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67 もう会う事はない人
【ヘンリックside】
最近知った事の中でヘンリックが一番驚いたのはローゼリアの事だった。自分の身勝手さで彼女を不幸にしてしまったと多少の罪悪感を感じていたのだが、何と彼女と伯爵との関係は白い結婚で、伯爵のサインと医師の証明書を手に婚姻の取り消しの申請をする為にローゼリアは堂々と王宮へとやってきたのだった。
その時のローゼリアをヘンリックはたまたま遠くから見かけたのだが、エルランド風の明るい色のドレスを纏ったローゼリアは一人で歩いてはいたが満面の笑みを浮かべていた。
白い結婚の無効届けの受理は本来ならばひと月以上かかるのだが、僅か数日で処理されたのは次期国王であるエーヴェルトに忖度した文官たちの働きのお陰だろう。
今後ローゼリアはエルランドの貴族と縁を持つのが妥当なところだと考えていたのだが、何と彼女はすぐにオルコット伯爵の養子と婚約をしてしまったのだった。
オルコット伯爵の養子なんて社交界ではほとんど知られていない無名の存在だったのだが、オルコット伯爵の代理としてよく彼女をエスコートしていたのだと聞いて、ヘンリックはローゼリアと一緒にいた背の高い男を思い出した。
背の高い彼と小柄なローゼリアでは身長差があり、平均的な身長よりも少し低い自分の方がローゼリアと並んだ時にバランスが良いだろうと思ったが、そこでヘンリックは留学から戻ってきたローゼリアとは、一度も共に社交の場に出ていなかった事に気付いてしまった。
本棚を前にしたヘンリックは自嘲気味に一人で静かに笑った。
今ヘンリックはあの書店の二階にいた。
エーヴェルトはヘンリックが離宮で静養するに当たり、欲しいものはあるかと聞いてくれたので、本を持って行きたいと伝えたら私室で所持しているものを持ち出す許可と新たに購入する許可がもらえたので、こうして忍んで書店までやってくる事ができたのだった。
王都へ戻る予定の無い自分は、この場所へ来るのはもう最後になるだろう。
出掛ける前にはエーヴェルトから、植物の育て方の本も持って行った方がいいと教えてくれた。没落していた頃の自分は毎日作物を育てて気を紛らわしていたから、作物でも花でも何か育てるといいと話すエーヴェルトの瞳は穏やかだった。
ヘンリックはエーヴェルトの言葉に素直に従うつもりで専門書が多い二階に来てみたのだが、植物の育て方が書いてある本は一階にあるようで、二階では見つけられなかった。
専門書や外国語で書かれた本の置かれた二階は客も少ないから静かで、本の保護の為か窓が小さくていつも薄暗い。ヘンリックはこの場所が好きだった。仕事に疲れて王都で気を紛らわす為に来ていたのはいつもここだった。
最後にこの場所へ来れてよかった、そう思いながら一階へ降りようとした時、階下から弾むような女性の話し声が聞こえてきた。
二階が騒がしくなるかもしれないと思ったヘンリックは、思い出の場所に別れを告げて階段を降りかけた時に、二階へ上がろうとしていた人物と鉢合わせをしてしまった。
彼女は目を丸くしてヘンリックを見つめ、一緒にいた相手に話し掛けるために開いていた口をすぐに閉じた。
階段は狭いので一段ほど降りただけのヘンリックは登ってきた相手に譲る為に、後ろへと下がる。
これまで王宮では自分が道を譲られる立場だったが、今は平民の格好をしているし、王宮に帰っても“一応まだ王族”という立場でしかない。あちらも平民のような服装だったが、将来の王妹には道を譲るべきだと咄嗟に思って先に身体が動いてしまった。
そして先ほど聞こえてきたキャッキャとはしゃいでいた声の主が彼女だったのかと思うとヘンリックはただ驚くだけだった。
