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第12話 ※アルバート視点:予定に少し変更があっただけ
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「この場で彼女と、ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢と正式に婚姻を結びたいと思います」
私が両親である国王陛下と王妃殿下へヴィオレーヌとの結婚を宣言した後、ティアナに視線をやると彼女は目を大きく開き、今の状況を理解しきれない、あるいは理解するのを放棄したかのように固まっていた。
そこまで衝撃的だったとは。まさか本気で娼館上がりの人間が、のちの王太子妃として迎え入れられると考えていたのだろうか。だとしたら申し訳ないことをしたと思う。
まあ。
これまで信用させるようになだめ慰め、愛し、未来を語り合ってと彼女に尽くしてきたわけだが。
ただ少し内容が違っていたのは、私とティアナの結婚を発表するのではなく、ヴィオレーヌとの結婚を発表するという所。
仕方がない。予定は必ず決行ではなく、急遽変更になることなど頻繁に起こりうるものだ。ティアナの知らない所で、予定に少し変更があっただけのこと。ただし、伝えなかったのは私の落ち度だ。――いや。敢えて、が抜けていたかな。
それにしても私が婚約解消を口にした時の君。期待の瞳できらきらしていて、最高に可愛かったよ、ティアナ。その顔が見たかったんだ。
心の中で小さく笑みがこぼれる。
「――お、おぉ! そうかそうか。それは喜ばしいことだ。……一瞬びっくりしたぞ。婚約解消などと言うから」
父は表情を驚きから安堵した様子に、そして苦笑いへと変えた。
王室を支える高位貴族の一つ、ランバルト公爵家との繋がりは重要である。その繋がりを事前の告知もなく、いきなりこの場で断ち切ろうとするのかと父も瞬間的に肝を冷やしたことだろう。
その重要な繋がりを私が切ると? ――まさか!
民からの人気が上がったとしても、ただのいち民にすぎないティアナを娶り、王家に対しても多大な影響力を持つ公爵家を切り捨てるなど、王族であるこの私ができるはずもない。
何より、親に決められた婚約者と言ってもヴィオレーヌとは恋愛関係にある。彼女の気持ちも考慮して結婚するまではと、口づけ以上のことはしないと決めたぐらい大切にしたい相手だ。
「申し訳ありません。久々のヴィオレーヌを前に緊張して」
「あらあら。格好がつかないこと。でもようやくね。おめでとう」
母は困った子ねと言いながらも喜色満面で、当然ながら祝福してくれる。
私もまた苦笑しながらヴィオレーヌに視線をやると、彼女は少し不愉快そうにも見えた。
当然ながら、討伐前の出来事に対するもやもやした気持ちが解消し切れていない部分があるのだろう。それは仕方がないことだ。ティアナとの口づけを目撃させたのは彼女にとって衝撃的だっただろうし、態度も言葉も辛辣に放ったことで深く傷つけもしてしまった。
ただ、確かにヴィオレーヌは気位が高いと言ったが、自分の品位を誇り保つということは、常に己の行動を省みて美しくあろうと律することだ。それはとても素晴らしいことである。
愛玩猫と言ったのも、美しいだけで何もできないお飾りの女性という意味ではない。猫かわいがりしたい程の愛しい人という意味だった。
だが、もしかしたらそれがティアナには、そしてヴィオレーヌにも悪口に聞こえただろうか。……ああ。もっとも、私の言い方もそれらしく捉えられてしまう物言いだったかな。
とうとう溢れこぼれそうになった笑みを、何食わぬ顔して手でさりげなく隠す。
