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【第四章】つがいの契約
4.父の承認
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数日後。
父さんが一時帰国することになり、俺は冬馬と並んで空港ロビーで到着を待っていた。
「律、緊張してるか?」
「……別に、緊張なんてしてない」
ぼそっと答えると、冬馬が小さく笑った。
「嘘だ。さっきから腕を組んだり解いたりしてる。……五回目だぞ」
「……してない」
即座に否定すると、冬馬が俺の手をそっと握ってくる。
「大丈夫だ。お前の親父さんなら、わかってくれる」
「……うん」
でも、不安は消えない。
父さんは本当に、俺と冬馬のつがいの関係を認めてくれるのかな。
「律!」
声が響き、振り返るとスーツ姿の父さんが早足で近づいてくる。
「父さん」
歩み寄ると、父さんは柔らかい笑みを浮かべた。
「久しぶりだな。立派になったな」
「……別に」
思わず視線をそらす。
「相変わらず素直じゃないな」
父さんは笑って、俺の頭をくしゃっと撫でた。
その感触に、顔が熱くなる。
「冬馬くん、ご苦労だった」
「いえ、こちらこそ。律をお預かりできて光栄でした」
冬馬は丁寧に頭を下げた。
そのとき――父さんの視線が、俺たちの繋いだ手にいく。
「……ふむ……」
意味深な笑い方。
慌てて手を離そうとした瞬間、冬馬が強く握り返してくる。
「離すなよ」
「冬馬……!」
思わず小さく抗議する。
「いいだろ。もう隠さなくていい」
にやりと笑う冬馬。
むっとする俺を、父さんは楽しそうに見ていた。
「なるほど、そういうことか。さあ、帰ろう。家でゆっくり話そう」
*
屋敷に戻り、書斎で三人向かい合う。
重厚な机を挟んで父さんが座る。
冬馬は姿勢を正し、真っすぐな声で言った。
「律の首に、つがいの印があります」
父さんの表情が、一瞬だけ変わる。
「……見せてみろ」
「えっ……」
恥ずかしさで顔が熱くなる。
そっと首筋を見せると、父さんはじっとそれを見つめた。
「律を必ず幸せにします」
冬馬の瞳には、嘘も迷いもない。
長い沈黙の後、父さんはゆっくりと息を吐いた。
「……ただし、条件がある」
「条件……?」
「律、お前はまだ十八だ」
「……うん」
「大学へ進学しなさい。家を継ぐにせよ継がないにせよ、学ぶことは必要だ」
「……わかった」
素直に頷いた。
たしかに、父さんの言いたいことはわかる。
「そして冬馬くん」
父さんが冬馬を見据える。
「律を支えてやってくれ。律は不器用だが、心は優しい子だ」
「存じております。必ず、律を守ります」
冬馬は深々と頭を下げた。
「よし」
父さんは立ち上がり、はっきりと言った。
「朝比奈律と桐生冬馬の、つがいの関係を正式に認める」
よかった。父さんに……正式に認めてもらえた。
「律」
父さんが優しい目で俺を見る。
「幸せになるんだぞ」
「……うん。ありがとう、父さん」
そう言うと、父さんは穏やかに微笑んだ。
「冬馬くん、律を頼んだ」
「はい。お任せください」
冬馬が力強く頷く。
書斎を出ると、冬馬が俺の手を握った。
「良かったな、律」
「……うん」
「これで、堂々とお前と一緒にいられる」
「……別に、堂々とじゃなくてもよかったけど」
そっぽを向くと、冬馬がふっと笑った。
「素直じゃないな」
「……うるさい」
でも、嬉しい。
冬馬と、正式につがいとして認められた。
「それと……城崎氏が来たそうだな」
「……うん」
父さんの問いに、自然と眉がひそむ。
「どう思った?」
「……嫌な人」
「そうか。私もそう思う」
「……え?」
父さんは真剣な表情で続けた。
「城崎氏は事業パートナーではあるが、信用はしていない。息子をお前のつがいに、と何度も持ちかけてくるが、私は断り続けている」
「……そうだったの」
父さんの視線が、まっすぐ俺を貫く。
「律、お前はもう冬馬くんのつがいだ。冬馬くんを大事にしろ」
「……うん」
さらに低い声で、警告を添える。
「そして、城崎には気をつけろ。あの男は執念深い。お前を諦めないだろう」
背筋が凍る言葉だった。
「でも、安心しろ」
父さんがふっと優しく微笑む。
「私も冬馬くんも、お前を守る。絶対に城崎には渡さない」
「……ありがとう」
「礼なんていらん。お前は、私の大事な息子だからな」
胸が温かくなる。
