転生しました、脳筋聖女です

香月航

文字の大きさ
85 / 113
連載

17章・脳筋な少女の本当の話

しおりを挟む
「――……ああ、そういうことだったのね」

 ぽつりとこぼれた呟きと共に、色んな疑問が解決して、胸が軽くなった気がする。
 ずっとおかしいとは思っていた。ハードモードすぎる世界の事情。他を圧倒する強すぎる仲間たち。

「強いはずだわ。転生者の私じゃなくて、彼らのほうが『強くてニューゲーム』中だったのだから」

 この世界も“二周目”だというのなら、納得の鬼畜度だ。
 私は確かに主人公だったけれど、よくあるチート主人公ではなく、巻き込まれて翻弄されるタイプだったわけだ。あーあ、元廃人プレイヤーとして、自信があったんだけどな。

 家具の少ない簡易会議室の中、仲間たちは意見を交わしながら、だんだんと明るい表情になっていく。
 全てをずっと覚えていたカールなどは、やっと肩の荷がおりた感じなのだろう。いつもよりも、笑い方が少し穏やかだ。
 誰も彼も『次は失敗しないように』と前向きに覚悟を決めていて、

 ――――ずっと部屋の中で話を聞いていた私には、ちっとも気付いてくれなかった。

「……まあ、こんな姿じゃ仕方ないか」

 ひょいと手を持ち上げれば、見えるのは肌の色ではない。
 見えるのは、ほとんど透き通った白っぽい輪郭のみだ。むしろ、向こう側の景色のほうがハッキリしている。
 どこもかしこも、ぼんやりとあやふやで、感覚すらも危うい。
 ――現在の私は、いわゆる幽霊のような状態になっていた。

「窓ガラスにも、鏡にも映らない。我ながら怖いなあ……」

 霊感のありそうな魔術師たちも気付いてくれないし、どれだけ喋っても誰にも聞こえていないみたいだ。
 信頼して戦ってきた仲間だからこそ、このスルー具合は非常に悲しいわ。というか、私を好き好き言っているジュードぐらいは気付きなさいよ、もう!!

「まあ、ジュードは魔術素養ゼロだものね。霊感もないか」

 そこは愛の力とかで乗り越えて欲しいところだけど、気付いてもらえないのなら仕方ない。
 深くため息をついてから、私はくるっと背後をふり返った。

 ――その人は、皆と一緒に私がこの部屋にきてからずっと、私の後ろに寄り添うようについてきていた。
 男か女かもわからない、ぼんやりとした白いモヤのような姿。
 悪い感じはしなかったので無視していたのだけど、ジュードたちに気付いてもらえない以上、この人(?)に話しかけるしかなさそうだ。

「……怖いから聞かなかったのだけど、貴方は本物の幽霊さん?」

[違うよ。わたしは、ヒトの魂ではない]

 意を決して声をかければ、思ったよりも穏やかな返事が聞こえてくる。
 やっぱり、男なのか女なのかいまいち判別できない声だ。ただ、おっとりとしたその声を、私は何度か夢で聞いている気がする。
 ……そう、不思議な、真っ白な夢の中で、何度か。

「この声……貴方もしかして、神様なの?」

[そうだね。この世界では、そう呼ばれている]

「うわあ」

 マジですか。アッサリ告げられた答えに、私のほうが驚いてしまったわ。
 そうか、神様ってこういう姿をしていたのか。道理で夢の中で声を聞いた時も、姿が見えなかったわけだ。

(神様も、決まった形がない存在だったのね)

 この辺りは、【無垢なる王】と一緒なのか。いや、もしかしたら、あの真っ白な夢の空間そのものが神様なのかもしれない。
 もやもやした白い塊は、空気の流れにそうように揺れている。

「ええと、いつもお世話になってます」

[こちらこそ。わたしの世界の話に巻き込んでしまってすまないね]

 天啓捏造やら何やらしているので、ひとまず挨拶から入ったところ、神様はまたおっとりとした声で答えてくれる。
 ……おっとりというか、“のっぺり”のほうが近いかしら。抑揚のない、どこまでも平坦な声だ。すまないと言ってはいるけれど、謝罪っぽい雰囲気は微塵も感じられない。
 ただただ穏やかで、優しいだけの声。

