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第1章:東の魔の森編
第32話:聖女の癒し
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「まあまあ。また派手にやったわねえ」
「お、おばあちゃん」
「うむ、すっきりしたわい。さすが俺たちの孫なだけあるな」
『東の魔の森』を『ただの東の森』にしてしまったことにミヤコが気がついた時は、既に全ての魔物という魔物、魔性植物という魔性植物が消え去った後だった。
思いっきり泣いて、思いっきり歌ったミヤコは幾分かすっきりして、木漏れ日の漏れる森の様子をただ呆然と眺めていた。すでに柔らかい新芽が地面を覆って、キラキラと輝いている。
ダンジョンというから、地下に続く入り組んだ迷路みたいなものがあるのかと思えば、魔性植物が歩き回るから迷路のようになってしまうという森自体がダンジョンだったらしい。今この森に残っているのは、魔力のない野生動物と植物だけ。ずいぶん明るい森になった。
「風の赤獅子のハルクルトか。噂は聞いておる。なかなか勤勉な男だぞ。緑の砦に来た時は死にそうだったから、精霊を貸してやったわ」
「じゃあクルトさんに集まっていた精霊はおじいちゃんが?」
「それもあるが精霊は気まぐれだからな、まあ単に奴に懐いたのであろう」
「まあミヤコが懐くくらいですものねえ。良い人なんでしょうねえ」
「……それはそれで気にくわんがな」
「べ、別に懐いたわけじゃ…」
聖女が張った結界はとうとう無くなってしまったが、その周りに植えた植物と精霊が砦周辺を守ってくれていたと後から精霊王が告げた。
それでも、とミヤコは思う。
かなり派手に森が動いてしまって、緑の砦には迷惑をかけたに違いない。
どうか誰も傷ついていませんように。
***
おばあちゃんに精霊王を救って欲しいと言われた時、好奇心に任せて、見るもの触るものを壊し続けて傷つけてきたわたしに何ができるのかと思ったけど、鎮魂歌を歌ったことでお祖父ちゃんを見つけることができて、森を救うことができて本当に良かった。
ボロボロになって、ダンゴムシのように丸まっていた精霊王《おじいちゃん》を見つけた時は、ちょっとショックだった。これがわたしのおじいちゃんか、と。しかも、わたしに嫌われたと思って、20年もウジウジ拗ねていたというから驚きが隠せない。
わたしは記憶をすっぽりなくすほど、自分のことを恐れていたというのに。
思い出した記憶の中には、植物を成長させる歌や回復の歌があって、優しく歌ってあげたらお祖父ちゃんも森も二日くらいで元気を取り戻した。
精霊の愛し子とはわたしのことだった。
ただ、わたし自身に何という力があるわけではなく、精霊の愛し子に集う精霊がその声に込められた思いを形にするのではないだろうかと思う。その精霊を呼ぶ力というのが特別なような気もするが、地球にもそういう人はたくさんいるのだとか。
ただわたしの場合、精霊王の愛し子ということもあって半端じゃない、いわゆる精霊のアイドル的存在なのだそうで。お恥ずかしい限り。
ともかく精霊王《おじいちゃん》は、わたしに会えたことを泣いて喜んで溺愛してくれた。こうなると、わたしがお祖父ちゃん大好きッ子だったのではなくて、お祖父ちゃんが孫大好きッ子だったのではと思う。流石に精霊の王様というだけあって、黙って立っていると威厳があって素晴らしく端正な顔をしていることがわかる。ふさふさと後ろに撫でつけられた緑の髪と薄茶色の瞳が不思議と似合っていて、違和感がない。
その髪で光合成をするのかと聞いたら「俺は植物ではない」といじけてしまった。
すみません。
そしてわたしの両親については、「ミヤコのせいじゃない」と控えめに言われるだけで、長い会話にはならなかった。おじいちゃん達にしてみれば、お父さんは長男。自分の子供が自殺をしたなんて割り切れないよね。やっぱり。
精霊の愛し子の力はどうやら男には継がれないらしく、考えても見たらわたしは家系でもたった一人の女の子だった。
ところでわたし、結構長いことこの精霊のフォームなんですが。
いつになったら帰れるのかしら?
***
「ねえ、わたしがこの精霊のフォームをとってどのくらいたつのかしら。わたしの体大丈夫なの?」
「ああ、そうねえ。忘れてたわ」
ちょっとおばあちゃん!?忘れないでもらいたいんですが。やせ細って体の細部が壊死したり餓死したり、してないわよね?