彼女は連れの男の腕に凭れかかるように階段を登っていたのだが、まずい相手に見られたとばかりにヘンリックの顔を見た途端、男に巻き付けていた腕を解いた。
以前の彼女ならば、はしたないとでも言いそうなその行動は、若い娘らしいといえばらしいのだが、自分の知っているローゼリアらしからぬ行動でもあった。
ヘンリックもまだマリーナと想い合っていた頃に彼女とよくああやって歩いていた。
ローゼリアの事を感情の無い人形のようだと思っていたのだが、自分と婚約破棄をしてからの彼女は表情がくるくるとよく変わるようになった。
白い結婚を申請しに出掛けた時の満面の笑顔は隣にいる男の為だったのかと思うと、僅かばかり悔しくも思うのだが、遠い離宮へと旅立つ自分にはもう遠い世界の話だった。
ローゼリアと婚約者も階段を登り、二階に足を踏み入れたところで二人がヘンリックに礼をした。馬鹿な恋人たちに見えたのが嘘のようにきっちりとした礼だった。
男の方は貴族であるはずだが珍しく腰に剣を差している。攫われそうになった時に一緒にいたオルコットの養子がローゼリアを助けたと聞いていたが、その剣で彼女を守ったのかもしれない。
ヘンリックは無言でその場を立ち去ろうとした。お互いに忍んで来ているので挨拶の必要は無い。
「お元気で」
ヘンリックがローゼリアたちの前を通った時に、礼をしたまま、ローゼリアが小さな声でそう声を掛けてきたのでヘンリックは思わず立ち止まってしまった。
「キミも息災でいて欲しい」
ヘンリックは短くそう答えると、足早に階段を降りて行った。
彼女がどこまで自分に関係する真実を知っているかは分からない。マリーナとの関係がダメになった事も、自分が王家の血を引いていなかった事も、そして明日断種の処置が行われ離宮へ連れて行かれる事も。
それでも彼女が最後までヘンリックを王太子として扱ってくれた事だけは嬉しかった。
*****************
※『 白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする』 ヘンリックを主人公にしたIFストーリーです。よろしかったらご覧下さい。
最近知った事の中でヘンリックが一番驚いたのはローゼリアの事だった。自分の身勝手さで彼女を不幸にしてしまったと多少の罪悪感を感じていたのだが、何と彼女と伯爵との関係は白い結婚で、伯爵のサインと医師の証明書を手に婚姻の取り消しの申請をする為にローゼリアは堂々と王宮へとやってきたのだった。
その時のローゼリアをヘンリックはたまたま遠くから見かけたのだが、エルランド風の明るい色のドレスを纏ったローゼリアは一人で歩いてはいたが満面の笑みを浮かべていた。
白い結婚の無効届けの受理は本来ならばひと月以上かかるのだが、僅か数日で処理されたのは次期国王であるエーヴェルトに忖度した文官たちの働きのお陰だろう。
今後ローゼリアはエルランドの貴族と縁を持つのが妥当なところだと考えていたのだが、何と彼女はすぐにオルコット伯爵の養子と婚約をしてしまったのだった。
オルコット伯爵の養子なんて社交界ではほとんど知られていない無名の存在だったのだが、オルコット伯爵の代理としてよく彼女をエスコートしていたのだと聞いて、ヘンリックはローゼリアと一緒にいた背の高い男を思い出した。
背の高い彼と小柄なローゼリアでは身長差があり、平均的な身長よりも少し低い自分の方がローゼリアと並んだ時にバランスが良いだろうと思ったが、そこでヘンリックは留学から戻ってきたローゼリアとは、一度も共に社交の場に出ていなかった事に気付いてしまった。
本棚を前にしたヘンリックは自嘲気味に一人で静かに笑った。
今ヘンリックはあの書店の二階にいた。
エーヴェルトはヘンリックが離宮で静養するに当たり、欲しいものはあるかと聞いてくれたので、本を持って行きたいと伝えたら私室で所持しているものを持ち出す許可と新たに購入する許可がもらえたので、こうして忍んで書店までやってくる事ができたのだった。
