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22 伯爵への企画提示
森で迷子になってからひと月くらいが過ぎた頃、季節はすっかり冬に変わっていた。オルコット領では雪はそれほど降らないので、寒さ以外の不便をあまり感じずにローゼリアは過ごせていた。フォレスターが新たに与えられた子爵領は西の方だが北寄りの土地でもあったので、あちらで暮らしたままだったら、雪に困っていたかもしれない。
ローゼリアは執務室の応接セットで伯爵と対峙していた。伯爵の隣にはイアンも座っていて、暖炉からはパチパチと薪の爆ぜる小さな音がしていた。
テーブルに置かれたのは2つの書類の束で、伯爵はそのうちの片方の束に積まれた書類の一部を読んでいる。
「なるほど、当家で商っている紙に関係する事業と紙とは全く関係無い事業か。どちらも上手くいくかどうかは未知数だな」
「ええ、ですから初期投資はあまりかけないように少しずつ段階を追って進めていきたいと思っていますの」
「この美容液に関係するものはワシではさっぱり分からん」
そう言いながら伯爵は、手にしていた書類をテーブルの上に置く。
「最初はエルランドで人気の美容液をいくつか取り寄せて、ランゲルでも人気が出そうなものをまずは商会と付き合いのある方々の奥方様にサンプルとしてお渡しして様子を見ようと思いますの」
「化粧品を他国から取り寄せて売るのはいいが、オルコットで植物から作るとなると大がかりになるな」
「取り寄せて売るのでは大きな利益にはなりませんし、他の商会に真似をされて価格を抑えて販売されてしまえば終わってしまいますわ。一番利益を上げるには当領地で製造をして販売する事ですわ。新しい美容液を開発して販売するまでの時間稼ぎとランゲルでどのような美容液が好まれるのかのリサーチを兼ねてエルランドの美容液を販売したいと思っていますの。この国の美容産業は遅れていますから、ランゲルの貴族女性に受け入れられると思いますわ。エルランドの美容液が売れてからで構いませんが、美容液の開発には時間もかかりますから、出来れば同時進行が好ましいですわ。」
「分かった。とりあえず王都にあるオルコット商会の者と相談して決めるか」
「はい、よろしくお願い致します」
「あと問題はこちらだな。我が領の紙を使うから初期投資は安く済むが、失敗すれば己の醜聞を晒すだけだぞ」
オルコット伯爵はそう言いながら、美容液に関する事業をまとめた紙の隣にある紙の束を指差した。
「ええ、自分を売るくらいの事をしないと売れないと思いますの。それにこの内容でしたら王家もヴィルタ家も喜んで下さいますから、横槍が入る事もありませんわ」
「当家に影響は無いから構わないが、これをウチが売るというのがな……」
「だから真実味が出て来て面白いのですわ。巷ではあの事を題材にした歌を歌う吟遊詩人や、お芝居が人気があるというではないですか。でしたら当家もそれに便乗するべきだと思いますの。ええ、もちろんフィクションとして『どこかの南の国での物語』と本文の最初に書いてありますから問題ありませんわ」
「だが、ここに書かれた登場人物の名前は何とかしろ。ロドリックとマリアとローズではそのままだから、さすがにまずいぞ」
「承知しました。そちらは全く違う名前に差し替えますわ」
「それと、この本が売れた後の第2案だが、これはお前の趣味だろう?」
「あら、私の趣味が読書だとご存知でしたのね。これは私の夢が詰まっていますの」
「本を宝石で飾るなんて普通は考えないだろう」
「ええ、ですが宝石を入れる事でアクセサリーと同等のお値段で売る事ができますわ。ヒロインとヒーローの瞳と同じ色の宝石で本の表紙を飾るなんて素敵だと思いますのよ」
言いながらローゼリアはうっとりした顔を浮かべる。
「原価がかかるから、宝石の数はひとつかふたつにしろ。本当に売れるか分からないからまずはサンプルとして数冊作って、残りはそれを見てからだ。その前にはまず麻紙だけで作った本が売れてからだ。この恋愛小説とやらが売れるかどうかが分からん。他人の色恋沙汰などワシは面白いとも思わんがな」
「それでもお許しを下さってありがとうございます。伯爵さまには女の浅知恵だと馬鹿にされず、ご理解を頂けて嬉しいですわ」
「理解はしていないが、何か商売を考えろと言ったのはワシだし、本の方は初期投資が予算内でうまく収まっているからな。先ほども言ったが、これらの案を動かすかどうかはオルコット商会で副会頭をしている者がいるから、そいつの反応を見てから決める。王都にあるオルコット商会とのやり取りはイアンにさせるから、説明をするのにお前もついて行け」
そう言って伯爵は隣に座るイアンに視線を送る。
「承知致しました」
