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24.王妃様のありえない提案
ジョゼフィーヌが川に流されたという知らせはすぐに王宮に伝えられた。そして王家の騎士が派遣され捜索が行われたが三日で打ち切られた。お父様はジョゼフィーヌの無事を知っていたが、その事実を隠したままシャレット公爵家の騎士を使い捜索を継続した。それだけでは人手が足りないと宰相に依頼しドバリー公爵家の騎士も借りて、広範囲の捜索を行う。そうやってジッド侯爵の横領に関わる証拠探しをしたらしい。
王宮ではジッド侯爵の進言でジョゼフィーヌの生死不明によりアルバンとの婚約が解消された。ジッド侯爵はエステルに教育を施し、いずれは養子縁組をしてアルバンと婚約させるつもりでいる。
「急展開……」
「王家は一度婚約を解消した相手と再婚約できない決まりがあるから安心だな」
お父様はご満悦な表情である。
それにしてもたった三日で捜索を打ち切るなんて薄情じゃないかしら。四年もアルバンの婚約者として頑張ってきた最後がこれなの?
ジョゼフィーヌはふとリックの別れ際の言葉を思い出した。「ジョゼ。また会おう」と言った。きっとお父様からジョゼフィーヌとアルバンの婚約が解消されたことを知っていたからそう言ったのだ。
(それなら、私……期待していいの?)
「王家には一週間前にジョゼフィーヌが見つかったので安静にさせていると報告した。アルバン殿下が見舞いに来たいとおっしゃっていたが断った。ああ、一応勝手に送ってよこした見舞いの花はジョゼフィーヌの部屋に飾ってある。花には罪はないからな」
なるほど。さっき部屋に入ったら花屋さんかと思うほど花が花瓶に活けられていたのはそういう理由なのね。
「そう、一応心配はしてくれたのね」
アルバンに恋はしていないが友人というか弟のように思っていたので、あっさり切り捨てられたと思うとそれなりに傷つく。
「まあ、今回のことでアルバン殿下も大いに反省したようだ。私のところにもジョゼフィーヌを一人で視察先に行かせてしまったことへの詫び状が毎日届いていた。ジョゼフィーヌが無事だったから謝罪を受け取りはしたが、それでも許す気持ちにはなれん」
お父様は思い出したことでしかめっ面になっている。お母様も同意するように頷いた。
「あっ、お父様。このことリックは知っているのですか?」
「当然知らせてある。落ち着いたら婚約についても話し合うことになっているぞ」
「本当に?」
お父様とお母様が優しい目でジョゼフィーヌを見つめながら頷いた。
ジョゼフィーヌは両手を頬に当てた。頬が熱い。にわかに信じられない。リックとの結婚を夢見て諦めて、でも叶うの? 神様。お願いです。どうかこれ以上、妨害しないでください。
「ただ、回復したら一度王宮に顔を出すようにと連絡が来ている。王妃様がジョゼフィーヌと話がしたいらしい」
「王妃様が?」
「何の用なのか知らんが無視もできない」
「それなら明日にでも行ってきます。嫌なことは早く終わらせたいわ」
「わかった。王宮に連絡しておこう」
もしかして今までアルバンを支えてきたことを労ってくださるのかしら? ついでにアルバンにも挨拶していこう。今後は直接話をする機会も少なくなるし。
ジョゼフィーヌは気楽に考えて、翌日王宮に向かった。ところが王妃様から意外な、かつ大迷惑な申し出があり絶句した。
「……」
「聞いていたかしら? だからね。ジョゼフィーヌさんには今後アルバンの側室としてあの子を支えてあげてほしいの」
思わず耳を疑う。そして王妃様の常識を疑う。まずは不幸な事故にあったことを労わり無事を喜んでくださるのが普通では? 真っ先に「アルバンの側室になってくれる?」とか甘えた声で言われても迷惑千万! 神様はやっぱり私がお嫌いのようだ。
(それで私が「はい、喜んで!」とでも言うと思ったのかしら?)
