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《来たる歯車と願うこと》
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目覚まし時計の音で目覚めた海月はドアを開け放ちモグラたちに挨拶に行く。
「おはようございます」
「お、おはよ。朝食、もうすぐでできるからな」
モグラはチャイナ服にエプロンを羽織りフライパンでなにやら作っている様子だ。火実は先に食事をしており、キビやアワなどの雑穀やミミズを食している。そこへ羽ばたく蝶が現れ、海月を前に出た。
「ちょっと海月、あたしを元に戻して!」
「あ、楓さんおはようございます。……モグラさーん! 楓さんを人間の姿に戻しても構いませんか?」
「楓は元の姿の方が可愛いからよし」そう言って出来上がった朝食を器に乗せる。今日はミルワームのパンケーキに蜂の子のスパイシー炒めであった。海月は楓を人間の姿に戻してモグラに駆け寄る。
「あ、おいしそうですね。俺、顔洗ってきます」
「洗っておいで~。……ん? 楓、なに青ざめてんの?」
「青ざめるに決まってるでしょ!! 虫料理見させられたらっ!」
人間の姿になった楓は隠れて見ないようにしている。すると顔を洗ってきた海月が何事かを尋ねれば、楓に唐突に「海月って本当は人間じゃないんじゃないの?」などと言ってくるではないか。
海月は不思議に思った。「え、でも虫料理って美味しいですよ? 俺が小さい頃からモグラさんが毎日作ってくれましたし」
「え、毎日食べてんの!?」
「そりゃあもちろん。あ、ミミズの辛みそ炒めもある。モグラさん、食べていいですか?」
「おー、食べていいぞ」
椅子に座りミミズをフォークで食べる海月の手慣れた様に楓はさらに顔を青白くさせた。海月はどうして楓がそこまで恐れているような顔をするのかがわからない。
楓は大きく机を叩いた。
「信じられない! あたしの前で虫を食べるという行為はね、極刑に値するわよ。虫のおかげで花の受粉や環境サイクルが出来上がるの。虫は木の神さまにとって隷属よりも大事な存在なのよ。……それに、人間は普通、牛とか豚とか食べるでしょっ!」
「そんなこと言われたってモグラはミミズとかの昆虫類が主食だし~」
「海月は人間なんだから虫なんか食べないわよ、本来は!」
怒っている様子の楓にモグラはキッチンでパンケーキを作ってから、そこへたっぷりのメープルシロップと生クリームを添えて楓に渡した。
驚いている様子の楓にモグラははにかんだ。
「蝶は花の蜜が主食のようにモグラにもモグラなりに主食がある。……まぁ、確かに海月は人間だから牛や豚や鳥とか食べさせるべきだね。今度作ってみるよ」
「さぁどうぞ?」と爽やかに微笑んでモグラが楓に差し出せば、顔を真っ赤にした彼女はパンケーキを口に運んだ。すると少し驚いたような顔をする。
「おい……しい」
「美味しいでしょ? 調理師免許も持っているからね」
「え。モグラさん、調理師免許なんて持っていたんですか?」
「あれ、海月に言っていなかったっけ? 俺は生きる術に色んな資格を持っているよ」
モグラも席について手を合わせ虫入りパンケーキを食していく。すると今度は火実がパンケーキをよこせと言うではないか。
「火実はニワトリじゃん。ニワトリが人間様のご飯を食べちゃいけないんだよ?」
「だったら俺も娘のようにしろ」
「えー、火実の女体化はちょっと……でも案外いいかも?」
「違うわ、この変態モグラ!」
「うるさい、七面鳥」
そんな痴話喧嘩をしつつもパンケーキをあげるモグラに海月はなんとも言えない喜びを感じる。
モグラが居てくれて本当に良かったなと思う。自分の両親は今どうなっているのかわからない。ただ、自分を見ようとしてくれなかった。――名前さえも名付けてくれなかった。
だが育ててくれたのが恩義ではないのを知っている。両親は海月と違って借金に追われていた。その借金で息子を……自分を売ったのだろう。
