」
サファイアのように澄んだ色の虹彩。
見覚えがあるその美しい色に、背筋を怖気が走る。
……ああ、何故。何故こんな単純なことに気付かなかった。
私を『殺したいほど大嫌い』だと言っていた、あの奇妙な泥の中にあった目は、
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