ヴィオレーヌはきっと嫉妬と屈辱の炎で胸を焦がしたに違いない。一方、ティアナは私との愛で体を燃やしていたことだろう。
ティアナとの睦み合いはヴィオレーヌへの罪悪感と背徳感もあって、実に刺激的なものだった。
彼女を組み敷いている際、これがヴィオレーヌであればなどとは露ほども思わなかった。むしろヴィオレーヌのことを考えるとより気持ちが駆り立てられ、ティアナから立ち昇る艶めかしい色香に酔いしれて溺れに溺れた。気付けば彼女の虜となっている自分さえいた。何度も心まで呑み込まれそうになった。
これまで彼女が積んできた経験以上の要因、心と体を揺さぶられる何か不思議な魅力が彼女にはある。もしかするとこれが聖女の氣というものなのかもしれない。
ヴィオレーヌのことは心から愛しているが、褥の上での相性はティアナとの方が良さそうだ。手放すには惜しすぎる。
我が国では側室は認められていないものの、愛妾を持つことは許されている。彼女らをうまく丸めこんで、ティアナを愛妾の席に置いてもいいかもしれない。
ティアナはこれまで娼館に身を落としていた人間だ。最初は裏切られたと憤りを見せるだろうが、どっぷりと優雅な生活に浸り、私に甘やかされ愛されることに慣れてしまった彼女はその地位でもと折り合いをつけるはず。
私には彼女をなだめすかし、納得させられるだけの自信もある。
……などと我ながら悪逆非道なことをうそぶいてみるが、さすがに現実的ではなく、体裁も悪い。当然ながら今度こそヴィオレーヌは私を許さないだろうし、ランバルト公爵も娘を、ひいてはランバルト家を侮辱されたと乗り込んでくるだろう。
彼らを敵に回すわけにはいかない。また、愛妾を持たない父からも大反対されるに決まっている。
というわけで心の中だけに留めておく方が良さそうだ。
実に残念でならないがと、頭の中でこっそり肩をすくめて考えを収めると、改めてヴィオレーヌに向き合う。
「ずいぶんと待たせてしまい、本当に申し訳なかった。不安もいっぱいあっただろう。よく私を信じて待っていてくれた。ヴィオレーヌ、私と結婚してくれるね?」
私は彼女へと手を差し出した。
ヴィオレーヌ。
私は誰よりも君のことを知っている。だから、愛の証を示した私の手を取ってくれるともちろん信じているよ。
私が両親である国王陛下と王妃殿下へヴィオレーヌとの結婚を宣言した後、ティアナに視線をやると彼女は目を大きく開き、今の状況を理解しきれない、あるいは理解するのを放棄したかのように固まっていた。
そこまで衝撃的だったとは。まさか本気で娼館上がりの人間が、のちの王太子妃として迎え入れられると考えていたのだろうか。だとしたら申し訳ないことをしたと思う。
まあ。
これまで信用させるようになだめ慰め、愛し、未来を語り合ってと彼女に尽くしてきたわけだが。
ただ少し内容が違っていたのは、私とティアナの結婚を発表するのではなく、ヴィオレーヌとの結婚を発表するという所。
仕方がない。予定は必ず決行ではなく、急遽変更になることなど頻繁に起こりうるものだ。ティアナの知らない所で、予定に少し変更があっただけのこと。ただし、伝えなかったのは私の落ち度だ。――いや。敢えて、が抜けていたかな。
それにしても私が婚約解消を口にした時の君。期待の瞳できらきらしていて、最高に可愛かったよ、ティアナ。その顔が見たかったんだ。
心の中で小さく笑みがこぼれる。
「――お、おぉ! そうかそうか。それは喜ばしいことだ。……一瞬びっくりしたぞ。婚約解消などと言うから」
父は表情を驚きから安堵した様子に、そして苦笑いへと変えた。
王室を支える高位貴族の一つ、ランバルト公爵家との繋がりは重要である。その繋がりを事前の告知もなく、いきなりこの場で断ち切ろうとするのかと父も瞬間的に肝を冷やしたことだろう。
その重要な繋がりを私が切ると? ――まさか!