「王族と一度婚約を解消した者の再婚約は許されておりません。これは決まりですので私の意思でどうにかなるものではございません」
王妃様なのに知らないの? ジョゼフィーヌは必死に憤りを隠し王妃様を静かに諭した……つもりだ。
「そうみたいね。でも大丈夫なのですって! ちょっとした抜け穴があって、アルバンがエステルさんと結婚したあとにジョゼフィーヌさんを側室にするぶんには特別扱いできるそうよ。何でも昔に王太子の婚約者だった人が政争に敗れて婚約を解消したそうなの。でもその女性を愛していた王様が諦められず、だからといって愛人にもできない。そこで側室にしたのですって」
(それは抜け穴ではなくルール違反を押し通しただけです。ああ、神様。ニコニコと笑う王妃様に殺意を抱いた私をお許しください)
いい話っぽく語っているけど、当時の王様のただの我儘よ。政争に敗れたということは王様はその女性を守れなかったということ。残酷だけどそれが政治なのだ。
「私の一存ではお返事いたしかねます。このことを陛下はご存じなのでしょうか?」
「陛下にはまだ言っていないわ。ジョゼフィーヌさんからシャレット公爵に伝えてもらった方がいいとジッド侯爵が教えてくれたの」
「王妃様。そもそもなぜ側室が必要なのですか?」
アルバンとエステル、思い合っている二人が結婚してめでたしめでたし。わざわざ側室を入れてる必要はない。
「それがね。ジッド侯爵の話だとエステルさんが王太子妃の教養やマナーを身に付けるのは難しそうなの。でもジョゼフィーヌさんが側室になって助けてくれれば問題が解決するわ。結婚式などの祭典が続くなら新しいドレスを作らなくてはいけないわね」
王妃様はウキウキと楽しそうに笑みを浮かべている。ジョゼフィーヌは王妃様と話をしていて気づいた。王妃様はアルバンの幸せを願っている風に発言をしているが、実際は心配していない。たぶん王妃様はドレスのことしか考えていないのだ。
王妃様はジッド侯爵に利用されている。しかも言いなりになっていて何も考えていない。この提案はジョゼフィーヌ、ひいてはシャレット公爵家を侮辱していることを理解していない。そしてジッド侯爵は陛下や王妃様が自分の味方だと思ってやりたい放題だ。
「アルバン殿下も同じお考えなのですか?」
「そのはずよ」
「そうですか……このあとアルバン殿下とお会いする予定ですのでお気持ちを直接お伺いして参ります」
お腹の奥から怒りがふつふつと湧いてくる。どれだけジョゼフィーヌを馬鹿にしたら気が済むのか。ジョゼフィーヌの気持ちを一ミリも考えていないその提案を受けることはない。お父様の力を借りて全力で阻止する。宰相も助けてくれるだろう。
王宮ではジッド侯爵の進言でジョゼフィーヌの生死不明によりアルバンとの婚約が解消された。ジッド侯爵はエステルに教育を施し、いずれは養子縁組をしてアルバンと婚約させるつもりでいる。
「急展開……」
「王家は一度婚約を解消した相手と再婚約できない決まりがあるから安心だな」
お父様はご満悦な表情である。
それにしてもたった三日で捜索を打ち切るなんて薄情じゃないかしら。四年もアルバンの婚約者として頑張ってきた最後がこれなの?
ジョゼフィーヌはふとリックの別れ際の言葉を思い出した。「ジョゼ。また会おう」と言った。きっとお父様からジョゼフィーヌとアルバンの婚約が解消されたことを知っていたからそう言ったのだ。
(それなら、私……期待していいの?)