王都へ戻る予定の無い自分は、この場所へ来るのはもう最後になるだろう。
出掛ける前にはエーヴェルトから、植物の育て方の本も持って行った方がいいと教えてくれた。没落していた頃の自分は毎日作物を育てて気を紛らわしていたから、作物でも花でも何か育てるといいと話すエーヴェルトの瞳は穏やかだった。
ヘンリックはエーヴェルトの言葉に素直に従うつもりで専門書が多い二階に来てみたのだが、植物の育て方が書いてある本は一階にあるようで、二階では見つけられなかった。
専門書や外国語で書かれた本の置かれた二階は客も少ないから静かで、本の保護の為か窓が小さくていつも薄暗い。ヘンリックはこの場所が好きだった。仕事に疲れて王都で気を紛らわす為に来ていたのはいつもここだった。
最後にこの場所へ来れてよかった、そう思いながら一階へ降りようとした時、階下から弾むような女性の話し声が聞こえてきた。
二階が騒がしくなるかもしれないと思ったヘンリックは、思い出の場所に別れを告げて階段を降りかけた時に、二階へ上がろうとしていた人物と鉢合わせをしてしまった。
彼女は目を丸くしてヘンリックを見つめ、一緒にいた相手に話し掛けるために開いていた口をすぐに閉じた。
階段は狭いので一段ほど降りただけのヘンリックは登ってきた相手に譲る為に、後ろへと下がる。
これまで王宮では自分が道を譲られる立場だったが、今は平民の格好をしているし、王宮に帰っても“一応まだ王族”という立場でしかない。あちらも平民のような服装だったが、将来の王妹には道を譲るべきだと咄嗟に思って先に身体が動いてしまった。
そして先ほど聞こえてきたキャッキャとはしゃいでいた声の主が彼女だったのかと思うとヘンリックはただ驚くだけだった。
彼女は連れの男の腕に凭れかかるように階段を登っていたのだが、まずい相手に見られたとばかりにヘンリックの顔を見た途端、男に巻き付けていた腕を解いた。
以前の彼女ならば、はしたないとでも言いそうなその行動は、若い娘らしいといえばらしいのだが、自分の知っているローゼリアらしからぬ行動でもあった。
ヘンリックもまだマリーナと想い合っていた頃に彼女とよくああやって歩いていた。
ローゼリアの事を感情の無い人形のようだと思っていたのだが、自分と婚約破棄をしてからの彼女は表情がくるくるとよく変わるようになった。
白い結婚を申請しに出掛けた時の満面の笑顔は隣にいる男の為だったのかと思うと、僅かばかり悔しくも思うのだが、遠い離宮へと旅立つ自分にはもう遠い世界の話だった。
ローゼリアと婚約者も階段を登り、二階に足を踏み入れたところで二人がヘンリックに礼をした。馬鹿な恋人たちに見えたのが嘘のようにきっちりとした礼だった。
男の方は貴族であるはずだが珍しく腰に剣を差している。攫われそうになった時に一緒にいたオルコットの養子がローゼリアを助けたと聞いていたが、その剣で彼女を守ったのかもしれない。
ヘンリックは無言でその場を立ち去ろうとした。お互いに忍んで来ているので挨拶の必要は無い。
「お元気で」
ヘンリックがローゼリアたちの前を通った時に、礼をしたまま、ローゼリアが小さな声でそう声を掛けてきたのでヘンリックは思わず立ち止まってしまった。
「キミも息災でいて欲しい」
ヘンリックは短くそう答えると、足早に階段を降りて行った。
彼女がどこまで自分に関係する真実を知っているかは分からない。マリーナとの関係がダメになった事も、自分が王家の血を引いていなかった事も、そして明日断種の処置が行われ離宮へ連れて行かれる事も。
それでも彼女が最後までヘンリックを王太子として扱ってくれた事だけは嬉しかった。
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