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第15章 親子喧嘩
第339話 はぐれ者の過去2
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「女は堀十奈…………この世界での言い方だとト
ウナ・ホリという名だった。艶やかな長
い黒髪に大きな瞳、鼻筋はくっきりと通
り、誰がどう見ても美人だと分かった。
それでいて、常に笑顔を絶やさず、初め
て会った俺にも気さくに話しかけてくれ
た…………彼女はいわゆる"迷子"とい
うやつだった。その日、俺は自然豊かな
土地を旅しており、ちょうど木陰で休も
うとしていた。暑い夏場で蝉がよく鳴い
ており、あまりの暑さにアスファル
ト………地面から立ち昇った湯気で視界
が歪んでくる程だった。そんな中、俺が
手近な木に腰掛け、木陰で涼んでいると
女が話し掛けてきたんだ」
皆、キョウヤの話に夢中になり、誰もが
話の続きを聞きたいと前のめりになって
いた。そして、そんな状況の中、シンヤ
だけは少し複雑そうな顔をしていた。
「新品の麦わら帽子を被り、真っ白なワ
ンピースを着たその女は名前を告げ、自
身が"迷子"であると胸を張って言っ
た。俺はどこの世界に自信満々に迷子だ
と言う馬鹿がいると思い、きっと暑さで
頭がおかしくなったんだろうと結論付け
た。俺は言った……………"ここから歩い
て、すぐのところに人里がある。俺もち
ょうどそこへ向かう用事があるから、つ
いてくるか?"と。女はしばらく黙っ
て、俺の顔を見続けた後、笑顔で"よろ
しく!綺麗なお兄さん!!"と言った」
語っていく内に段々と表情が穏やかにな
っていくキョウヤを見ながら、皆は続き
を待った。
「別に俺は綺麗でも何でもなかった。む
しろ、今の格好はボロボロの服を着てい
たし、過去を振り返ると汚いことも沢山
してきた。さらに彼女に対してはただの
面倒事としか捉えておらず、誰かに任せ
てしまおうと思い、人里へ行こうと考え
たのだ。だから俺の何をどう見て、彼女
がそう感じたのかは分からない。俺は彼
女の言葉に違和感を覚えながらも人里へ
と向かった」
目を瞑りながら、過去を振り返るキョウ
ヤ。そんな彼の表情からは当時、抱いて
いた感情がどんなものであったかを窺え
た。
「人里に着き、彼女のリクエストで色々
な場所を案内することになった。彼女の
何に対しても明るく、常にこちらを肯定
してくれる性格に心地良さを感じた俺は
気が済むまで彼女のリクエストに応え続
けた。それから何時間が経ったか。俺は
そこで急に彼女が"迷子"であったこと
を思い出し、目的地がどこなのかと尋ね
た。すると、彼女は笑いながら、"あは
は、忘れちゃった"と答えた。いくら世
間知らずな俺でも彼女の無理矢理、取り
繕った反応に気が付かないほど馬鹿では
ない。きっと何かを隠しているのだろう
と踏んだ俺は特にそのことに触れず、一
緒に人里を巡り、その日は旅館に一泊し
た。そして、次の日から、俺の旅に彼女
が加わることとなった。同行者がいると
色々とリスクが生じてくるのは百も承知
だ。しかし、たった数時間とはいえ彼女
と過ごして居心地の良さと何より、彼女
と一緒にいれば楽しいことが起こるんじ
ゃないかと感じた俺は彼女の要望によ
り、こうして共に旅をすることとなっ
た。それからは楽しい毎日の連続だっ
た。元々、1人でも楽しかったのは事実
だが、もちろん辛い日だってある。そん
な時、彼女がそばで笑って励ましてくれ
るだけで俺はどんなことでも頑張れ
た………………気が付けば、彼女に惹かれ
ていた。彼女も俺を想ってくれていた。
そして、彼女と出会ってから3年後、彼
女は……………十奈はシンヤ
を身籠った」
そこでキョウヤは再び、シンヤを見つめ
た。それはとても優しい表情だった。
「当時、俺は25歳。新しい生命を授かることがどんなことなの
か、家族が増えるということは何を意味
するのかなどそこまで深くは考えていな
かった。だが、病院の待合室でウロウロ
と落ち着かない俺に声が掛かり、集中治
療室の扉を開けるとそこには愛しそうに
生まれたばかりの子を抱く彼女の姿があ
った。俺はそれを見た瞬間、頭が真っ白
になり、気が付けば彼女を抱き締め、そ
して我が子を抱いていた。この時、俺は
一生彼女達を守っていくと決意をし、胸
に溢れる幸せという感情に浸っていた」
シンヤは自身の顔を見つめ続けるキョウ
ヤから視線を逸らして、俯いた。一方の
キョウヤもまた急に声に明るさがなくな
ると暗い表情でこう続けた。
「ところが、そんな幸せな日はそう長く
は続かなかった。シンヤが生まれてか
