96 / 416
第7章 vsアスターロ教
第96話 復活
しおりを挟む
その昔、我は地上にて、あらゆる暴虐の限りを尽くした。具体的には山を消し飛ばし、森を焼き払い、海を切り裂いた。それを見て混乱し逃げ惑う民も次々と葬り、その勢いは止まることを知らなかった。そんなことを繰り返し行い、気が付けば世界を滅亡の一歩手前まで追い込んでいたのだが、ある者達が我の前に立ちはだかったことでその流れが大きく変わった。その者達は人々から"勇者"と呼ばれていた。様々な種族がおり、その数はなんと10人にも達していた。おそらく、我の進撃を止めようと苦肉の策として人類が用意した最後の希望だったのだろう。実際に戦ってみるとその力はとても凄まじく、希望を託されるのに相応しい実力を持っていると感じた。我が今まで対峙してきた人類のどの者よりも圧倒的に強かったのだ……………だが、それだけだった。結局のところ、どれだけ強かろうが所詮は人類の域を出ない強さ。そもそものスタートラインからして違うのだ。我はその時、完全に油断していた。自らの存在と実力に驕り慢心し、あらゆる者達を見下し、目の前で必死に食らい付いてきている者達すら眼中から外していたのだ………………結果、我は勇者達の命を賭けた策にまんまと嵌り、封印されてしまうこととなった。奴らはずっと待っていたのだ。我が完全に油断して気を抜くところを。確かに今、思えばおかしなところはいくつもあった。我の馬鹿にしたような態度や挑発に一度も反応することがなかったし、奴らの目が諦めている者のそれではなかったこと、さらには攻撃にしても守りにしてもその都度、我に伝わる感覚が覚悟を決めた者にしか出せないものであったことなど……………我はこの時、悟ったのだ。いくらスペックや実力に圧倒的な差があろうが最後まで舐め切ってまともに戦わなかった者と自身の実力を正面から受け止め、最後まで諦めずに勝負した者。この結末はどうなるのか分からないということを。しかし、事が全て終わってしまった後に理解してもどうにもならないこともある。我が陥った"封印"という結末もその手遅れという部類の中では最も再起が難しいと思われるものだった。現に何度もそれを解こうと色々試したが、残念なことに現状が変わることはなかった。それから、一体どのくらいの月日が流れたのだろうか。最初の方は何もすることがなく暇だった為、毎日毎日、日数を数えていたがそれもすぐに飽きてしまい途中からはただ黙って眠りに就くことしかすることがなくなってしまった。我の封印は生物や物へされた訳ではなく、誰の目にもつかない異空間にされたのだ。その為、我の声や姿以前に存在自体、気が付かれることがなかったのだ。随分と上手くやったものだ。勇者達は誰かの手によって封印を解かれることのないよう考えに考えた末、異空間というものを思い付いたのだろう。完全に我の敗北である。しかし、まだ我は消えていない。ここにこうして存在しているのだ………………といくら主張したところで誰にも気付かれないのならば意味はない。このまま年月が経ち、人々から完全に忘れ去られてしまえば、それは存在していないのと同義。我はこのまま消えていきたくなかった。是が非でも復活を果たしもう一度、地上の人間共に恐怖と絶望を与え、世界を滅亡までもっていきたいと思っていた。我は考えに考えた。どうすれば我の存在を知らせることができるのか、また封印を解いてもらうことかできるのかを………………そして、最終的に我が導き出した答えは目を付けた人間に"神託"を下すことだった。とは言ってもそれが上手くいく保証はどこにもないし、仮に上手くいったとしても封印を解けるかどうかはまた別の問題である。だが、手段など選んでいられる状態ではなかった。思い付いた方法を片っ端から試していくしかないのだ。そうして、我はある一人の男…………ランギルという者に目を付け"神託"を下したのだった。
我の名は"邪神"アスターロ……………この世界を滅亡させる者である。
――――――――――――――――――――
「ここまで長かった……………地上など一体いつぶりだ?」
我は復活した直後でまだ違和感のある身体を軽くほぐしながら、辺りを見渡す。自身が置かれている状況は既に把握している。そうでなければ逆におかしい。我が唆し、復活に向けての活動を促したのだ。ランギルはよくやってくれた。教徒を着々と増やし、我の復活に必要な"魂"と呼ばれるエネルギーの存在に気が付き、これだけの規模の研究所まで設けたのだ。
