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【第四章】つがいの契約
3.不穏な影
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――数日後。
「律、お客様だ」
誠さんが慌てて呼びに来た。
「……誰?」
「父上の知り合いのα様だ」
「……え、α……?」
嫌な予感を抱えながらリビングへ向かうと――
そこには、見知らぬαが立っていた。
四十代くらいの、スーツを着た厳つい男。
「初めまして、朝比奈 律様」
「……初めまして」
冷たく返す俺に、男は微笑む。
「私は、城崎と申します。父上の事業パートナーです」
「……そうですか」
そっけなく答えると、男の目が俺の身体を舐め回すように這った。
首筋、肩、腰――順番に視線が通り、嫌悪感が沸く。
「律様は大変美しいΩですね」
「……ありがとうございます」
形だけの礼を返す。
「実は、父上から律様のお話を伺っておりまして。私の息子が、ちょうど律様と同じ年齢でしてね」
「……それで?」
「いずれ、事業提携のためにも、お二人を引き合わせたいと思いまして」
「え……?」
「αとΩ、ちょうどいい組み合わせですし」
「……!」
背筋が凍った。
この男――俺を、息子のつがいにしようとしている。
まるで、取引の道具のように。
「あいにく、俺はもう――」
言いかけたその時、冬馬が部屋に入ってきた。
「律、ちょっといいか」
冬馬の声が、いつもより低く響く。
「……うん」
すぐに冬馬のそばに寄る。
「おや、こちらは?」
城崎が冬馬を値踏みするように見た。
「桐生冬馬です。律の――教育係をしています」
「冬馬……」
……なんで“つがい”だって言わないんだよ。
「ああ、教育係の方でしたか」
城崎は興味を失ったように視線を外す。
まるで冬馬を「ただの使用人」として扱うように。
「では律様、また改めてご挨拶に伺います。楽しみにしていてくださいね」
そう言うと、男は背筋を伸ばして帰って行った。
「冬馬……」
「ん?」
「……なんでつがいだって言わなかったの」
責めるつもりじゃないのに、どうしても棘が混じってしまう。
冬馬は少し困った顔をした。
「今はまだ、公にできない」
「……どうして」
「律の親父さんに、正式に認めてもらっていないからな」
言いにくそうな声音。
でも、誤魔化しているわけじゃないのは分かる。
「……でも」
「律」
冬馬の手が俺の肩にそっと置かれ、ぐっと引き寄せられる。
「焦るな」
「……わかってるけど」
冬馬はゆっくり息を吐く。
「あの男は危険だ。お前を、息子のつがいにしようとしている」
「……知ってる。でも、俺たちはもうつがいだろ」
「ああ。俺のΩは、お前だけだ」
「じゃあ大丈夫じゃないの」
「いや……油断するな」
不安と苛立ちが混ざる。
つがいの印はあるのに、他のαが、俺を狙う可能性もあるなんて。
「冬馬……」
「ん?」
「……そばにいて」
普段なら絶対に言わない言葉。
でも、今は――怖かった。
「ああ、当たり前だ」
冬馬が俺を抱きしめる。
「お前を、絶対に守る。誰にも渡さない」
低く響く冬馬の声。
その言葉に、少しだけ安心した。
「律、これから気をつけろ。外出するときは、必ず俺か誠と一緒だ」
「……わかった」
「それと――」
冬馬が俺の顎をそっと持ち上げる。
「印を、もっと深く刻む必要があるかもしれない」
「……なっ……」
「嫌か?」
「……嫌じゃ、ない」
小さく答えると、冬馬が優しく笑った。
「そうか。じゃあ、今夜また――」
「ば、バカ……」
顔を背ける俺に、冬馬は楽しそうに笑う。
「ふっ、冗談だよ」
「……からかうなよな!」
「でも、本当に必要なら、ちゃんとやるからな」
「……わかってる」
小さく頷くと、冬馬が頭を撫でる。
「冬馬」
「ん?」
「……好きだ」
思い切って言うと、冬馬の手がぴたりと止まった。
驚いたように目を見開き、それからゆっくりと柔らかく笑う。
「律……珍しいな、そんなこと言うの」
「……うるさい」
そっぽを向いた俺の頬に触れながら、冬馬が低く囁く。
「俺も好きだよ、律」
額に優しくキスをされて、顔が熱くなる。
でも――頭の片隅には、さっきの男の視線が残っていた。
これから先、どうなるのだろう。
考えるほど不安は湧くけれど、冬馬がそばにいる。