「淳が来て病院に運んでくれたから大丈夫だと思うけど?」
「……淳兄さんが」
淳との最後のやりとりを思い出し、少し居心地が悪い。
「一度帰った方がいいわよね、やっぱり。そろそろ一週間くらいたつからねえ」
「一週間!?そんなに経った?」
「あら、それとも五日ぐらいだったかな?」
「仕事ほったらかしてきちゃったよ!クルトさんのお店も!」
「ミヤコ、静かに」
精霊王は「しっ」と人指し指を唇に当て静かにそういうと、すっくと立ち上がり森の奥を見据えた。祖母がミヤコの肩に手を回しかばうように立ち上がる。
がさっ、がさっ、と音が響いてこちらに向かってくるのが聞こえた、と思ったところで大きくて真っ白なマロッカが三人の目の前に現れた。マロッカはじっと精霊王の瞳を覗き込んで、次の瞬間には茂みを抜けて隠れてしまった。
「ミヤ!」
そのマロッカの後から風に乗って現れたのはクルトだった。
真っ赤な髪を風に靡かせ大きな新緑の瞳を見開いて、祖母の腕の中にいるミヤコを見つけ一直線に見つめている。ぽかんとした顔は困惑を浮かべていたが、すぐに状況判断をしたらしい。クルトのあとから戦士が二人飛び出してきた。
「ハルクルト隊長!」
「隊長、これは!?」
「ク」
ミヤコが言葉を発するよりも先に、クルトは殺気を迸らせて両手をエックスの形に構え、さっとその腕を振り下ろした。バチッと何かがはじかれる音がして、祖母とミヤの前の結界がクルトの風魔法攻撃を躱したのだとミヤコは気がつく。
精霊王が一歩進み、ミヤコたちの前に立ちふさがる。クルトは悔しそうに唸ると、ギッと精霊王を睨みつける。眼光だけでミヤコなら震え上がって動けなくなってしまいそうだ。
わたしを殺そうとした?
攻撃を仕掛けてきたの?
わたしが愛し子だと気がついたから?
東の魔の森を作ったから?
ミヤコは凍りついた。
「ミヤを離せ!」
「俺を精霊王と知っての狼藉か」
「っ!!たとえ精霊王でも…!」
あまりに突然のことでとっさの判断がつかず、事の成り行きを見守っていたミヤコだったが、過去にも似たようなことがあった記憶が脳裏を掠め、穏やかでない二人の会話に慌てて口を開いた。
「クルトさん!私の祖父母です!」
「……は?」
「……祖父だ」
「祖母です」
祖父母はそれぞれシンプルに自己紹介をした。
討伐隊員が全員クルトたちに追いついたところで、クルトは精霊王と祖母に頭を下げた。
「も、申し訳ない……とんだ誤解を。知らなかったとは言え精霊王に…」
「二人ともふざけてるだけだから大丈夫です、クルトさん」
「ふ、ふざけて…精霊王が…」
「お茶目っスね…」
クルトと率いる討伐隊員は青ざめてあっけにとられていた。そんな討伐隊員たちを見ながら、ミヤコはクルトに向き直ってお辞儀をした。
「クルトさん、食堂のお手伝いすっぽかしてしまってすみませんでした。どうも気がついたら精霊体になっていたみたいで…。いろいろ謝らないといけないことがあるんです」
「精霊体って、何で。ミヤ。君はまさか、」
「死んでないです」
「そ、そうか。よかった」
「それより、東の魔の森なんですが。魔物も魔性植物も駆除しました」
「……駆除って…。あれは、ミヤが…?」
「ええ、その。ちょっと力の入れ具合を間違えたみたいで。お騒がせしてしまって」
隊員たちはこれ以上開かないというほど目を開いて、顎が地面につくほど驚いた。
ミヤコはこの森を作ったのは自分だというべきか、一瞬迷ってしまった。きっと、この森ができてから20年の間に命を落とした人もいるだろう。その責任の重さをクルトに伝えるのが辛いと思ってしまったのだ。
でもわたしは、もう逃げるのはやめた。自分のやったことに責任を取らなければ。
「それと、精霊の愛し子というのはわたしのことで。この森を20年前に作ったのはわたしだったみたいで……もちろん、魔の森を作るつもりは毛頭なかったんですが」
隊員たちが息を飲んだのが耳に入る。ミヤコはぎゅっと目を瞑った。
