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Episode⑤ 女の勝ち組/女の負け組

第26章|女医 井場本花蓮の日常 <2>一人息子の晴久

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「ん♥ ここのお紅茶、本当に美味しいよね~。そういえば晴久くんのお迎え大丈夫? 今日、終わりの時間決まってる? 」

瑠璃子が息子のことを話題にした。

「うん、大丈夫。今日は小学校が終わったら、お手伝いの人にお迎えに行ってもらうことになってるから。そのあと習い事もあるし、私は夜まで自由時間」

今どきは、サザエさんやドラえもんの世界みたいに放課後、近所で子供を勝手に遊ばせておくことはできない。それにうちの場合は、多くのビジネスをやっていて、義父が過去、高額納税者リストに載っていたことなどもあり、誘拐犯にも本気で気をつける必要がある。

だから息子には二人、専用のお手伝いさんを付けて、送迎や細々した買い出しなど、私だけでは見きれないところをお願いしている。身元がしっかりした上品な定年後の男性と、気が利いて口の堅そうな中年女性を一人ずつ。彼らにはフルタイム正社員の平均給与同等の、十分な報酬を支払っている。

掃除や洗濯のような基本の家事は別のお手伝いさんに任せる。

その分、私は自分の医師としての仕事と、親子の絆づくりに集中できる。
たまにはこうして、友達とホテルのラウンジでお茶をする時間も作れる。

「そっか~。うちも娘のお迎え、お母さんに頼んでるわ。毎日毎日、仕事も育児も完璧になんてやってられへんもんね。あ、晴久くん、今も『KIMON』やってるん? 進度どのへん? そろそろうちも、算数だけでもやらせようかなと思って」

「うん、まぁ一応続けてるよ。確かH教材だったかな」

地道なプリントの反復学習で有名な『KIMON』は、中学受験勢の入門教材として人気だ。
小3冬の塾通いスタートまでに、小学校で習う範囲をKIMONで一通りやらせておく。
そのあと中学受験塾で応用問題の対策を学ぶ。

晴久はすでに小1の時点で、算数と国語は小6レベルまで、英語は中学修了レベルまで終わらせている。

と言っても、我が家は能力を勉強一点に全振りする教育方針ではやっていない。
スポーツも色々させるし、音楽もやらせている。まずは身体を強く鍛えて、小学校低学年のうちは勉強は無理なくやらせる程度と想定してきた。だから特別な圧をかけていないのに、自然と勉強を好み、良い成績を出してくれる。

家庭教師からも、国内最高の入学難易度で知られる『難汰ナンダ中学校』の合格が、十分に狙える子だと言われている。

井場本家の跡継ぎとしては、やはり医師免許は取ってほしいところだけれど、おそらくこの調子なら心配する必要はないだろう。

「晴久くん、天才やもんねぇ。子供が優秀ってのが一番羨ましいわ。お金じゃ買えないからね」

「天才、ってことはないよ。学習進度は進んでるけど、中身はただの小学生男子」

そう言いながらも自分の口の端がキュッと上がってしまうのを感じた。

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