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第四章

■五月山修羅は夢を見た

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 □修羅サイド□

 幼子にするように布団に放り込まれ、おやすみのキスをおでこにされると意識がことんと落ちた。


 ――ああ、これは夢だな。


 そう思いながら、バルザクトの膝を枕に彼を下から見上げていた。

『シュラ、どうした?』

 いまよりもずっと柔らかく微笑んだ彼が、読んでいた本から視線を外し、修羅の前髪を指先で書き上げる。

『むかしの、夢を見てた』
『むかしの? 子供の頃か?』

 楽しそうに聞き返す彼に修羅は首を横に振り、寝返りを打ってバルザクトの腹に顔を向けた。

『俺が、まだ従騎士だった頃の、です』
『むかしというほど、むかしではないではないか。だが、まぁ、色々あったものな』

 懐古するような声音に、修羅は彼を見あげる。

『後悔、してますか?』
『私がか? してると、思うか?』

 微笑みが唇に落ちてくる。何度も啄むように口づけられ、たまらずに彼の後頭部に手を掛けて引き寄せ、深く口腔を貪った。




「あの状態で、寝落ち? マジ、ありえねぇ……」

 翌朝すっきりと目が覚めて、がっくりと肩を落とす。

 いい夢を見ていた気がするが、内容はすっかり忘れてしまった。

「せめて唇にしてほしかった……」

 ベッドに起き上がりキスを受けた額を指で触れてから、それを唇に乗せる。

 バルザクトを前にして押し寄せるのは愛情だった。性別など、もうとっくに気にならなくなってしまっていた。ただ、彼が彼であるから愛しいのだ。

 元の世界でも、これほど愛しく思った相手はいない。誰よりも愛しい、抱きしめると震える細い肩なのに、意思の強い目にいつも屈服させられる。

「絶対に生きて、バルザクト様を俺のものに――いや、俺がバルザクト様のものになるのか? そもそも所有云々はおこがましいな、ってことは、バルザクト様の永遠の相棒、とか? こう、同じ立ち位置で、等しくありたいんだよな。……考えても仕方ないか、まずはジェンド団長にクレーム……」

 苦情を申し入れようとして、ジェンドの強さを思い出して身震いする。

「と、ともかく、問題なのは二日目のパレードだから、それまでは、バルザクト様に言われたように、騎士シュベルツに従って訓練しとかないとな」



 バルザクトの居ない三日間の寂しさを振り払うように、気合いを入れてベッドを抜け出した。
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