「クルトさんをはじめとして、皆さんの命を危険にさらしてしまったことを、心からお詫びします。もしも命を落としていまった方がいるとしたら、本当に…ごめんなさい」
「ミヤ、待ってくれ」
クルトは困惑した表情でミヤコを覗き込む。
「20年前にこの森を作ったのが君だったとしても、今この森を正常に戻したのも君だ。謝ることなど何もない」
「クルトさん…」
「ミヤは今の、この森をちゃんと見た?空気が澄んで、野生の動物が戻ってきた。小さな木の芽がもう育ち始めているし、僕は本でしか見たことがなかった薬草も見かけたよ。もともとこの森は薬草の宝庫だったんだろ?」
クルトのその言葉に、隊員たちも戸惑いながらも笑顔で頷いている。
「結界の中に植物を植えたのも愛し子か」
隊員の一人が言った。
「あれのおかげで随分助かった。そうか、愛し子の薬草だったのか」
「昔の傷も治ったしな。愛し子の癒しの力というのは、こういうものなんだな」
「瘴気が体から抜けて、体力も万端っス」
「隊長に限って言えば、技が冴え渡って魔力も激増してたな、そういえば」
「食堂のメニューもすごくうまい」
「愛し子っていうのは聖女だったんですね」
そうだ、そうだと全員が頷き、口々に緑の砦の変化を喜んだ。そんな隊員の様子をぽかんと口を開けて見渡すミヤコを見て、クルトがヘニャリと眉を下げて笑う。
「ほらねミヤ。みんな感謝こそすれ、過去に起こってしまったことに文句をつける奴はここにはいない」
「クルトさん…でもなんか、聖女にされてるんですけど」
「この際だから言わせておけばいい。みんな君の作る食事を楽しみにしてる。こうなったらフルタイムで食堂の賄い人になって欲しいところなんだが」
周りにいた隊員たちはおお~っと腕を振り上げ、「お願いします!」と全員が頭を下げた。ミヤコは真っ赤になって泣きそうになりながらも、受け入れられたことに感謝して「善処します」とだけ伝えた。
==========
討伐隊員は、みんな腹減り小僧ども。
「お、おばあちゃん」
「うむ、すっきりしたわい。さすが俺たちの孫なだけあるな」
『東の魔の森』を『ただの東の森』にしてしまったことにミヤコが気がついた時は、既に全ての魔物という魔物、魔性植物という魔性植物が消え去った後だった。
思いっきり泣いて、思いっきり歌ったミヤコは幾分かすっきりして、木漏れ日の漏れる森の様子をただ呆然と眺めていた。すでに柔らかい新芽が地面を覆って、キラキラと輝いている。
ダンジョンというから、地下に続く入り組んだ迷路みたいなものがあるのかと思えば、魔性植物が歩き回るから迷路のようになってしまうという森自体がダンジョンだったらしい。今この森に残っているのは、魔力のない野生動物と植物だけ。ずいぶん明るい森になった。
「風の赤獅子のハルクルトか。噂は聞いておる。なかなか勤勉な男だぞ。緑の砦に来た時は死にそうだったから、精霊を貸してやったわ」
「じゃあクルトさんに集まっていた精霊はおじいちゃんが?」
「それもあるが精霊は気まぐれだからな、まあ単に奴に懐いたのであろう」
「まあミヤコが懐くくらいですものねえ。良い人なんでしょうねえ」
「……それはそれで気にくわんがな」
「べ、別に懐いたわけじゃ…」
聖女が張った結界はとうとう無くなってしまったが、その周りに植えた植物と精霊が砦周辺を守ってくれていたと後から精霊王が告げた。
それでも、とミヤコは思う。
かなり派手に森が動いてしまって、緑の砦には迷惑をかけたに違いない。
どうか誰も傷ついていませんように。
***
おばあちゃんに精霊王を救って欲しいと言われた時、好奇心に任せて、見るもの触るものを壊し続けて傷つけてきたわたしに何ができるのかと思ったけど、鎮魂歌を歌ったことでお祖父ちゃんを見つけることができて、森を救うことができて本当に良かった。
ボロボロになって、ダンゴムシのように丸まっていた精霊王《おじいちゃん》を見つけた時は、ちょっとショックだった。これがわたしのおじいちゃんか、と。しかも、わたしに嫌われたと思って、20年もウジウジ拗ねていたというから驚きが隠せない。
