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Chapter_3:機械工の性

Note_64

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 【トレザーコロニー】の中央にある塔に向かって、各エリアからギャング達が集まってくる。サイレンの音に引き寄せられ、【アルデバラン】のチームリーダー達がやってくる。

 彼らの目的は本部を守るため、将又はたまたいたずら少女を捕らえるためのいずれかである。桃毛の少年少女にやり返さんと、躍起になっていた。

 レオはアメリアと一緒に外を眺める。白い街灯は、エリアをより一層寂れた空間に仕立て上げる。今の彼らの感情は、この眺望のように燃え尽きる虚無感に苛まれていた。

 再び横一列になって、レオはアメリアに話しかける。


「ミアの件について、サドを許してやってくれねぇか?私らが会うより前からプログラムを施されていた……手遅れだったんだ。」

「ソフィが私達を始末するように組み込んだんでしょ?

……それで、元に戻るの?」


 レオは首を横に振る。


「初期化が一番楽だが、次いで最新システムの復旧が時間はかかるができるらしい……でも違うんだよな?」

「……本当は……ね。」

「改変される前のコードに戻したいって思ってんだろ。」


 アメリアは実際、ミアの人質に取られて銃を突きつけられた。ミアは失態を犯したチームメイトのみならず、その幼馴染にまで手をかけようとした。

 命令式を組み込んだのは、紛れもなくソフィだろう。遠隔からコーディングを行い、始末するよう変更したのだ。

 アメリアは全てを察した。


「手遅れなんだ。ソフィがその履歴を消した。元のミアに戻すことはできない。」

「………。」


 レオは静かにアメリアを見守る。

 アメリアは何かを決心したように、サドに近づいて命じた。


「……初期化でいいわ、お願い。」


 サドは静かにミアの前に座っていた。アメリアの話を受け、確認を取る。


「初期化すると、今までのミアの記憶も学習も無かったことになります。あなたの事も忘れることでしょう。あなたが施した更新プログラムも作り直しになります。

……それでも、よろしいのですか?」

「その方がいいよ。私を傷つけたことに苦しむぐらいなら、もう一回、一緒にいるのが良いと思う。」

「……後悔しないでください。」


 サドはミアを端末から初期化していく。ウイルスが消されていき、今までの記憶も経験も霧のごとく散っていく。

 立ち上がり、アメリアに報告する。


「……ミアを初期化しました。」


 アメリアは涙を流した。ミアの終わりを受け入れ、新たな始まりを迎えられることを少しだけ喜んでいた。

 自分が生きていたこと、ミアが廃棄されなかったこと、いずれも成し遂げずに、今の状況は起こり得なかった。

 アメリアは静かに彼女の目覚めを待つ。

 外を見れば、ミアが化けたレオとサドを目当てに、【アルデバラン】の者達が機体を囲んで待っていた。武器を持ち、機体でどこまでも追うつもりだ。

 レオはサドに尋ねる。


「外に奴らがいる。機体はあるか?」

「待ってて!マークⅢ!」

『上にあるそうですね!どうやって降りるのかは知らないんですが!』

「一か八かってことか……ったく。」


 レオは焦りを一瞬見せつつも、笑顔でアメリアに別れを告げる。


「わりぃ、私らもう帰るわ。行くぞ!」

「えっ、ちょっと!何か詫びを……」

「別にいいよ友達ダチだし。平和になったらまた会おうぜ。」

「はぁ!?」

「じゃ、またな!」

「ちょっと~~~!!!」


 レオはサドを連れて上の階へと走る。アメリアは1人置いていかれ、しばらく待っていた。一向に起きてこないミアを待ち続けた。

 その時に通話がかかる。パーバからだった。


『アメリアか……?聞いてくれ……今、連中がサイレンに気づいて周囲を封鎖している。俺は塔の裏道にいる。そっちは影になっていてバレないはずだ。

