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後日談 1(アンジェリカ)
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「ふふふ。かわいいわ」
アンジェリカの腕の中にはお腹が一杯になって満足げにすやすやと眠る乳飲み子がいる。
3か月前にアンジェリカが生んだラフェエルによく似た男の子だ。
どれほど眺めていても飽きないくらい愛おしい。
あれからほどなく結界は消滅した。
そして大きな水害が発生し甚大な被害が出た。特に酷かったのが王家の直轄地とその周辺であったが王家はそれに手を打たず、聖女から全ての魔力を奪った。それでも結界は復活しないと民からその魔力を搾取しようとしたが、反発した民衆や貴族らに討たれ王家は滅亡した。
フォスター公爵家を支持する貴族と共にアンジェリカの父を君主として大公国を興し、この地を治めた。
ラフェエルは王族になることを望まなかった。
元々の地形から水害の危険に気づいていたので公爵家では以前より治水を行っていた。そのおかげで大きな被害を免れた。
その知識はラフェエルの母がもたらしたものだ。彼女はとても優秀で他国に留学し治水について学んでいた。その研究の後見をしていたのがフォスター公爵家であった。
不確かな魔力ではなく、人の知恵と技術で自然と共存することを願っていたそうだ。
その知識と技術をラフェエルは幼いころから教えられていた。
アンジェリカの従者をする傍ら、治水事業にも深く関わっていた。
その姿を領民たちは親しみを込めて見ていたので、ラフェエルの瞳の色が滅びた王家のそれと同じことを気にする者はいない。
ラフェエルは近いうちにアンジェリカの父の跡を継ぎ、次期大公となることが決まっているので日々多忙である。
あの北で過ごした日々で、お互いの気持ちを確かめ合い心と体が結ばれた瞬間の喜びは生涯忘れることはないだろう。
あの日を思い出せばどんなに辛いことがあってもラフェエルを信じてついていける。
フォスター公爵領に戻る前にラフェエルはアンジェリカにプロポーズをしてくれた。
一面のラベンダー畑の真ん中で、ラベンダーが風に揺れる音だけを聞きながら、まるで世界には二人だけのような空間で、アンジェリカをその太く逞しい腕で抱きしめたままはっきりと言葉にしてくれた。
「アンジェリカ、お前を愛してる。必ず幸せにすると誓うから、これからの人生を俺と共に生きてほしい」
そのときのラフェエルはいつもと変わらぬ冷静さなのに、抱きしめる腕が僅かに震えていることに気付いた。そのことがアンジェリカの胸を切なく締め付ける。
アンジェリカはこのとき、喜びで涙が止まらなくなることをはじめて知った。
しゃくり上げながらなんとか、はいと答えるのが精一杯だったがラフェエルは正確に聞き取ってくれて抱きしめてくれた。
それからの毎日は大変なこともあったが、アンジェリカは不安を感じたことはない。
ラフェエルはいつだってアンジェリカを優先して大事にしてくれる。
アンジェリカと息子をとても愛してくれている。
「アンジェ、アレックスは眠ったのか?」
「ええ、ぐっすりよ」
ベビーベッドにそっとアレックスを寝かせる。
精悍な男がアンジェリカの側に寄り添う。
年々素敵になっていくラフェエルにアンジェリカはいつだって恋をしている。
ラフェエルはアレックスの頬を愛おしそうに撫でる。
「じゃあ、これから夫婦の時間を過ごそうか」
柔らかな笑みを見せてラフェエルはアンジェリカを抱き上げて庭へ出る。
近くにいる乳母に目配せでアレックスを頼む。
「もう、体は大丈夫よ。エル、自分で歩くわ」
アンジェリカの出産の苦しみを見てからラフェエルはより過保護になった。
「俺がこうしたいんだ。お願いだ、アンジェ」
そんな甘い声で言わないでほしい。
アンジェリカは肯定のつもりでラフェエルの頬に口づけた。
