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61 無自覚な嫉妬心
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辺りの様子を慎重に伺いながらイアンは狭い建物の間を抜け出して路地裏へと出る。
このまま路地裏に潜んでいたいところだったが、こちらもこちらで奥へ行けば危険な場所もあるので、通りに出るしか方法が無かった。
「俺が着ていた服で申し訳ありませんが、これを頭に被っていて下さい」
そう言ってイアンは自分が着ていた紺色の上着をローゼリアに差し出す。先ほどから男達は“金髪の女”と何度も話していた。エルランドではそうそう珍しくはない髪色だが、ランゲルの平民街では特にローゼリアの白金の髪色は目立つのだ。
「……ありがとうございます」
ローゼリアは恥ずかしそうにそう答えると、大人しくイアンの上着を頭に被る。
歩きながらもイアンは周囲の様子を伺う事を怠らなかった。
ひと言も話さないまま平民街の大通りを歩くイアンとローゼリアだったが、イアンの足がふと止まった。イアンの様子に気付いたローゼリアが前方を見ると、往来している人々に混ざって、以前平民街でイアンに声を掛けてきた女が歩いてくるのが目に入ってきた。
たとえ暑くても肌をあまり見せない服装を心がける貴族とは違い、暑いからとすぐに薄着になるのは平民にとって当たり前の事だった。季節的に暑さが厳しいせいか平民である彼女の着ているワンピースの袖と裾は前会った時よりも短く、胸元も大きく開いていていて彼女の自慢であろう胸の大きさを強調している。周りを歩く他の平民女性よりも彼女が肌を出している面積は明らかに大きい。以前会ったのは冬だったので、寒さ対策のためにあれでも露出を控えていたのだろう。あの時よりも肌を出している女は、手の平で自分の顔を扇ぎながら歩いている。彼女はローゼリアとイアンに気が付くと足を止めた。
「あら、久し振りね。さっきチェーリオと手下たちが人を探していたけれど、アンタたちの事だったのね」
以前会った時にイアンが冷たくあしらったので、女の口調に親しさは無く冷たかった。
「アイーダ、俺たちの事をあいつらに言うのか?」
「さあ、どうしようかしらねえ?」
「お前、チェーリオに話したら後で覚えてろよ」
「ふふふ、あんまり口が悪いと大きな声を出しちゃおっかなあ」
「くっ……」
アイーダは値踏みでもするようにイアンとローゼリアをゆっくりと眺める。
「決いめたっ。イアン、財布を出しなさい」
アイーダはそう言ってイアンに手を差し出す。
イアンは懐から財布にしている革袋を取り出して無言でアイーダに渡す。
「あら、お貴族様ってツケで買い物をするって聞いていたけれど、イアンは現金主義なのね。意外と持っているじゃない」
そう言いながらアイーダは金貨を二枚取り出して自分の懐に入れて、残りは財布ごとイアンに返した。
「おいっ、金貨二枚は取り過ぎだろうっ」
「だって、貴族の命ってすごく高いのでしょう?それに比べたらねえ、金貨一枚なんて安いものよ。それともう一枚は前に私に冷たくした慰謝料よ。これでチャラにしてあげるのだから私ってば心がひろいわぁ」
「くそっ、しっかりしてやがる」
「そういえば、さっきそこでロイドを見つけたから呼んできてあげるわ。巡回騎士と一緒ならアンタたちも安心でしょう?」
「お前、ロイドとは別れたんだろう?」
「いちいちそんな事を気にしてたらやってられないわよ。だからアンタは顔がいいくせにすぐに女に振られるのよ」
そう言ってアイーダはイアンの額を指でピンと弾くと、来た道を掛けて行った。
ローゼリアは黙って二人のやり取りを見ていたが、気安い態度の二人を見ているうちに、胸の中でモヤモヤとした何とも言い難い感情が湧き上がるのを感じていた。
