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第3章:聖地ウスクヴェサール編
第67話:影の家族
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「ママ」
子供の姿のミヤコが心細げに母を呼んだ。
「ママ?どこ?」
「ミヤコ?こっちよ。早くいらっしゃい」
ミヤコは母の声を頼りに走り出す。
「ママ?」
ふと見上げると、ぼんやり母の姿が目に入った。ホッとして近づこうとした時、母の隣にいる人が目に入り足を止めた。
「パパ」
心配そうに母に寄り添い、二人でボソボソと何か話をしている。
「敦子、君のせいじゃないんだ」
「雅也さん、私…」
「全ての元凶は僕の家系にある」
「どういうこと?」
「すまない。敦子、僕の父は…この世界の人間じゃないんだ」
ミヤコの父親の雅也が、辛そうな顔で懺悔をするように語り始めた。精霊の父と巫女の母の間に生まれた雅也と哲也。二人とも精霊の住む世界への適応能力はなく、こちら側の世界に落ち着いた。精霊は自分たちとは暮らすことができず、自分はそんな精霊を受け入れることができなかった。
「ミヤコにあんなおかしな力が付いているのは、おそらく僕の血筋のせいだ」
「それは…おかしな話ね」
「信じられないかもしれないが…」
「そうじゃないわ…」
ミヤコの目の前で、母の姿がその形を変える。モデルのように美しかった母の顔は、今や青ざめて氷のような視線を雅也へ投げかけた。
「あなたがあの精霊王の息子だってことは知ってて近づいたのよ。あなたに何の力もないんだって気がついてがっかりしたわ」
「敦子?」
「あなたが精霊王と同じような力を持っていれば、すべて私の思い通りになったのに。全くの計算外だったわ。それなのに、子供へそのまま引き継がれるなんて」
「敦子?何の話を…?」
「そうね。あなたは何も知らないのよね。私はねぇ、あなたの父である精霊王と同じ世界から来たの。因縁を追って転生したこの女の体を借りて生まれ変わったのよ」
ミヤコは凍りついたようにその場から動けなくなっていた。一体何の話をしているのだ。精霊王からもキミヨからも聞いたことがない、両親の過去。
「私の本当の名前はね、ルビラ。ルビラ・ネリアというの。本当なら一国の王女なの」
ルビラ。
ミラートの娘であり、ルブラート教の聖女。
ミラート神国の元凶が、母である敦子。
「こちらの世界は不便よね。精霊もいなければ魔法もないんだもの。転生してみてがっかりだったわ。でも私には魅了の力が残っていたし、生活自体は悪くなかったわよ、あの子が生まれるまではね。この女は娘が可愛くて、庇っていたみたいだけど?全くもって役に立たないんだもの。私が追い出してやったわ」
「な、にを。お前は、誰だ?敦子をどうした?」
「やあね。ここにいるじゃない、雅也さん」
「違う!お前は、僕の知ってる敦子じゃない!彼女をどうした!敦子を」
「ああ、もう、うるさい。死んで」
ガシュッと肉が切れる音がして、血しぶきが上がった。
それが、雅也の喉元から溢れ出しゴボゴボと泡立った。声にならない音とともに、雅也の唇がわずかに動いた。
『ミ・ヤ・コ』
雅也の体が崩れ落ち、その姿は水となり無に帰した。目を大きく開き、叫びたい気持ちを抑えるかのように両手で口を塞ぎその場に固まったミヤコに敦子は振り返る。
「ミヤコ。ママはこっちよ。早くいらっしゃい」
母の姿が歪み、それはルビラであった姿を象った。
凍りつくような闇色をした瞳に、弧を描く赤い唇は感情を含まない。
母の自慢だったふんわりとカールした赤っぽい黒髪は、紫を含む青に変わりまっすぐ床まで届いていた。
