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Episode③ 魂の居場所

第12章|みんなの記憶に残るもの <6>私たちの新商品プレゼン案(鶴木翼の回想  その4)

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<6>


 新宿イソタンでヒントを得て、私(と広瀬くん)が新製品として会社に提案してみようと決めたのは、
“控えめな甘さがありつつもスパイシーな、リラックスできる香りの柔軟剤”だった。


マーケティング課に配属されていた別の同期社員も巻き込んで、売り出すためのコンセプトを考えることにした。


「『豚の生姜焼きの香り』っていうわけにはいかないしね……もうちょっとロマンのある名前を付けたい。王さん、いいアイディアない? 」私が言った。


王さんは、大学生の頃から来日している中国人の男性で、私と広瀬くんの同期社員。日本語がとても上手だ。
フルネームは“ワン イェン”という。


「海外に売り出すときにも通じる名前がいいと思う。
そのままだけど“スパイシーノート”、あるいは……少し男性的なイメージが欲しいので、“サバンナの香り”? ライオンとか、野生があり強そうな景色イメージする」

王さんは頭の回転が速く、日頃の会議でも積極的に発言してくれるタイプだ。
『エイチアイ石鹸株式会社』の製品を、いずれ海外でも販売したいという目標を持ってくれているらしい。


「俺も『サバンナの香り』って名前はいいと思うよ。だけど気になるのは我が社のマスコット、リスの『ピップーカちゃん』と、どう馴染ませるかだよ。サバンナにリスっているの? 」広瀬くんが言った。


私はスマホを取り出した。

「調べてみよっか……。あ、サバンナにもリス、いるみたいだよ。木の上とかで暮らしてるらしい。ちょうどいいね」


「じゃあそれで行こう」


王さん、広瀬くん、私の意見がまとまった。




私と広瀬くんはその日、夜遅くまで会社に残ってプレゼン案を考えた。


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『サバンナの香り』は、
エイチアイ石鹸株式会社オリジナルの陽イオン界面活性剤配合による
高い機能性に、リラックス効果のある香りを合わせた
『ピップーカ・シリーズ』柔軟剤の新製品です。

香りのベースはフレッシュなシトラス感を持つベルガモットと、
草原や樹木を思わせるベチバー・シダーウッド。
ショウガ(ジンジャー)、コショウ(ペッパー)、クローブのアクセントで野生味を加え、
甘やかなトンカビーンズの香りを、強すぎない程度に組み合わせました。

この商品のメインターゲット層は、
都会で働く青壮年の男性ですが
心安らぐ自然体のアロマブレンドは、
誰かに見せるための自分ではなく、
ありのままの自分を愛したい、という気分の女性にもぴったりです。

身近で機能的な日用品でありながら、
甘すぎない癒しをくれて、個性的。

“わざとらしくないけど、プレミアム”な世界観を
ご提案したいと思います………

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