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Chapter_2:コーズ&エフェクト

Note_34

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 キャンソン姉弟は泊まる宿を探している。タイタン号に戻った場合、門前の役人が待ち構える。再入場は不可能である。よって【セカンドステップ】内のホテルに泊まることになる。

 シングル、ツインの部屋はほとんど取られている。他の宿屋を探すも、3軒ほど回ってようやく空室を見つけた。しかし、重要な問題に当たる。


「……またダブルだけ空いてるってさ……それもセパレート無し。」

「……ったく、何だよこの街は……。すごく気色悪いな……。」


 2人分を1つにまとめたベッド、それを共にするのがダブルだ。この街のホテルの個室は、“ダブル”の比率が異様に多い。

 レオはこの事情についてサドに尋ねる。


「……どうして3軒連続で“ダブル”だけ空いているって状況になるんだよ!?しかも相部屋の可能性もあるのにセパレートも無い……政府の管理下にある街じゃねぇのかよ?」

「僕にも分からない。どうしてこんな不便なことを堂々と……。」


 理解が追いつかない2人に、サドから声が聞こえてくる。


『……私の番ですね。一応、調べました。』


 マークスリーが話す。レオが呆れる。


「別にそんな関係ないこと、調べなくてもいいだろ。それより、他に空いてる場所とかあんのか?」

『……他もダブルですね。』

「えぇ……」

「政府は何考えてんだよ……。」

『……元々ここは、【フォニカ・エンダー】さんの土地だったそうですね。それを同じエンダー家の【ロキ・エンダー】さんが支配権を獲得してから、この体制が敷かれていますね。』

「えっ……ロキが?」


 サドがマークⅢの話に反応する。レオは話の詳細を聞く。


「そのロキって奴が何なんだ?フォニカって奴も敵なのか……?」

「ロキはエンダー家の次女。まがうことなき、レジスタンスの敵さ。キャンプを襲っては陥落を目指す、どんな手を使ってでも成功させる手腕を持っている。

フォニカさんは……本部にいた頃でも見たことすらない。生い立ちすら【上級機密事項】として厳重に守られている。」

「……なら、楽しみだな。少なくともロキって奴に一泡吹かせるチャンスだろ?……上等だ。」


 レオは待ちわびている。


「……んで、残りの部屋は?」

『あっ、ここのダブルしか無いですね。』

「えっ!?早くしないと!」


 サドは急ぎフロントへ向かう。レオはため息をついた。せわしない姉弟である。


_____


 無事、部屋にたどり着く。上品だが優しい暖色のスタイルであった。

 レオはサドに問う。


「……どうすんの、これ。」

「一徹するから独り占めしていいよ。今日はもう仕方ないし。」

「そうか。」


 レオは端末で保存したアニメを、オフラインで見始める。

 サドは端末で保存した地図から、事前に場所を確認する。

 お通夜の如く、室内は静かになっている。

 痺れを切らしたマークⅢが姉弟に言う。


『2人ともなんで一緒に寝ないんですか?』

「「………。」」

『どうして黙るんですか?2人とも仲良しなんじゃないんですか?』

「そうだけどさ……」

「あんたさぁ……“デリカシー”って言葉知らねぇのか?2つに分けられるならまだしも、一緒に寝るのはさすがに恥ずかしいだろ。」


 マークⅢがある者の名を借りて言う。


『……ロキさんの思惑としては、2人の親愛を更に深めることを目的にしているそうです。

今ある絆を更に強くする重要な役割を担っているとも言っていますよ?』


 サドとレオは反論する。


「ロキが言ってるのってさ……女の子2人の時じゃないかい?あの人は大の女好きの噂があるのに。」

「女同士でもダブルは近すぎるな……。いつも1人で寝てるからよ……。」


 マークⅢは何とか説得しようと話す。


『特にカップルとかで使えば、速攻でいちゃつくはずで……』

「「ラブホじゃねぇないか!///」」


 レオとサドは息が合う。マークⅢはしばらく黙って様子をうかがうことにした。



 サドは情報の整理を終えて、外に出る準備をする。レオは聞く。


(……腹減った。ロボなのに超不便……。)

「サド?飯はどうすんだ?」

「ホテルはモーニングだし、外食かな。」

「一緒に行こうぜ。」

「……いいけど。」


 レオも端末を持って、武器を装備して外に出る。意気揚々と出かける準備を済ませた。


「早く行こうぜ!」

「待って!」


 サドも支度を終えて、部屋を出て歩み始める。静かな道を2人は共にした。


_____


 夜中、人気ひとけの無い道に立ち寄りさまよう女性が1人、何かから逃げていた。表に出れば、見慣れない人達。裏へと向かうと断崖絶壁。逃げ場などないのだ。

 しかし、彼女は逃げた。自分以外のすべてから、身を守るために。彼女は思う。


(……どうやって帰ればいいの……?地球からどれぐらい離れているの?何も分からない……。)


 女性は鉄柵を掴み、奥の壁を見つめる。


「あれ~?こんなところに……。」


 タトゥー入りの男衆が寄ってくる。


「え~!綺麗じゃん!どこから来たの?」
「飯に行くなら一緒に行かねぇか?」
「遊ぼ~ぜ!暇なんだよ~。」
「ドライブに行かねぇか!?」
「ウェ~イ!姫様ウェ~イ!」

