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第14話 好みの調査
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「マノンさん、今日はなぜこんなにたくさんのお料理が出るのですか? サンティルノ国ではこれが本来の昼食の品数なのですか?」
マノンさんを初め、ミレイさんとルディーさんが私に一礼を取った後、料理をのせたワゴンを次々と押し運び入れてくる様子に思わず目を見張ってしまうと、マノンさんはくすくすと笑った。
「いえいえ。さすがにこんなにたくさんは頂きませんよ」
「ではなぜこれ程ご用意してくださったのですか?」
私がマノンさんに質問している間にも、ミレイさんとルディーさんはテーブルに料理を並べていってくれている。
「昨夜、レイヴァン様にご相談しにまいりましたでしょう。その時に申し付けられたのです。これからお食事量を増やしていただくために、クリスタル様のお好きな物を調査せよと。ですからクリスタル様が少食なのは承知しておりますが、少しずつでも味を見てご感想を聞かせていただければと思い、ご用意いたしました」
レイヴァン様のお気遣いだったようだ。マノンさんが言っていた、初夜には体力づくりが必要ということだろう。ただ、初夜や結婚式が延期されたとしても、和平問題は心配しなくていいという旨を伝えられた。
ただ、あの時レイヴァン様が何となく頭が痛そうな表情をなさっていたのは、今後、それらを解消することも検討していたのに、私がその話を切り出したことで牽制されたと思われたのかもしれない。
「そうでしたか。ですが」
私はテーブルに並べられた料理に視線を移した。
それにしても多い。ポットだけでも三つある。それぞれ味の違うお茶なのだろう。料理も八、九皿もあって、量もそれなりにある。野菜やスープ、果物の皿もあるが、残りはメイン料理がほとんどだ。美味しそうではあるけれど、まだ昼ということもあって、見ているだけで胸が一杯になってきた。おそらく夜でも胸が一杯になりそうだけれども。
「とてもすべてを食べられる気がしません。せっかくのお料理が勿体ないです。ほんの少しずつでも良かったのですが」
「そうですね。私も残せばクリスタル様がお気に病まれるので少しずつでと料理長に言ってみたのですが、料理人としても、公爵夫人に対してもそのような失礼なことはできないと」
困ったものですねとマノンさんは苦笑した。
「そういうわけですから、クリスタル様はお気になさらずにご無理のない分だけお召し上がりください。それと少しお気になるかもしれませんが、お二人はクリスタル様の好みを書き留めるためにいらっしゃいますのでご了承くださいませ」
マノンさんが手のひらで指し示した二人は、手にペンと紙を持って待ち構えている。
「分かりました」
三人に見守られながらの食事ということのようだ。調査のためとは言え、睨みつけられるように、特にルディーさんからの強い視線を感じる。まるで値踏みされている気分だ。何とかもう少し自然な形にはならなかったのか。緊張して味が分からないかもしれない。
「ではどうぞお召し上がりください」
「は、はい。ではまずお野菜を頂きます」
私はフォークを使って葉野菜を口に運ぶ。
瑞々しくてシャキシャキと口の中で音を立てる。赤い果実も甘くてとても美味しい。
「美味しいです。そういえば、サンティルノ国はお野菜に火を通さないのですね」
私は側に立つマノンさんを見上げながら尋ねる。
「いえ、炒めたりすることもございますよ。ただ、サンティルノ国は南に位置する温暖な国ですので、体にこもった熱を冷ます生野菜が好まれる傾向がありますね」
「そうなのですね。では次にスープを頂きます」
マノンさんが二人に通訳している間に私はスプーンを手に取って一口流し込んだ。
「いかがでしょうか」
「ええ。昨日も申しましたが、濃厚で味に深みがあってとても美味しいです」
「承知いたしました」
ふと通訳してくれるマノンさんの視線を追って二人を見ると、ルディーさんは目線を落として懸命に書き付けている一方、ミレイさんは私をじっと見つめていた。
小さく胸が騒めく。ルディーさんみたいな敵意のこもった瞳ではないものの、やはり決して好意的に受け入れられているわけではなさそうだ。
「クリスタル様、では次に参りましょう」
通訳を終えたマノンさんに声をかけられてはっと我に返る。
「はい。では次は魚料理を頂きます。――これは」
そうやって私は一つずつ口にしてはマノンさんに通訳してもらい、それを二人が書き留めるという行為を繰り返した。必要以上の神経を使ったせいか、お腹は空いている気がするのにこれ以上は食べられそうになかった。口を休ませるお茶を飲みたい。
「マノンさん、お茶を頂けますか」
「はい。お食事はもうよろしいのでしょうか」
「ええ。申し訳ありません」
「かしこまりました。お茶をご用意いたします」
そう言ってポットからお茶を注いでくれたのだが、そうだった。これも三種類飲んで感想を伝えなければならなかった。
私はわずかに引きつりそうになった唇に力を込めて気合を入れ直した。
「クリスタル様、ではもうすべてのお食事を下げてよろしいのでしょうか」
「はい。ありがとうございました」
マノンさんはああ言ってくれたけれど、ほとんどの料理をたくさん残したまま食事を終えた私は申し訳なさで、ミレイさんとルディーさんの顔をまともに見ることができなかった。いくら好みを調べるためだけにお試しで用意された料理だったとしても、間近で見ればいい気はしないだろう。
用意してくれてありがとうございますと、残して申し訳ございませんと伝えてもらうようマノンさんにお願いした。
――ああ。この言葉はいち早く覚えなければならない。
「では私はお二人とともにお料理を片付けますので、一度失礼いたしますね。のちほどサンティルノ語講座とまいりましょう」
「ええ。よろしくお願いいたします」
