リスタート・ショコラ―拾われた俺、溺愛されてます―世界でいちばん甘い場所は、あなたの隣。

砂原紗藍

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リスタート・ショコラ―甘く溶かして、もう一度―

2.冬色のスイーツ撮影

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side 一ノ瀬 遥

「環くん、準備いいかな?」

俺が声をかけると、カウンターの奥で環が軽く振り返った。
白衣の袖をまくり、少し緊張した顔で頷く。

「うん、大丈夫。今日はチョコとベリーの2種類、どっちも出せるようにしてる」
「わぁ、いいね。編集長もすごく楽しみにしてたよ」
「ちょっと、プレッシャーかけないでよ」

環が苦笑する。
その横で、神崎さんが手伝うようにテーブルクロスを整えていた。
スーツ姿でも、動きが自然で無駄がない。

神崎さんは、今日“撮影補助”という名目で来てくれていた。

「環、手元のボウル、俺が持ちます」
「ありがとう、透さん」
「緊張してるの、見てわかりますよ」
「そりゃするよ。雑誌撮影なんて初めてだし」

そのやり取りに、ふっと笑みがこぼれる。
神崎さんの穏やかな口調と、環の素直な反応。
ふたりの距離感は、とても自然で温かい。

撮影が始まる。
カメラマンがレンズを構え、環の手元にピントを合わせる。

粉砂糖が舞い、チョコレートが艶を増す瞬間――誰もが息を呑んだ。
俺も、取材メモを取る手を止めていた。

「……綺麗だな」

思わず漏れた声に、横から別の声が返ってきた。

「だろ。あの集中力、プロだね」

振り向くと、いつの間にか拓実が立っていた。
スーツ姿で、現場の空気になじんでいる。

「来てたんだ」
「お前が頑張ってるところ、久しぶりに見たくてさ」

拓実の視線は環ではなく、俺に向いていた。

「こういう現場、久しぶりに見た。お前、いいチーム作ってるじゃん」
「ありがと。でも本当に、みんなのおかげ」
「特に環くん。あの子の表情、撮る価値あるな」
「うん。俺もそう思う」

カメラのシャッター音が続く中、環が完成したスイーツをそっとトレイにのせた。

チョコレートと苺の香りが、甘く混ざり合う。
雪を思わせる粉砂糖がかかっていて、まるで冬そのものだった。

「撮影OKです!」

カメラマンの声が響く。
現場に、ふっと安堵の空気が広がった。
環が小さく息をつき、エプロンの裾を握る。

「……終わった、のかな」
「うん。すごくよかったよ」
「ほんとに……?」
「本気でそう思う。環くんの作ったケーキ、ちゃんと“人の気持ち”が映ってた」

環が少し照れたように笑う。

「……伝わったかな?」
「うん、ちゃんと伝わってたよ。“誰かを想って作る味”って、ほんとにあるんだな」
「……ありがと、遥くん」

その声は小さかったけど、たしかに届いた。

撮影がすべて終わったあと、拓実が静かに俺の肩に手を置いた。

「お疲れ。いい仕事だったな」
「……うん」
「環くんも、いい子だな。神崎さんがあれだけ穏やかな顔してるの、久しぶりに見た」
「二人とも、似てるんだよ。優しくて、少し不器用で」

拓実が小さく笑った。

「そうかもな。……お前も、そういう人が好きなんだろ?」

その言葉に、顔が少し熱くなった。

「……否定は、しない」

拓実は俺の頭を軽く撫でる。

「じゃあ、今夜はちゃんと休めよ、遥」

そう言って、少しだけ優しく微笑んだ。

その夜、編集部の窓から見えたイルミネーションが、やけに眩しく見えた。
あの小さなケーキと同じように、誰かの想いが静かに光っていた。

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