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《木の神の右腕》
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天界にて。神々はひどく動揺していた。いや、混乱に陥っていたのだ。
「火の神がっ、あの火の神が供物などに取り込まれたんだぞ?」
「恐ろしいっ! 供物の分際で火の神に抗うなんて……」
「それに神候補であったあのモグラは一体何をしているんだ? この問題をどうする、――海の神よ」
神々に視線を向けられた海の神は優雅に肘をついて、上品に微笑んだ。その甘い顔立ちと爽やかさのなかにある大人びた顔立ちは、とある誰かと酷似している。海の神は息を漏らした。
「神々たちよ。私はあの下劣なモグラがどういうわけで供物と一緒に居るのかはわからない。だが、金の加護を受けた人間はモグラのおかげで絶品に育っているのだ」
「それはわかっています。……ですが、海の神よ。それはあなたが食すのですか?」
黒いドレスを着た艶やかな髪を撫でた女性は木の神だ。彼女はグラスに注がれた水を飲み疑念をぶつける。――海の神は一瞥し、顎を引いた。尊大なようでそれが下品に見えないのが海の神の魅力である。
「木の神よ。貴様が食しても良いんだぞ? だが軽んず行動は許さない。神のなかで絶対的な地位は私だ。……それに、金の加護を受けている供物と相性が悪いのは、木の神、――貴様ではないか?」
木の神は唇を結んで海の神をじっと見つめた。その視線は海の神を睨みつけているような視線である。四柱推命の五行によると、木は金とは拮抗する相手だ。海月にもしも力が無かったとしても、食す際になにが起こるかわからない。
沈黙が続き、海の神は勝ち誇ったようにグラスを傾けた。すると一人の少女が前に出て木の神と海の神に跪き、頭を下げた。
「海の神さま。木の神さまは力不足ではありますが、わたくしは影響を受けません。……どうか、木の神イチの右腕のわたくしにこの件を託して頂けませんか?」
恭しいがどこか自意識過剰な態度である可憐な少女に海の神は少々唖然とした。しかし次には相好を崩し柔らかく微笑んでいる。だが木の神は慌てた様子を見せた。
「こら木風。あなたがしゃしゃり出ても追い返されるだけよ。あとは海の神に任せて……」
「嫌です、木の神さまっ! あたしはせっかくの供物を神々の皆さまに捧げたいんです!」
「だからってあなたは――」
「策はあるのか、木風?」
海の神が甘い顔立ちでにっこりと微笑めば、新緑の瞳を大きくさせて薄紅色の頬に染まった。木風は深く頷くと長い黒髪を振り乱させた。
「策はあります。……わたくしが人間界に溶け込んでいるのは、海の神さま方はご存じでしょうか?」
「あぁ、知っている。派手にやらかしているそうだな」
「……海の神よ。この子にはあとで言い聞かせておきますので」
ため息を吐いてグラスを傾けた木の神に、木風は企んだような笑みを見せた。「わたくしには策があります。だから神々の皆さま。……わたくしがまた舞い戻る頃には、供物をここに捧げ、ただのモグラをとっちめて、神など白紙に戻してもらいましょう。――裏切り者に神など務まりません」
そして木風は神々へ深く頭を下げてから人間界へと降り立った。――鮮やかな新緑色の蝶となって。
「さて……と」
海の神が席を立ち上がれば、木の神は「申し訳ないわ、海の神よ。私の隷属がしゃしゃり出てしまって……」頭を下げる木の神に海の神は口端を綻ばせた。
「別に良い。あの木風っていう奴の噂も聞いているからな。……あの海のモグラが苦しむ姿を見られるのが楽しみだ」
「……あなたって人は」
海の神の微笑みは誰かを彷彿とさせるが、ひどく冷酷な笑みであった。
「火の神がっ、あの火の神が供物などに取り込まれたんだぞ?」
「恐ろしいっ! 供物の分際で火の神に抗うなんて……」
「それに神候補であったあのモグラは一体何をしているんだ? この問題をどうする、――海の神よ」
神々に視線を向けられた海の神は優雅に肘をついて、上品に微笑んだ。その甘い顔立ちと爽やかさのなかにある大人びた顔立ちは、とある誰かと酷似している。海の神は息を漏らした。
「神々たちよ。私はあの下劣なモグラがどういうわけで供物と一緒に居るのかはわからない。だが、金の加護を受けた人間はモグラのおかげで絶品に育っているのだ」
「それはわかっています。……ですが、海の神よ。それはあなたが食すのですか?」
黒いドレスを着た艶やかな髪を撫でた女性は木の神だ。彼女はグラスに注がれた水を飲み疑念をぶつける。――海の神は一瞥し、顎を引いた。尊大なようでそれが下品に見えないのが海の神の魅力である。
「木の神よ。貴様が食しても良いんだぞ? だが軽んず行動は許さない。神のなかで絶対的な地位は私だ。……それに、金の加護を受けている供物と相性が悪いのは、木の神、――貴様ではないか?」
木の神は唇を結んで海の神をじっと見つめた。その視線は海の神を睨みつけているような視線である。四柱推命の五行によると、木は金とは拮抗する相手だ。海月にもしも力が無かったとしても、食す際になにが起こるかわからない。
沈黙が続き、海の神は勝ち誇ったようにグラスを傾けた。すると一人の少女が前に出て木の神と海の神に跪き、頭を下げた。
「海の神さま。木の神さまは力不足ではありますが、わたくしは影響を受けません。……どうか、木の神イチの右腕のわたくしにこの件を託して頂けませんか?」
恭しいがどこか自意識過剰な態度である可憐な少女に海の神は少々唖然とした。しかし次には相好を崩し柔らかく微笑んでいる。だが木の神は慌てた様子を見せた。
「こら木風。あなたがしゃしゃり出ても追い返されるだけよ。あとは海の神に任せて……」
「嫌です、木の神さまっ! あたしはせっかくの供物を神々の皆さまに捧げたいんです!」
「だからってあなたは――」
「策はあるのか、木風?」
海の神が甘い顔立ちでにっこりと微笑めば、新緑の瞳を大きくさせて薄紅色の頬に染まった。木風は深く頷くと長い黒髪を振り乱させた。
「策はあります。……わたくしが人間界に溶け込んでいるのは、海の神さま方はご存じでしょうか?」
「あぁ、知っている。派手にやらかしているそうだな」
「……海の神よ。この子にはあとで言い聞かせておきますので」
ため息を吐いてグラスを傾けた木の神に、木風は企んだような笑みを見せた。「わたくしには策があります。だから神々の皆さま。……わたくしがまた舞い戻る頃には、供物をここに捧げ、ただのモグラをとっちめて、神など白紙に戻してもらいましょう。――裏切り者に神など務まりません」
そして木風は神々へ深く頭を下げてから人間界へと降り立った。――鮮やかな新緑色の蝶となって。
「さて……と」
海の神が席を立ち上がれば、木の神は「申し訳ないわ、海の神よ。私の隷属がしゃしゃり出てしまって……」頭を下げる木の神に海の神は口端を綻ばせた。
「別に良い。あの木風っていう奴の噂も聞いているからな。……あの海のモグラが苦しむ姿を見られるのが楽しみだ」
「……あなたって人は」
海の神の微笑みは誰かを彷彿とさせるが、ひどく冷酷な笑みであった。
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