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STAGE15-04
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翌朝、私たちの部隊は全員準備をしっかりと整えて、ヘルツォーク遺跡へと向かうことになった。
脳筋な私の予想だし、外れてくれればいいんだけど……万が一当たっているのなら、ここに私を招いたのはゲームの時のラスボスだからね。皆が強くたって、準備はいくらしても困らない。
「あー……なんか無駄に緊張してきたわ。大丈夫、落ち着いて落ち着いて」
「おい撲殺聖女、わかったから深呼吸に合わせてメイスの素振りをするな!!」
どうしても身構えてしまう気持ちを紛らわせるべく相棒をふっていたら、横からノアに怒られしまった。
だってこうでもしないと落ち着かないんだもの。手のひらに人の字を書くおまじないで誤魔化せるような緊張じゃないんだから。
(【ヤツカハギ】ぐらいならまだしも、【葬列の帰還】とか【寄生種】の大群とか、今の私たちでも苦戦するボス魔物は沢山いた。それらを統べるラスボスとなれば、一体どれだけ強いのかしら)
……そもそも、もしも【無垢なる王】が本当に転生者だとしたら、私たちは『人間の心を持ったもの』と戦わなければいけないわけだ。
戦うだけならできるだろうけど、それを倒す――殺すことが、私にできるかしら。
(いやまあ、それが『人間』とカウントされるなら、神様の使徒の私はトドメをさせないだろうけどね)
でも、世界を救う方法がそれしかないのなら、人を殺めることも覚悟しなくては。
幸いにも、この部隊には戦場を知っている騎士や、長い年月を生きている人外な仲間もいる。カール辺りは人生経験も豊富そうだし、いざとなったら助言を乞うことも考えておこう。
「よし、皆準備はいいかな。出発するよ」
王子様のかけ声に、皆が強く頷いて返す。
かくして、私たちのもしかしたらラスボス戦になるかもしれない旅路へ出発した。
……と言っても、ツィーラーの街からヘルツォーク遺跡までは、馬車でたった数十分程度の超短い道のりだった。
もとは観光地だったおかげで、舗装された広い街道は馬の足を煩わせることもなく、
「ここが、ヘルツォーク遺跡……」
あっと言う間に目的地。茶と黄土色の日干し煉瓦で造られた不思議なデザインの建築物が私たちの目の前にそびえたっている。
(思っていたよりも、大きいわね)
高さは三階建てのビルぐらいだろうか。横にもかなり広く、アクション映画の舞台にでもなりそうな巨大な石の建物だ。
しかし、周囲に扉や窓はなく、入口はぽっかりと空いたままの穴が一つだけ。装飾も少ないし、遺跡というよりは王墓ね。
「なんだか、中に宝物とか隠されていそうね」
「そんな楽しい場所ならよかったんだがな」
かつて観た有名な映画を思い出していれば、少し離れた場所からカールの鼻で笑う声が聞こえた。
ムッとしてそちらを睨めば――カールは、まるで泣くのを堪えているような、寂し気な表情で遺跡を見上げていた。
ディアナ様のご実家で話した時にも反応していたけど、この外見詐欺師は、殺風景な遺跡にどんな思い出を持っているのだろうか。
「殿下、ざっと見た感じ、オレたち以外の人間はいませんよ」
「だが、アンジェラ殿が呼び出された場所は、ここで間違いないのだろう?」
カールに声をかけようか迷っていると、速さを活かして探索をしてきてくれたダレンが、困ったように報告してくれた。
一応遺跡には、ぐるりと取り囲むように張られた鎖と、『立ち入り禁止』と書かれた看板が立てられている。
……しかし、残念ながらそれだけだ。物理的に侵入者を拒むようなものはない。
「エルドレッド殿下、これはやはり」
「ああ。恐らくは、遺跡の中で待っているのだろうね」
あまり聞きたくない質問に、王子様は嘆息して頷く。
やっぱりそうなるわよね……ゲームの時も、このダンジョンは遺跡の中に入って戦ったはずだもの。