「さあ、早く。孤独は寂しいわ。私と共にいれば欲しいものは全て手に入るわ。お金も、愛も、地位も、世界すらも」
「ルビラ…」
ミヤコの目の前が怒りで真っ赤に染まった。
母ではない、母を乗っ取った悪霊。父の喉を掻き切った女。
これが真実だったのか。この女が、母と父を殺した。
「パパとママを殺したのは、あなた、だったの」
「あーら。雅也が敦子を殺したのが先だったと思うけど?この女が弱っているのに、てんで頼りにならなかったんだもの。壊れて自害する前に私がこの女を助けたのよ」
「助けた?取り付いて殺したんでしょう、悪霊」
「違うわよ。生まれ変わったのは確かだもの。一つの体に二つの魂が入っていたのは予定外だったけどね」
ミヤコは震える息を大きく吸った。泣いちゃいけない。これは、水魔が見せる人間の弱い部分だ。屈したら負ける。
(クルトさん)
ミヤコは自分が羽織っているショールをぎゅっと握りしめた。
クルトが自ら織り上げてくれた彼の色のショール。
自分を好きだと言ってくれた、優しい瞳を思い出す。
「一人じゃないわ……私には信頼できる人たちがいる」
「ふふ。強がらなくてもいいのよ。愛してるなんて全部、嘘。愛されるわけないじゃない。みんなあなたを恐れてるのよ。わかるでしょ。違いすぎる力は恐れられて、嫌厭される。悪魔の森を作ったのもあなた。聖域を穢したのもあなた。誰もがあなたを恐れ、利用しているだけ。そんなものに縋るから、結局は身を滅ぼすのよ。でも私にはわかってる。あなたをちゃんと導いてあげるわ。それができるのは私しかいないのよ。ついていらっしゃい」
「行くわけ、ないでしょう」
「……もう。あまり無理強いはしたくなかったんだけど。痛い目に合わないとわからないのかしら?バカな娘を持つと苦労するわね」
「……」
怒りで胃がキリキリ痛むのを感じながらも、深呼吸をする。
パパ。
ママ。
今まで信じられなくて、ごめんなさい。
本当は、愛してくれていたこと、気づけなくてごめんなさい。
後悔して、後悔して、自分の力が恐ろしくて、何も見えなくなっていたあの頃。
もう、迷いはない。
「あなたの好きには、させない」
ルビラが訝しむように眉を上げた。
息吹の歌。
ミヤコが静かに歌いだすと、陽だまりの香りが匂い立ち、光の輪が足元から浮かび上がった。
「バカな……っ」
シャランと音が鳴り、光を含んだ水が急激に上昇し水蒸気へと変わり、あたりに清々しい空気が立ち込めた。
「ぎゃっ、ぎゃあっ、ぎゃああああっーーーー……!」
その瞬間、蒸発するようにルビラの姿は乱暴にかき消された。水魔の作り出した幻影は光に飲まれて跡形もなく消え失せ、光を纏ったミヤコを見て驚愕の表情を貼り付けた水魔が現れた。
「な、まさか!そんなはずは…ルビラ!話が違う…!!言霊も、歌も通じないと言ったじゃないかっ、こんな、」
水魔がシュウシュウと音を立てながら溶けていく。
「あ、あああ…からだ、が、」
ワナワナと震える水魔の顔から肉がずるりと爛れ落ちる。指が溶け落ち、よろよろと崩れ落ちながら、恐怖の表情でミヤコを見つめた。眼球が流れ落ち、形良くスラリとした鼻も溶け落ちた。美しかった身体はもはやその原型を留めてはいない。蒸発していく身体を必死の形相でにかき集めようとする水魔をミヤコはしっかりと見据えた。
「光が影を作ることはあっても、影が光を作ることはありえない」
「ぐああ…っ!違う!こんな、はず、では…!」
大きく息を吸い込み、ミヤコは片膝をつき、水面に掌を当てる。精霊王が泉の精霊の領域にした様を思い出しながら、触れた手に集中する。
「浄化」
水魔も子供の姿をして縮こまっていた水の大精霊も目を見開いてミヤコを見る。
「それは……!」