その腕が、温度が、言葉が――ちゃんと守ってくれる。
それだけで、今は少し呼吸が楽になった。
「律、お客様だ」
誠さんが慌てて呼びに来た。
「……誰?」
「父上の知り合いのα様だ」
「……え、α……?」
嫌な予感を抱えながらリビングへ向かうと――
そこには、見知らぬαが立っていた。
四十代くらいの、スーツを着た厳つい男。
「初めまして、朝比奈 律様」
「……初めまして」
冷たく返す俺に、男は微笑む。
「私は、城崎と申します。父上の事業パートナーです」
「……そうですか」
そっけなく答えると、男の目が俺の身体を舐め回すように這った。
首筋、肩、腰――順番に視線が通り、嫌悪感が沸く。
「律様は大変美しいΩですね」
「……ありがとうございます」
形だけの礼を返す。
「実は、父上から律様のお話を伺っておりまして。私の息子が、ちょうど律様と同じ年齢でしてね」
「……それで?」
「いずれ、事業提携のためにも、お二人を引き合わせたいと思いまして」
「え……?」
「αとΩ、ちょうどいい組み合わせですし」
「……!」
背筋が凍った。
この男――俺を、息子のつがいにしようとしている。
まるで、取引の道具のように。
「あいにく、俺はもう――」
言いかけたその時、冬馬が部屋に入ってきた。
「律、ちょっといいか」
冬馬の声が、いつもより低く響く。
「……うん」
すぐに冬馬のそばに寄る。
「おや、こちらは?」
城崎が冬馬を値踏みするように見た。
「桐生冬馬です。律の――教育係をしています」
「冬馬……」
……なんで“つがい”だって言わないんだよ。
「ああ、教育係の方でしたか」
城崎は興味を失ったように視線を外す。
まるで冬馬を「ただの使用人」として扱うように。
「では律様、また改めてご挨拶に伺います。楽しみにしていてくださいね」
そう言うと、男は背筋を伸ばして帰って行った。
「冬馬……」
「ん?」
「……なんでつがいだって言わなかったの」
責めるつもりじゃないのに、どうしても棘が混じってしまう。
冬馬は少し困った顔をした。
「今はまだ、公にできない」
「……どうして」
「律の親父さんに、正式に認めてもらっていないからな」
言いにくそうな声音。
でも、誤魔化しているわけじゃないのは分かる。
「……でも」
「律」
冬馬の手が俺の肩にそっと置かれ、ぐっと引き寄せられる。
「焦るな」
「……わかってるけど」
冬馬はゆっくり息を吐く。
「あの男は危険だ。お前を、息子のつがいにしようとしている」
「……知ってる。でも、俺たちはもうつがいだろ」
「ああ。俺のΩは、お前だけだ」
「じゃあ大丈夫じゃないの」
「いや……油断するな」
不安と苛立ちが混ざる。
つがいの印はあるのに、他のαが、俺を狙う可能性もあるなんて。
「冬馬……」
「ん?」
「……そばにいて」
普段なら絶対に言わない言葉。
でも、今は――怖かった。
「ああ、当たり前だ」
冬馬が俺を抱きしめる。
「お前を、絶対に守る。誰にも渡さない」
低く響く冬馬の声。
その言葉に、少しだけ安心した。
「律、これから気をつけろ。外出するときは、必ず俺か誠と一緒だ」
「……わかった」
「それと――」
冬馬が俺の顎をそっと持ち上げる。
「印を、もっと深く刻む必要があるかもしれない」
「……なっ……」
「嫌か?」
「……嫌じゃ、ない」
小さく答えると、冬馬が優しく笑った。
「そうか。じゃあ、今夜また――」
「ば、バカ……」
顔を背ける俺に、冬馬は楽しそうに笑う。
「ふっ、冗談だよ」
「……からかうなよな!」
「でも、本当に必要なら、ちゃんとやるからな」
「……わかってる」
小さく頷くと、冬馬が頭を撫でる。
「冬馬」
「ん?」
「……好きだ」
思い切って言うと、冬馬の手がぴたりと止まった。
驚いたように目を見開き、それからゆっくりと柔らかく笑う。
「律……珍しいな、そんなこと言うの」
「……うるさい」
そっぽを向いた俺の頬に触れながら、冬馬が低く囁く。
「俺も好きだよ、律」
額に優しくキスをされて、顔が熱くなる。
でも――頭の片隅には、さっきの男の視線が残っていた。
これから先、どうなるのだろう。
考えるほど不安は湧くけれど、冬馬がそばにいる。
その腕が、温度が、言葉が――ちゃんと守ってくれる。
それだけで、今は少し呼吸が楽になった。
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