「でも、入って大丈夫なんですか? ここ、立ち入り禁止の場所ですよね?」
「そうだよ。しかし、待っていたら出て来てくれる相手とも思えないからね。……いざとなったら、部隊長の私が責任をとろう」
「あー……」
王族の彼が責任をとってくれるとなれば、多分ツィーラーの人々も何も言えないわよね。となれば、これはもう中に入って戦うしかないか。
(参ったな。『終盤のダンジョン』ということはわかるんだけど、ここの記憶がおぼろげなのよね)
チート情報ことかつての私の記憶は、今も私の支えだ。
なのに、肝心のヘルツォーク遺跡で出てくる魔物について、どうにもよく思い出せない。
……というか、気絶をさせられた辺りからだろうか。なんとなーく頭の中にモヤがかかっているような気がするのよね。
(これももしかして、あの泥女の仕業なのかしら……だとしたら、本格的に面倒くさいな)
ままならない自身に深くため息をつく。
まあ、元々罠であろうことを承知の上でここまで来たんだ。たとえ泥女が【無垢なる王】だとしても、今更引き返すわけにはいかない。
……もしも転生者なら、少し話をしてみたいとは思うんだけどね。ゲームの感想語りなんかも含めて。
「怖気づいても何も変わらないし。行きますか!」
背負っていた相棒を留め具から抜いて、ぶんっと軽くふり回す。うん、今日もいい重量感だ。心はともかく、体の調子は悪くなさそうね。
何度か柄を握り直してから、ぐっと両手で構える。さあ、いざ戦闘へ向かいますか――――と足を踏み出そうとしたところで、
「お前はふり回すな!」
と、背後から現れたノアに止められてしまった。いくら強化魔法を使っていても、私よりも大きな手のひらで両手を掴まれたら、止まるしかない。
「ちょっと、危ないじゃない! 朝からなんなのよ、ノア」
「お前と、もう一人の脳筋女子。あと破壊師弟! お前たちは眼前の建物をよく見てから動け!!」
「はい?」
ノアに呼ばれたのは私とディアナ様、あとカールとウィリアムだ。……共通点といえば、壊したがりなことかしら?
「中には強敵がいるかもしれないんだもの。もちろん、よく見ているわよ?」
「そうじゃない。……いいか? ここは“遺産”だ。旧時代に建てられたものであり、経年劣化もかなり激しいのが外から見てもわかるな?」
「そりゃまあ」
遺跡に視線を向ければ、その表面にはところどころ亀裂が入っているのが見てとれる。
いきなり崩れることはないだろうけど、決して頑丈な建物ではないだろう。…………ああ、なるほど。
「そんな建物の中に入って、お前たちが本気で戦って……もつと思うか?」
「どうかしら。私はともかく、ディアナ様の一撃は素晴らしいから……」
「うむ、そう言ってもらえるのは嬉しいが、建材の煉瓦を砕く可能性は高いな」
ただでさえ、ディアナ様の武器は巨大なバトルアックスだ。それを彼女の素晴らしい力をもってふり下ろすのだから、まあ床石ぐらいは軽く砕け散るでしょうね。
ディアナ様本人も、斧の大きな刃を眺めながら眉を下げている。
「ウィリアム、一番心配なのがお前だ。いつものような威力の魔術を中で撃とうものなら、間違いなく生き埋めだぞ」
「うう、加減が下手ですみません!! ご迷惑をおかけしてます!!」
今度はウィリアムに対してノアが人差し指をつきつけると、ウィリアムはいつも通りに慌てながら頭を深く下げる。
高火力は利点だけど、室内戦ではそりゃ不利よね。味方にはダメージ判定のないゲームと違って、現実の魔術は背景にも仲間にももれなく効果があるもの。
「……とにかく、普段は頼もしい力強さが、遺跡の中では徒となるだろう。いざとなれば俺が崩落を抑えてはみるが、遺跡を壊すことはできれば避けたい。お前たち四人は特に周囲に気を付けて動くように。いいな? くれぐれも! いつも通りの全力振りをするんじゃないぞ!?」
「わ、わかってるわよ!」