「イアン様、アイーダさんでしたっけ?仲がよろしいですのね。よくお会いになられるのかしら?」
「アイーダとは昨年義母上と一緒にここで会って以来ですよ。俺が忙しくしているのは義母上もご存知でしょう?」
「義母上、義母上って私は貴方のお母様ではなくてよ!」
ローゼリアの急な変わりように、イアンは驚きの表情を浮かべる。
「えっ、今更それですか?」
「ええ、突然嫌になりましたのっ!もう私の事は母と呼ばないで下さいまし!」
「急にどうしたんですか?今がどういう状況か分かってます?」
こんなところで言い合いの喧嘩なんて始めたら目立つ。せっかく金貨二枚と交換でアイーダが見逃してくれたのにこれではまずいとイアンは焦り始めた。
「くそっ、……何なんだよ」
下を向いてそう小さく言うと、イアンは自分の黒い髪をくしゃくしゃと掻いた。
「おいイアン、道端で痴話喧嘩かよ?アイーダにイアンがいるって聞いて来てみたらコレかよ」
イアンが振り返ると護衛騎士の制服を来た男が人の良さそうな笑みを浮かべて立っていた。
「久し振りだなロイド。巡回の仕事か?」
「あ、ああ。休みだったんだがちょっと呼び出された」
二人のやり取りを見ていたローゼリアが突然一歩前へ出る。
「私決めましたわ!この方に守ってもらいます。イアン様はお一人で帰って下さい」
「はぁ?何を言ってるんですか?ロイド、俺たちは大丈夫だから仕事に戻ってくれ」
「これもお返し致しますわ。ありがとうございました」
そう言ってローゼリアはイアンに借りていた上着を突き返すのだった。
「まあまあ、お嬢さんも落ち着いて下さい。イアンが何をしたのか知りませんが、貴族街に戻りたいのでしたら俺がお伴をいたしますから、こんなヤツは置いていきましょう」
ロイドが日に焼けた顔に笑顔を浮かべたままローゼリアの腕を取ろうと動いた時、イアンが素早く動き、ローゼリアとロイドの間に入ると、ローゼリアを背に庇うようにしてロイドと対峙した。
「テメエ、何しやがるんだよっ」
「ロイド、お前本当に今日は仕事か?」
イアンは噛みつかんばかりにロイドを鋭く睨みつけながらそう言った。
このまま路地裏に潜んでいたいところだったが、こちらもこちらで奥へ行けば危険な場所もあるので、通りに出るしか方法が無かった。
「俺が着ていた服で申し訳ありませんが、これを頭に被っていて下さい」
そう言ってイアンは自分が着ていた紺色の上着をローゼリアに差し出す。先ほどから男達は“金髪の女”と何度も話していた。エルランドではそうそう珍しくはない髪色だが、ランゲルの平民街では特にローゼリアの白金の髪色は目立つのだ。
「……ありがとうございます」
ローゼリアは恥ずかしそうにそう答えると、大人しくイアンの上着を頭に被る。
歩きながらもイアンは周囲の様子を伺う事を怠らなかった。
ひと言も話さないまま平民街の大通りを歩くイアンとローゼリアだったが、イアンの足がふと止まった。イアンの様子に気付いたローゼリアが前方を見ると、往来している人々に混ざって、以前平民街でイアンに声を掛けてきた女が歩いてくるのが目に入ってきた。
たとえ暑くても肌をあまり見せない服装を心がける貴族とは違い、暑いからとすぐに薄着になるのは平民にとって当たり前の事だった。季節的に暑さが厳しいせいか平民である彼女の着ているワンピースの袖と裾は前会った時よりも短く、胸元も大きく開いていていて彼女の自慢であろう胸の大きさを強調している。周りを歩く他の平民女性よりも彼女が肌を出している面積は明らかに大きい。以前会ったのは冬だったので、寒さ対策のためにあれでも露出を控えていたのだろう。あの時よりも肌を出している女は、手の平で自分の顔を扇ぎながら歩いている。彼女はローゼリアとイアンに気が付くと足を止めた。
「あら、久し振りね。さっきチェーリオと手下たちが人を探していたけれど、アンタたちの事だったのね」
以前会った時にイアンが冷たくあしらったので、女の口調に親しさは無く冷たかった。
