俺は善人にはなれない

気衒い

文字の大きさ
13 / 416
第1章 青年、異世界に降臨す

第13話 とある冒険者達の噂

しおりを挟む


俺はドルツ。ここフリーダムに古くからいる情報屋だ。依頼があったら、その依頼主がどんな種族・身分・職業であろうと金銭と引き換えに情報を差し出すのが俺の仕事だ。俺はこの仕事に誇りを持ってるし、この街の中で起きたことで俺が知らないことなど何一つないという自負もある。その情報一つで誰かが救われるからなんて大それた理由でなく、完全なる自己満足、承認欲求の為にこの仕事を日々こなしているのだ。そして、その日もいつものように冒険者ギルドで声を掛けられないか待っていた。しかし、時間帯が悪く、冒険者の数がそこまで多くはなかった為、いつまで経っても仕事の依頼をしてくる者は現れなかった。かと言って、情報屋にとってはおいしい何か事件のようなもの、例えば喧嘩やいざこざ、不仲なども特に起こることなく淡々と時間だけが過ぎていった。強いて言えば、真昼間から飲んだくれている筋骨隆々のスキンヘッド男が時折、酔っ払って他の者に絡もうとしているのを仲間に止められているぐらいか。あいつは最近、浮かれ過ぎているからな……。ここらでは有名なBランククラン「愚狼隊」のクランマスターに直接スカウトされて、そのまま入ったらしい。だから、自分の強さを過信して、依頼も受けず、こうして真昼間から酒を飲んでいるというわけだが。あいつはダメだな。俺はそうやって思い上がって脱落していった者達を何人も見てきている。いずれ、あいつもそうなる。それがいつになるのかは分からないが………それにしても失敗した。前の晩、深酒をしてしまった俺はそのまま寝落ち。起きた時には太陽が真上にあったのだ。こんなことなら、酒なんて飲むんじゃなかった…………俺は後悔の念に苛まれ、今日はもう諦めようと席を立ちかけた。その時だった。ギルドの扉を開けて、ここでは見かけない三人の男女が入ってきたのは。新人なのだろうか。というのもここフリーダムを拠点とする冒険者は大体が5年以上、ここに在籍している者がほとんどだった。新しく冒険者を目指す者達はこぞって遠くのそれこそ一攫千金も夢じゃない迷宮都市などへと向かう。言い方は悪いが、こんな所で冒険者生活をスタートさせるなど効率・風聞ともにあまり良くはないだろう。もちろん、長く居て確固たる地位を築いているクランや高ランク冒険者は別だろうが。話を戻すと今、正に扉を開けて入ってきた彼らはこの街で見かけたこともなければ、ましてや高ランク冒険者という訳でもないだろう。一度、高ランク冒険者が生まれるとその噂は街を都市を国を越えて、囁かれる。その容姿や武勇伝、二つ名とともに。だが、彼らのそれは伝わってないどころか、長く情報屋として活動している俺でもそもそも初めて見る装いだった。種族・武器は三人ともそれぞれ違うが、身に付けている防具は一緒。吸い込まれそうなほどの黒・黒・黒。ずっと見ていると目眩がしてきそうだ。しかし、彼らも運が悪い。さっきから飲んだくれて暇そうにしているハゲゴリラの前にこれだけ目立つ者達が現れてしまっては狙って下さいと言っているようなもの。これは格好の餌食である。案の定、彼らは絡まれていた。可哀想に。どういう経緯があるのかは知らないがこんな辺鄙なところから冒険者生活をスタートさせようとしたら、この洗礼。出鼻が挫かれるにもほどがある。ましてや、相手が悪い。今、勢いに乗っていると勘違いしているハゲだるまが一体、何を言い出すのか。下手したら、彼らの対応次第では斬りかかってもおかしくはない。頭がおかしいから。俺は情報屋の仕事としてではなく、一人の野次馬として、なぜかこの後の展開が非常に気になった。仕事を抜きにして、ここまで他人に興味を持つなんて、一体いつぶりだろうか………。そんな不思議な気持ちになりつつ、見守っていると彼らがようやく冒険者登録を終えた。ちなみにその間、筋肉ダルマが話しかけていたが、ひたすら無視。この時点で新人冒険者であるはずなのに只者ではないという直感があった。この直感は今まで数々の危機から俺を救ってくれた。だから、信用できる。彼らはただの新人冒険者ではない………。しかし、ダルマの取り巻きはそう思わなかったようでひたすら、生意気な奴だと罵っていた。そうこうしている内に彼らがギルドカードを受け取って、その後も無視して出ていこうとした為、焦った筋肉はなりふり構わず、