「今日は何のご用ですか? ……私に用、なんですよね?」

[うん、君にご用だよ。そろそろ体に戻って欲しいから、迎えにきたんだ]

「体に?」

 用件を聞き返せば、ゆらゆらした神様は泳ぐように移動していく。後を追いかければ、そこは私が寝かされている客間だった。

[彼らの話は、粗方聞けただろう? そろそろ体に戻ってもらわないと、わたしが守るにも限界があるからね]

 ベッドを上から覗きこむと、そこには真っ白な顔をしたアンジェラが横たわっている。
 呼吸もひどく浅くて、よくできた人形か……死体にしか見えない。

「これは……私は今、幽体離脱とかそういう状態なんですか?」

[そうだね、それが一番近い呼び方かな。アンジェラと遭遇したショックで、魂が抜け出てしまったんだよ。今はわたしが繋ぎとめているけれど、アンジェラとの繋がりのほうが強いから。これ以上お外にいると、体を取り返されてしまうよ]

「……ッ、それは困ります!!」

 神様は淡々と話してくれるけど、それは私にとっては『死』と同義の事態じゃないか!
 大慌てで死体のような体に飛びつけば、スルンと吸い込まれて、視界が一瞬真っ暗になる。

「…………あ」

 そして次の瞬間、開いた目に映るのは、客間の白っぽい天井だ。
 布団から引き出した手はきちんと肌色をしていて、向こうの景色が透けて見えることもない。

「あ、危なかった……」

 顔を触り、髪を触り、お腹や足も確認する。よかった、全部繋がっているし感覚もある。
 十一年生きてきた私……いや、アンジェラ・ローズヴェルトの体だ。
 うっかりなミスで、仲間たちの覚悟を無駄にしてしまうところだったわ。

[うん、大丈夫そうだね。アンジェラの体は、君に繋がったよ]

「それはどうも」

 再び聞こえた声に視線を巡らせるけれど、もう神様の姿は見えなくなってしまったようだ。波長とかチャンネルとか、そういうものが生きている人間とは違うのでしょうね。
 ……そもそも神様っていったら、絶世の美形とか長いひげのおじいさんとかが定番なのに、白いもやもやだとは思わないわよ。

[なるほど。じゃあ次は、絶世の美男子の姿で出てくるよ]

「人の心の中を読まないで下さいよ。……まあ、もやもやよりは話しやすいと思いますけど」

 ちょろっと不謹慎なことを考えたら、そんなことにまですぐ答えが返ってきた。
 神様って、この国ではほぼ唯一神として信仰されているのに、本人はずいぶんフレンドリーなのね。

[全ての存在に対してフレンドリーなわけではないけれど、君はわたしが巻き込んでしまった人だからね。特別サービスってやつだよ?]

「地球の言葉で話しかけられると、ますます印象軽くなりますね」

 サービスとか、神様が言ったらいけない台詞でしょうに。まあ、淑女教育を七歳で捨てた私としては、仰々しいよりはずっとやりやすいけど。
 それにしても、威厳ゼロだ。大丈夫なのかしら、この世界。

[今のところは滅んだりしないと思うから、大丈夫だよ。それより、君はもう少し眠っていたほうがいいよ。体がまだ疲れているみたいだからね。続きは夢で、お話しよう?]

 穏やかな声が子守歌のように耳に響き、途端にまぶたが重くなってくる。
 ……ああ、そうか。私を体に繋ぎとめているのは神様だものね。意識を落とすのは朝飯前か。
 起こしていた体が、鈍い音を立てて布団に倒れ込む。
 視界は一瞬だけ真っ暗に。しかし、すぐに眩しいほどの白へと変わっていく。

[君の幼馴染が答えられない質問は、わたしが答えるよ。それで君が、この戦いを終わらせられるのなら――ねえ、“     ”]

「……ッ!」

 ハッキリとは聞き取れなかったのに、神様が口にしたそれが『名前』なのだとわかってしまった。
 ウィッシュボーン王国では聞かない音の羅列。それこそが、偽者のアンジェラ・ローズヴェルトの本当の名前なのだろう。

「……教えて下さい。『私』が誰なのか」

[ああ、もちろん。わたしに答えられることならば]

 夢に吸い込まれる瞬間、悪夢せいじょと同じ青い目からこぼれた涙が、一筋だけ落ちていった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。