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第9章 終焉
9 衝撃の真実
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「僕はね、何でもかんでも科学で説明しようとする風潮は好きではありません。きっとこの世にはまだまだ科学で説明出来ないことはある。ま、それを言うとまこっちゃんはじゃあ首だけお化けの存在も認めろと言うかもしれないけどね、まあそれはそれ、これはこれとして、僕の仮説を聞いてもらえるかな?」
浦安は朝霧に頷いたが、弾正は何も答えず、ただ無表情にグラスのバーボンを飲み干し、またボトルから琥珀の液を注いだ。南側のガラス戸からは夕闇が迫っていた。西洋人は虫の声が聞こえないという。浦安もこの夏、ひっきりなしに鳴くセミの声に慣れてしまい、意識してやっとヒグラシが鳴いていたのだと気づくことができた。少し間を置き、朝霧が語り出す。
「新左翼運動といえば既成政党の打倒、極端な極左集団になると資本主義社会の破壊を目指していました。あんたや四條畷さんも、多かれ少なかれそこを目指していたはずだ。けれども社会はその方向には進まなかった。やり切れない思いがあったでしょう。そんなあんたたちはこの禍津町へやって来ると、セフィロトというコミューンを立ち上げた。表向きは農業を中心にしたシンプルな生活を謳いながら、裏では人の神経作用を麻痺させる物質を開発していた。もうみなまで言わなくてもいいでしょう。一連の事件はその開発した物質によって起こしたんです。その神経作用物質には人の理性を破壊し、人を思うように操るなんてことも出来る代物だ。それにはずっと若くいられるというような特殊な作用も副作用的にあるのかもしれない。僕は科学者でないから詳しい仕組みは分かりません。それを今、特別施設にその物質を摂取したと思われる人たちを集めて物質の特定を進めているってわけです。そこでダンちゃんに折り入ってお願いです。僕らと一緒に来てそのシステムを教えてくれませんか?悪いようにはしません、政府に働きかけて何らかの交渉をしてもらってもいい。あんたの身柄は保証しますよ?」
弾正は目の前のグラスを睨みながらじっと聞いている。見たところ、動揺しているような素振りはない。
「おいおい、結構飛躍したな。元々はアキさんの密室殺人の話だったろ?そっちはどうなったんだい?」
弾正に話を戻され、朝霧はフッと鼻から息を吐き、唇を湿らす程度にバーボンを舐める。
「その詳しい経緯も正直教えて欲しいところなんですけどね、僕の推理はこうです。リーダーであるあなたに取って、一人の女性を奪い合うという三国と四條畷の私事には腹を立てていた。きっと自分たちで開発した神経作用物質が自分たちにも効いていたんでしょう、三国と四條畷の理性もおかしくなってきていた。でなければあんなオンブレチェック柄のシャツを使うなんていう稚拙な手も使わないでしょう。あなたはそんな使えなくなった三国や四條畷を危険視し、二人の諍いに乗じて処分することにした。あなたが直接手をかけることはない。あなたには忠実な下僕がいるじゃないですか。青井草太を使ったんですよ。青井がセフィロトのメンバーなのか、それともただあなたに操られていたのかは分かりません。どっちにしても青井はあなたの言う事には従順に従っていた。まずはスペアキーで三国の部屋に入り、終われば出る時に鍵をかける。管理人である青井には簡単なことです。警察庁はここんところをはぐらかしましたが、例え住人であろうと大家の家に侵入してスペアキーを取り、また元に戻すとなるとそれなりのリスクを伴います。そこへいくと青井なら誰にも怪しまれることなくそれが実行出来るわけです。さらに青井は四條畷を事件に巻き込まれたように見せかけて殺す。あの四條畷が死んだ日、青井が不自然に四條畷を追いかけて行ったのは、まこっちゃんも見てたっしょ?」
急に話を振られ、浦安は上体を反らせた。朝霧が弾正を詰める姿に、思わず前屈みになって聞き入っていた。朝霧に問われ、当日の青井の様子を思い起こす。
(四條畷さんが三国さんを殺したんすか?)