「だから、無視すんじゃねぇ!俺様はかの有名なクラン愚狼」

なんと彼らへ斬りかかってしまったのだ。嫌な予感が当たってしまった。だが、最後だけ見て見ぬふりはできない。それは彼らに対する冒涜である。かと言って、今まで見ているだけだったのにここで都合良く助けに入ってもいいのだろうか。俺が葛藤していると事態は進み、もっと驚くべきことがこの後、起こった。

「うるさい、ゴミが」

青年の傍らに佇み、冒険者の説明を聞いている時ですら静かだった獣人の少女が自分よりガタイも態度も大きいハゲの首を飛ばしたのだ。といっても少女の言葉から、殺った人物を推測したのであって、その瞬間を見れた訳ではない。スピードが早すぎて剣を抜いたことすら、分からなかったのだ。

「私達なら、ともかくよりにもよって、シンヤさんに斬りかかるなんて、死んで当然です」

「え!?私なら、いいんですの!?」

その後、2人の少女が訳分からないことを言い合っていた。ようやくこの一件も終わりか。それにしても凄いものを見たな。俺は今回の件を仕事とかは関係なしに記録に残しておこうとペンを取った。しかし、この日起きたことはそれだけで終わりではなかった。ここからは長くなるので詳しい状況説明などは割愛させて頂く。簡単に言うと、

魔物の死体を100体売って、ギルドマスターと模擬戦を行ってランクアップして、何故かもう2人メンバーが増えて、盗賊とまた魔物の死体を100体売って……………

彼らが冒険者ギルドで何かをしようとする時はみな固唾を飲んで見ていた。好奇心半分、恐怖半分といったところだろうか。とにかく、彼らがいる間は空気が張り詰め、彼らと会話している者以外は誰一人として口を開けない状況だったのは確かだ。現に殺された過信バカの取り巻きですら、取り乱して全員外へと静かに飛び出していった。うるさくして殺されたら、敵わないからだろう。そんなこんながありつつ、今、フリーダムの冒険者達の間では彼らの噂で持ちきりだった。人の口に戸は立てられない。今頃、愚狼隊にも報告がいって、彼らがたった一日にして、Bランククランから狙われてしまうのは避けようがないだろう。しかし、彼らならば、それすら何とかしてしまうのではないだろうか…………いや、考えすぎか。さすがにベテランBランククランを相手にして、無事では済まないだろう。ともかく、突如としてこのフリーダムに現れた異分子は一体、この先にどんな景色を見せてくれるのか、陰ながら見守らせて頂くとしよう。




しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ハーレムキング

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。  効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。  日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。    青年は今日も女の子を口説き回る。 「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」 「変な人!」 ※2025/6/6 完結。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜

KeyBow
ファンタジー
遡ること20年前、世界中に突如として同時に多数のダンジョンが出現し、人々を混乱に陥れた。そのダンジョンから湧き出る魔物たちは、生活を脅かし、冒険者たちの誕生を促した。 主人公、市河銀治は、最低ランクのハンターとして日々を生き抜く高校生。彼の家計を支えるため、ダンジョンに潜り続けるが、その実力は周囲から「洋梨」と揶揄されるほどの弱さだ。しかし、銀治の心には、行方不明の父親を思う強い思いがあった。 ある日、クラスメイトの春森新司からレイド戦への参加を強要され、銀治は不安を抱えながらも挑むことを決意する。しかし、待ち受けていたのは予想外の強敵と仲間たちの裏切り。絶望的な状況で、銀治は新たなスキルを手に入れ、運命を切り開くために立ち上がる。 果たして、彼は仲間たちを救い、自らの運命を変えることができるのか?友情、裏切り、そして成長を描くアクションファンタジーここに始まる!

処理中です...