最後はやっぱり私にあててノアの注意の声が響く。顔だけはめっちゃくちゃきれいなのに、この人言うことがお母さんみたいね。
「……月の賢者、お前『賢者』じゃなくて『導師』のほうが向いてるんじゃねーか?」
「冗談じゃない。お前たちだけでも胃が痛いのだから、弟子などとるヒマがあるか」
私と同じような感想をもったらしいカールがツッコめば、ノアは嫌そうに首を横にふった。
うん、私たちを気遣っている時点で先生向きなんだろうけど、気付いていないのかしらね。
周りでは、怒られていない面々も、こちらを微笑ましく見守ってくれている。
「となると、ノア。遺跡の中では私たちが主戦力ということになるのかな」
「刺突が得意のエルドレッドももちろんだが、一番安定して戦えるのは……お前だろうな」
ひとしきり笑ってから近付いてきた王子様と共に、ノアの顎がすいっと一人を指す。
――遺跡に到着して以降、一言も喋っていない私の幼馴染を。
「……僕ですか?」
「お前なら強さは申し分ないし、周囲を見て動けるだろう。罠である可能性が高い以上、お前がアンジェラを守るのに適任だ」
「……そう、ですね」
ジュードは顔立ちには似つかわしくない苦笑を浮かべて、小さく頷く。
まるで、乾いた風の中に溶けてしまいそうな、儚い表情だ。
「何よジュード、私を守るのがそんなに嫌なの?」
「まさか。……ごめん、少し考えごとをしていただけだよ」
ノアが私から離れていけば、入れ替わるようにジュードが近付いて来て、ぎゅっと私の手を握った。
背も高くて、体格もいい大人の男の人なのに、行動だけは迷子みたいね。
「大丈夫、アンジェラは僕が守るよ」
「期待してるわ。……いざとなったら、私も拳で戦うけどね」
「せめて蹴りにして欲しいかなあ」
そう言ってジュードは今度こそ、見慣れた穏やかな笑みを浮かべてくれる。……大丈夫、きっと。
「さて、では行ってみようか。さっきのノアではないけれど、慌てず騒がずあんまり暴れずに。アンジェラ殿の呼び出し主の顔を確かめさせてもらおう」
「はーい!」
王子様の本日二回目の出発の挨拶に、各々手や武器を挙げて応える。
さて、鬼が出るか蛇が出るか――ラスボスが出るか。
ジュードの手を引きながら、私たちの一行は寂れた遺跡の中へと足を踏み入れた。
脳筋な私の予想だし、外れてくれればいいんだけど……万が一当たっているのなら、ここに私を招いたのはゲームの時のラスボスだからね。皆が強くたって、準備はいくらしても困らない。
「あー……なんか無駄に緊張してきたわ。大丈夫、落ち着いて落ち着いて」
「おい撲殺聖女、わかったから深呼吸に合わせてメイスの素振りをするな!!」
どうしても身構えてしまう気持ちを紛らわせるべく相棒をふっていたら、横からノアに怒られしまった。
だってこうでもしないと落ち着かないんだもの。手のひらに人の字を書くおまじないで誤魔化せるような緊張じゃないんだから。
(【ヤツカハギ】ぐらいならまだしも、【葬列の帰還】とか【寄生種】の大群とか、今の私たちでも苦戦するボス魔物は沢山いた。それらを統べるラスボスとなれば、一体どれだけ強いのかしら)
……そもそも、もしも【無垢なる王】が本当に転生者だとしたら、私たちは『人間の心を持ったもの』と戦わなければいけないわけだ。
戦うだけならできるだろうけど、それを倒す――殺すことが、私にできるかしら。
(いやまあ、それが『人間』とカウントされるなら、神様の使徒の私はトドメをさせないだろうけどね)
でも、世界を救う方法がそれしかないのなら、人を殺めることも覚悟しなくては。
幸いにも、この部隊には戦場を知っている騎士や、長い年月を生きている人外な仲間もいる。カール辺りは人生経験も豊富そうだし、いざとなったら助言を乞うことも考えておこう。
「よし、皆準備はいいかな。出発するよ」
王子様のかけ声に、皆が強く頷いて返す。
かくして、私たちのもしかしたらラスボス戦になるかもしれない旅路へ出発した。