冷たく言い放った青井の言葉が脳裏を過った。あの日、青井にしてはきつい口調で四條畷にそう言った後、四條畷は顔を曇られてこのリビングから飛び出した。そしてすかさず青井がそれを追いかけたのだった。それから…頭の中に鐘の音が響き、一瞬気を失って出遅れた浦安と朝霧が三階に到着した時にはもう四條畷は事切れていた。玄関にいたはずの駐在の忌野が、いつの間にか三階まで上がって発砲したのだ。今、朝霧は青井が四條畷を殺したように言ったが、四條畷を殺したのは忌野だった。
「確かに、青井は四條畷を追いかけて行きました。でも四條畷を殺ったのは忌野だったのでは?」
浦安は疑問点をそのまま口にする。その時、弾正の哄笑する姿が目に入った。大口を開け、爆笑する弾正の声が場の雰囲気を変える。
「いい、アサっち、いいよー!語るに落ちるとはまさにこのことだな。あー傑作」
弾正は目に涙まで浮べて笑っていたのを、指でその涙を払い、緩んだ頬をパンパンと叩いた。
「な、何が可笑しいんです?」
「いやいや、アサっち、あんた小説家にでもなれば売れるんじゃね?架空の物語を作るのが上手いようだ」
そう言われた朝霧は弾正を睨んでいるが、先程までの余裕の表情は消えていた。弾正に指摘され、自分の誤ちに気づいているかのようでもある。
「俺もさ、一応探偵の端くれとしてここで起こった事件は俺なりに調べてたんだ。そして俺の見立てもアサっちと同じだよ。俺も、アキさんと傑は草太が殺したと踏んだ。そして聞いたんだ、本入にさ、お前が殺ったのかって。そしたら認めたよ。だから、間違いない。アキさんと傑を殺したのは草太だ。だがその理由は俺が指示したからじゃない。アサっち、あんたはそこを上手くすり替えようとしてきたが、調子に乗りすぎたな。傑は記録上は巡査の銃で撃たれたことになっているはずだ。なぜあんたに草太が殺ったった分かるんだ?」
四條畷を青井が殺した?青井の三国殺害を認めたのも意外だったが、さらに四條畷もとなると訳が分からない。朝霧がどう反論するかと見ると、彼は忌々しそうにただ口を真一文字に結んでいた。誰も話さないと見て、弾正が話を続ける。
「傑が死んだ日、草太は懐に拳銃を忍ばせてたんだ。そして屋根裏まで傑を追って撃つ。調べれば分かることだろ?傑の体の中にある銃弾は巡査が撃ったものではないってことがさ。そもそもあの巡査は早朝からここを張ってた。拳銃携帯指令が出たのはあの日の朝の会議からだろ?巡査は拳銃なんて持ってなかったんだよ。だがきっと、あの時の銃はもう処分されてるんだろう。あの日、最後に巡査の銃を手にしたのはアサっちだよな?その銃、ちゃんと警察に返したのかい?」
朝霧は相変わらず口を開かない。ここで黙ってしまうと弾正の言っていることを肯定するようなものなのだが…。
「ちょっと待ってくれ。青井が銃を持っていた?そんな訳ないだろう?なぜ彼がそんなもの待ってるんだ?」
朝霧の代わりに浦安が弾正に聞く。弾正は浦安に目を向け、ニヤリと笑った。
「知らぬはおっさんばかりなりってか?草太はな、公安調査庁様の潜入捜査官だったんだよ。おそらくはセフィロトを調べるために遣わされ、そして調べるうちにここ、ノワールの存在に行き当たった。丁度管理人の募集をしていたからな、一般人に成りすましてここに入り込んだってわけさ。草太がアキさんや傑を殺したのは俺の指示じゃない。大方アサっち、もしくは公安調査庁のお偉いさんから抹殺指令が出てたんだろ?公調は表向きには銃の所持は許されちゃいないが、裏でスパイみたいなことをしてる連中だ。必要とあらば銃だって忍ばせるって話よ。そしてさ、考えてもみなよ、一介の巡査にある程度の距離のある相手を一発で仕留める腕があるかい?草太が至近距離から撃ったんだよ」
弾正が何か衝撃的なことを口にしている。浦安の眉がみるみる上がっていく。この期に及んでも朝霧は口を開かない。弾正が得々として言葉を被せる。
「おっさんが腑に落ちないようなんでさらに教えてやるよ。おっさんは公調から第一の事件現場でオンブレチェック柄のシャツを着た男が目撃されているって情報を流してもらったんだろ?その目撃者ってさ、何を隠そう、草太だったって訳だ。大体あの時点ではまだ禍津町では目立った事件は起こってないんだぜ?誰が現場の七星の家の周辺を調べるんだよ。あの時点で目撃出来るのはそこに行った草太だけって話さ。情報提供者がいたんじゃない。調査員である草太自身から報告が上がったってだけなのさ。現場でオンブレチェックの服を着た男が逃げて行ったってことをな。だから傑が公調に目をつけられることになった。分かったかい?その辺の経緯が」
