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私のじいちゃんは私の父親側の人で、性格を一言で表すならば「苛烈」だった。
「僕の孫が嘘つきなわけ、無いだろう!!? お前はいつも、しいらにばっか当たりが強いんかァ!!!?」
幼い私が泣きじゃくりながら掛けた電話を受け、山を超えて片道1時間半もする道を、じいちゃんは1時間もしない内に我が家に到着していた。
愛車のトラックの運転席を乱暴に開け、ノックもなしに勝手口から入ってくるなり、父親を怒鳴り散らすのがお約束のパターンであった。
「また親父にチクったんか! しいら!!」
「お義父さんに旦那さん、夜だから静かにして!」
父親は怒りと呆れが入り交じったような声を出す、その横から懇願するように母親が会話に入ってくる。
私はじいちゃんを見るなり泣き出し、自然とじいちゃんに抱きついていた。
その様子を上の二人は、テレビを見るかのように食卓のある部屋の扉から見つめていた。
「お前もあんたも知らん! しいらは今週末、僕んとこで預かる!!」
母親の懇願も無視し、じいちゃんは同じ音量で両親に告げる。 じいちゃんはThe・田舎人なので、普通の音量が通常人の2倍だった。
それにつられて父親もエスカレートする、お湯割りの焼酎が入ったグラスの底をこたつの卓へ乱暴に置く。
「いっちゃんいっちゃん、俺の教育に干渉するな!」
「お前が僕の孫を泣かすからだろうが!! 誰に似たんね!?」
「俺はあんたにャア似てないからな! しいらはあんたに似とって嘘つきやから、あんたに似たんじゃろなぁ!!!」
「あんたらはしいらの面倒見らんかったから、子ォの顔も忘れたんじゃなァ。 忙し忙し言うて、お前がやるこたァパチンコで画面見ィるだけじゃから、子ォがどんな子か知らんのじゃろ!?」
「俺の生活の糧ェに、口出しすんな!!」
いつも同じ場所にガラスを叩きつけるからだろう、我が家のこたつや食卓の角はいつも、丸い形に穴が空いていて木の破片が飛び出していた。
私はそれをなんとも思っていなかったし、多分母親以外の兄弟も通常通りとしか思っていなかった。
唯一気にしている母親が慌てて視界から消えたと思えば、その当時私がハマっていたセーラームーンのリュックに物を詰め込んで戻ってきた。
「ほら、あんたのせいでまたこたつ壊れたら金掛かるのよ! お義父さん、しいらの荷物はこれに積めましたから!!」
「ほらしいら、じいちゃんとじいちゃん家行くか!」
「……!! うん!!」
私は泣きながら頷く、それを見てじいちゃんはリュックを母親から受け取り、私に背中を向けた。
「ほら、じいちゃんのおんぶだ、舌噛むなよ?」
「うん!」
私は嬉しそうに飛びつく、それを見ていた父親からまた罵倒が飛んできた。
「もう帰ってこなくていいぞ! 親父の娘になっちまえばいい!!」
「お父さん!!」
「ならお前みたいな息子は僕は要らんわ、あー良かった。 僕の財産はお前んに渡さなくて! なぁ、しいら!」
そう言ってじいちゃんはガハハっと笑い、勝手口で下駄を履く。
私は背負われながらちらりと、兄弟二人の方を見た。
何も感情の入ってない姉の瞳、そして、私を羨ましそうに睨む兄の顔が、まだメガネをかけずに見えた私の瞳に記憶される。
父親の憤怒の声、母親のヒステリックな悲鳴、まるで学校に行く妹を送る姉の挨拶を遮り、私の耳に兄の舌打ちと忌々しげな台詞が飛んでくる。
「あーあ、またあいつチクるんだ。 やっぱり、妹って糞だわ」
バタンと扉が閉じ、私はエンジン音が荒々しいじいちゃんのトラックで、嵐のような家を離れた。
→
「僕の孫が嘘つきなわけ、無いだろう!!? お前はいつも、しいらにばっか当たりが強いんかァ!!!?」
幼い私が泣きじゃくりながら掛けた電話を受け、山を超えて片道1時間半もする道を、じいちゃんは1時間もしない内に我が家に到着していた。
愛車のトラックの運転席を乱暴に開け、ノックもなしに勝手口から入ってくるなり、父親を怒鳴り散らすのがお約束のパターンであった。
「また親父にチクったんか! しいら!!」
「お義父さんに旦那さん、夜だから静かにして!」
父親は怒りと呆れが入り交じったような声を出す、その横から懇願するように母親が会話に入ってくる。
私はじいちゃんを見るなり泣き出し、自然とじいちゃんに抱きついていた。
その様子を上の二人は、テレビを見るかのように食卓のある部屋の扉から見つめていた。
「お前もあんたも知らん! しいらは今週末、僕んとこで預かる!!」
母親の懇願も無視し、じいちゃんは同じ音量で両親に告げる。 じいちゃんはThe・田舎人なので、普通の音量が通常人の2倍だった。
それにつられて父親もエスカレートする、お湯割りの焼酎が入ったグラスの底をこたつの卓へ乱暴に置く。
「いっちゃんいっちゃん、俺の教育に干渉するな!」
「お前が僕の孫を泣かすからだろうが!! 誰に似たんね!?」
「俺はあんたにャア似てないからな! しいらはあんたに似とって嘘つきやから、あんたに似たんじゃろなぁ!!!」
「あんたらはしいらの面倒見らんかったから、子ォの顔も忘れたんじゃなァ。 忙し忙し言うて、お前がやるこたァパチンコで画面見ィるだけじゃから、子ォがどんな子か知らんのじゃろ!?」
「俺の生活の糧ェに、口出しすんな!!」
いつも同じ場所にガラスを叩きつけるからだろう、我が家のこたつや食卓の角はいつも、丸い形に穴が空いていて木の破片が飛び出していた。
私はそれをなんとも思っていなかったし、多分母親以外の兄弟も通常通りとしか思っていなかった。
唯一気にしている母親が慌てて視界から消えたと思えば、その当時私がハマっていたセーラームーンのリュックに物を詰め込んで戻ってきた。
「ほら、あんたのせいでまたこたつ壊れたら金掛かるのよ! お義父さん、しいらの荷物はこれに積めましたから!!」
「ほらしいら、じいちゃんとじいちゃん家行くか!」
「……!! うん!!」
私は泣きながら頷く、それを見てじいちゃんはリュックを母親から受け取り、私に背中を向けた。
「ほら、じいちゃんのおんぶだ、舌噛むなよ?」
「うん!」
私は嬉しそうに飛びつく、それを見ていた父親からまた罵倒が飛んできた。
「もう帰ってこなくていいぞ! 親父の娘になっちまえばいい!!」
「お父さん!!」
「ならお前みたいな息子は僕は要らんわ、あー良かった。 僕の財産はお前んに渡さなくて! なぁ、しいら!」
そう言ってじいちゃんはガハハっと笑い、勝手口で下駄を履く。
私は背負われながらちらりと、兄弟二人の方を見た。
何も感情の入ってない姉の瞳、そして、私を羨ましそうに睨む兄の顔が、まだメガネをかけずに見えた私の瞳に記憶される。
父親の憤怒の声、母親のヒステリックな悲鳴、まるで学校に行く妹を送る姉の挨拶を遮り、私の耳に兄の舌打ちと忌々しげな台詞が飛んでくる。
「あーあ、またあいつチクるんだ。 やっぱり、妹って糞だわ」
バタンと扉が閉じ、私はエンジン音が荒々しいじいちゃんのトラックで、嵐のような家を離れた。
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