……と言っても、ツィーラーの街からヘルツォーク遺跡までは、馬車でたった数十分程度の超短い道のりだった。
もとは観光地だったおかげで、舗装された広い街道は馬の足を煩わせることもなく、
「ここが、ヘルツォーク遺跡……」
あっと言う間に目的地。茶と黄土色の日干し煉瓦で造られた不思議なデザインの建築物が私たちの目の前にそびえたっている。
(思っていたよりも、大きいわね)
高さは三階建てのビルぐらいだろうか。横にもかなり広く、アクション映画の舞台にでもなりそうな巨大な石の建物だ。
しかし、周囲に扉や窓はなく、入口はぽっかりと空いたままの穴が一つだけ。装飾も少ないし、遺跡というよりは王墓ね。
「なんだか、中に宝物とか隠されていそうね」
「そんな楽しい場所ならよかったんだがな」
かつて観た有名な映画を思い出していれば、少し離れた場所からカールの鼻で笑う声が聞こえた。
ムッとしてそちらを睨めば――カールは、まるで泣くのを堪えているような、寂し気な表情で遺跡を見上げていた。
ディアナ様のご実家で話した時にも反応していたけど、この外見詐欺師は、殺風景な遺跡にどんな思い出を持っているのだろうか。
「殿下、ざっと見た感じ、オレたち以外の人間はいませんよ」
「だが、アンジェラ殿が呼び出された場所は、ここで間違いないのだろう?」
カールに声をかけようか迷っていると、速さを活かして探索をしてきてくれたダレンが、困ったように報告してくれた。
一応遺跡には、ぐるりと取り囲むように張られた鎖と、『立ち入り禁止』と書かれた看板が立てられている。
……しかし、残念ながらそれだけだ。物理的に侵入者を拒むようなものはない。
「エルドレッド殿下、これはやはり」
「ああ。恐らくは、遺跡の中で待っているのだろうね」
あまり聞きたくない質問に、王子様は嘆息して頷く。
やっぱりそうなるわよね……ゲームの時も、このダンジョンは遺跡の中に入って戦ったはずだもの。
「でも、入って大丈夫なんですか? ここ、立ち入り禁止の場所ですよね?」
「そうだよ。しかし、待っていたら出て来てくれる相手とも思えないからね。……いざとなったら、部隊長の私が責任をとろう」
「あー……」
王族の彼が責任をとってくれるとなれば、多分ツィーラーの人々も何も言えないわよね。となれば、これはもう中に入って戦うしかないか。
(参ったな。『終盤のダンジョン』ということはわかるんだけど、ここの記憶がおぼろげなのよね)
チート情報ことかつての私の記憶は、今も私の支えだ。
なのに、肝心のヘルツォーク遺跡で出てくる魔物について、どうにもよく思い出せない。
……というか、気絶をさせられた辺りからだろうか。なんとなーく頭の中にモヤがかかっているような気がするのよね。
(これももしかして、あの泥女の仕業なのかしら……だとしたら、本格的に面倒くさいな)
ままならない自身に深くため息をつく。
まあ、元々罠であろうことを承知の上でここまで来たんだ。たとえ泥女が【無垢なる王】だとしても、今更引き返すわけにはいかない。
……もしも転生者なら、少し話をしてみたいとは思うんだけどね。ゲームの感想語りなんかも含めて。
「怖気づいても何も変わらないし。行きますか!」
背負っていた相棒を留め具から抜いて、ぶんっと軽くふり回す。うん、今日もいい重量感だ。心はともかく、体の調子は悪くなさそうね。
何度か柄を握り直してから、ぐっと両手で構える。さあ、いざ戦闘へ向かいますか――――と足を踏み出そうとしたところで、
「お前はふり回すな!」
と、背後から現れたノアに止められてしまった。いくら強化魔法を使っていても、私よりも大きな手のひらで両手を掴まれたら、止まるしかない。
「ちょっと、危ないじゃない! 朝からなんなのよ、ノア」
「お前と、もう一人の脳筋女子。あと破壊師弟! お前たちは眼前の建物をよく見てから動け!!」
「はい?」
ノアに呼ばれたのは私とディアナ様、あとカールとウィリアムだ。……共通点といえば、壊したがりなことかしら?