次の瞬間、キュンっという爆音とも言えないほどの音と共に周囲は白く染まり、光の雫となって静まり返った。
精霊王の真似をしてみたはいいが、力加減がわからず言霊のパワーが全開だったかもしれない。おっかなびっくり目を開けてみると、藍色の長い髪が目に入った。顔を上げてみると、そこには苦い顔をしてミヤコを見下ろす男性の姿があった。
「なんとも…凶悪なまでの威力だな。愛し子よ」
「……水の大精霊?」
藍色の長い髪は波打つ海のように流れ、真珠のような光り輝く肌にエメラルドの瞳を縁取る長い睫毛はその白い頬に影を作るほどだ。眉はきりりとその妖艶な顔を引き締め、精悍さを醸し出すものの、珊瑚色の唇がなまめかしく、大精霊と呼ぶにふさわしい風貌だった。
「いかにも。……見苦しいところを見せてしまったが。先程、そなたは妖精王は無事だと言ったが。まことか?」
「は、はい。おじいちゃん、いえ、あの、精霊王が今お説教をしに行ってますが」
「説教?」
「えと。はい。水の大精霊の邪魔をしたとか」
「……そうか。ふふ。あの方もとうとう動いたか」
大精霊は少しだけ楽しそうに含み笑いをすると、まっすぐミヤコに向き直った。直視できない美しさにミヤコの心臓は跳ね上がり、思わずうつむいたのだが、大精霊は気にする風でもなくミヤコを抱きしめた。冷んやりとした細い腕からは想像もできないほど力強く、それでいて暖かい体温にミヤコは硬直した。
「ひっ?」
「もうダメかと思った。……そなたの力は心地良い。春の陽だまりのようだ」
「い、いえ…」
「出来る事ならずっとこうして抱きしめていたいが…そなたは、狭間に長くいるべきではないな。聖地へ戻ろう」
そう大精霊が口にすると、ミヤコは浮遊感に囚われた。
「うわわ!」
無重力からいきなり消し飛んだ周囲が、パッとした明るい日差しと共に戻ってきた。と思ったら、ぐっと身体にかかる重力に思わずウッとなるミヤコ。
目を開くと、ミヤコと大精霊は泉の真ん中に立ち、泉の精霊たちが歓喜の声をあげた。
子供の姿のミヤコが心細げに母を呼んだ。
「ママ?どこ?」
「ミヤコ?こっちよ。早くいらっしゃい」
ミヤコは母の声を頼りに走り出す。
「ママ?」
ふと見上げると、ぼんやり母の姿が目に入った。ホッとして近づこうとした時、母の隣にいる人が目に入り足を止めた。
「パパ」
心配そうに母に寄り添い、二人でボソボソと何か話をしている。
「敦子、君のせいじゃないんだ」
「雅也さん、私…」
「全ての元凶は僕の家系にある」
「どういうこと?」
「すまない。敦子、僕の父は…この世界の人間じゃないんだ」
ミヤコの父親の雅也が、辛そうな顔で懺悔をするように語り始めた。精霊の父と巫女の母の間に生まれた雅也と哲也。二人とも精霊の住む世界への適応能力はなく、こちら側の世界に落ち着いた。精霊は自分たちとは暮らすことができず、自分はそんな精霊を受け入れることができなかった。
「ミヤコにあんなおかしな力が付いているのは、おそらく僕の血筋のせいだ」
「それは…おかしな話ね」
「信じられないかもしれないが…」
「そうじゃないわ…」
ミヤコの目の前で、母の姿がその形を変える。モデルのように美しかった母の顔は、今や青ざめて氷のような視線を雅也へ投げかけた。
「あなたがあの精霊王の息子だってことは知ってて近づいたのよ。あなたに何の力もないんだって気がついてがっかりしたわ」
「敦子?」
「あなたが精霊王と同じような力を持っていれば、すべて私の思い通りになったのに。全くの計算外だったわ。それなのに、子供へそのまま引き継がれるなんて」
「敦子?何の話を…?」
「そうね。あなたは何も知らないのよね。私はねぇ、あなたの父である精霊王と同じ世界から来たの。因縁を追って転生したこの女の体を借りて生まれ変わったのよ」
