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《まだなれない》
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海月と海竜以外が瞳を大きくしてさらに驚いている。だがモグラは何事もないように「参ったなぁ~」などと話すではないか。しかしその茶色の瞳には焦燥感のようなものも浮かべていた。
「やっぱりヒントを与えすぎたね。いやぁ、海月が感情を取り戻せたのは嬉しかったけど、……良かったよ。自分の息子のように育った子が、変な考えを起こさなくて」
「……モグラさん」
「教えようか、俺が汚名を被った理由。それだけはわからないでしょ?」
ねっ? なんて軽やかに話し出そうとするモグラに海月は深く頷いた。それは楓も火実もだ。どうしてモグラが金の神の座を降りて、いや、金の神などさも居なかったかのような佇まいでいたのかを三人は知らない。知る由もない。
モグラは遠い目をしてからふぅと息を吐いた。「俺は絶望したんだ。……人間をね」それから哀しげに話を切り出す。
「月影と出会ったのは本当だよ。でも、月影が自分の子孫を守ってくれと言い残して子孫を守る日々が始まった。ただ、人間たちは相変わらず粗悪で醜悪だった。神々との約束を守らずに自分たちのことでいっぱいで……、俺はそれを見て、心が痛くなったんだ。だから思った。――供物として人間を捧げるというのには反対だったけど、人間の憎しみや苦しみがなくなれば、……それもそれでいいのではないか、……とね」
「エゴでしょ?」そう言うモグラだがその姿は悲哀で、儚げに満ちたモグラの顔に海月は心が痛んだ。これが”心が痛い”んだ、そう痛感したのだ。
「人間も神もエゴだったんだよ」モグラはそう話してからひどく冷めた目で海竜を見つめた。
「俺は一度、天界へ帰って兄貴に告げたんだ。俺はもう月影の子孫以外は興味がない。好きにすればいい。ただ、神の座は降ろさせてもらう……とね」
「ちょっと待て。どうして貴様は金の神の座から降りたんだ? モグラよ、貴様は神の座から降りて一体なにをしていた?」
「火実……。だから言ったじゃないか。月影の子孫を見守っていたって。神の座から降りたのは月影の遺言を守るためだよ。でも、そうだな……。一番は、子孫が海の供物に選ばれた時にフォローをしたかったってことかなぁ」
火実はまだ納得がいっていない様子であった。人間の情にほだされてその約束を守る神の存在など聞いたことがないからだ。
だが、その男の契りというか約束を反故できない真面目なモグラの一面が火実や楓にとっては意外な一面だったのかもしれない。「それにさぁ……」モグラが続けて話を続けた。
「金の神になったら、人間の供物を見届けないといけないでしょ? それもそれでやっぱり苦痛だった。おかしいよね。人間のことを憎んでもいるのに愛している自分が、人間に感情などなければ良いのにと強く願った自分が居るというのに、さ……」
遠い目をしてそれから悔しそうな顔をするモグラに海月は話し掛ける。昔の日を思い起こさせるように。
「モグラさん……、だからあの時。泣いてくれたんですか? 俺が供物に捧げられる前に助けてくれて、それで俺が感情を無くしていたのを悔やんで泣いていたんですか?」
海月の言葉にモグラは苦笑交じりで力なく頷いた。「そう……かもね……」
「お願いします。もう一度、金の神になってください。あなたが、いや、モグラさんが再びなってくれれば、神々は変わるはずです。優しくて強いモグラさんが神になってくれれば、俺は安心してまた占いができます。モグラさんとも、ずっと……」
「駄目だよ。俺は、神の座に付けないよ。……でも、今はね」
「今は……ですか?」
すると海月に微笑んだかと思えばモグラは固定電話に電話を掛けていた。掛けた先を聞こうとした時、モグラが放つ。「もしもーしっ、仁田さん? 今日、遊びに来てもいい?」なんと仁田であった。三人と一匹は首を傾げている。
「うん、うん。そう、まぁちょっとねぇ~、思い出作りというかねぇ~。あ、ご馳走用意してくれるの? うん、うんっ、ありがとうっ! じゃあ、夕方ごろに行くから。――じゃっ!」
軽快な様子で電話を切ったモグラの顔は愉快そうだが、別れを惜しむような、そんな表情を見せていたのだ。
「やっぱりヒントを与えすぎたね。いやぁ、海月が感情を取り戻せたのは嬉しかったけど、……良かったよ。自分の息子のように育った子が、変な考えを起こさなくて」
「……モグラさん」
「教えようか、俺が汚名を被った理由。それだけはわからないでしょ?」
ねっ? なんて軽やかに話し出そうとするモグラに海月は深く頷いた。それは楓も火実もだ。どうしてモグラが金の神の座を降りて、いや、金の神などさも居なかったかのような佇まいでいたのかを三人は知らない。知る由もない。
モグラは遠い目をしてからふぅと息を吐いた。「俺は絶望したんだ。……人間をね」それから哀しげに話を切り出す。
「月影と出会ったのは本当だよ。でも、月影が自分の子孫を守ってくれと言い残して子孫を守る日々が始まった。ただ、人間たちは相変わらず粗悪で醜悪だった。神々との約束を守らずに自分たちのことでいっぱいで……、俺はそれを見て、心が痛くなったんだ。だから思った。――供物として人間を捧げるというのには反対だったけど、人間の憎しみや苦しみがなくなれば、……それもそれでいいのではないか、……とね」
「エゴでしょ?」そう言うモグラだがその姿は悲哀で、儚げに満ちたモグラの顔に海月は心が痛んだ。これが”心が痛い”んだ、そう痛感したのだ。
「人間も神もエゴだったんだよ」モグラはそう話してからひどく冷めた目で海竜を見つめた。
「俺は一度、天界へ帰って兄貴に告げたんだ。俺はもう月影の子孫以外は興味がない。好きにすればいい。ただ、神の座は降ろさせてもらう……とね」
「ちょっと待て。どうして貴様は金の神の座から降りたんだ? モグラよ、貴様は神の座から降りて一体なにをしていた?」
「火実……。だから言ったじゃないか。月影の子孫を見守っていたって。神の座から降りたのは月影の遺言を守るためだよ。でも、そうだな……。一番は、子孫が海の供物に選ばれた時にフォローをしたかったってことかなぁ」
火実はまだ納得がいっていない様子であった。人間の情にほだされてその約束を守る神の存在など聞いたことがないからだ。
だが、その男の契りというか約束を反故できない真面目なモグラの一面が火実や楓にとっては意外な一面だったのかもしれない。「それにさぁ……」モグラが続けて話を続けた。
「金の神になったら、人間の供物を見届けないといけないでしょ? それもそれでやっぱり苦痛だった。おかしいよね。人間のことを憎んでもいるのに愛している自分が、人間に感情などなければ良いのにと強く願った自分が居るというのに、さ……」
遠い目をしてそれから悔しそうな顔をするモグラに海月は話し掛ける。昔の日を思い起こさせるように。
「モグラさん……、だからあの時。泣いてくれたんですか? 俺が供物に捧げられる前に助けてくれて、それで俺が感情を無くしていたのを悔やんで泣いていたんですか?」
海月の言葉にモグラは苦笑交じりで力なく頷いた。「そう……かもね……」
「お願いします。もう一度、金の神になってください。あなたが、いや、モグラさんが再びなってくれれば、神々は変わるはずです。優しくて強いモグラさんが神になってくれれば、俺は安心してまた占いができます。モグラさんとも、ずっと……」
「駄目だよ。俺は、神の座に付けないよ。……でも、今はね」
「今は……ですか?」
すると海月に微笑んだかと思えばモグラは固定電話に電話を掛けていた。掛けた先を聞こうとした時、モグラが放つ。「もしもーしっ、仁田さん? 今日、遊びに来てもいい?」なんと仁田であった。三人と一匹は首を傾げている。
「うん、うん。そう、まぁちょっとねぇ~、思い出作りというかねぇ~。あ、ご馳走用意してくれるの? うん、うんっ、ありがとうっ! じゃあ、夕方ごろに行くから。――じゃっ!」
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