「お前らも今日までご苦労だったな」
我はこちらを見上げ驚いた表情をしている研究員達を見回し労いの言葉をかけた。彼らも大変よく頑張った。今まで我の復活に向けて全身全霊で取り組んでくれていたのだ。我は彼らの努力と姿勢をずっと見てきた。だからこそ、とても嬉しく彼らも含めアスターロ教に属する者達全てを我が子のように想っている。
「お疲れ様。ゆっくり休んでくれ……………と言いたいところではあるんだが、実はお前達に最後にやってもらいたい仕事がまだ残っているんだ」
我は未だこの状況を理解できていないであろう研究員達に向けて、心から慈しむような愛のある言葉を投げかけた。
「お前達の最後の仕事、それは……………我の糧となることだ」
瞬間、絶望と悲鳴がこの場を支配した。
我の名は"邪神"アスターロ……………この世界を滅亡させる者である。
――――――――――――――――――――
「ここまで長かった……………地上など一体いつぶりだ?」
我は復活した直後でまだ違和感のある身体を軽くほぐしながら、辺りを見渡す。自身が置かれている状況は既に把握している。そうでなければ逆におかしい。我が唆し、復活に向けての活動を促したのだ。ランギルはよくやってくれた。教徒を着々と増やし、我の復活に必要な"魂"と呼ばれるエネルギーの存在に気が付き、これだけの規模の研究所まで設けたのだ。
「お前らも今日までご苦労だったな」
我はこちらを見上げ驚いた表情をしている研究員達を見回し労いの言葉をかけた。彼らも大変よく頑張った。今まで我の復活に向けて全身全霊で取り組んでくれていたのだ。我は彼らの努力と姿勢をずっと見てきた。だからこそ、とても嬉しく彼らも含めアスターロ教に属する者達全てを我が子のように想っている。
「お疲れ様。ゆっくり休んでくれ……………と言いたいところではあるんだが、実はお前達に最後にやってもらいたい仕事がまだ残っているんだ」
我は未だこの状況を理解できていないであろう研究員達に向けて、心から慈しむような愛のある言葉を投げかけた。
「お前達の最後の仕事、それは……………我の糧となることだ」
瞬間、絶望と悲鳴がこの場を支配した。
11
あなたにおすすめの小説
ハーレムキング
チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。
効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。
日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。
青年は今日も女の子を口説き回る。
「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」
「変な人!」
※2025/6/6 完結。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
イレギュラーから始まるポンコツハンター 〜Fランクハンターが英雄を目指したら〜
KeyBow
ファンタジー
遡ること20年前、世界中に突如として同時に多数のダンジョンが出現し、人々を混乱に陥れた。そのダンジョンから湧き出る魔物たちは、生活を脅かし、冒険者たちの誕生を促した。
主人公、市河銀治は、最低ランクのハンターとして日々を生き抜く高校生。彼の家計を支えるため、ダンジョンに潜り続けるが、その実力は周囲から「洋梨」と揶揄されるほどの弱さだ。しかし、銀治の心には、行方不明の父親を思う強い思いがあった。
ある日、クラスメイトの春森新司からレイド戦への参加を強要され、銀治は不安を抱えながらも挑むことを決意する。しかし、待ち受けていたのは予想外の強敵と仲間たちの裏切り。絶望的な状況で、銀治は新たなスキルを手に入れ、運命を切り開くために立ち上がる。
果たして、彼は仲間たちを救い、自らの運命を変えることができるのか?友情、裏切り、そして成長を描くアクションファンタジーここに始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる