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9.私は愛されていなかった(ウラリー)
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あの日のショックから私は数日間寝付いてしまった。毎晩悪夢にうなされる。自分の罪を償えと誰かが私を責める声が頭の中に響く。「私は罪など犯していない」そう叫びながら目を覚ます。
あれからアドリアン様は一度も私の部屋を訪れない。心細い、会いに来てほしい。そして慰めて欲しかった。従者に伝言を頼んだが返事はなかった。きっとお忙しいのだ。不安の中、自分にそう言い聞かせる。
しばらくして気持ちが落ち着いてくるとあることに気付いた。シエナ様はもういない。それならば私は正真正銘アドリアン様の唯一人の妃となれる。
公務は難しいだろうけど少しずつ学んで支えてもらえればいい。宰相様が万事計らってくれるだろう。結婚してすぐに子が産まれれば時間も稼げるはずだ。前向きに考え始めたが、最近王城はとても居心地が悪い。宰相様も神官も会いに来なくなった。手紙を出してご機嫌伺いに来てほしいと頼んだが返事はない。
世話をしてくれている侍女たちも冷ややかな態度で口もきいてくれない。以前は「聖女様のお世話が出来て光栄です」と言っていたのにどうしたのか。シエナ様に同情しているのかもしれない。私はそのことよりもアドリアン様との結婚がどこまで進んでいるのか気になった。
だいぶ経ってようやく会いに来てくれたアドリアン様はやつれ憔悴しきっていた。病気が治る前よりよほど病人に見える。私は結婚の準備で疲れているだけだと思い、逸る気持ちのまま問いかけた。
「アドリアン様。私たちの結婚式の準備はどうなっていますか?」
アドリアン様は一瞬何を言っているのだという顔をした後に笑い出した。
「はっはははははは」
「アドリアン様?」
なぜ笑っているのか分からない。
「ウラリー、本気で言っているのか? 私はお前と結婚しない。するわけがない」
「う、うそ、だって宰相様も神官も大丈夫だって。アドリアン様も正妃にするって言ってくれたわ。私を愛してくれているのでしょう?」
アドリアン様の視線を受け私は恐怖で体を硬直させた。その瞳には侮蔑と憎悪が渦巻いていた。
「愛? ふざけるな。お前を愛したことはない。宰相に脅されていなければ正妃にするなどと言わなかった。それにオジェ男爵から本当のことを聞いた。お前は聖女じゃない。神の話は嘘で私には病に効く薬を飲ませただけだと。お前たちは王家と民衆をたばかった。すでに神官は捕らえ宰相は更迭した。男爵は捕らえて牢にいる。お前も罪人だ。病気を治してもらったことだけは感謝しているが罪は罪だ。このままにはしておけない」
「なっ、なんで、嫌よ。私は聖女よ! 神官も認めたのよ!」
嘘よ、嘘よ、嘘よ、私は尊い聖女よ。
「神殿は聖女の認定を誤りだと取り消した。お前はもう聖女ではない」
「そんな…………」
私は床にへたり込む。どうしてこんなことになったの。私はアドリアン様と結婚して幸せになるのよ。そしていずれ王妃に……。
「連れて行け」
アドリアン様は後ろに控える騎士に指示を出す。その冷たい声に私に対する愛情が存在しないことを思い知らされる。どうしてもそれを信じたくなくて騎士に引きずられながらも聞かずにはいられなかった。
「待って!アドリアン様。アドリアン様は私を好きでしたか? 愛してくれていましたか?」
せめて一言愛していたと好きだと言って欲しかった。だって私はあなたを愛していたのよ。
アドリアン様は何も言わない。それが答えだった。私の方を見ようともしない。思い返せばアドリアン様からは感謝の言葉はもらったが一度だって愛を囁いてもらったことはない。私が愛されていると思い込み一人で浮かれていただけだった。
私は罪人として地下牢に入れられた。お父様がどうなったのかも分からない。独房に一人、見張りの騎士は私を蔑むように見張る。
かび臭く不衛生で食事も満足にない。昨日までは豪華な王宮の部屋にいて素晴らしい生活をしていたのに。
じきに私の裁判が行われるという。王族や民を騙したのだから極刑も有り得ると聞かされた…………。
ちょっと嘘をついただけ、それなのに死ななければならないの? アドリアン様が元気になったのは事実で私のおかげなのに、それでも罪を問うの? もしかしたら減刑してもらえるかもしれない。そう期待を持たなければ気が狂ってしまいそうだった。
私は刑を言い渡されるその日が来るまで、薄暗い牢の中で怯え続けた。
あれからアドリアン様は一度も私の部屋を訪れない。心細い、会いに来てほしい。そして慰めて欲しかった。従者に伝言を頼んだが返事はなかった。きっとお忙しいのだ。不安の中、自分にそう言い聞かせる。
しばらくして気持ちが落ち着いてくるとあることに気付いた。シエナ様はもういない。それならば私は正真正銘アドリアン様の唯一人の妃となれる。
公務は難しいだろうけど少しずつ学んで支えてもらえればいい。宰相様が万事計らってくれるだろう。結婚してすぐに子が産まれれば時間も稼げるはずだ。前向きに考え始めたが、最近王城はとても居心地が悪い。宰相様も神官も会いに来なくなった。手紙を出してご機嫌伺いに来てほしいと頼んだが返事はない。
世話をしてくれている侍女たちも冷ややかな態度で口もきいてくれない。以前は「聖女様のお世話が出来て光栄です」と言っていたのにどうしたのか。シエナ様に同情しているのかもしれない。私はそのことよりもアドリアン様との結婚がどこまで進んでいるのか気になった。
だいぶ経ってようやく会いに来てくれたアドリアン様はやつれ憔悴しきっていた。病気が治る前よりよほど病人に見える。私は結婚の準備で疲れているだけだと思い、逸る気持ちのまま問いかけた。
「アドリアン様。私たちの結婚式の準備はどうなっていますか?」
アドリアン様は一瞬何を言っているのだという顔をした後に笑い出した。
「はっはははははは」
「アドリアン様?」
なぜ笑っているのか分からない。
「ウラリー、本気で言っているのか? 私はお前と結婚しない。するわけがない」
「う、うそ、だって宰相様も神官も大丈夫だって。アドリアン様も正妃にするって言ってくれたわ。私を愛してくれているのでしょう?」
アドリアン様の視線を受け私は恐怖で体を硬直させた。その瞳には侮蔑と憎悪が渦巻いていた。
「愛? ふざけるな。お前を愛したことはない。宰相に脅されていなければ正妃にするなどと言わなかった。それにオジェ男爵から本当のことを聞いた。お前は聖女じゃない。神の話は嘘で私には病に効く薬を飲ませただけだと。お前たちは王家と民衆をたばかった。すでに神官は捕らえ宰相は更迭した。男爵は捕らえて牢にいる。お前も罪人だ。病気を治してもらったことだけは感謝しているが罪は罪だ。このままにはしておけない」
「なっ、なんで、嫌よ。私は聖女よ! 神官も認めたのよ!」
嘘よ、嘘よ、嘘よ、私は尊い聖女よ。
「神殿は聖女の認定を誤りだと取り消した。お前はもう聖女ではない」
「そんな…………」
私は床にへたり込む。どうしてこんなことになったの。私はアドリアン様と結婚して幸せになるのよ。そしていずれ王妃に……。
「連れて行け」
アドリアン様は後ろに控える騎士に指示を出す。その冷たい声に私に対する愛情が存在しないことを思い知らされる。どうしてもそれを信じたくなくて騎士に引きずられながらも聞かずにはいられなかった。
「待って!アドリアン様。アドリアン様は私を好きでしたか? 愛してくれていましたか?」
せめて一言愛していたと好きだと言って欲しかった。だって私はあなたを愛していたのよ。
アドリアン様は何も言わない。それが答えだった。私の方を見ようともしない。思い返せばアドリアン様からは感謝の言葉はもらったが一度だって愛を囁いてもらったことはない。私が愛されていると思い込み一人で浮かれていただけだった。
私は罪人として地下牢に入れられた。お父様がどうなったのかも分からない。独房に一人、見張りの騎士は私を蔑むように見張る。
かび臭く不衛生で食事も満足にない。昨日までは豪華な王宮の部屋にいて素晴らしい生活をしていたのに。
じきに私の裁判が行われるという。王族や民を騙したのだから極刑も有り得ると聞かされた…………。
ちょっと嘘をついただけ、それなのに死ななければならないの? アドリアン様が元気になったのは事実で私のおかげなのに、それでも罪を問うの? もしかしたら減刑してもらえるかもしれない。そう期待を持たなければ気が狂ってしまいそうだった。
私は刑を言い渡されるその日が来るまで、薄暗い牢の中で怯え続けた。
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