俺は善人にはなれない

気衒い

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第7章 vsアスターロ教

第96話 復活

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その昔、我は地上にて、あらゆる暴虐の限りを尽くした。具体的には山を消し飛ばし、森を焼き払い、海を切り裂いた。それを見て混乱し逃げ惑う民も次々と葬り、その勢いは止まることを知らなかった。そんなことを繰り返し行い、気が付けば世界を滅亡の一歩手前まで追い込んでいたのだが、ある者達が我の前に立ちはだかったことでその流れが大きく変わった。その者達は人々から"勇者"と呼ばれていた。様々な種族がおり、その数はなんと10人にも達していた。おそらく、我の進撃を止めようと苦肉の策として人類が用意した最後の希望だったのだろう。実際に戦ってみるとその力はとても凄まじく、希望を託されるのに相応しい実力を持っていると感じた。我が今まで対峙してきた人類のどの者よりも圧倒的に強かったのだ……………だが、それだけだった。結局のところ、どれだけ強かろうが所詮は人類の域を出ない強さ。そもそものスタートラインからして違うのだ。我はその時、完全に油断していた。自らの存在と実力に驕り慢心し、あらゆる者達を見下し、目の前で必死に食らい付いてきている者達すら眼中から外していたのだ………………結果、我は勇者達の命を賭けた策にまんまと嵌り、封印されてしまうこととなった。奴らはずっと待っていたのだ。我が完全に油断して気を抜くところを。確かに今、思えばおかしなところはいくつもあった。我の馬鹿にしたような態度や挑発に一度も反応することがなかったし、奴らの目が諦めている者のそれではなかったこと、さらには攻撃にしても守りにしてもその都度、我に伝わる感覚が覚悟を決めた者にしか出せないものであったことなど……………我はこの時、悟ったのだ。いくらスペックや実力に圧倒的な差があろうが最後まで舐め切ってまともに戦わなかった者と自身の実力を正面から受け止め、最後まで諦めずに勝負した者。この結末はどうなるのか分からないということを。しかし、事が全て終わってしまった後に理解してもどうにもならないこともある。我が陥った"封印"という結末もその手遅れという部類の中では最も再起が難しいと思われるものだった。現に何度もそれを解こうと色々試したが、残念なことに現状が変わることはなかった。それから、一体どのくらいの月日が流れたのだろうか。最初の方は何もすることがなく暇だった為、毎日毎日、日数を数えていたがそれもすぐに飽きてしまい途中からはただ黙って眠りに就くことしかすることがなくなってしまった。我の封印は生物や物へされた訳ではなく、誰の目にもつかない異空間にされたのだ。その為、我の声や姿以前に存在自体、気が付かれることがなかったのだ。随分と上手くやったものだ。勇者達は誰かの手によって封印を解かれることのないよう考えに考えた末、異空間というものを思い付いたのだろう。完全に我の敗北である。しかし、まだ我は消えていない。ここにこうして存在しているのだ………………といくら主張したところで誰にも気付かれないのならば意味はない。このまま年月が経ち、人々から完全に忘れ去られてしまえば、それは存在していないのと同義。我はこのまま消えていきたくなかった。是が非でも復活を果たしもう一度、地上の人間共に恐怖と絶望を与え、世界を滅亡までもっていきたいと思っていた。我は考えに考えた。どうすれば我の存在を知らせることができるのか、また封印を解いてもらうことかできるのかを………………そして、最終的に我が導き出した答えは目を付けた人間に"神託"を下すことだった。とは言ってもそれが上手くいく保証はどこにもないし、仮に上手くいったとしても封印を解けるかどうかはまた別の問題である。だが、手段など選んでいられる状態ではなかった。思い付いた方法を片っ端から試していくしかないのだ。そうして、我はある一人の男…………ランギルという者に目を付け"神託"を下したのだった。


我の名は"邪神"アスターロ……………この世界を滅亡させる者である。



――――――――――――――――――――




「ここまで長かった……………地上など一体いつぶりだ?」

我は復活した直後でまだ違和感のある身体を軽くほぐしながら、辺りを見渡す。自身が置かれている状況は既に把握している。そうでなければ逆におかしい。我が唆し、復活に向けての活動を促したのだ。ランギルはよくやってくれた。教徒を着々と増やし、我の復活に必要な"魂"と呼ばれるエネルギーの存在に気が付き、これだけの規模の研究所まで設けたのだ。

「お前らも今日までご苦労だったな」

我はこちらを見上げ驚いた表情をしている研究員達を見回し労いの言葉をかけた。彼らも大変よく頑張った。今まで我の復活に向けて全身全霊で取り組んでくれていたのだ。我は彼らの努力と姿勢をずっと見てきた。だからこそ、とても嬉しく彼らも含めアスターロ教に属する者達全てを我が子のように想っている。

「お疲れ様。ゆっくり休んでくれ……………と言いたいところではあるんだが、実はお前達に最後にやってもらいたい仕事がまだ残っているんだ」

我は未だこの状況を理解できていないであろう研究員達に向けて、心から慈しむような愛のある言葉を投げかけた。

「お前達の最後の仕事、それは……………我の糧となることだ」

瞬間、絶望と悲鳴がこの場を支配した。
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