父さんは、ちゃんとわかってくれている。
俺と冬馬のこと。
それだけで、嬉しかった。
父さんが一時帰国することになり、俺は冬馬と並んで空港ロビーで到着を待っていた。
「律、緊張してるか?」
「……別に、緊張なんてしてない」
ぼそっと答えると、冬馬が小さく笑った。
「嘘だ。さっきから腕を組んだり解いたりしてる。……五回目だぞ」
「……してない」
即座に否定すると、冬馬が俺の手をそっと握ってくる。
「大丈夫だ。お前の親父さんなら、わかってくれる」
「……うん」
でも、不安は消えない。
父さんは本当に、俺と冬馬のつがいの関係を認めてくれるのかな。
「律!」
声が響き、振り返るとスーツ姿の父さんが早足で近づいてくる。
「父さん」
歩み寄ると、父さんは柔らかい笑みを浮かべた。
「久しぶりだな。立派になったな」
「……別に」
思わず視線をそらす。
「相変わらず素直じゃないな」
父さんは笑って、俺の頭をくしゃっと撫でた。
その感触に、顔が熱くなる。
「冬馬くん、ご苦労だった」
「いえ、こちらこそ。律をお預かりできて光栄でした」
冬馬は丁寧に頭を下げた。
そのとき――父さんの視線が、俺たちの繋いだ手にいく。
「……ふむ……」
意味深な笑い方。
慌てて手を離そうとした瞬間、冬馬が強く握り返してくる。
「離すなよ」
「冬馬……!」
思わず小さく抗議する。
「いいだろ。もう隠さなくていい」
にやりと笑う冬馬。
むっとする俺を、父さんは楽しそうに見ていた。
「なるほど、そういうことか。さあ、帰ろう。家でゆっくり話そう」
*
屋敷に戻り、書斎で三人向かい合う。
重厚な机を挟んで父さんが座る。
冬馬は姿勢を正し、真っすぐな声で言った。
「律の首に、つがいの印があります」
父さんの表情が、一瞬だけ変わる。
「……見せてみろ」
「えっ……」
恥ずかしさで顔が熱くなる。
そっと首筋を見せると、父さんはじっとそれを見つめた。
「律を必ず幸せにします」
冬馬の瞳には、嘘も迷いもない。
長い沈黙の後、父さんはゆっくりと息を吐いた。
「……ただし、条件がある」
「条件……?」
「律、お前はまだ十八だ」
「……うん」
「大学へ進学しなさい。家を継ぐにせよ継がないにせよ、学ぶことは必要だ」
「……わかった」
素直に頷いた。
たしかに、父さんの言いたいことはわかる。
「そして冬馬くん」
父さんが冬馬を見据える。
「律を支えてやってくれ。律は不器用だが、心は優しい子だ」
「存じております。必ず、律を守ります」
冬馬は深々と頭を下げた。
「よし」
父さんは立ち上がり、はっきりと言った。
「朝比奈律と桐生冬馬の、つがいの関係を正式に認める」
よかった。父さんに……正式に認めてもらえた。
「律」
父さんが優しい目で俺を見る。
「幸せになるんだぞ」
「……うん。ありがとう、父さん」
そう言うと、父さんは穏やかに微笑んだ。
「冬馬くん、律を頼んだ」
「はい。お任せください」
冬馬が力強く頷く。
書斎を出ると、冬馬が俺の手を握った。
「良かったな、律」
「……うん」
「これで、堂々とお前と一緒にいられる」
「……別に、堂々とじゃなくてもよかったけど」
そっぽを向くと、冬馬がふっと笑った。
「素直じゃないな」
「……うるさい」
でも、嬉しい。
冬馬と、正式につがいとして認められた。
「それと……城崎氏が来たそうだな」
「……うん」
父さんの問いに、自然と眉がひそむ。
「どう思った?」
「……嫌な人」
「そうか。私もそう思う」
「……え?」
父さんは真剣な表情で続けた。
「城崎氏は事業パートナーではあるが、信用はしていない。息子をお前のつがいに、と何度も持ちかけてくるが、私は断り続けている」
「……そうだったの」
父さんの視線が、まっすぐ俺を貫く。
「律、お前はもう冬馬くんのつがいだ。冬馬くんを大事にしろ」
「……うん」
さらに低い声で、警告を添える。
「そして、城崎には気をつけろ。あの男は執念深い。お前を諦めないだろう」
背筋が凍る言葉だった。
「でも、安心しろ」
父さんがふっと優しく微笑む。
「私も冬馬くんも、お前を守る。絶対に城崎には渡さない」
「……ありがとう」
「礼なんていらん。お前は、私の大事な息子だからな」
胸が温かくなる。
父さんは、ちゃんとわかってくれている。
俺と冬馬のこと。
それだけで、嬉しかった。
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