そう思うと切ないが仕方がない。そんな両親のもとに産まれてしまい、終いには海の供物として捧げられる運命であった。
自分は死ぬ運命であったのに――この不思議でお茶目でにこやかなモグラが助けてくれた。
「火実~、お前食べすぎだよっ! 俺の分が無くなっちゃうじゃん!」
「うるさいバカモグラ。俺は元来、体力を維持するのに食料が必要なのだ」
「ニワトリのくせして」
「俺は火の神で火の鳥だ!」
ぎゃんぎゃん騒いでいるモグラと火実の様子に海月はふと顔を綻ばせた。こんな楽しい朝は滅多にない。楓も釣られて笑う始末だ。
「ふふっ、火の神さまもおちゃめなのね」
「ですね。……おかしいな」
(こんな毎日が続くのなら、俺は生きていても良いかもしれない……)
パンケーキを口に運んでから二人の喧嘩を止めた海月の顔はとても朗らかであった。
朝食を終えて着替えて占いの本店へと向かう海月たち。海月が火実を運び、商売道具などはモグラや楓が手伝って持ってくれた。
火実がほかほかで温かいのは言うまでもない。三重や甲斐が頬を緩める気持ちがよくわかる。
「おい、海月。……お前、俺に不純なことを抱いたな?」
「え、あったかいのいいな~って思う気持ちは不純ですか?」
「……褒められいるのか馬鹿にされているのか戸惑う反応だな」
息を吐く火実に首を傾げる海月ではあったが……本店に着けばさらに驚いた。
なんと本店の前に人が倒れていたのだから。海月は驚いた。
「こ、これは……救急車を呼ぶべきです、よね?」
「いや、まだ呼ばなくていいよ」
「え、モグラさん……?」
モグラが真剣な眼差しをした。それは火実もそうだ。楓はかなり困惑している様子を見せている。
茶色の髪の男はゆっくりと目を開けた。その姿に海月は目を見張る。――なんとモグラと瓜二つの人間であったのだから。
男はモグラに向けて優雅に笑んだ。「久しぶりだな、下等生物」
モグラが冷や汗を掻いているのがよくわかった。近くにある海が凪を立てる。
「あは。やっぱり兄貴かぁ……。どうしたの急に? 俺なんかの為に会いに来てくれたの?」
「貴様ではない。私はお前ではなく、育った供物を食べに来たのだ」
海月は悲鳴を上げた。そして自分の運命を呪った。
「おはようございます」
「お、おはよ。朝食、もうすぐでできるからな」
モグラはチャイナ服にエプロンを羽織りフライパンでなにやら作っている様子だ。火実は先に食事をしており、キビやアワなどの雑穀やミミズを食している。そこへ羽ばたく蝶が現れ、海月を前に出た。
「ちょっと海月、あたしを元に戻して!」
「あ、楓さんおはようございます。……モグラさーん! 楓さんを人間の姿に戻しても構いませんか?」
「楓は元の姿の方が可愛いからよし」そう言って出来上がった朝食を器に乗せる。今日はミルワームのパンケーキに蜂の子のスパイシー炒めであった。海月は楓を人間の姿に戻してモグラに駆け寄る。
「あ、おいしそうですね。俺、顔洗ってきます」
「洗っておいで~。……ん? 楓、なに青ざめてんの?」
「青ざめるに決まってるでしょ!! 虫料理見させられたらっ!」
人間の姿になった楓は隠れて見ないようにしている。すると顔を洗ってきた海月が何事かを尋ねれば、楓に唐突に「海月って本当は人間じゃないんじゃないの?」などと言ってくるではないか。
海月は不思議に思った。「え、でも虫料理って美味しいですよ? 俺が小さい頃からモグラさんが毎日作ってくれましたし」
「え、毎日食べてんの!?」
「そりゃあもちろん。あ、ミミズの辛みそ炒めもある。モグラさん、食べていいですか?」
「おー、食べていいぞ」
椅子に座りミミズをフォークで食べる海月の手慣れた様に楓はさらに顔を青白くさせた。海月はどうして楓がそこまで恐れているような顔をするのかがわからない。
楓は大きく机を叩いた。
「信じられない! あたしの前で虫を食べるという行為はね、極刑に値するわよ。虫のおかげで花の受粉や環境サイクルが出来上がるの。虫は木の神さまにとって隷属よりも大事な存在なのよ。……それに、人間は普通、牛とか豚とか食べるでしょっ!」
「そんなこと言われたってモグラはミミズとかの昆虫類が主食だし~」
