【完結】メゾン漆黒〜この町の鐘が鳴る時、誰かが死ぬ。

大杉巨樹

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第7章 因果

3 禍々しきノワールの現場

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 結局、沖芝おきしば管理官から聞き出せたのは、政府が妖化あやかしか現象のことを女子高生首無し連続殺人事件の初期段階から把握していたこと。そして首相の諮問機関が秘密裏に設置され、原因を探るべく努めたが突き止めることが出来ず、妖化した者を最大危険分子として処分することが最終決定されたこと。その決定は国家公安委員会を通じて警視庁、警察庁の上層部に通達されたこと。それだけだった。須田すだ聖蓮せいれん女子の目から血を流した生徒たちが現在どうなっているかについては、彼女は最後まで口を割らなかった。いや、おそらく知らされていないのだろう。

 女子高生首無し連続殺人事件は第一がC県、第二がT都、第三がA県で起こっており、禍津町まがつちょうが第四の現場となる。現在捜査はT都の警視庁が全体を仕切っており、K署に設置された捜査本部の沖芝管理官は所詮、全体から見れば下っ端でしかない。だが次に起きるとしたらH県だろうという予測を立てた人物が諮問機関にいたらしい。なぜ禍津町と予測出来たのか、その理由を知りたかったが、それも沖芝には知らされていなかった。彼女はただ、予め特別機動隊やその他の特殊部隊から選りすぐられた人員を引き連れてやって来て、全体本部の指示に従っているに過ぎない。

 浦安うらやすは管理官と別れてから彼女を会議へと見送り、自分はまず速水はやみのいる病院へ連絡を入れた。何とか緊急オペは乗り越え、現在ペースメーカーを着けた状態で第二の手術を待っているらしい。命を取り留めたことには安堵するが、意識はまだ戻らず生存確率も依然として低い。何とか生還してくれと望むとともに、須田すだの安否も気にかかる。こちらの生存確率もおそらく低いのだろう。今すぐにでも警視庁の本部を仕切っている参事官に掛け合いたいところだが、政府が決定したのであれば自分ごときがどう足掻こうともその決定は覆らない。

(二人とも、何とか生きていてくれ!)

 浦安には神に祈るしか術はなかった。だがそもそも、神はいるのだろうか?もしいるなら、なぜこんな仕打ちを我々に与えるのか?


 浦安は昨夜からK署に置いている車に乗り込んだ。今自分に出来ることは、結局捜査を続けることしかない。

(内閣府はどうあっても凶悪犯を片付けたということにしたいようだねえ)

 公民館で弓削ゆげ班の面々と打ち合わせをした折、朝霧あさぎりがそんなことを言っていたのを思い出す。あの時は誤魔化されたが、そもそも公安調査庁が禍津町まがつちょうに乗り込んできた理由はセフィロトなるコミューンを調査する為だ。公安調査庁が目を付けるということは、テロの可能性があるということ。室町むろまち室長は言っていた。今回起こっていることは一人の人物が起こしている可能性が高く、その人物がセフィロトと大きく関わっていると踏んでいる、と。そして具体的な候補として、五月山さつきやま天冥てんめい四條畷しじょうなわてすぐるという二人の名前が上がっている。五月山に関しては現在、弓削ゆげが張り付いていてくれるので、自分は四條畷の方にまずは当たってみるべきかもしれない。そもそも妖化という言葉は五月山から出たものであり、彼女の話もじっくり聞く必要がある。

 妖化現象…もしそれが一人の人物が企てたことだというなら、そいつを捕まえれば全て解決に繋がるのではないか?現在、自分は公安調査庁付きとなっており、その捜査が出来る立場なのだ。もし須田がまだ生かされているなら、その一人を捕まえることで助けてやれるかもしれない。急がなければ、そんな想いで浦安は朝霧へと電話をかけた。

『まこっちゃ~ん、今どこよ』

 すぐに電話に出た朝霧の第一声は相変わらず馴れ馴れしい場末のホストのようだ。

「あー、ちょっと昨夜からトラブルを抱えまして、今K署にいます」
『トラブル?って~ウケる。僕ら、ずっとトラブル続きじゃん?』
「まあそうなんですが…で、朝霧調査員はどこに?」
『どこにって、一緒にノワールに乗り込むって決めたでしょ?公民館で待ってるんだけど、今からそっち出るんじゃ両側から直接向かった方が早いねえ』
「分かりました。じゃあ、ノワールで、後ほど」

 浦安はこちらのトラブルのことは詳しく告げず、電話を切った。朝霧もこちらのトラブルについては興味ないみたいで、ノワールでの調査に乗り気なのは取り敢えずありがたかった。

 ノワール横の空き地に7時過ぎに到着する。朝霧の乗ってきたと思われる白いバンはすでに停めてあり、扉をノックすると眠そうな目を擦りながら出てきた。今年の夏は猛暑が続き、緑の多い禍津町でも朝から蒸し暑い。それでも朝霧は、律儀に紫のスーツに見を包んでいる。一張羅なのか何着も持っているのか、いつも同じスーツだ。相変わらずクマゼミの大合唱が寝不足の頭を揺らす。