確かに、弾正の言うことは辻褄が合っている気がする。浦安は正面にいる朝霧の方に身を乗り出した。
「朝霧さん、本当なんですか?本当に、青井は調査員の一人だったんですか?」
すると、今度は朝霧が哄笑する。
「アッハッハ、いや~バレちゃってたかあ~。ダンちゃん、なかなかやるじゃん」
「おう、俺も探偵の端くれだからな、これくらいはな」
カチン、と二人がグラスを合わせる音が鳴る。そして二人はゴクゴクとバーボンロックを飲む。ここは真剣な場面のはずなのに、まるでゲームを興じているかのようにはしゃぐ二人に違和感を覚えた。何かが違う…理屈ではなく、人の心情としてそう思える。浦安もカラカラに乾いた喉を潤そうと目の前のグラスに手をつけた。氷が溶けて水割りくらいの濃さになったウイスキーが脳をやや弛緩した。何がおかしいか…まず朝霧だ。彼は四條畷を追って三階に上がった時、浦安と一緒に忌野の頭が飛ぶところを見ていた。きっと彼にしたらそれも幻覚だと言い張るのだろうが、あの場で拳銃の工作をしていたとなると冷静沈着に見えた朝霧の印象がかなり違ったものになる。そして弾正。彼は久遠寺で青井と楽しそうにしていたではないか。その青井が自分の親しかった三国や四條畷を殺したと知り、なぜあんなに一緒に楽しそうにしていられたのか?人として何か違う気がする。難しい顔をして二人を眺める浦安に、朝霧が指示を投げた。
「まあ推理合戦はこのくらいにしてさ、今日はダンちゃんを確保しに来たんだよね。そんでさ、語るに落ちるとはこのことだって言葉、そっくりダンちゃんにお返しするよ。聞いていると、草太はすでにダンちゃんにかなりの情報を漏らしていまっているようだねぇ。つまりそれは、あんたに洗脳されて操られてるってわけだ。つまり、あんたこそがセフィロトの首謀者だって自分で言ったようなもんだよね。まこっちゃーん、というわけだからさ、早くその男に手錠嵌めて!持ってるでしょ?」
朝霧のその言葉と同時に、弾正がソファの上にピョンと飛び乗る。
「おおっと、そうくる?悪いけどさ、俺はまだ捕まるわけにいかないんだわ」
そして軽い身のこなしでヒョイッとソファを飛び越え、ダイニングルームを飛び出した。
浦安は朝霧に頷いたが、弾正は何も答えず、ただ無表情にグラスのバーボンを飲み干し、またボトルから琥珀の液を注いだ。南側のガラス戸からは夕闇が迫っていた。西洋人は虫の声が聞こえないという。浦安もこの夏、ひっきりなしに鳴くセミの声に慣れてしまい、意識してやっとヒグラシが鳴いていたのだと気づくことができた。少し間を置き、朝霧が語り出す。
「新左翼運動といえば既成政党の打倒、極端な極左集団になると資本主義社会の破壊を目指していました。あんたや四條畷さんも、多かれ少なかれそこを目指していたはずだ。けれども社会はその方向には進まなかった。やり切れない思いがあったでしょう。そんなあんたたちはこの禍津町へやって来ると、セフィロトというコミューンを立ち上げた。表向きは農業を中心にしたシンプルな生活を謳いながら、裏では人の神経作用を麻痺させる物質を開発していた。もうみなまで言わなくてもいいでしょう。一連の事件はその開発した物質によって起こしたんです。その神経作用物質には人の理性を破壊し、人を思うように操るなんてことも出来る代物だ。それにはずっと若くいられるというような特殊な作用も副作用的にあるのかもしれない。僕は科学者でないから詳しい仕組みは分かりません。それを今、特別施設にその物質を摂取したと思われる人たちを集めて物質の特定を進めているってわけです。そこでダンちゃんに折り入ってお願いです。僕らと一緒に来てそのシステムを教えてくれませんか?悪いようにはしません、政府に働きかけて何らかの交渉をしてもらってもいい。あんたの身柄は保証しますよ?」
弾正は目の前のグラスを睨みながらじっと聞いている。見たところ、動揺しているような素振りはない。
