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無茶苦茶な言い分だが、第三王子は聞き入れた。そして独自に調査したところ、同時刻、確かにレニーは音楽室でオペラ歌劇の一部である魔王行進曲・序曲を歌っていた。そしてその他にも、アマディリアが水を飲もうとウォーター・ファウンテンに向かうと水道管が破裂して水浸しになり、図書館で本を取ろうと手を伸ばすと、いきなり本棚から全ての本が落ちて下敷きになり、額を3針縫う大怪我をした。その度に近くでレニーが歌を歌っていたというのだ。
「偶然ですわ」
「そんなわけがあるか!悪意ある魔力を歌に乗せ、私のアマディリアを傷つけた貴様を許すことはない!」
歌に魔力を乗せることはよくあることだが、特定の一人に遠隔操作をすることなど不可能だ。確かに歌によって傷を癒す事があるように、歌に乗せた魔力が負にも働くことがあるというのは、魔導士によって証明されている。だが万人が聞いていたその歌の魔力で、たった一人を狙って階段から落とすなどということはありえない。物理的に誰かに押されたのでなければ、どう考えても本人の不注意だろう。
レニーは困った様な顔をして扇を広げ口元を隠すと、はぁとため息をついた。
「殿下。この際です、ここにいる皆様が証人となり婚約破棄につきましては確と了承いたしました。両親である侯爵夫妻にはその様に話をさせていただきますし、国王陛下にもその旨をお伝え致しましょう。ですが、アマディリア嬢の怪我については責任を負いかねますわ。そもそもわたくしは歌を歌っていただけ、あの方が何方にいらしたかなど存じ上げませんし、学院で届けもなく魔力を乗せて歌うなどといった違法も犯しておりません。それでもわたくしのせいだとおっしゃるのでしたら、それなりの証拠をお持ちの上で法廷にてお聞きしましょう。……それから、アマディリア嬢にはお見舞いの品を侯爵家から送らせていただきますわ。お大事にとお伝えくださいませ」
フランシスはなおもレニーに詰め寄ろうと食い下がったが、周囲の白い目にはっと気がつき自制した。うっかり自分が愛するなどと口走ったがために、ヒソヒソと不貞だの、冤罪だのといった言葉が聞こえてきたからだ。自身の評価に敏感なフランシスは、自身が悪く言われるのを嫌う。激情に駆られて迂闊なことを口走ったと後悔するが、口にしてしまったものは仕方がないと開き直った。
この辺りが、第三王子を凡人と見せてしまうところなのだが。
「そこまでいうのなら、確固たる証拠を集めて必ずお前の罪を暴いて見せるぞ!覚えていろ!」
負け犬のようにそう言い残し、フランシスは嘲笑を避けるように慌てて去っていった。
「この国はもうダメですわね……」
レニーはその姿を見送った後、その後に用意された舞台を『第三王子殿下に金輪際王宮で歌うなと言われたので』キャンセルし、早々にパーティ会場を後にした。
レニーの零した言葉を拾った周囲の貴族令息令嬢は騒然となり、その情報は野火のようにあっという間に広まった。そしてこの後の騒ぎが国を動かす事態になっていく事に、フランシスはまだ気が付いていなかった。
「偶然ですわ」
「そんなわけがあるか!悪意ある魔力を歌に乗せ、私のアマディリアを傷つけた貴様を許すことはない!」
歌に魔力を乗せることはよくあることだが、特定の一人に遠隔操作をすることなど不可能だ。確かに歌によって傷を癒す事があるように、歌に乗せた魔力が負にも働くことがあるというのは、魔導士によって証明されている。だが万人が聞いていたその歌の魔力で、たった一人を狙って階段から落とすなどということはありえない。物理的に誰かに押されたのでなければ、どう考えても本人の不注意だろう。
レニーは困った様な顔をして扇を広げ口元を隠すと、はぁとため息をついた。
「殿下。この際です、ここにいる皆様が証人となり婚約破棄につきましては確と了承いたしました。両親である侯爵夫妻にはその様に話をさせていただきますし、国王陛下にもその旨をお伝え致しましょう。ですが、アマディリア嬢の怪我については責任を負いかねますわ。そもそもわたくしは歌を歌っていただけ、あの方が何方にいらしたかなど存じ上げませんし、学院で届けもなく魔力を乗せて歌うなどといった違法も犯しておりません。それでもわたくしのせいだとおっしゃるのでしたら、それなりの証拠をお持ちの上で法廷にてお聞きしましょう。……それから、アマディリア嬢にはお見舞いの品を侯爵家から送らせていただきますわ。お大事にとお伝えくださいませ」
フランシスはなおもレニーに詰め寄ろうと食い下がったが、周囲の白い目にはっと気がつき自制した。うっかり自分が愛するなどと口走ったがために、ヒソヒソと不貞だの、冤罪だのといった言葉が聞こえてきたからだ。自身の評価に敏感なフランシスは、自身が悪く言われるのを嫌う。激情に駆られて迂闊なことを口走ったと後悔するが、口にしてしまったものは仕方がないと開き直った。
この辺りが、第三王子を凡人と見せてしまうところなのだが。
「そこまでいうのなら、確固たる証拠を集めて必ずお前の罪を暴いて見せるぞ!覚えていろ!」
負け犬のようにそう言い残し、フランシスは嘲笑を避けるように慌てて去っていった。
「この国はもうダメですわね……」
レニーはその姿を見送った後、その後に用意された舞台を『第三王子殿下に金輪際王宮で歌うなと言われたので』キャンセルし、早々にパーティ会場を後にした。
レニーの零した言葉を拾った周囲の貴族令息令嬢は騒然となり、その情報は野火のようにあっという間に広まった。そしてこの後の騒ぎが国を動かす事態になっていく事に、フランシスはまだ気が付いていなかった。
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