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段蔵
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阿国と源二は思わぬ長居をしてしまったことを謝り、芝居小屋へ帰ることにした。
「提灯でもお貸しいたそうかな?」
「お気遣い有難し、されど今宵は望月(満月)。道は明るうございます。このままそぞろ歩きと洒落込みまする。」
板倉伊賀守と別れての帰り道、月は満ちていて頗る明るい。だが源二はいつの間にか押し黙ってしまい、異様な空気を漂わせだした。
「ねえ、どうしたのさ」阿国が尋ねるが「ああ、いや、何でも…」と源二は上の空である。
彼は先程の板倉の言葉に悩んでいた。阿国歌舞伎で町の者や板倉自身が気鬱を晴らせた事に対する感謝の意味で、配下の者に余計な詮議をさせないと言ったのであろうことは分かる。
だがなぜ最後にお日出のことを出したのか?お日出が豊臣の血筋であることを知っているのか?服部半蔵から情報が漏れているのか???
しばらく考えて板倉の言わんとしたことはこうであろうと推察する。
「阿国歌舞伎は観る者の鬱の気を晴らし暴動や打ち壊し等を未然に防ぐ効果があると思われるので、捕らえる・罰する等の事は当面の間は行わない。豊臣家に関わると思われる者がいるようだが女性であるのでお目溢しは可能だ。だが徳川の世を乱さんとする行いを為さんとするならば容赦なく処罰するゆえ、努々忘れる事なかれ」
源二は苦笑する。(わし自身は家康狸を倒さんと思っているが、お日出は貴族として育てられておるゆえ武家の意地や誇りは持ち合わせておらんかも知れぬ。本人に尋ねてみなければなるまいよ)
お日出が豊臣家再興を願わない時、わしはどうするかを考えていると左斜め前から殺気が突き刺さって来た。
源二は鍛え上げた戦場の勘で、咄嗟に阿国を守る位置に移動し飛んできた手裏剣を脇差で払いのける。
「なに?なんなの!!」と狼狽える阿国を制し「どなた様かな?誰かと間違うておられませぬかな?」と尋ねる。
闇から滲み出すように出てきた男が「思うた通りじゃ、お主からは並々ならぬ強者の匂いがする。お主を討って首を家康に持って行けば召し抱えて貰えるに相違ない」
源二は馬鹿馬鹿しくなった。豊臣が滅び、戦が無くなろうとしている世で誰が武功で新規召し抱えをしてくれるだろうか。
「お主、名は何と申す」源二が尋ねると、男は誇らしげに「わしは加藤段蔵、人呼んで『飛び加藤』と申す者である」と悪びれずに言う。
いよいよ此奴は馬鹿だと思いつつ「大阪が落ちて最早戦の種は尽きた。そのような中で武功によるお召し抱えなどあるはずもない。それをおわかりの上での悪行かな?」
「そ、そうなのか?では我はどうすれば良い?」
源二いやそれをわしに尋くか?と呆れながらも、使える駒は一つでも多い方が良いと思い「ならばわしと一緒に来るが良い」と飛び加藤に告げた。
「提灯でもお貸しいたそうかな?」
「お気遣い有難し、されど今宵は望月(満月)。道は明るうございます。このままそぞろ歩きと洒落込みまする。」
板倉伊賀守と別れての帰り道、月は満ちていて頗る明るい。だが源二はいつの間にか押し黙ってしまい、異様な空気を漂わせだした。
「ねえ、どうしたのさ」阿国が尋ねるが「ああ、いや、何でも…」と源二は上の空である。
彼は先程の板倉の言葉に悩んでいた。阿国歌舞伎で町の者や板倉自身が気鬱を晴らせた事に対する感謝の意味で、配下の者に余計な詮議をさせないと言ったのであろうことは分かる。
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「阿国歌舞伎は観る者の鬱の気を晴らし暴動や打ち壊し等を未然に防ぐ効果があると思われるので、捕らえる・罰する等の事は当面の間は行わない。豊臣家に関わると思われる者がいるようだが女性であるのでお目溢しは可能だ。だが徳川の世を乱さんとする行いを為さんとするならば容赦なく処罰するゆえ、努々忘れる事なかれ」
源二は苦笑する。(わし自身は家康狸を倒さんと思っているが、お日出は貴族として育てられておるゆえ武家の意地や誇りは持ち合わせておらんかも知れぬ。本人に尋ねてみなければなるまいよ)
お日出が豊臣家再興を願わない時、わしはどうするかを考えていると左斜め前から殺気が突き刺さって来た。
源二は鍛え上げた戦場の勘で、咄嗟に阿国を守る位置に移動し飛んできた手裏剣を脇差で払いのける。
「なに?なんなの!!」と狼狽える阿国を制し「どなた様かな?誰かと間違うておられませぬかな?」と尋ねる。
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