民からの人気が上がったとしても、ただのいち民にすぎないティアナを娶り、王家に対しても多大な影響力を持つ公爵家を切り捨てるなど、王族であるこの私ができるはずもない。
何より、親に決められた婚約者と言ってもヴィオレーヌとは恋愛関係にある。彼女の気持ちも考慮して結婚するまではと、口づけ以上のことはしないと決めたぐらい大切にしたい相手だ。
「申し訳ありません。久々のヴィオレーヌを前に緊張して」
「あらあら。格好がつかないこと。でもようやくね。おめでとう」
母は困った子ねと言いながらも喜色満面で、当然ながら祝福してくれる。
私もまた苦笑しながらヴィオレーヌに視線をやると、彼女は少し不愉快そうにも見えた。
当然ながら、討伐前の出来事に対するもやもやした気持ちが解消し切れていない部分があるのだろう。それは仕方がないことだ。ティアナとの口づけを目撃させたのは彼女にとって衝撃的だっただろうし、態度も言葉も辛辣に放ったことで深く傷つけもしてしまった。
ただ、確かにヴィオレーヌは気位が高いと言ったが、自分の品位を誇り保つということは、常に己の行動を省みて美しくあろうと律することだ。それはとても素晴らしいことである。
愛玩猫と言ったのも、美しいだけで何もできないお飾りの女性という意味ではない。猫かわいがりしたい程の愛しい人という意味だった。
だが、もしかしたらそれがティアナには、そしてヴィオレーヌにも悪口に聞こえただろうか。……ああ。もっとも、私の言い方もそれらしく捉えられてしまう物言いだったかな。
とうとう溢れこぼれそうになった笑みを、何食わぬ顔して手でさりげなく隠す。
ヴィオレーヌはきっと嫉妬と屈辱の炎で胸を焦がしたに違いない。一方、ティアナは私との愛で体を燃やしていたことだろう。
ティアナとの睦み合いはヴィオレーヌへの罪悪感と背徳感もあって、実に刺激的なものだった。
彼女を組み敷いている際、これがヴィオレーヌであればなどとは露ほども思わなかった。むしろヴィオレーヌのことを考えるとより気持ちが駆り立てられ、ティアナから立ち昇る艶めかしい色香に酔いしれて溺れに溺れた。気付けば彼女の虜となっている自分さえいた。何度も心まで呑み込まれそうになった。
これまで彼女が積んできた経験以上の要因、心と体を揺さぶられる何か不思議な魅力が彼女にはある。もしかするとこれが聖女の氣というものなのかもしれない。
ヴィオレーヌのことは心から愛しているが、褥の上での相性はティアナとの方が良さそうだ。手放すには惜しすぎる。
我が国では側室は認められていないものの、愛妾を持つことは許されている。彼女らをうまく丸めこんで、ティアナを愛妾の席に置いてもいいかもしれない。
ティアナはこれまで娼館に身を落としていた人間だ。最初は裏切られたと憤りを見せるだろうが、どっぷりと優雅な生活に浸り、私に甘やかされ愛されることに慣れてしまった彼女はその地位でもと折り合いをつけるはず。
私には彼女をなだめすかし、納得させられるだけの自信もある。
……などと我ながら悪逆非道なことをうそぶいてみるが、さすがに現実的ではなく、体裁も悪い。当然ながら今度こそヴィオレーヌは私を許さないだろうし、ランバルト公爵も娘を、ひいてはランバルト家を侮辱されたと乗り込んでくるだろう。
彼らを敵に回すわけにはいかない。また、愛妾を持たない父からも大反対されるに決まっている。
というわけで心の中だけに留めておく方が良さそうだ。
実に残念でならないがと、頭の中でこっそり肩をすくめて考えを収めると、改めてヴィオレーヌに向き合う。
「ずいぶんと待たせてしまい、本当に申し訳なかった。不安もいっぱいあっただろう。よく私を信じて待っていてくれた。ヴィオレーヌ、私と結婚してくれるね?」
私は彼女へと手を差し出した。
ヴィオレーヌ。
私は誰よりも君のことを知っている。だから、愛の証を示した私の手を取ってくれるともちろん信じているよ。
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