「アイーダ、俺たちの事をあいつらに言うのか?」
「さあ、どうしようかしらねえ?」
「お前、チェーリオに話したら後で覚えてろよ」
「ふふふ、あんまり口が悪いと大きな声を出しちゃおっかなあ」
「くっ……」
アイーダは値踏みでもするようにイアンとローゼリアをゆっくりと眺める。
「決いめたっ。イアン、財布を出しなさい」
アイーダはそう言ってイアンに手を差し出す。
イアンは懐から財布にしている革袋を取り出して無言でアイーダに渡す。
「あら、お貴族様ってツケで買い物をするって聞いていたけれど、イアンは現金主義なのね。意外と持っているじゃない」
そう言いながらアイーダは金貨を二枚取り出して自分の懐に入れて、残りは財布ごとイアンに返した。
「おいっ、金貨二枚は取り過ぎだろうっ」
「だって、貴族の命ってすごく高いのでしょう?それに比べたらねえ、金貨一枚なんて安いものよ。それともう一枚は前に私に冷たくした慰謝料よ。これでチャラにしてあげるのだから私ってば心がひろいわぁ」
「くそっ、しっかりしてやがる」
「そういえば、さっきそこでロイドを見つけたから呼んできてあげるわ。巡回騎士と一緒ならアンタたちも安心でしょう?」
「お前、ロイドとは別れたんだろう?」
「いちいちそんな事を気にしてたらやってられないわよ。だからアンタは顔がいいくせにすぐに女に振られるのよ」
そう言ってアイーダはイアンの額を指でピンと弾くと、来た道を掛けて行った。
ローゼリアは黙って二人のやり取りを見ていたが、気安い態度の二人を見ているうちに、胸の中でモヤモヤとした何とも言い難い感情が湧き上がるのを感じていた。
「イアン様、アイーダさんでしたっけ?仲がよろしいですのね。よくお会いになられるのかしら?」
「アイーダとは昨年義母上と一緒にここで会って以来ですよ。俺が忙しくしているのは義母上もご存知でしょう?」
「義母上、義母上って私は貴方のお母様ではなくてよ!」
ローゼリアの急な変わりように、イアンは驚きの表情を浮かべる。
「えっ、今更それですか?」
「ええ、突然嫌になりましたのっ!もう私の事は母と呼ばないで下さいまし!」
「急にどうしたんですか?今がどういう状況か分かってます?」
こんなところで言い合いの喧嘩なんて始めたら目立つ。せっかく金貨二枚と交換でアイーダが見逃してくれたのにこれではまずいとイアンは焦り始めた。
「くそっ、……何なんだよ」
下を向いてそう小さく言うと、イアンは自分の黒い髪をくしゃくしゃと掻いた。
「おいイアン、道端で痴話喧嘩かよ?アイーダにイアンがいるって聞いて来てみたらコレかよ」
イアンが振り返ると護衛騎士の制服を来た男が人の良さそうな笑みを浮かべて立っていた。
「久し振りだなロイド。巡回の仕事か?」
「あ、ああ。休みだったんだがちょっと呼び出された」
二人のやり取りを見ていたローゼリアが突然一歩前へ出る。
「私決めましたわ!この方に守ってもらいます。イアン様はお一人で帰って下さい」
「はぁ?何を言ってるんですか?ロイド、俺たちは大丈夫だから仕事に戻ってくれ」
「これもお返し致しますわ。ありがとうございました」
そう言ってローゼリアはイアンに借りていた上着を突き返すのだった。
「まあまあ、お嬢さんも落ち着いて下さい。イアンが何をしたのか知りませんが、貴族街に戻りたいのでしたら俺がお伴をいたしますから、こんなヤツは置いていきましょう」
ロイドが日に焼けた顔に笑顔を浮かべたままローゼリアの腕を取ろうと動いた時、イアンが素早く動き、ローゼリアとロイドの間に入ると、ローゼリアを背に庇うようにしてロイドと対峙した。
「テメエ、何しやがるんだよっ」
「ロイド、お前本当に今日は仕事か?」
イアンは噛みつかんばかりにロイドを鋭く睨みつけながらそう言った。
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