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ひび割れた魔道具を床に叩きつけ、フランシス第三王子はズカズカとホールへと歩み出た。どうなってるいるのだ、と聞きたいのは王子の頭の方だと皆が思うが言葉には出さない。
「私の愛するアマディリアを階段から突き落としただろう!裏は取れてるんだぞ!」
アマディリアとはシェイン伯爵令嬢のことだ。
ここ1年ほど、学園で第三王子と密着していて、その態度はとてもじゃないがまともな教育を受けているとは言い難く、破廉恥で男と見れば粉をかける令嬢だと皆が避けて通っている。最近まで留学をしていたというから、さぞや教養の高い令嬢なのかと思いきや、どうやら贅沢を覚え、男を侍らせる術だけを学んで帰ってきたようだ。そんな女に、歌姫という婚約者がいるにも関わらずまんまと絡め取られてしまった第三王子は、我が王国の汚点だと白い目を向けられていることに本人は気づいていない。
学業は平均点をクリアしているものの、外国語の一つも真面に話せず政治に疎く、これといって秀でるものがない。普通の貴族の三男ならばそれでもよかったかもしれないが、彼は王族だ。態度は立派だがプライドばかりが高く、頭脳や容姿に秀でているわけでもなくなんの業績もあげていない王子では、諸外国に婿に出すことも恥ずかしい。せめてカナリア姫と婚姻をしていれば、侯爵家の後ろ盾を持てるはずだったのに、たった今、自らそれすら投げ捨てた。いくらシェイン伯が商売で繁盛しているとはいえ、国際的に有名で名門の侯爵家とでは比べ物にもならない。
「……ああ。あれでございますか。あれは事故でございましょう。わたくしはアマディリア嬢が階段にいらしたことも存じませんでしたし?」
そういえば、とレニーも先日のことを思い出していた。放課後の音楽室でいつもの様に発声練習をし、今度の国際歌劇音楽祭で披露するオペラ曲を歌っていた時のことだった。歌を聴きに集まっていた生徒達が外が騒がしいと確認にいき、誰かが階段から落ちた様だと聞いたのだ。それがアマディリア嬢だったのだろう。
「お前の罵声に驚いて飛び上がった拍子に階段から落ちたのだぞ!貴様のせいでなくて誰のせいだというんだ!」
「あら、まあ。わたくしのせいでございますか」
歌姫に向かって罵声とは。今皆の耳に入っている声こそ罵声であり、カナリア姫の声は天使の歌声だというのに。その場にいた者は皆眉を顰め、ある者は頭を左右に振り、ある者はヒソヒソと扇子で口元を隠して噂をする。しかも歌を聴いて階段から転げたのを歌姫のせいにするとは、難癖もいいところである。
アマディリア嬢が階段から落ちたのは紛れもない事実らしい。全治3ヶ月の骨折で、今日もパーティには出てきていないという。学園の音楽室は防音措置をされているのだが、その日は朗らかな昼下がりで、少し汗ばむ様な暑さでもあった。レニーの歌声を聴くために数十人の生徒が音楽室に押し寄せていたためか、誰かが窓を開け空気を入れ替えたのだろう。
そして、レニーが麗しのソプラノボイスを披露した。
美しい歌声には鳥も鳴き止み聴き惚れるくらいというから、アマディリアがすぐ近くの階段を降りる際に聞こえてきた歌声に思わずうっとりと足を止めてしまったとしても、それはレニーのせいではないはずだ。だが、それに対してアマディリアはフランシスに訴えた。
「レニー様の歌声には魔力があり、悪意ある音波によって背中を押されたのでございます」と。
「私の愛するアマディリアを階段から突き落としただろう!裏は取れてるんだぞ!」
アマディリアとはシェイン伯爵令嬢のことだ。
ここ1年ほど、学園で第三王子と密着していて、その態度はとてもじゃないがまともな教育を受けているとは言い難く、破廉恥で男と見れば粉をかける令嬢だと皆が避けて通っている。最近まで留学をしていたというから、さぞや教養の高い令嬢なのかと思いきや、どうやら贅沢を覚え、男を侍らせる術だけを学んで帰ってきたようだ。そんな女に、歌姫という婚約者がいるにも関わらずまんまと絡め取られてしまった第三王子は、我が王国の汚点だと白い目を向けられていることに本人は気づいていない。
学業は平均点をクリアしているものの、外国語の一つも真面に話せず政治に疎く、これといって秀でるものがない。普通の貴族の三男ならばそれでもよかったかもしれないが、彼は王族だ。態度は立派だがプライドばかりが高く、頭脳や容姿に秀でているわけでもなくなんの業績もあげていない王子では、諸外国に婿に出すことも恥ずかしい。せめてカナリア姫と婚姻をしていれば、侯爵家の後ろ盾を持てるはずだったのに、たった今、自らそれすら投げ捨てた。いくらシェイン伯が商売で繁盛しているとはいえ、国際的に有名で名門の侯爵家とでは比べ物にもならない。
「……ああ。あれでございますか。あれは事故でございましょう。わたくしはアマディリア嬢が階段にいらしたことも存じませんでしたし?」
そういえば、とレニーも先日のことを思い出していた。放課後の音楽室でいつもの様に発声練習をし、今度の国際歌劇音楽祭で披露するオペラ曲を歌っていた時のことだった。歌を聴きに集まっていた生徒達が外が騒がしいと確認にいき、誰かが階段から落ちた様だと聞いたのだ。それがアマディリア嬢だったのだろう。
「お前の罵声に驚いて飛び上がった拍子に階段から落ちたのだぞ!貴様のせいでなくて誰のせいだというんだ!」
「あら、まあ。わたくしのせいでございますか」
歌姫に向かって罵声とは。今皆の耳に入っている声こそ罵声であり、カナリア姫の声は天使の歌声だというのに。その場にいた者は皆眉を顰め、ある者は頭を左右に振り、ある者はヒソヒソと扇子で口元を隠して噂をする。しかも歌を聴いて階段から転げたのを歌姫のせいにするとは、難癖もいいところである。
アマディリア嬢が階段から落ちたのは紛れもない事実らしい。全治3ヶ月の骨折で、今日もパーティには出てきていないという。学園の音楽室は防音措置をされているのだが、その日は朗らかな昼下がりで、少し汗ばむ様な暑さでもあった。レニーの歌声を聴くために数十人の生徒が音楽室に押し寄せていたためか、誰かが窓を開け空気を入れ替えたのだろう。
そして、レニーが麗しのソプラノボイスを披露した。
美しい歌声には鳥も鳴き止み聴き惚れるくらいというから、アマディリアがすぐ近くの階段を降りる際に聞こえてきた歌声に思わずうっとりと足を止めてしまったとしても、それはレニーのせいではないはずだ。だが、それに対してアマディリアはフランシスに訴えた。
「レニー様の歌声には魔力があり、悪意ある音波によって背中を押されたのでございます」と。
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