「おいおい、結構飛躍したな。元々はアキさんの密室殺人の話だったろ?そっちはどうなったんだい?」
弾正に話を戻され、朝霧はフッと鼻から息を吐き、唇を湿らす程度にバーボンを舐める。
「その詳しい経緯も正直教えて欲しいところなんですけどね、僕の推理はこうです。リーダーであるあなたに取って、一人の女性を奪い合うという三国と四條畷の私事には腹を立てていた。きっと自分たちで開発した神経作用物質が自分たちにも効いていたんでしょう、三国と四條畷の理性もおかしくなってきていた。でなければあんなオンブレチェック柄のシャツを使うなんていう稚拙な手も使わないでしょう。あなたはそんな使えなくなった三国や四條畷を危険視し、二人の諍いに乗じて処分することにした。あなたが直接手をかけることはない。あなたには忠実な下僕がいるじゃないですか。青井草太を使ったんですよ。青井がセフィロトのメンバーなのか、それともただあなたに操られていたのかは分かりません。どっちにしても青井はあなたの言う事には従順に従っていた。まずはスペアキーで三国の部屋に入り、終われば出る時に鍵をかける。管理人である青井には簡単なことです。警察庁はここんところをはぐらかしましたが、例え住人であろうと大家の家に侵入してスペアキーを取り、また元に戻すとなるとそれなりのリスクを伴います。そこへいくと青井なら誰にも怪しまれることなくそれが実行出来るわけです。さらに青井は四條畷を事件に巻き込まれたように見せかけて殺す。あの四條畷が死んだ日、青井が不自然に四條畷を追いかけて行ったのは、まこっちゃんも見てたっしょ?」
急に話を振られ、浦安は上体を反らせた。朝霧が弾正を詰める姿に、思わず前屈みになって聞き入っていた。朝霧に問われ、当日の青井の様子を思い起こす。
(四條畷さんが三国さんを殺したんすか?)
冷たく言い放った青井の言葉が脳裏を過った。あの日、青井にしてはきつい口調で四條畷にそう言った後、四條畷は顔を曇られてこのリビングから飛び出した。そしてすかさず青井がそれを追いかけたのだった。それから…頭の中に鐘の音が響き、一瞬気を失って出遅れた浦安と朝霧が三階に到着した時にはもう四條畷は事切れていた。玄関にいたはずの駐在の忌野が、いつの間にか三階まで上がって発砲したのだ。今、朝霧は青井が四條畷を殺したように言ったが、四條畷を殺したのは忌野だった。
「確かに、青井は四條畷を追いかけて行きました。でも四條畷を殺ったのは忌野だったのでは?」
浦安は疑問点をそのまま口にする。その時、弾正の哄笑する姿が目に入った。大口を開け、爆笑する弾正の声が場の雰囲気を変える。
「いい、アサっち、いいよー!語るに落ちるとはまさにこのことだな。あー傑作」
弾正は目に涙まで浮べて笑っていたのを、指でその涙を払い、緩んだ頬をパンパンと叩いた。
「な、何が可笑しいんです?」
「いやいや、アサっち、あんた小説家にでもなれば売れるんじゃね?架空の物語を作るのが上手いようだ」
そう言われた朝霧は弾正を睨んでいるが、先程までの余裕の表情は消えていた。弾正に指摘され、自分の誤ちに気づいているかのようでもある。
「俺もさ、一応探偵の端くれとしてここで起こった事件は俺なりに調べてたんだ。そして俺の見立てもアサっちと同じだよ。俺も、アキさんと傑は草太が殺したと踏んだ。そして聞いたんだ、本入にさ、お前が殺ったのかって。そしたら認めたよ。だから、間違いない。アキさんと傑を殺したのは草太だ。だがその理由は俺が指示したからじゃない。アサっち、あんたはそこを上手くすり替えようとしてきたが、調子に乗りすぎたな。傑は記録上は巡査の銃で撃たれたことになっているはずだ。なぜあんたに草太が殺ったった分かるんだ?」
四條畷を青井が殺した?青井の三国殺害を認めたのも意外だったが、さらに四條畷もとなると訳が分からない。朝霧がどう反論するかと見ると、彼は忌々しそうにただ口を真一文字に結んでいた。誰も話さないと見て、弾正が話を続ける。
「傑が死んだ日、草太は懐に拳銃を忍ばせてたんだ。そして屋根裏まで傑を追って撃つ。調べれば分かることだろ?傑の体の中にある銃弾は巡査が撃ったものではないってことがさ。そもそもあの巡査は早朝からここを張ってた。拳銃携帯指令が出たのはあの日の朝の会議からだろ?巡査は拳銃なんて持ってなかったんだよ。だがきっと、あの時の銃はもう処分されてるんだろう。あの日、最後に巡査の銃を手にしたのはアサっちだよな?その銃、ちゃんと警察に返したのかい?」