「海月は人間なんだから虫なんか食べないわよ、本来は!」
怒っている様子の楓にモグラはキッチンでパンケーキを作ってから、そこへたっぷりのメープルシロップと生クリームを添えて楓に渡した。
驚いている様子の楓にモグラははにかんだ。
「蝶は花の蜜が主食のようにモグラにもモグラなりに主食がある。……まぁ、確かに海月は人間だから牛や豚や鳥とか食べさせるべきだね。今度作ってみるよ」
「さぁどうぞ?」と爽やかに微笑んでモグラが楓に差し出せば、顔を真っ赤にした彼女はパンケーキを口に運んだ。すると少し驚いたような顔をする。
「おい……しい」
「美味しいでしょ? 調理師免許も持っているからね」
「え。モグラさん、調理師免許なんて持っていたんですか?」
「あれ、海月に言っていなかったっけ? 俺は生きる術に色んな資格を持っているよ」
モグラも席について手を合わせ虫入りパンケーキを食していく。すると今度は火実がパンケーキをよこせと言うではないか。
「火実はニワトリじゃん。ニワトリが人間様のご飯を食べちゃいけないんだよ?」
「だったら俺も娘のようにしろ」
「えー、火実の女体化はちょっと……でも案外いいかも?」
「違うわ、この変態モグラ!」
「うるさい、七面鳥」
そんな痴話喧嘩をしつつもパンケーキをあげるモグラに海月はなんとも言えない喜びを感じる。
モグラが居てくれて本当に良かったなと思う。自分の両親は今どうなっているのかわからない。ただ、自分を見ようとしてくれなかった。――名前さえも名付けてくれなかった。
だが育ててくれたのが恩義ではないのを知っている。両親は海月と違って借金に追われていた。その借金で息子を……自分を売ったのだろう。
そう思うと切ないが仕方がない。そんな両親のもとに産まれてしまい、終いには海の供物として捧げられる運命であった。
自分は死ぬ運命であったのに――この不思議でお茶目でにこやかなモグラが助けてくれた。
「火実~、お前食べすぎだよっ! 俺の分が無くなっちゃうじゃん!」
「うるさいバカモグラ。俺は元来、体力を維持するのに食料が必要なのだ」
「ニワトリのくせして」
「俺は火の神で火の鳥だ!」
ぎゃんぎゃん騒いでいるモグラと火実の様子に海月はふと顔を綻ばせた。こんな楽しい朝は滅多にない。楓も釣られて笑う始末だ。
「ふふっ、火の神さまもおちゃめなのね」
「ですね。……おかしいな」
(こんな毎日が続くのなら、俺は生きていても良いかもしれない……)
パンケーキを口に運んでから二人の喧嘩を止めた海月の顔はとても朗らかであった。
朝食を終えて着替えて占いの本店へと向かう海月たち。海月が火実を運び、商売道具などはモグラや楓が手伝って持ってくれた。
火実がほかほかで温かいのは言うまでもない。三重や甲斐が頬を緩める気持ちがよくわかる。
「おい、海月。……お前、俺に不純なことを抱いたな?」
「え、あったかいのいいな~って思う気持ちは不純ですか?」
「……褒められいるのか馬鹿にされているのか戸惑う反応だな」
息を吐く火実に首を傾げる海月ではあったが……本店に着けばさらに驚いた。
なんと本店の前に人が倒れていたのだから。海月は驚いた。
「こ、これは……救急車を呼ぶべきです、よね?」
「いや、まだ呼ばなくていいよ」
「え、モグラさん……?」
モグラが真剣な眼差しをした。それは火実もそうだ。楓はかなり困惑している様子を見せている。
茶色の髪の男はゆっくりと目を開けた。その姿に海月は目を見張る。――なんとモグラと瓜二つの人間であったのだから。
男はモグラに向けて優雅に笑んだ。「久しぶりだな、下等生物」
モグラが冷や汗を掻いているのがよくわかった。近くにある海が凪を立てる。
「あは。やっぱり兄貴かぁ……。どうしたの急に? 俺なんかの為に会いに来てくれたの?」
「貴様ではない。私はお前ではなく、育った供物を食べに来たのだ」
海月は悲鳴を上げた。そして自分の運命を呪った。
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