海のモグラ

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
30 / 49

《木の蝶》

しおりを挟む
 火実は神々の存在を教えたというのに、今日もニワトリの姿で海月の手伝いをしていた。今日は出張占いで海月のお供として手伝いに入らされたのだ。
「おい、海月。……俺はいつになったら、本来の姿に戻れる?」
「えー……。いつでしょう? でも火実さんはニワトリの方が可愛いですよ」
 一通りの客を捌いて休憩を取ってから再開し、片づけをしている海月に火実は焦っていた。この姿から解放されたいようだ。
「人間の姿だったら片付けだって手伝えるぞ? 本来の姿になれば、背中に乗せて飛んでやっても良い」
「人間の時の姿はごついおっさんですし、本来の姿は焼けるように熱いじゃないですか。……俺を食べる魂胆が丸見えです」
 さっさと片づけを終えて、商売道具を背負って火実を担いで歩く海月の姿に火実は舌打ちを打つ。そんな火実を尻目に海月は歩いていく。すると火実はこんなことを紡ぎ出したのだ。
「貴様が、いや……海月が俺に食べないように命令をすれば、俺は食べることはない」
「あ、そうなんですか?」
 海月は火実を抱えながら身体を鼻に寄せて息を吸った。鳥というのは餌によって匂いというものが違うらしい。
 今の火実はミミズも与えているがキビやアワも与えているので太陽のような香りがした。筋肉マッチョ姿の親父の匂いを嗅いでいたらただの変態であるが、可愛らしいニワトリの姿であればノープロブレムだ。
 海月は少し考え込む。火実が少し、いやかなり期待している様子であった。――だがしかし。
「また今度にしますね」
 冷静な声で放った発言に火実は両翼をガクンと落としてしまった。少し可哀そうかなと思いつつも本店へと向かった。海月はモグラ以外の話は信用しないでいるのだ。
 本店に向かうと、モグラがふて腐れて机に突っ伏している。どうやら客の足は遠のいてしまったようだ。
「なんだよ~海月と火実かよ~。あぁぁぁーーーー、暇すぎるぅっっっ!!!」
「海月は占いのセンスがあるのに、モグラにはないのだな」
「うっさい、客寄せニワトリ」
「黙れ、無能モグラ」
 バチバチと火花をあげる一人と一匹に海月は慣れたように「喧嘩はやめて占いの支度をしますよ」モグラを働かせようと向かった時であった。
 一匹の蝶が瞬いた。鮮やかで奇麗な黒縁に新緑の蝶だ。優雅に飛来する姿はまるで天からの使いのような存在感があった。
「……蝶?」
 海月はどうして蝶が迷い込んできたのだろうかとふと思った。そしてその蝶になんとなく触れようとした。しかし、――モグラは海月を庇うように羽ばたく蝶の前に立った。そして不敵に笑う。
「おい、今度は木の隷属か? ……どういう用件だ?」
 ニヒルに微笑むモグラに蝶は宙を泳いで、一人の少女に変貌した。
 半袖の緑のタータンチェックにへそ出しの黒のミニスカート。すらりと伸びたむっちりとした脚にニーハイソックスとショートブーツを履きならし、長い黒髪を振り乱させた……ツリ目の少女は勝気な様子であった。
「あたしと勝負して。――そこのニワトリと一緒に供物として捧げてあげるわ、神もどきのモグラさん」
 挑戦状を叩き込む彼女へモグラはそれでも微笑みを絶やさないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

熱い風の果てへ

朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。 カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。 必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。 そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。 まさか―― そのまさかは的中する。 ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。 ※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...