「王家には一週間前にジョゼフィーヌが見つかったので安静にさせていると報告した。アルバン殿下が見舞いに来たいとおっしゃっていたが断った。ああ、一応勝手に送ってよこした見舞いの花はジョゼフィーヌの部屋に飾ってある。花には罪はないからな」
なるほど。さっき部屋に入ったら花屋さんかと思うほど花が花瓶に活けられていたのはそういう理由なのね。
「そう、一応心配はしてくれたのね」
アルバンに恋はしていないが友人というか弟のように思っていたので、あっさり切り捨てられたと思うとそれなりに傷つく。
「まあ、今回のことでアルバン殿下も大いに反省したようだ。私のところにもジョゼフィーヌを一人で視察先に行かせてしまったことへの詫び状が毎日届いていた。ジョゼフィーヌが無事だったから謝罪を受け取りはしたが、それでも許す気持ちにはなれん」
お父様は思い出したことでしかめっ面になっている。お母様も同意するように頷いた。
「あっ、お父様。このことリックは知っているのですか?」
「当然知らせてある。落ち着いたら婚約についても話し合うことになっているぞ」
「本当に?」
お父様とお母様が優しい目でジョゼフィーヌを見つめながら頷いた。
ジョゼフィーヌは両手を頬に当てた。頬が熱い。にわかに信じられない。リックとの結婚を夢見て諦めて、でも叶うの? 神様。お願いです。どうかこれ以上、妨害しないでください。
「ただ、回復したら一度王宮に顔を出すようにと連絡が来ている。王妃様がジョゼフィーヌと話がしたいらしい」
「王妃様が?」
「何の用なのか知らんが無視もできない」
「それなら明日にでも行ってきます。嫌なことは早く終わらせたいわ」
「わかった。王宮に連絡しておこう」
もしかして今までアルバンを支えてきたことを労ってくださるのかしら? ついでにアルバンにも挨拶していこう。今後は直接話をする機会も少なくなるし。
ジョゼフィーヌは気楽に考えて、翌日王宮に向かった。ところが王妃様から意外な、かつ大迷惑な申し出があり絶句した。
「……」
「聞いていたかしら? だからね。ジョゼフィーヌさんには今後アルバンの側室としてあの子を支えてあげてほしいの」
思わず耳を疑う。そして王妃様の常識を疑う。まずは不幸な事故にあったことを労わり無事を喜んでくださるのが普通では? 真っ先に「アルバンの側室になってくれる?」とか甘えた声で言われても迷惑千万! 神様はやっぱり私がお嫌いのようだ。
(それで私が「はい、喜んで!」とでも言うと思ったのかしら?)
「王族と一度婚約を解消した者の再婚約は許されておりません。これは決まりですので私の意思でどうにかなるものではございません」
王妃様なのに知らないの? ジョゼフィーヌは必死に憤りを隠し王妃様を静かに諭した……つもりだ。
「そうみたいね。でも大丈夫なのですって! ちょっとした抜け穴があって、アルバンがエステルさんと結婚したあとにジョゼフィーヌさんを側室にするぶんには特別扱いできるそうよ。何でも昔に王太子の婚約者だった人が政争に敗れて婚約を解消したそうなの。でもその女性を愛していた王様が諦められず、だからといって愛人にもできない。そこで側室にしたのですって」
(それは抜け穴ではなくルール違反を押し通しただけです。ああ、神様。ニコニコと笑う王妃様に殺意を抱いた私をお許しください)
いい話っぽく語っているけど、当時の王様のただの我儘よ。政争に敗れたということは王様はその女性を守れなかったということ。残酷だけどそれが政治なのだ。
「私の一存ではお返事いたしかねます。このことを陛下はご存じなのでしょうか?」
「陛下にはまだ言っていないわ。ジョゼフィーヌさんからシャレット公爵に伝えてもらった方がいいとジッド侯爵が教えてくれたの」
「王妃様。そもそもなぜ側室が必要なのですか?」
アルバンとエステル、思い合っている二人が結婚してめでたしめでたし。わざわざ側室を入れてる必要はない。
「それがね。ジッド侯爵の話だとエステルさんが王太子妃の教養やマナーを身に付けるのは難しそうなの。でもジョゼフィーヌさんが側室になって助けてくれれば問題が解決するわ。結婚式などの祭典が続くなら新しいドレスを作らなくてはいけないわね」
王妃様はウキウキと楽しそうに笑みを浮かべている。ジョゼフィーヌは王妃様と話をしていて気づいた。王妃様はアルバンの幸せを願っている風に発言をしているが、実際は心配していない。たぶん王妃様はドレスのことしか考えていないのだ。
王妃様はジッド侯爵に利用されている。しかも言いなりになっていて何も考えていない。この提案はジョゼフィーヌ、ひいてはシャレット公爵家を侮辱していることを理解していない。そしてジッド侯爵は陛下や王妃様が自分の味方だと思ってやりたい放題だ。
「アルバン殿下も同じお考えなのですか?」
「そのはずよ」
「そうですか……このあとアルバン殿下とお会いする予定ですのでお気持ちを直接お伺いして参ります」
お腹の奥から怒りがふつふつと湧いてくる。どれだけジョゼフィーヌを馬鹿にしたら気が済むのか。ジョゼフィーヌの気持ちを一ミリも考えていないその提案を受けることはない。お父様の力を借りて全力で阻止する。宰相も助けてくれるだろう。
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