ミアの所有者であるお前の身も危ない。1階で待ち合わせする。奴らが解散するまで、機体の中で休んでくれ。

……レオさんはどうした?』


 アメリアは、道の先を見ながら答える。

「もう行っちゃった。弟君も一緒にね。」

『そうか。なら1人で来れるか?』

「いや……それが……」


 アメリアは振り向く。ミアが起き上がり、初めて来たかのように周囲を見渡していた。


『……どうした?』

「……ミア?」


 ミアはこちらを向いてきた。


_____


 姉弟は移動用機体の駐機場へと入る。先に出口を探していく。


『あの……』


 マークⅢが何か言いたげにしていた。


「どうしたのさ?」

『ごめんなさい!私が感情に任せて、彼女を逃がしたばかりに……』

「何も、その方が良いって考えたんでしょ?」


 サドは上を向いた。


『はい。』

「それが間違いだった。この事を次に活かせばいいよ。もう過ぎたこと、解決したことなんだし。

この星に来てから、まだ1年も経っていない。まだ学ぶべきことがたくさんあるはずなんだ。未熟な分は、経験を積み重ねて補えばいい。

マークⅢだってAIなんだから、学んだ分だけ強くなり得る。失敗は……次に活かすのさ。」


 サドは楽観的に助言を入れる。レオは2人の話を傍から聞いて、マークⅢに1つだけ問う。


「あんた、ミアを一度見逃したのか?」

「一度だけ。」

『アメリアさんを危険に晒してしまいました。私がミアを押さえつけなかったので。』


 AI自身に台詞セリフに合った口調で話すよう学習できても、感情そのものを生み出すプログラムは無い。

 レオは気にせず疑問を抱く。


「……情に流されたのか。AIに感情が芽生えてんのか?」

「マークⅢはそもそも交渉に特化しているロボだから、自ら暴力を振るうことに抵抗があったと思う。

強制させるようで、本当に申し訳ないことをさせたと思う。」

『……それはさておき、ここは裏口みたいな場所がなく、窓から直接飛び降りる形になるそうですね。上にも下にも見当たりません。』


 ガラスの破片が床に散らばっている。4階からとなると、かなりの高さになる。しかし1階の正面から行っても他の機体に止められうる。

 先に進むと、2mメートル級の移動用機体がある。後ろに掴める取っ手が1つある、1人乗りのロボであった。

 レオは近づき、機体の動作について確認する。警報の中、緊急避難用の機体が丸出しにされていた。いくつか使用中で1つだけ残っている。鍵も必要なかった。


「……後ろに席も無いな。」

「エンジンは動く?」

「動くけど、この高所で2人はきつそうだな。」


 後方の取っ手に着目する。そして、レオは少し考えてからサドに提案する。


「……私が運転する。後ろに乗れるか?」

「分かった。でも慎重にお願い。」

「別に早くたどり着けばいいだろ?」

「えっ。」

「とりあえず乗れ。」


 有無を言わず、サドは取っ手を掴んで後ろに立つ。実質2人乗りであった。

 レオは前進を始める。窓の方向は、丁度タイタン号への道となる。


「サブキャンプの時を思い出すな。」

「これ1機しかないから慎重に……」

「行くぜ!」


 急発進させて、正面の窓を突き破った。





 機体は宙を浮き、まっすぐ前へと突き進む。サドは取っ手にしがみつく。機体は軌道に乗って下に落ちていき、敵の包囲網へと直進する。




「「「ウワアアアアアァァァッッ!!」」」


 無事、着地する。そのまま一般道へと突き進んでいく。

 間一髪のところで回避した。幸いギャング達から、負傷者は出なかったようだ。


「桃毛のガキ共だ!すぐに追え!しばき倒してやらァ!」


 ギャング達はそれぞれの機体に乗り込み、姉弟の後を追う。コロニーの一般道にて、本格的に追撃戦を仕掛けるつもりだ。


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