 ノワールの入り口には規制テープが張られ、門の両側に禍津町の派出所から派遣された制服警官が立っている。そのうちの一人の顔を見て、浦安は眉を潜めた。

「「ご苦労さまです!」」

 敬礼し、声をかけてきたうちの一人がテープを持ち上げて通りやすくする。その警官の顔を浦安は礼を言いながら見据えた。その目線に、下卑た笑顔を向ける。忌野いまわのだ。彼には亡くなったお年寄りの家から金品を盗んでいるという疑惑があるのだが、ここ連日の事件で人手が無く、彼への聴取は後回しになっていた。そしてその後の橋爪はしづめの報告では、確か忌野は他の地域に転勤になったという話だったが……。

「人手不足ということで戻されたんですよ。自分、この町には詳しいんで」

 忌野にそのことを問うと、悪びれもなくそう答えた。浦安の訝しむ気持ちに呼応するように、二階のテラスに陣取るカラスが鳴き散らす。

「禍々しいものがいるねえ」

 朝霧がそんな声を漏らし、カラスのことを言っているのかと彼の視線を辿ると、左奥の犬小屋に向いていた。今朝はまだ寝ているのか、あの白い猪は出て来ない。取り敢えず忌野のことは後回しにして玄関で声をかけると、青井あおいがダイニングルームから出てきて二人を出迎えた。彼は相変わらず早起きだ。

「朝ご飯作ってたのかい?」
「はい。明彦あきひこさん、もういないんでもっとゆっくりでもいいんですけど、習慣ついちゃって」
「そっか…君も、今回は辛かったね」

 青井は寂し気に微笑んだ。その表情に、胸の奥がチリっと痛む。最近ずっと無表情で元気が無かったが、やはり親しかった住人があんな死に方をし、彼も堪えているのだろう。その言葉には寂寥感がこもっていた。

「ちぃ~っす!ちょおっと上がらせてもらうよ?」
「あ、こちらは一緒に捜査してる、朝霧あさぎり …調査員」

 朝霧の言葉は相変わらず軽い。刑事ではないので紹介の仕方を迷ったが、公安調査庁という名前は出さない方がいいだろうと判断した。

「どもっす。どうぞご自由に見て下さい。何かあればダイニングにいますから」

 青井が出してくれた来客用スリッパに履き替え、彼が部屋に引っ込むのを見てからまず、現場の3号室に向かう。扉に鍵はかかっておらず、中に入ると三国みくにが倒れていた形に白線が引かれ、遺体はすでに司法解剖に回されていた。捜査員たちは今頃まだK署で捜査会議中で、現場には誰もいない。ざっと見たところ、きのう浦安が見た時と変わりはないようだった。

「死亡推定時刻は2時から4時の間、首に何者かに噛まれたような裂傷があり、それが致命傷になったと思われます。その時刻にノワールにいた住人に一通り聞き込みをしたところ、きのうは夕方から三国の慰労会をやっていて、三国が部屋に戻ってからお開きになり、死亡推定時刻の間は全員部屋にいたそうで、まあ全員にアリバイが無いと言えますなあ」

 朝霧に橋爪はしづめから聞いた捜査内容を報告すると、朝霧はニヤッと笑い、浦安を指差した。

「え?何です?」
「まこっちゃんもそこにいたんだよねえ。ということはさ、まこっちゃんも犯人の可能性があるってことでしょ?」

 部屋にエアコンはついておらず、ヌメッとした空気に汗ばみ、スラックスからハンカチを出して仕切りに額の嫌な汗を拭いた。

「ま、まさか…あ、でも、部屋は鍵がかかっていて、完全に密室だったようです。あと、この建物自体には鍵はかかっておらず、いつでも誰でも入ろうと思えば入れる状況でしたね」

 状況説明が、まるで自分の弁明みたいになる。

「完全密室ねえ。それ、確かめたの?」
「あ、いやあ、面目ありません!実は私もダイニングで寝てしまってまして、青井に言われて三国を起こしに来た時に確かに扉に鍵はかかってるのは確認しました」

 見た目はチャラチャラしているが、現場を見る朝霧の目は意外に鋭い。きのう、彼に朝帰りだと揶揄されたのを思い出し、正直にその時の状況を打ち明けた。弓削ゆげの胸に触れているような場面を盗撮され、それが弱みになって酒を飲むのを断れなかったことまでは言えなかったが。ふーん、と鼻を鳴らし、朝霧の自分を見る冷めた目が痛い。

「あとさあ、何で三国はここで寝たんだろうね?直前に人が死んだこの場所で。気持ち悪いっしょ、普通」
「それは、部下想いの男だったらしく、髙瀬たかせを思っての行動ではないかと」

 浦安もかなり憔悴していた彼の姿を見ている。自分も今、部下を亡くすかもしれないという事態に直面し、そこは共感出来る感情だった。想いに沈みかけた浦安の横で、朝霧は大きなため息をつく。

「にしてもさあ~現場に二人も刑事がいたわけでしょ?なーにやってんだかねぇ~」

 朝霧に対して、初めて上司からものを言われてもいるような感覚がし、息の詰まった瞬間だった。自分のことはいい。だが、部下たちへの想いを語ってもこの男には通じないだろう。そんな乾いた感情の男に、浦安はつい、口を滑らせた。

「あと一つ、K市のマンションで殺された池田いけだなぎさと噛まれて死んだ点は似ていますが、こっちの遺体は血が抜かれている形跡は無かったようです」
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