裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都

文字の大きさ
68 / 70

68 ローゼリアの結婚

 冬も終わり暖かい季節になった頃、ローゼリアはイアンと結婚をした。

 オルコット領で一番大きな町であるコルコスはその日、雲ひとつない快晴で天候も次期領主の結婚を祝っているようだった。

 領主の館から教会までは僅かな距離であったのだが、道には花が飾られいくつもの出店が並んでいてお祭りムードを漂わせており、いつもよりも外に出ている領民が多かった。

 ローゼリアとイアンの乗っている馬車はゆっくりと進んでいた為か、馬車が見えると領民たちは左右に分かれて道を譲り、馬車へと手を振っているのだった。

「今日は楽しそうですね、何のお祭りかしら?」

 そう言って馬車からローゼリアは無邪気に手を振り返していた。

「相変わらずそういうところは鈍いなあ。よく見て、俺たちの結婚を領民たちが祝ってくれているんだよ」

「まあ、そうでしたの!お父さまとお母さまが来て下さるだけでも充分でしたのに、皆に祝われるなんて嬉しいですわ!」

 領民たちに自分たちの結婚を祝うようにと伝えたのはイアンで、町長には教会までの道を花で飾って欲しいとイアンの個人資産から町へ予算を多めに融通していたし、オルコット家からは酒屋と飲食店に金貨を渡し、今日は通りを歩く者たちに酒と食事を振る舞うようにと伝えてあった。

 なので、いつも外に出ている子供はもちろん、普段は家の中にいる老人たちも通りに出て浮かれた様子で歩いていたのだった。

 そして教会の前に着くと、教会の入り口には町長から依頼を受けた花屋と服飾店が腕によりをかけて飾り付けをしたので、特にたくさんの花やリボンで飾られていて、普段の教会よりもずっと華やかだった。

 ローゼリアが初めてこの教会を訪れた時もイアンと一緒だった。

 あの時のローゼリアはドレスを1枚も持っていなくて、貴族女性とは思えないひどい格好をしていた。教会も町もいつもと変わらない日常の景色のままで、式も無く夫もいないままローゼリアはここで結婚をしたのだった。

 イアンのエスコートで馬車を降りて、二人で控室へと向かう。

 本来なら花嫁と花婿は別々にやってくるのだが、ローゼリアは伯爵との結婚を取り消した後もオルコットの屋敷で暮らしていたので、教会までイアンと一緒に行きたいとローゼリアが言ったのだった。

『だって、結婚式の当日になって花婿が来ないとか、別の女性を連れてくるとか、そんな事があるかもしれないと思うと不安で仕方無いの!』

 完全に恋愛小説に影響され過ぎている、イアンはそう思ったが自領で挙げる身内だけの小さな結婚式なのだからと、ローゼリアの好きなようにさせる事にした。

『ロゼ、よく考えてごらん、キミよりも素敵な女性がこの世の中にいると思うかい?キミの案は受け入れるが、俺がキミ以外の女性に懸想するという妄想はいただけないなあ。俺がキミへの思いをもっと態度で示せばよかったのかな? ……そうだ、結婚式の練習のために口づけの練習をまたしよう』

『ま、待って下さいイアン様、そういうつもりで言った訳では……。あっ、……もうっ』

 イアンに挨拶程度の口づけをされたローゼリアは、慣れていない口づけに顔を真っ赤にする。

 そんなローゼリアの事を可愛らしいと思って、イアンはローゼリアの頭を愛おしそうに撫でるのだった。



 ◆◆◆



 教会に入り、控室に案内されたローゼリアはそこで久し振りに母のナタリーと父のクレメンスと再会をした。

「ロゼっ、父さまはずっとお前に会いたかっ……」

「ああっ、ロゼっ!おめでとうっ!母さまはあなたの結婚式にこうして出る事が出来て嬉しいわっ!それにドレスもよく似合っているわ!」

 ローゼリアを抱きしめようとした父を押しのけて、母がローゼリアを抱きしめる。父と母と共に合うのは二年以上振りだが、二人の夫婦関係はすっかり変わってしまったようだった。

 父と母はエルランドでの仕事の都合で出発したのが遅く、前日の夜はひとつ前の町で宿を取っていたので再会は式当日となってしまった。しかしこの後は数日オルコット領に滞在した後にランゲルの王都へもしばらく滞在する事になっている。

 エーヴェルトは半年後に戴冠式を控えているので忙しく、さすがにオルコット領までは来れなかったが、シーズンが始まったら貴族を呼んでの披露宴を王都で開く予定なので、そちらには出席をしてくれるという話だった。

 ローゼリアとイアンが婚約をしたのが夏の終わりで、春の初めの結婚となった。

 貴族同士の結婚として準備期間が短くなってしまったのは、秋にはエーヴェルトが戴冠して王となる為で、その後にローゼリアが結婚となると王妹の結婚となる為に大掛かりなものになってしまうからだった。

 今ならばどの派閥にも属さない斜陽気味の伯爵家の婚姻なので、披露宴を王都で大々的にしておけば結婚式は領地で済ませられるのだが、それでも結婚祝いの品々は様々な方面から贈られてきたので、結婚式後の最初の仕事は贈答品への礼状の返信になりそうだった。

 そして何よりこの教会で式を挙げる事はローゼリアが強く望んだ事だった。

 書類の上では、結婚の事実そのものが無くなってしまったが、前の結婚で嫁いだ時もこの教会から始まった。

 あの時は祝いらしきものも何も無く、ただ書類を出しただけの寂しいものだった。

 だからローゼリアはあの時のやり直しをしたかったのだ。

 あの時はこの場に来る事が出来なかった両親に見守られて、隣には旦那さまと呼ぶべき大好きな相手がいる。領民にも祝われ、真っ白なドレスを着た自分は今度こそ幸せな花嫁だと思える。

 ローゼリアが母のナタリーに強く抱きしめられながら早くも涙を流しそうになった時、突然控室のドアが強めに叩かれて、司祭が現れたのだった。

「……大変です!王太子殿下より先触れがあり、本日こちらにいらっしゃるとの連絡がございましたっ」

 司祭もあまりに驚いているのか、焦っている様子で早口にそう告げたのだった。

 もちろん、王太子とは既に立太子をしているエーヴェルトの事だった。

 突然の先触れにその場にいた全員が驚いて顔を見合わせたのだった。

 エーヴェルトからの先触れによると、自分にはあまり時間もないし長く居られないので式は済ませてしまって構わないと伝言が添えられていた。

「お兄さまはどれくらいでいらっしゃるのかしら?」

「昼前には到着されるとの事です」

 出来ればエーヴェルトを待ちたいところだが、昼前の到着では式はとうに終わっている予定だ。僅かだが招待客もいるので判断が難しいところだった。

「わかりました。式は時間通りに始めますわ」

 ローゼリアはその場にいる皆にそう告げたのだった。
感想 7

あなたにおすすめの小説

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【本編完結】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。