ら、半年後のある日………………突然"ご
めんなさい"という置き手紙を残して、
十奈は俺の前から姿を消した」
ウナ・ホリという名だった。艶やかな長
い黒髪に大きな瞳、鼻筋はくっきりと通
り、誰がどう見ても美人だと分かった。
それでいて、常に笑顔を絶やさず、初め
て会った俺にも気さくに話しかけてくれ
た…………彼女はいわゆる"迷子"とい
うやつだった。その日、俺は自然豊かな
土地を旅しており、ちょうど木陰で休も
うとしていた。暑い夏場で蝉がよく鳴い
ており、あまりの暑さにアスファル
ト………地面から立ち昇った湯気で視界
が歪んでくる程だった。そんな中、俺が
手近な木に腰掛け、木陰で涼んでいると
女が話し掛けてきたんだ」
皆、キョウヤの話に夢中になり、誰もが
話の続きを聞きたいと前のめりになって
いた。そして、そんな状況の中、シンヤ
だけは少し複雑そうな顔をしていた。
「新品の麦わら帽子を被り、真っ白なワ
ンピースを着たその女は名前を告げ、自
身が"迷子"であると胸を張って言っ
た。俺はどこの世界に自信満々に迷子だ
と言う馬鹿がいると思い、きっと暑さで
頭がおかしくなったんだろうと結論付け
た。俺は言った……………"ここから歩い
て、すぐのところに人里がある。俺もち
ょうどそこへ向かう用事があるから、つ
いてくるか?"と。女はしばらく黙っ
て、俺の顔を見続けた後、笑顔で"よろ
しく!綺麗なお兄さん!!"と言った」
語っていく内に段々と表情が穏やかにな
っていくキョウヤを見ながら、皆は続き
を待った。
「別に俺は綺麗でも何でもなかった。む
しろ、今の格好はボロボロの服を着てい
たし、過去を振り返ると汚いことも沢山
してきた。さらに彼女に対してはただの
面倒事としか捉えておらず、誰かに任せ
てしまおうと思い、人里へ行こうと考え
たのだ。だから俺の何をどう見て、彼女
がそう感じたのかは分からない。俺は彼
女の言葉に違和感を覚えながらも人里へ
と向かった」
目を瞑りながら、過去を振り返るキョウ
ヤ。そんな彼の表情からは当時、抱いて
いた感情がどんなものであったかを窺え
た。
「人里に着き、彼女のリクエストで色々
な場所を案内することになった。彼女の
何に対しても明るく、常にこちらを肯定
してくれる性格に心地良さを感じた俺は
気が済むまで彼女のリクエストに応え続
けた。それから何時間が経ったか。俺は
そこで急に彼女が"迷子"であったこと
を思い出し、目的地がどこなのかと尋ね
た。すると、彼女は笑いながら、"あは
は、忘れちゃった"と答えた。いくら世
間知らずな俺でも彼女の無理矢理、取り
繕った反応に気が付かないほど馬鹿では
ない。きっと何かを隠しているのだろう
と踏んだ俺は特にそのことに触れず、一
緒に人里を巡り、その日は旅館に一泊し
た。そして、次の日から、俺の旅に彼女
が加わることとなった。同行者がいると
色々とリスクが生じてくるのは百も承知
だ。しかし、たった数時間とはいえ彼女
と過ごして居心地の良さと何より、彼女
と一緒にいれば楽しいことが起こるんじ
ゃないかと感じた俺は彼女の要望によ
り、こうして共に旅をすることとなっ
た。それからは楽しい毎日の連続だっ
た。元々、1人でも楽しかったのは事実
だが、もちろん辛い日だってある。そん
な時、彼女がそばで笑って励ましてくれ
るだけで俺はどんなことでも頑張れ
た………………気が付けば、彼女に惹かれ
ていた。彼女も俺を想ってくれていた。
そして、彼女と出会ってから3年後、彼
女は……………十奈はシンヤ
を身籠った」
そこでキョウヤは再び、シンヤを見つめ
た。それはとても優しい表情だった。
「当時、俺は25歳。新しい生命を授かることがどんなことなの
か、家族が増えるということは何を意味
するのかなどそこまで深くは考えていな
かった。だが、病院の待合室でウロウロ
と落ち着かない俺に声が掛かり、集中治
療室の扉を開けるとそこには愛しそうに
生まれたばかりの子を抱く彼女の姿があ
った。俺はそれを見た瞬間、頭が真っ白
になり、気が付けば彼女を抱き締め、そ
して我が子を抱いていた。この時、俺は
一生彼女達を守っていくと決意をし、胸
に溢れる幸せという感情に浸っていた」
シンヤは自身の顔を見つめ続けるキョウ
ヤから視線を逸らして、俯いた。一方の
キョウヤもまた急に声に明るさがなくな
ると暗い表情でこう続けた。
「ところが、そんな幸せな日はそう長く
は続かなかった。シンヤが生まれてか
ら、半年後のある日………………突然"ご
めんなさい"という置き手紙を残して、
十奈は俺の前から姿を消した」
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