わたしは記憶をすっぽりなくすほど、自分のことを恐れていたというのに。
思い出した記憶の中には、植物を成長させる歌や回復の歌があって、優しく歌ってあげたらお祖父ちゃんも森も二日くらいで元気を取り戻した。
精霊の愛し子とはわたしのことだった。
ただ、わたし自身に何という力があるわけではなく、精霊の愛し子に集う精霊がその声に込められた思いを形にするのではないだろうかと思う。その精霊を呼ぶ力というのが特別なような気もするが、地球にもそういう人はたくさんいるのだとか。
ただわたしの場合、精霊王の愛し子ということもあって半端じゃない、いわゆる精霊のアイドル的存在なのだそうで。お恥ずかしい限り。
ともかく精霊王《おじいちゃん》は、わたしに会えたことを泣いて喜んで溺愛してくれた。こうなると、わたしがお祖父ちゃん大好きッ子だったのではなくて、お祖父ちゃんが孫大好きッ子だったのではと思う。流石に精霊の王様というだけあって、黙って立っていると威厳があって素晴らしく端正な顔をしていることがわかる。ふさふさと後ろに撫でつけられた緑の髪と薄茶色の瞳が不思議と似合っていて、違和感がない。
その髪で光合成をするのかと聞いたら「俺は植物ではない」といじけてしまった。
すみません。
そしてわたしの両親については、「ミヤコのせいじゃない」と控えめに言われるだけで、長い会話にはならなかった。おじいちゃん達にしてみれば、お父さんは長男。自分の子供が自殺をしたなんて割り切れないよね。やっぱり。
精霊の愛し子の力はどうやら男には継がれないらしく、考えても見たらわたしは家系でもたった一人の女の子だった。
ところでわたし、結構長いことこの精霊のフォームなんですが。
いつになったら帰れるのかしら?
***
「ねえ、わたしがこの精霊のフォームをとってどのくらいたつのかしら。わたしの体大丈夫なの?」
「ああ、そうねえ。忘れてたわ」
ちょっとおばあちゃん!?忘れないでもらいたいんですが。やせ細って体の細部が壊死したり餓死したり、してないわよね?
「淳が来て病院に運んでくれたから大丈夫だと思うけど?」
「……淳兄さんが」
淳との最後のやりとりを思い出し、少し居心地が悪い。
「一度帰った方がいいわよね、やっぱり。そろそろ一週間くらいたつからねえ」
「一週間!?そんなに経った?」
「あら、それとも五日ぐらいだったかな?」
「仕事ほったらかしてきちゃったよ!クルトさんのお店も!」
「ミヤコ、静かに」
精霊王は「しっ」と人指し指を唇に当て静かにそういうと、すっくと立ち上がり森の奥を見据えた。祖母がミヤコの肩に手を回しかばうように立ち上がる。
がさっ、がさっ、と音が響いてこちらに向かってくるのが聞こえた、と思ったところで大きくて真っ白なマロッカが三人の目の前に現れた。マロッカはじっと精霊王の瞳を覗き込んで、次の瞬間には茂みを抜けて隠れてしまった。
「ミヤ!」
そのマロッカの後から風に乗って現れたのはクルトだった。
真っ赤な髪を風に靡かせ大きな新緑の瞳を見開いて、祖母の腕の中にいるミヤコを見つけ一直線に見つめている。ぽかんとした顔は困惑を浮かべていたが、すぐに状況判断をしたらしい。クルトのあとから戦士が二人飛び出してきた。
「ハルクルト隊長!」
「隊長、これは!?」
「ク」
ミヤコが言葉を発するよりも先に、クルトは殺気を迸らせて両手をエックスの形に構え、さっとその腕を振り下ろした。バチッと何かがはじかれる音がして、祖母とミヤの前の結界がクルトの風魔法攻撃を躱したのだとミヤコは気がつく。
精霊王が一歩進み、ミヤコたちの前に立ちふさがる。クルトは悔しそうに唸ると、ギッと精霊王を睨みつける。眼光だけでミヤコなら震え上がって動けなくなってしまいそうだ。
わたしを殺そうとした?
攻撃を仕掛けてきたの?
わたしが愛し子だと気がついたから?
東の魔の森を作ったから?