「はい。それでは失礼いたします」
三人、それぞれ私に礼を取ると、お料理がのせられたワゴンを押して部屋から出て行った。
マノンさんを初め、ミレイさんとルディーさんが私に一礼を取った後、料理をのせたワゴンを次々と押し運び入れてくる様子に思わず目を見張ってしまうと、マノンさんはくすくすと笑った。
「いえいえ。さすがにこんなにたくさんは頂きませんよ」
「ではなぜこれ程ご用意してくださったのですか?」
私がマノンさんに質問している間にも、ミレイさんとルディーさんはテーブルに料理を並べていってくれている。
「昨夜、レイヴァン様にご相談しにまいりましたでしょう。その時に申し付けられたのです。これからお食事量を増やしていただくために、クリスタル様のお好きな物を調査せよと。ですからクリスタル様が少食なのは承知しておりますが、少しずつでも味を見てご感想を聞かせていただければと思い、ご用意いたしました」
レイヴァン様のお気遣いだったようだ。マノンさんが言っていた、初夜には体力づくりが必要ということだろう。ただ、初夜や結婚式が延期されたとしても、和平問題は心配しなくていいという旨を伝えられた。
ただ、あの時レイヴァン様が何となく頭が痛そうな表情をなさっていたのは、今後、それらを解消することも検討していたのに、私がその話を切り出したことで牽制されたと思われたのかもしれない。
「そうでしたか。ですが」
私はテーブルに並べられた料理に視線を移した。
それにしても多い。ポットだけでも三つある。それぞれ味の違うお茶なのだろう。料理も八、九皿もあって、量もそれなりにある。野菜やスープ、果物の皿もあるが、残りはメイン料理がほとんどだ。美味しそうではあるけれど、まだ昼ということもあって、見ているだけで胸が一杯になってきた。おそらく夜でも胸が一杯になりそうだけれども。
「とてもすべてを食べられる気がしません。せっかくのお料理が勿体ないです。ほんの少しずつでも良かったのですが」
「そうですね。私も残せばクリスタル様がお気に病まれるので少しずつでと料理長に言ってみたのですが、料理人としても、公爵夫人に対してもそのような失礼なことはできないと」
困ったものですねとマノンさんは苦笑した。
「そういうわけですから、クリスタル様はお気になさらずにご無理のない分だけお召し上がりください。それと少しお気になるかもしれませんが、お二人はクリスタル様の好みを書き留めるためにいらっしゃいますのでご了承くださいませ」
マノンさんが手のひらで指し示した二人は、手にペンと紙を持って待ち構えている。
「分かりました」
三人に見守られながらの食事ということのようだ。調査のためとは言え、睨みつけられるように、特にルディーさんからの強い視線を感じる。まるで値踏みされている気分だ。何とかもう少し自然な形にはならなかったのか。緊張して味が分からないかもしれない。
「ではどうぞお召し上がりください」
「は、はい。ではまずお野菜を頂きます」
私はフォークを使って葉野菜を口に運ぶ。
瑞々しくてシャキシャキと口の中で音を立てる。赤い果実も甘くてとても美味しい。
「美味しいです。そういえば、サンティルノ国はお野菜に火を通さないのですね」
私は側に立つマノンさんを見上げながら尋ねる。
「いえ、炒めたりすることもございますよ。ただ、サンティルノ国は南に位置する温暖な国ですので、体にこもった熱を冷ます生野菜が好まれる傾向がありますね」
「そうなのですね。では次にスープを頂きます」
マノンさんが二人に通訳している間に私はスプーンを手に取って一口流し込んだ。
「いかがでしょうか」
「ええ。昨日も申しましたが、濃厚で味に深みがあってとても美味しいです」
「承知いたしました」
ふと通訳してくれるマノンさんの視線を追って二人を見ると、ルディーさんは目線を落として懸命に書き付けている一方、ミレイさんは私をじっと見つめていた。
小さく胸が騒めく。ルディーさんみたいな敵意のこもった瞳ではないものの、やはり決して好意的に受け入れられているわけではなさそうだ。
「クリスタル様、では次に参りましょう」
通訳を終えたマノンさんに声をかけられてはっと我に返る。
「はい。では次は魚料理を頂きます。――これは」
そうやって私は一つずつ口にしてはマノンさんに通訳してもらい、それを二人が書き留めるという行為を繰り返した。必要以上の神経を使ったせいか、お腹は空いている気がするのにこれ以上は食べられそうになかった。口を休ませるお茶を飲みたい。
「マノンさん、お茶を頂けますか」
「はい。お食事はもうよろしいのでしょうか」
「ええ。申し訳ありません」
「かしこまりました。お茶をご用意いたします」
そう言ってポットからお茶を注いでくれたのだが、そうだった。これも三種類飲んで感想を伝えなければならなかった。
私はわずかに引きつりそうになった唇に力を込めて気合を入れ直した。
「クリスタル様、ではもうすべてのお食事を下げてよろしいのでしょうか」
「はい。ありがとうございました」
マノンさんはああ言ってくれたけれど、ほとんどの料理をたくさん残したまま食事を終えた私は申し訳なさで、ミレイさんとルディーさんの顔をまともに見ることができなかった。いくら好みを調べるためだけにお試しで用意された料理だったとしても、間近で見ればいい気はしないだろう。
用意してくれてありがとうございますと、残して申し訳ございませんと伝えてもらうようマノンさんにお願いした。
――ああ。この言葉はいち早く覚えなければならない。
「では私はお二人とともにお料理を片付けますので、一度失礼いたしますね。のちほどサンティルノ語講座とまいりましょう」
「ええ。よろしくお願いいたします」
「はい。それでは失礼いたします」
三人、それぞれ私に礼を取ると、お料理がのせられたワゴンを押して部屋から出て行った。
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