朝霧は相変わらず口を開かない。ここで黙ってしまうと弾正の言っていることを肯定するようなものなのだが…。
「ちょっと待ってくれ。青井が銃を持っていた?そんな訳ないだろう?なぜ彼がそんなもの待ってるんだ?」
朝霧の代わりに浦安が弾正に聞く。弾正は浦安に目を向け、ニヤリと笑った。
「知らぬはおっさんばかりなりってか?草太はな、公安調査庁様の潜入捜査官だったんだよ。おそらくはセフィロトを調べるために遣わされ、そして調べるうちにここ、ノワールの存在に行き当たった。丁度管理人の募集をしていたからな、一般人に成りすましてここに入り込んだってわけさ。草太がアキさんや傑を殺したのは俺の指示じゃない。大方アサっち、もしくは公安調査庁のお偉いさんから抹殺指令が出てたんだろ?公調は表向きには銃の所持は許されちゃいないが、裏でスパイみたいなことをしてる連中だ。必要とあらば銃だって忍ばせるって話よ。そしてさ、考えてもみなよ、一介の巡査にある程度の距離のある相手を一発で仕留める腕があるかい?草太が至近距離から撃ったんだよ」
弾正が何か衝撃的なことを口にしている。浦安の眉がみるみる上がっていく。この期に及んでも朝霧は口を開かない。弾正が得々として言葉を被せる。
「おっさんが腑に落ちないようなんでさらに教えてやるよ。おっさんは公調から第一の事件現場でオンブレチェック柄のシャツを着た男が目撃されているって情報を流してもらったんだろ?その目撃者ってさ、何を隠そう、草太だったって訳だ。大体あの時点ではまだ禍津町では目立った事件は起こってないんだぜ?誰が現場の七星の家の周辺を調べるんだよ。あの時点で目撃出来るのはそこに行った草太だけって話さ。情報提供者がいたんじゃない。調査員である草太自身から報告が上がったってだけなのさ。現場でオンブレチェックの服を着た男が逃げて行ったってことをな。だから傑が公調に目をつけられることになった。分かったかい?その辺の経緯が」
確かに、弾正の言うことは辻褄が合っている気がする。浦安は正面にいる朝霧の方に身を乗り出した。
「朝霧さん、本当なんですか?本当に、青井は調査員の一人だったんですか?」
すると、今度は朝霧が哄笑する。
「アッハッハ、いや~バレちゃってたかあ~。ダンちゃん、なかなかやるじゃん」
「おう、俺も探偵の端くれだからな、これくらいはな」
カチン、と二人がグラスを合わせる音が鳴る。そして二人はゴクゴクとバーボンロックを飲む。ここは真剣な場面のはずなのに、まるでゲームを興じているかのようにはしゃぐ二人に違和感を覚えた。何かが違う…理屈ではなく、人の心情としてそう思える。浦安もカラカラに乾いた喉を潤そうと目の前のグラスに手をつけた。氷が溶けて水割りくらいの濃さになったウイスキーが脳をやや弛緩した。何がおかしいか…まず朝霧だ。彼は四條畷を追って三階に上がった時、浦安と一緒に忌野の頭が飛ぶところを見ていた。きっと彼にしたらそれも幻覚だと言い張るのだろうが、あの場で拳銃の工作をしていたとなると冷静沈着に見えた朝霧の印象がかなり違ったものになる。そして弾正。彼は久遠寺で青井と楽しそうにしていたではないか。その青井が自分の親しかった三国や四條畷を殺したと知り、なぜあんなに一緒に楽しそうにしていられたのか?人として何か違う気がする。難しい顔をして二人を眺める浦安に、朝霧が指示を投げた。
「まあ推理合戦はこのくらいにしてさ、今日はダンちゃんを確保しに来たんだよね。そんでさ、語るに落ちるとはこのことだって言葉、そっくりダンちゃんにお返しするよ。聞いていると、草太はすでにダンちゃんにかなりの情報を漏らしていまっているようだねぇ。つまりそれは、あんたに洗脳されて操られてるってわけだ。つまり、あんたこそがセフィロトの首謀者だって自分で言ったようなもんだよね。まこっちゃーん、というわけだからさ、早くその男に手錠嵌めて!持ってるでしょ?」
朝霧のその言葉と同時に、弾正がソファの上にピョンと飛び乗る。
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