それまで黙って二人のやり取りを聞いていたイアンは伯爵の言葉に頷く。
ローゼリアは書類を纏めると、にっこりと笑った。
「ありがとうございます、商会の方々にもよろしくお伝え下さいませ」
ローゼリアは執務室の応接セットで伯爵と対峙していた。伯爵の隣にはイアンも座っていて、暖炉からはパチパチと薪の爆ぜる小さな音がしていた。
テーブルに置かれたのは2つの書類の束で、伯爵はそのうちの片方の束に積まれた書類の一部を読んでいる。
「なるほど、当家で商っている紙に関係する事業と紙とは全く関係無い事業か。どちらも上手くいくかどうかは未知数だな」
「ええ、ですから初期投資はあまりかけないように少しずつ段階を追って進めていきたいと思っていますの」
「この美容液に関係するものはワシではさっぱり分からん」
そう言いながら伯爵は、手にしていた書類をテーブルの上に置く。
「最初はエルランドで人気の美容液をいくつか取り寄せて、ランゲルでも人気が出そうなものをまずは商会と付き合いのある方々の奥方様にサンプルとしてお渡しして様子を見ようと思いますの」
「化粧品を他国から取り寄せて売るのはいいが、オルコットで植物から作るとなると大がかりになるな」
「取り寄せて売るのでは大きな利益にはなりませんし、他の商会に真似をされて価格を抑えて販売されてしまえば終わってしまいますわ。一番利益を上げるには当領地で製造をして販売する事ですわ。新しい美容液を開発して販売するまでの時間稼ぎとランゲルでどのような美容液が好まれるのかのリサーチを兼ねてエルランドの美容液を販売したいと思っていますの。この国の美容産業は遅れていますから、ランゲルの貴族女性に受け入れられると思いますわ。エルランドの美容液が売れてからで構いませんが、美容液の開発には時間もかかりますから、出来れば同時進行が好ましいですわ。」
「分かった。とりあえず王都にあるオルコット商会の者と相談して決めるか」
「はい、よろしくお願い致します」
「あと問題はこちらだな。我が領の紙を使うから初期投資は安く済むが、失敗すれば己の醜聞を晒すだけだぞ」
オルコット伯爵はそう言いながら、美容液に関する事業をまとめた紙の隣にある紙の束を指差した。
「ええ、自分を売るくらいの事をしないと売れないと思いますの。それにこの内容でしたら王家もヴィルタ家も喜んで下さいますから、横槍が入る事もありませんわ」
「当家に影響は無いから構わないが、これをウチが売るというのがな……」
「だから真実味が出て来て面白いのですわ。巷ではあの事を題材にした歌を歌う吟遊詩人や、お芝居が人気があるというではないですか。でしたら当家もそれに便乗するべきだと思いますの。ええ、もちろんフィクションとして『どこかの南の国での物語』と本文の最初に書いてありますから問題ありませんわ」
「だが、ここに書かれた登場人物の名前は何とかしろ。ロドリックとマリアとローズではそのままだから、さすがにまずいぞ」
「承知しました。そちらは全く違う名前に差し替えますわ」
「それと、この本が売れた後の第2案だが、これはお前の趣味だろう?」
「あら、私の趣味が読書だとご存知でしたのね。これは私の夢が詰まっていますの」
「本を宝石で飾るなんて普通は考えないだろう」
「ええ、ですが宝石を入れる事でアクセサリーと同等のお値段で売る事ができますわ。ヒロインとヒーローの瞳と同じ色の宝石で本の表紙を飾るなんて素敵だと思いますのよ」
言いながらローゼリアはうっとりした顔を浮かべる。
「原価がかかるから、宝石の数はひとつかふたつにしろ。本当に売れるか分からないからまずはサンプルとして数冊作って、残りはそれを見てからだ。その前にはまず麻紙だけで作った本が売れてからだ。この恋愛小説とやらが売れるかどうかが分からん。他人の色恋沙汰などワシは面白いとも思わんがな」
「それでもお許しを下さってありがとうございます。伯爵さまには女の浅知恵だと馬鹿にされず、ご理解を頂けて嬉しいですわ」
「理解はしていないが、何か商売を考えろと言ったのはワシだし、本の方は初期投資が予算内でうまく収まっているからな。先ほども言ったが、これらの案を動かすかどうかはオルコット商会で副会頭をしている者がいるから、そいつの反応を見てから決める。王都にあるオルコット商会とのやり取りはイアンにさせるから、説明をするのにお前もついて行け」
そう言って伯爵は隣に座るイアンに視線を送る。
「承知致しました」
それまで黙って二人のやり取りを聞いていたイアンは伯爵の言葉に頷く。
ローゼリアは書類を纏めると、にっこりと笑った。
「ありがとうございます、商会の方々にもよろしくお伝え下さいませ」
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