俺は善人にはなれない

気衒い

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第15章 親子喧嘩

第340話 はぐれ者の過去3

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「置き手紙はテーブルの上にあった。ち

なみにシンヤが生まれてから、どこかで

静かに暮らしていこうということにな

り、俺達は旅を一旦止めてアパートを借

りていた。一家を支えるということで俺

が就いた職は主に夜から始業することが

ほとんどで朝は寝ていることが多かっ

た……………だから、だろう。彼女は俺が

寝ていることを確認して、手紙を残し、

朝早くにアパートを出て行ったんだ」

想像以上に辛いのか皆、話を聞きながら

胸を押さえていた。中には涙を溜めてい

る者さえいる。

「俺は起きて手紙を読んだ瞬間、思わず

家を飛び出した。もちろん、シンヤがぐ

っすり寝ていることを確認し、ちゃんと

鍵も施錠して、だ。どうしようもない俺

にもどうやら人として大切な感情があっ

たらしい。手紙を読んでいる最中も常に

シンヤのことを気にしていた。そして、

それは彼女も同じだった。手紙の中で何

度も謝ると同時にシンヤのことを気にか

けていた」

シンヤは顔を上げ、複雑そうな表情でキ

ョウヤを見ていた。そこから読み取れる

感情がどういうものであるのか、明確に

答えられる者はこの場にいなかった。

「俺は彼女を探して近所を駆け回った。

シンヤを残してあまり遠くへは行けない

為、アパートの周辺をくまなく探してい

ったんだ。まぁ、たとえシンヤのことが

なかったとしてもパニックになった頭で

は彼女が向かう先の検討などつかなかっ

たから、結局同じことになっていたと思

うが………………」

「……………それで見つかったのか?」

キョウヤが昔話を始めてから、初めて口

を開いたシンヤ。彼自身も戸惑ってい

た。本来、急かすような真似はするべき

ではない。それが分かっていながら、

何故か・・・ 答えを早く知りたいという欲求が止まらなかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・のだ。

「戸惑うな。その感情は当然だ……………

なんせ、お前の母親のことなんだから

な」

そこへすかさずフォローを入れるキョウ

ヤ。その表情はどこか嬉しそうでもあっ

た。

「ふざけんな。まだ、俺はお前とその女

が両親だと信じた訳ではない」

「理性ではな。だが、本能ではどう

だ?……………もう、お前の中で答えが出

ているんじゃないのか?」

「………………」

「"家族"ってのには不思議な力がある

と思ってる。血が繋がっているのなら、

尚更な。どれだけ離れていようとも目に

見えない、それこそ魔法のような力で繋

がっており、いずれ引かれ合う。どれだ

け人として最低でも、どれだけの重罪を

重ねようとも血の繋がった家族ってのは

特別なものなんだ」

「…………ふざけんな。俺にとっての親

あの人・・・とそこにいるブロ

ンだけだ」

「シンヤ………………」

シンヤの言葉に胸が熱くなったブロンの

目からは自然と涙が頰を伝って流れ落ち

る。周囲はそんな彼らに釘付けだった。

「……………やっぱり・・・・嬉しいな」

「何がだよ?」

「お前にとって、そう呼べる相手がいる

ことにだ。しかもそれだけじゃない。今

や、これだけの仲間………………"家族"

がいる。お前のそんな様子を見れただけ

で…………俺はそれだけで幸せだ」

キョウヤは幸せそうな笑みを浮かべてシ

ンヤを見る。何故か、その視線を直視で

きなかったシンヤは慌てて目を逸らし

た。

「……………さっきの答えだが、彼女は結

局見つからなかった。2時間程探し、シ

ンヤのことが気になった俺は急いでアパ

ートに戻った。俺がいない間に危ない目

に遭っていないか、心配だったがスヤス

ヤと眠るシンヤを見て、俺は心底安心

し、同時にある決意をした。シンヤ

を………………俺の育ての親に預ける決意

をだ」

「「「「「っ!?」」」」」

シンヤの過去を知っているティア達はこ

こで話が繋がったと驚いた。しかし、認

識に若干のズレが生じていた。確か、シ

ンヤは捨てられていた・・・・・・・はずだ。そこで真相

を確かめようとより一層、キョウヤの話

に集中し出した。

十奈とうなは伊達や酔狂で突然、

いなくなったりはしない。それは長い

間、一緒にいた俺が一番理解している。

であれば、何かしら、のっぴきならない

事情があって、この選択をしたと俺は考

えた。その場合、彼女を探し出すのは

容易ではない。それこそ、残りの人生全

てを懸けるぐらいの覚悟がなければ到底

不可能だろう、と……………だから、俺は

シンヤを預けて彼女を探す旅に出たん

だ」

「………………ちょっと待てよ」

キョウヤの発言に流石に黙ったままでは

いられなかったのか、シンヤは口を挟ん

だ。

「俺は捨て子だと聞いたぞ。ある寒い日

の夜、毛布に包まれた状態で地べたに置

かれていたと」

「それは違う。俺がお前をあの人に直

接、預けたんだ」

「寒空の下、凍死する寸前で拾われた

と……………」

「凍死なんかするもんか。確かに多少は

寒い時期だったが、凍死する程じゃな

い」

「俺の名前は……………」

「俺と十奈とうなで決めた。お前

が生まれてくる前に2人で考えたんだ」

「………………なんだ、それ」

シンヤは初めて聞かされた事実に渇いた

声しか出せなかった。

「じゃあ俺はずっとあの人に嘘をつかれ

ていたっていうのか!?お前らが裏で結

託して、俺を………………」

「本当にそうだと思うか?」

「っ!?」

「あの人の愛情が全て偽りのものだった

とお前は本当にそう思うのか?」

「……………いや、思わない」

「俺なんだ」

「?」

「俺があの人に頼んだんだ。シンヤは寒

空の下で拾われた捨て子だということに

しておいてくれ………………と」

「っ!?そんなことをしたら、俺はお前

を恨むことになっていたかもしれないん

だぞ?何故、そんなことを」

「それが至極当然のことだからだ。理由

はどうあれ、俺はお前を置いて旅に出

た。父親としては最低だ。俺は恨まれる

べきなんだ。それが俺にとっての罰なん

だ」

「それで全ての矛先が自分に向くように

と?」

「ああ。ただ預けたという事実だけでは

あの人まで恨まれかねない。まぁ、今に

して思えば自分に罰を与えることで救わ

れたかったのかもしれない……………が、

どうやらその目論みも失敗に終わった。

お前が今日まで俺を恨んで生きてこなか

ったのがその良い例だ」

「それは当然だろう。なんせ、俺はただ捨てられていた・・・・・・・・・とだけ説明されたんだ。そこにはお前の名も父親がという説明もなかった」

「ああ、そうだ・・・。あの人にし

てやられたな」

「?先程から、ちょいちょいお前が実際

に見ていない俺のことまで分かっている

発言をしているが………………どういうこ

とだ?」

「それについてはこの後、話す……………

話が逸れたが、俺は十奈を探す旅に出

て、ちょうど4年が経った頃、ある転機

が訪れた」

「転機?」
 
「ああ。30歳になった俺はなん

と……………この世界に勇者として召喚さ

れたんだ」
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