そして二人、寄り添って庭一面に咲くマーガレットを眺めていた。
アンジェリカの腕の中にはお腹が一杯になって満足げにすやすやと眠る乳飲み子がいる。
3か月前にアンジェリカが生んだラフェエルによく似た男の子だ。
どれほど眺めていても飽きないくらい愛おしい。
あれからほどなく結界は消滅した。
そして大きな水害が発生し甚大な被害が出た。特に酷かったのが王家の直轄地とその周辺であったが王家はそれに手を打たず、聖女から全ての魔力を奪った。それでも結界は復活しないと民からその魔力を搾取しようとしたが、反発した民衆や貴族らに討たれ王家は滅亡した。
フォスター公爵家を支持する貴族と共にアンジェリカの父を君主として大公国を興し、この地を治めた。
ラフェエルは王族になることを望まなかった。
元々の地形から水害の危険に気づいていたので公爵家では以前より治水を行っていた。そのおかげで大きな被害を免れた。
その知識はラフェエルの母がもたらしたものだ。彼女はとても優秀で他国に留学し治水について学んでいた。その研究の後見をしていたのがフォスター公爵家であった。
不確かな魔力ではなく、人の知恵と技術で自然と共存することを願っていたそうだ。
その知識と技術をラフェエルは幼いころから教えられていた。
アンジェリカの従者をする傍ら、治水事業にも深く関わっていた。
その姿を領民たちは親しみを込めて見ていたので、ラフェエルの瞳の色が滅びた王家のそれと同じことを気にする者はいない。
ラフェエルは近いうちにアンジェリカの父の跡を継ぎ、次期大公となることが決まっているので日々多忙である。
あの北で過ごした日々で、お互いの気持ちを確かめ合い心と体が結ばれた瞬間の喜びは生涯忘れることはないだろう。
あの日を思い出せばどんなに辛いことがあってもラフェエルを信じてついていける。
フォスター公爵領に戻る前にラフェエルはアンジェリカにプロポーズをしてくれた。
一面のラベンダー畑の真ん中で、ラベンダーが風に揺れる音だけを聞きながら、まるで世界には二人だけのような空間で、アンジェリカをその太く逞しい腕で抱きしめたままはっきりと言葉にしてくれた。
「アンジェリカ、お前を愛してる。必ず幸せにすると誓うから、これからの人生を俺と共に生きてほしい」
そのときのラフェエルはいつもと変わらぬ冷静さなのに、抱きしめる腕が僅かに震えていることに気付いた。そのことがアンジェリカの胸を切なく締め付ける。
アンジェリカはこのとき、喜びで涙が止まらなくなることをはじめて知った。
しゃくり上げながらなんとか、はいと答えるのが精一杯だったがラフェエルは正確に聞き取ってくれて抱きしめてくれた。
それからの毎日は大変なこともあったが、アンジェリカは不安を感じたことはない。
ラフェエルはいつだってアンジェリカを優先して大事にしてくれる。
アンジェリカと息子をとても愛してくれている。
「アンジェ、アレックスは眠ったのか?」
「ええ、ぐっすりよ」
ベビーベッドにそっとアレックスを寝かせる。
精悍な男がアンジェリカの側に寄り添う。
年々素敵になっていくラフェエルにアンジェリカはいつだって恋をしている。
ラフェエルはアレックスの頬を愛おしそうに撫でる。
「じゃあ、これから夫婦の時間を過ごそうか」
柔らかな笑みを見せてラフェエルはアンジェリカを抱き上げて庭へ出る。
近くにいる乳母に目配せでアレックスを頼む。
「もう、体は大丈夫よ。エル、自分で歩くわ」
アンジェリカの出産の苦しみを見てからラフェエルはより過保護になった。
「俺がこうしたいんだ。お願いだ、アンジェ」
そんな甘い声で言わないでほしい。
アンジェリカは肯定のつもりでラフェエルの頬に口づけた。
そして二人、寄り添って庭一面に咲くマーガレットを眺めていた。
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