ミヤコは凍りついたようにその場から動けなくなっていた。一体何の話をしているのだ。精霊王からもキミヨからも聞いたことがない、両親の過去。
「私の本当の名前はね、ルビラ。ルビラ・ネリアというの。本当なら一国の王女なの」
ルビラ。
ミラートの娘であり、ルブラート教の聖女。
ミラート神国の元凶が、母である敦子。
「こちらの世界は不便よね。精霊もいなければ魔法もないんだもの。転生してみてがっかりだったわ。でも私には魅了の力が残っていたし、生活自体は悪くなかったわよ、あの子が生まれるまではね。この女は娘が可愛くて、庇っていたみたいだけど?全くもって役に立たないんだもの。私が追い出してやったわ」
「な、にを。お前は、誰だ?敦子をどうした?」
「やあね。ここにいるじゃない、雅也さん」
「違う!お前は、僕の知ってる敦子じゃない!彼女をどうした!敦子を」
「ああ、もう、うるさい。死んで」
ガシュッと肉が切れる音がして、血しぶきが上がった。
それが、雅也の喉元から溢れ出しゴボゴボと泡立った。声にならない音とともに、雅也の唇がわずかに動いた。
『ミ・ヤ・コ』
雅也の体が崩れ落ち、その姿は水となり無に帰した。目を大きく開き、叫びたい気持ちを抑えるかのように両手で口を塞ぎその場に固まったミヤコに敦子は振り返る。
「ミヤコ。ママはこっちよ。早くいらっしゃい」
母の姿が歪み、それはルビラであった姿を象った。
凍りつくような闇色をした瞳に、弧を描く赤い唇は感情を含まない。
母の自慢だったふんわりとカールした赤っぽい黒髪は、紫を含む青に変わりまっすぐ床まで届いていた。
「さあ、早く。孤独は寂しいわ。私と共にいれば欲しいものは全て手に入るわ。お金も、愛も、地位も、世界すらも」
「ルビラ…」
ミヤコの目の前が怒りで真っ赤に染まった。
母ではない、母を乗っ取った悪霊。父の喉を掻き切った女。
これが真実だったのか。この女が、母と父を殺した。
「パパとママを殺したのは、あなた、だったの」
「あーら。雅也が敦子を殺したのが先だったと思うけど?この女が弱っているのに、てんで頼りにならなかったんだもの。壊れて自害する前に私がこの女を助けたのよ」
「助けた?取り付いて殺したんでしょう、悪霊」
「違うわよ。生まれ変わったのは確かだもの。一つの体に二つの魂が入っていたのは予定外だったけどね」
ミヤコは震える息を大きく吸った。泣いちゃいけない。これは、水魔が見せる人間の弱い部分だ。屈したら負ける。
(クルトさん)
ミヤコは自分が羽織っているショールをぎゅっと握りしめた。
クルトが自ら織り上げてくれた彼の色のショール。
自分を好きだと言ってくれた、優しい瞳を思い出す。
「一人じゃないわ……私には信頼できる人たちがいる」
「ふふ。強がらなくてもいいのよ。愛してるなんて全部、嘘。愛されるわけないじゃない。みんなあなたを恐れてるのよ。わかるでしょ。違いすぎる力は恐れられて、嫌厭される。悪魔の森を作ったのもあなた。聖域を穢したのもあなた。誰もがあなたを恐れ、利用しているだけ。そんなものに縋るから、結局は身を滅ぼすのよ。でも私にはわかってる。あなたをちゃんと導いてあげるわ。それができるのは私しかいないのよ。ついていらっしゃい」
「行くわけ、ないでしょう」
「……もう。あまり無理強いはしたくなかったんだけど。痛い目に合わないとわからないのかしら?バカな娘を持つと苦労するわね」
「……」
怒りで胃がキリキリ痛むのを感じながらも、深呼吸をする。
パパ。
ママ。
今まで信じられなくて、ごめんなさい。
本当は、愛してくれていたこと、気づけなくてごめんなさい。
