裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都

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69 家族の再会

【エーヴェルトside】

 エーヴェルトが昼夜馬を走らせて教会へ到着した時、花で飾られた教会の扉はしっかりと閉じられていて、町の喧騒とは対照的に静かだった。

 時間的にも式が終わってしばらく経った頃合いなので、もしかしたらオルコット伯爵の屋敷へ向かった方が良かったかもしれない。

 ここに来るまでに、お祭り騒ぎの街の様子を見てきた。道を歩く人たちは皆陽気な様子だった。もしかしたら伯爵家の方から酒や食事が振る舞われたのかもしれい。

「やっぱり伯爵家に行った方が良かったのでは?行きましょう、殿下」

 側近の一人と思われる濃い金色の髪をした男がエーヴェルトに話し掛ける。

「ああ、そうだな」

「もっさりちゃんの花嫁姿、見たかったですねえ。……あっ妹君でしたねっ」

 エーヴェルトに睨まれた側近の男が慌てて言い直す。

 エルランド王国から引っ張ってきたこの男は口が悪い。エーヴェルトは没落した時に力になった者たちを側近として置いているのだが、エーヴェルトを主として尊敬の眼差しで仰ぎ見る者が多い中で、この男だけは毛色がかなり違っていた。

 持ち前の気安さを時々見せる事でエルランドとの交渉事が上手く運んだ事が何回かあった事と、エーヴェルトが彼を強く咎める事はないので、他の側近たちはエルランドで子爵令息だった彼が時々見せる軽口に文句を言えないでいた。

 伯爵家の屋敷へ向かおうと、教会に背を向けたエーヴェルトが馬の鐙に足を掛けた時、バン!と勢いよく教会の両開きのドアが開け放たれて、白いドレス姿のローゼリアが花婿の手を引いて教会の中から現れたのだった。

「お兄さまっ!」

 ローゼリアはドアを開けた勢いのまま走ってやってくると、旅装姿のエーヴェルトに抱きつく。

 どうして花婿も連れて来たのか分からないが、ローゼリアがつないだ手を離さないままなので、イアンまで一緒にエーヴェルトの元までやってきている。

 ドアから見える教会の中には招待客が椅子に腰かけながらこちらを見ている。

 久し振りに父母の顔を見つけて、驚いた表情を浮かべていたエーヴェルトの表情が少し緩んだ。

 フォレスターの家族が揃うのは、ローゼリアがオルコットへ旅立った日以来の事だった。

 母のナタリーはエーヴェルトの姿を見た途端、泣き始めてしまった。

「妹が済まない」

 エーヴェルトはローゼリアのすぐ後ろで苦笑いを浮かべているイアンにひと言告げてから、纏っていたマントを側近に預けてローゼリアとイアンの三人で教会へと入った。

「それではこれよりオルコット家とフォレスター家の婚姻の式を行います」

 司祭がそう告げてローゼリアの結婚式が始まる。フォレスター家はもうないので書類上は母の姓であるピオシュ家の方が正しいのだが、司祭にはピオシュではなくフォレスターの名前を出して欲しいとお願いをして、そのようにしてもらったのだった。

 フォレスターの名前を聞いた途端、突然父が泣き始めた。エーヴェルトはいずれフォレスターを再興させるつもりでいるが、父のクレメンスは一度家を潰してしまった事に思うところがあるのだろう。

 結婚式の方は新郎と新婦が神の前で誓い、婚姻の誓約書に二人でサインをするだけであっさりと終わってしまった。時間にして半刻どころか、もっと早い時間で終わってしまった。

 エーヴェルトが驚いた表情をしていると、泣いている両親に代わってオルコット伯爵が説明をしてくれた。

 ローゼリアのたっての希望で、誓いの言葉と婚姻の誓約書にサインをする箇所以外の全ての内容を終わらせた上で、残る事が出来る者たちでエーヴェルトが来るのを皆で待っていたとの事だった。

「ここの司祭の口上は長いから、殿下は良い時にいらしたなあ。今日は特に司祭の話が長かったですぞ」

 オルコット伯爵はそう言って軽く肩を回しながら笑った。

「それにしても今日は愉快な日ですな殿下。さっき外で馬の蹄の音が聞こえたと思ったら、急にローゼリアがイアンを連れて走り出したので、皆で驚きましたよ」

 そう付け加えて伯爵は椅子から立ち上がった。既に主役の二人は教会のドアの前にいる。

「お兄さま!一緒に街歩きをしましょう。今日は特別にたくさん屋台が出ていますのよ!」

 イアンと手をつないだまま、ローゼリアは空いた方の手でエーヴェルトに向かって手を振る。

「行っちゃいましょうよ殿下。いやー、妹ちゃんもしばらく見ない間に自由人になっちゃいましたね」

 そう言って側近の中で唯一式への参加を許された金髪の男は外へと向かう。おそらく他の側近たちへの連絡と護衛たちの手配について相談に行ったのだろう。
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