「いや~、その~、あの~……」


 彼女は突然の勧誘に慌てていた。それを仲裁するように女性の一喝が聞こえる。


「テメェら、ここで何やってんだ?」

「ゲッ!まさかサツか?お前ら!とっととトンズラこくぜ!」


 男衆は怯んで退却する。顔に大きな傷を負った女性が、配下の女衆4人を率いて、彼女に近づき一目見る。


「ここは、立入禁止区域だ。それを知ってここにいるってことは……文句は言えねぇな?」

「えっ……いや、すみません!私、ここのこと何も知らなくて……。」


 大傷の女性が睨みつけ、いたいけな女性を脅している。上から目線で話を続ける。


「何も知らなくても、あの標識ぐらいは分かるんじゃねぇのか?」


 赤い✕の字が書かれている。彼女から見れば大体は分かる。しかし、どんなものなのかまでは知らなかった。


「……仕方ねぇなぁ……色々教えてやるよ。この世界のイロハについてよ!」

「ちょっ、嫌っ!離して!」


 強引に腕を掴んできた。すごく力強くて、話してからも痛い。この世界で、怖いことばかりが彼女を襲ってくる。

 自分は傷つくばかりで、相手のなすがままにされかねない。


「女の子は女の子に何したっていいんだよ。こういうご時世に生きてんだ。

……知らねぇならとことん付き合うぜ。」

(……痛い!嫌だ!助けて!怖い!

……誰か……)

「嫌!離して!」

「……文句言う資格なんかねぇんだよ。お前も追われてる身なんだ。いい加減にしろ!」


 鍛えられた人間の左腕で、顔をはたかれた。この星の洗礼を受ける。


(ここはどこなの……誰か……誰でもいいから……!)


 美女が助けを求めた。頼りになる人は誰も近くにいない。たくましい左腕に無理やり引き寄せられかける。

 そこにある1台の白黒のロボが姿を現した。粗暴な左腕を弾く。


「……何だこのガラクタ。」

「おいおい!姉貴の邪魔するたぁ、最低な野郎だな……間に入ってんじゃねぇよ!せっかくの雰囲気によぉ!」


 ロボは語らない。大傷の女性は憤る。


「体張って止めたんだ。大事な人だろ?でもそれを守れるのは私らだけなんだ……。

……手を引いてくれねぇか?」


 美女は逃げて遠くから見届ける。


「あっ、コラ!」

「……この落とし前はつけてもらうぞ。」


 敵は武器を構える。刃物、銃、爆弾。女性に向けるには、いささか物騒なものばかりである。

 しかし向けた先は、目の前にある若干小さい人型ロボ。早速、銃を撃ち込む。しかしロボは無傷である。


「オラッ!」


 鋼鉄をも斬る刃物を振りかぶるが、頑丈な鎧に弾かれ、刃物が折れてしまう。


「えっ!!?えっ!?」

「離れな!」


 大傷の女が爆弾を投げる。ロボは受け取って、上に投げつけて爆発させる。淡々と作業のように敵を投げたり、脚で敵の義肢を破壊する。

 軽い格闘で敵をいなして圧倒する。武器もいらない。ガラクタの名は【P-botピーボット_mk.ⅢマークⅢ】、硬い装甲で身を守り、攻撃を通さない。

 マークⅢは倒れている5人に近づく。


「やっべ……コイツ……」
「どういう事だよ……こんなふざけた格好で……オンボロじゃねーのかよ……。」
「腕が……!」
「義肢だろ?そんな喚くな。」

「……くっそ……。」


 大傷の女に対して、ゆっくりと近づく。近づいてきたマークⅢに、右腕をまっすぐ差し出す。


「舐めんな!」



 一撃がマークⅢを包む。鉄柵が斬り裂かれ、崖にめがけて吹き飛ぶ。強力な【電磁砲】が大傷の女の切り札であった。

 後ろの木に隠れる美女も風圧にやられる。彼女に武器はない。何も手を出せない。守るすべも無い。



「………。」


 無傷。後ろの美女も多少、驚きつつも何とか無事であった。

 マークⅢはビームソードで的確に突き刺して、右腕の義手を破壊する。大傷の女は少し退いて立ち上がり、この場を後にしようとする。


「……認めてやるよ。今回はな……

……お前ら!行くぞ。」


 5人は走り去った。マークⅢは後ろの女性に自分の声で話しかける。


『後は大丈夫ですよ!もう、みんな逃げちゃいましたんで!』


 女性は恐る恐る、周囲を見渡しつつ他の人がいないか確かめてからマークⅢに近寄る。一回だけ触れようとするが、まずは名前を聞く。


「あなた、一体何者……?」

『私は……』

(マークⅢ。初対面の人だから……慎重にお願い。)

(分かってますよ!)

『……私はレオ様の……』

(待って!それで行くなら……僕の体でやった方がいい。入ったときと合わせた方が楽だよ。)

(……分かりましたよ……。)


 マークⅢはハニカムに包まれ、桃毛の少年、サドの肉体に差し戻した。ただし、声はそのままで行く。


『私は、レオ様の特注品オーダーメイドのアンドロイド、【ディオン】と申します!』

「……色々あり過ぎてもう……」


 女性は唐突な展開に追いつけない。そこに更にもう1人、桃毛の女性がやって来た。レオであった。


「サド、調子はどうだ?」

『あっ……』


 レオが突然割り込んで、彼の本名を明らかにした。不運なことに、他の人も耳にしている。


「ええと、あなたがレオさん?すぐにお願いがあるの!ここ立入禁止みたいだから別の場所に行きましょ!」

「お……おう。サド、行くぞ。」


 サドは既に偽名で通すことを諦めていた。


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