「中には強敵がいるかもしれないんだもの。もちろん、よく見ているわよ?」
「そうじゃない。……いいか? ここは“遺産”だ。旧時代に建てられたものであり、経年劣化もかなり激しいのが外から見てもわかるな?」
「そりゃまあ」
遺跡に視線を向ければ、その表面にはところどころ亀裂が入っているのが見てとれる。
いきなり崩れることはないだろうけど、決して頑丈な建物ではないだろう。…………ああ、なるほど。
「そんな建物の中に入って、お前たちが本気で戦って……もつと思うか?」
「どうかしら。私はともかく、ディアナ様の一撃は素晴らしいから……」
「うむ、そう言ってもらえるのは嬉しいが、建材の煉瓦を砕く可能性は高いな」
ただでさえ、ディアナ様の武器は巨大なバトルアックスだ。それを彼女の素晴らしい力をもってふり下ろすのだから、まあ床石ぐらいは軽く砕け散るでしょうね。
ディアナ様本人も、斧の大きな刃を眺めながら眉を下げている。
「ウィリアム、一番心配なのがお前だ。いつものような威力の魔術を中で撃とうものなら、間違いなく生き埋めだぞ」
「うう、加減が下手ですみません!! ご迷惑をおかけしてます!!」
今度はウィリアムに対してノアが人差し指をつきつけると、ウィリアムはいつも通りに慌てながら頭を深く下げる。
高火力は利点だけど、室内戦ではそりゃ不利よね。味方にはダメージ判定のないゲームと違って、現実の魔術は背景にも仲間にももれなく効果があるもの。
「……とにかく、普段は頼もしい力強さが、遺跡の中では徒となるだろう。いざとなれば俺が崩落を抑えてはみるが、遺跡を壊すことはできれば避けたい。お前たち四人は特に周囲に気を付けて動くように。いいな? くれぐれも! いつも通りの全力振りをするんじゃないぞ!?」
「わ、わかってるわよ!」
最後はやっぱり私にあててノアの注意の声が響く。顔だけはめっちゃくちゃきれいなのに、この人言うことがお母さんみたいね。
「……月の賢者、お前『賢者』じゃなくて『導師』のほうが向いてるんじゃねーか?」
「冗談じゃない。お前たちだけでも胃が痛いのだから、弟子などとるヒマがあるか」
私と同じような感想をもったらしいカールがツッコめば、ノアは嫌そうに首を横にふった。
うん、私たちを気遣っている時点で先生向きなんだろうけど、気付いていないのかしらね。
周りでは、怒られていない面々も、こちらを微笑ましく見守ってくれている。
「となると、ノア。遺跡の中では私たちが主戦力ということになるのかな」
「刺突が得意のエルドレッドももちろんだが、一番安定して戦えるのは……お前だろうな」
ひとしきり笑ってから近付いてきた王子様と共に、ノアの顎がすいっと一人を指す。
――遺跡に到着して以降、一言も喋っていない私の幼馴染を。
「……僕ですか?」
「お前なら強さは申し分ないし、周囲を見て動けるだろう。罠である可能性が高い以上、お前がアンジェラを守るのに適任だ」
「……そう、ですね」
ジュードは顔立ちには似つかわしくない苦笑を浮かべて、小さく頷く。
まるで、乾いた風の中に溶けてしまいそうな、儚い表情だ。
「何よジュード、私を守るのがそんなに嫌なの?」
「まさか。……ごめん、少し考えごとをしていただけだよ」
ノアが私から離れていけば、入れ替わるようにジュードが近付いて来て、ぎゅっと私の手を握った。
背も高くて、体格もいい大人の男の人なのに、行動だけは迷子みたいね。
「大丈夫、アンジェラは僕が守るよ」
「期待してるわ。……いざとなったら、私も拳で戦うけどね」
「せめて蹴りにして欲しいかなあ」
そう言ってジュードは今度こそ、見慣れた穏やかな笑みを浮かべてくれる。……大丈夫、きっと。
「さて、では行ってみようか。さっきのノアではないけれど、慌てず騒がずあんまり暴れずに。アンジェラ殿の呼び出し主の顔を確かめさせてもらおう」
「はーい!」
王子様の本日二回目の出発の挨拶に、各々手や武器を挙げて応える。
さて、鬼が出るか蛇が出るか――ラスボスが出るか。
ジュードの手を引きながら、私たちの一行は寂れた遺跡の中へと足を踏み入れた。
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