後悔して、後悔して、自分の力が恐ろしくて、何も見えなくなっていたあの頃。
もう、迷いはない。
「あなたの好きには、させない」
ルビラが訝しむように眉を上げた。
息吹の歌。
ミヤコが静かに歌いだすと、陽だまりの香りが匂い立ち、光の輪が足元から浮かび上がった。
「バカな……っ」
シャランと音が鳴り、光を含んだ水が急激に上昇し水蒸気へと変わり、あたりに清々しい空気が立ち込めた。
「ぎゃっ、ぎゃあっ、ぎゃああああっーーーー……!」
その瞬間、蒸発するようにルビラの姿は乱暴にかき消された。水魔の作り出した幻影は光に飲まれて跡形もなく消え失せ、光を纏ったミヤコを見て驚愕の表情を貼り付けた水魔が現れた。
「な、まさか!そんなはずは…ルビラ!話が違う…!!言霊も、歌も通じないと言ったじゃないかっ、こんな、」
水魔がシュウシュウと音を立てながら溶けていく。
「あ、あああ…からだ、が、」
ワナワナと震える水魔の顔から肉がずるりと爛れ落ちる。指が溶け落ち、よろよろと崩れ落ちながら、恐怖の表情でミヤコを見つめた。眼球が流れ落ち、形良くスラリとした鼻も溶け落ちた。美しかった身体はもはやその原型を留めてはいない。蒸発していく身体を必死の形相でにかき集めようとする水魔をミヤコはしっかりと見据えた。
「光が影を作ることはあっても、影が光を作ることはありえない」
「ぐああ…っ!違う!こんな、はず、では…!」
大きく息を吸い込み、ミヤコは片膝をつき、水面に掌を当てる。精霊王が泉の精霊の領域にした様を思い出しながら、触れた手に集中する。
「浄化」
水魔も子供の姿をして縮こまっていた水の大精霊も目を見開いてミヤコを見る。
「それは……!」
次の瞬間、キュンっという爆音とも言えないほどの音と共に周囲は白く染まり、光の雫となって静まり返った。
精霊王の真似をしてみたはいいが、力加減がわからず言霊のパワーが全開だったかもしれない。おっかなびっくり目を開けてみると、藍色の長い髪が目に入った。顔を上げてみると、そこには苦い顔をしてミヤコを見下ろす男性の姿があった。
「なんとも…凶悪なまでの威力だな。愛し子よ」
「……水の大精霊?」
藍色の長い髪は波打つ海のように流れ、真珠のような光り輝く肌にエメラルドの瞳を縁取る長い睫毛はその白い頬に影を作るほどだ。眉はきりりとその妖艶な顔を引き締め、精悍さを醸し出すものの、珊瑚色の唇がなまめかしく、大精霊と呼ぶにふさわしい風貌だった。
「いかにも。……見苦しいところを見せてしまったが。先程、そなたは妖精王は無事だと言ったが。まことか?」
「は、はい。おじいちゃん、いえ、あの、精霊王が今お説教をしに行ってますが」
「説教?」
「えと。はい。水の大精霊の邪魔をしたとか」
「……そうか。ふふ。あの方もとうとう動いたか」
大精霊は少しだけ楽しそうに含み笑いをすると、まっすぐミヤコに向き直った。直視できない美しさにミヤコの心臓は跳ね上がり、思わずうつむいたのだが、大精霊は気にする風でもなくミヤコを抱きしめた。冷んやりとした細い腕からは想像もできないほど力強く、それでいて暖かい体温にミヤコは硬直した。
「ひっ?」
「もうダメかと思った。……そなたの力は心地良い。春の陽だまりのようだ」
「い、いえ…」
「出来る事ならずっとこうして抱きしめていたいが…そなたは、狭間に長くいるべきではないな。聖地へ戻ろう」
そう大精霊が口にすると、ミヤコは浮遊感に囚われた。
「うわわ!」
無重力からいきなり消し飛んだ周囲が、パッとした明るい日差しと共に戻ってきた。と思ったら、ぐっと身体にかかる重力に思わずウッとなるミヤコ。
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