ミヤコは凍りついた。
「ミヤを離せ!」
「俺を精霊王と知っての狼藉か」
「っ!!たとえ精霊王でも…!」
あまりに突然のことでとっさの判断がつかず、事の成り行きを見守っていたミヤコだったが、過去にも似たようなことがあった記憶が脳裏を掠め、穏やかでない二人の会話に慌てて口を開いた。
「クルトさん!私の祖父母です!」
「……は?」
「……祖父だ」
「祖母です」
祖父母はそれぞれシンプルに自己紹介をした。
討伐隊員が全員クルトたちに追いついたところで、クルトは精霊王と祖母に頭を下げた。
「も、申し訳ない……とんだ誤解を。知らなかったとは言え精霊王に…」
「二人ともふざけてるだけだから大丈夫です、クルトさん」
「ふ、ふざけて…精霊王が…」
「お茶目っスね…」
クルトと率いる討伐隊員は青ざめてあっけにとられていた。そんな討伐隊員たちを見ながら、ミヤコはクルトに向き直ってお辞儀をした。
「クルトさん、食堂のお手伝いすっぽかしてしまってすみませんでした。どうも気がついたら精霊体になっていたみたいで…。いろいろ謝らないといけないことがあるんです」
「精霊体って、何で。ミヤ。君はまさか、」
「死んでないです」
「そ、そうか。よかった」
「それより、東の魔の森なんですが。魔物も魔性植物も駆除しました」
「……駆除って…。あれは、ミヤが…?」
「ええ、その。ちょっと力の入れ具合を間違えたみたいで。お騒がせしてしまって」
隊員たちはこれ以上開かないというほど目を開いて、顎が地面につくほど驚いた。
ミヤコはこの森を作ったのは自分だというべきか、一瞬迷ってしまった。きっと、この森ができてから20年の間に命を落とした人もいるだろう。その責任の重さをクルトに伝えるのが辛いと思ってしまったのだ。
でもわたしは、もう逃げるのはやめた。自分のやったことに責任を取らなければ。
「それと、精霊の愛し子というのはわたしのことで。この森を20年前に作ったのはわたしだったみたいで……もちろん、魔の森を作るつもりは毛頭なかったんですが」
隊員たちが息を飲んだのが耳に入る。ミヤコはぎゅっと目を瞑った。
「クルトさんをはじめとして、皆さんの命を危険にさらしてしまったことを、心からお詫びします。もしも命を落としていまった方がいるとしたら、本当に…ごめんなさい」
「ミヤ、待ってくれ」
クルトは困惑した表情でミヤコを覗き込む。
「20年前にこの森を作ったのが君だったとしても、今この森を正常に戻したのも君だ。謝ることなど何もない」
「クルトさん…」
「ミヤは今の、この森をちゃんと見た?空気が澄んで、野生の動物が戻ってきた。小さな木の芽がもう育ち始めているし、僕は本でしか見たことがなかった薬草も見かけたよ。もともとこの森は薬草の宝庫だったんだろ?」
クルトのその言葉に、隊員たちも戸惑いながらも笑顔で頷いている。
「結界の中に植物を植えたのも愛し子か」
隊員の一人が言った。
「あれのおかげで随分助かった。そうか、愛し子の薬草だったのか」
「昔の傷も治ったしな。愛し子の癒しの力というのは、こういうものなんだな」
「瘴気が体から抜けて、体力も万端っス」
「隊長に限って言えば、技が冴え渡って魔力も激増してたな、そういえば」
「食堂のメニューもすごくうまい」
「愛し子っていうのは聖女だったんですね」
そうだ、そうだと全員が頷き、口々に緑の砦の変化を喜んだ。そんな隊員の様子をぽかんと口を開けて見渡すミヤコを見て、クルトがヘニャリと眉を下げて笑う。
「ほらねミヤ。みんな感謝こそすれ、過去に起こってしまったことに文句をつける奴はここにはいない」
「クルトさん…でもなんか、聖女にされてるんですけど」
「この際だから言わせておけばいい。みんな君の作る食事を楽しみにしてる。こうなったらフルタイムで食堂の賄い人になって欲しいところなんだが」
周りにいた隊員たちはおお~っと腕を振り上げ、「お願いします!」と全員が頭を下げた。ミヤコは真っ赤になって泣きそうになりながらも、受け入れられたことに感謝して「善処します」とだけ伝えた。
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討伐隊員は、みんな腹減り小僧ども。
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