裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都

文字の大きさ
23 / 70

23 誇りと意地

 オルコット領から王都までは馬車で3日ほどかかる。前回の時は伯爵も一緒だったので3人で馬車に乗ったが、今回はイアンと2人きりの旅となる。イアンとの長旅は2度目だが、あの時のイアンは馬に乗って外にいたが、今回はローゼリアと一緒の馬車に乗っている。

 森で迷子になった日からイアンの態度が軟化して、挨拶程度ならするようになったからか、ローゼリアはイアンと一緒の馬車旅でもそれほど苦痛に感じていなかった。

 イアンは傍らに剣を置いてはいるが、服装は騎士のような出で立ちだった前回と違い、ジャケットの下はスラックスに白シャツとラフな格好をしている。王都に近づいたら貴族らしい格好をすると話していたので、ローゼリアも厚手のコートの下は冬用の厚い布地で出来た簡素なワンピースを着ていた。

「伯爵様からイアン様が最近は領主教育を熱心にされていらっしゃるってお聞きしました」

「8歳も年下の令嬢に仕事をきちんとこなせともう怒られたくはないんで」

 つまらなさそうに外の景色を眺めていたイアンがぽつりと呟いた。

「あら、私の言葉はしっかりイアン様に届いていらっしゃったのね、ふふふ」

 ローゼリアの言葉にイアンは片方の眉を上げる。

「俺、こう見えて負けず嫌いなんです」

「いいことだと思いますわ」

 そう言ってローゼリアは貴族らしい微笑みを浮かべる。

 外の景色を見ながら話していたイアンがちらりとローゼリアを見る。

「企画書、ちゃんと読みました」

「読んで下さってありがとうございます。イアン様から見てどうでしたか?」

「正直なことを言うと俺にはよく分かりませんでした。俺は本なんて読まないし、女性の化粧品の事なんて全然わかりませんから。ただ思ったのは、今回のことが上手くいったらあなたはオルコット領に必要な人となるのだと感じました」

「私が起こしたのはただの企画ですわ。実際に商いとして動いていくのはオルコット商会の方々とイアン様にしていただきたいと思っていますの。それと本の方は一時的な売り上げにしかならないでしょうから、そこで得た利益は美容液作りの資金に使っていただければと思っていますわ。もしも美容液が成功しましたら、これからのオルコット領の新しい産業になりますから、イアン様には頑張って頂きたいと思っていますのよ」

「本の方はあのような内容でよろしいのでしょうか?あれは、その…、あなたにとっての醜聞なのでは?」

「ええ、それも承知の上での事ですわ。家が没落した時にローゼリア・フォレスターの貴族としての華々しい人生は終わってしまいましたわ。落ちるところまで落とされたのですから、これ以上は落ちようもないでしょう。それにもう既にお芝居や歌の題材にされているのですから今さらですし、何か言われましても、あれはただの物語ですわと言い切ってやりますわ」

「お強いですね」

「エルランドでは私の家族が頑張っていますの。ランゲルではフォレスターは終わったと思われていますが、この地でなくてもフォレスターは立派に立ち上がって見せますわ。だから私もフォレスターの一員として意地でもここで頑張っていきたいと思っていますの」

「あなたは今でもご自分をローゼリア・フォレスターと思われているのですね」

「ごめんなさい。嫁ぎ先であるオルコットの為にも何かしたいと今は一番に思っていますけれど、私の根元にはフォレスターとしての誇りがあって、それがあるからこうやって頑張っていけますの」

「あなたを見ていると、貴族というのは本当に家というものを大切にしているのだと痛感します。俺もあなたのお陰でオルコットが大切だと少しずつ思えるようになってきました」

「まあ、それは素晴らしい事ですわ。オルコット領はこれからもっと素晴らしい領地になっていけると私は思いますもの」

「俺たちの頑張り次第って事ですか」

「ええ、その通りですわ。今回の事が成功しましたらオルコットは貴族社会で以前より注目される家になるでしょう。次期当主となられるイアン様にも頑張っていただかないといけませんわ」

「オルコットは目立たない家門だと思っていましたが、先日商いの話を聞いて義父上は目立たないようにしていても実は野心家だと思いました。もちろん良い意味でですが。俺はこれまで剣の鍛錬ばかりで何もしてきていませんでしたが、あなたがいるのでしたら当主としてやっていけるような気がします」

 イアンはローゼリアをじっと見つめる。

「私、自分の中で目標を持っていますの」

「目標ですか?」

「今は私もこうしてご一緒させていただいておりますが、数年後にはイアン様お一人でも事業や領地運営が回るようにお手伝いをさせていただきたいと思っていますわ」

決意に満ちた表情を浮かべながらローゼリアは熱く語った。

「……あなたはブレない方ですね」

 イアンはため息をひとつ吐いてから諦めにも似た苦笑いを浮かべる。

「ええ、私譲れないところは絶対に譲りたくないと思っていますのよ」

 そう言いながらローゼリアはホホホと貴族然として余裕の笑みを浮かべるのだった。
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

『「ママは我慢してればいいんでしょ?」と娘に言われた日、私は妻をやめた』~我慢をやめた母と、崩れていく家族、そして再生~

まさき
恋愛
私はずっと「いい妻」でいようとしてきた。 夫に逆らわず、空気を読み、波風を立てないように生きる。 それが、この家を守る唯一の方法だと思っていた。 娘にも、そうであってほしかった。 けれど── その願いは、静かに歪んでいく。 夫の言葉をなぞるように、娘は私を軽んじるようになった。 そしてある日、夕食の後片付けをしていた私に、娘は言った。 「ママはさ、我慢してればいいんでしょ?」 その一言で、何かが壊れた。 我慢することが、母である証だと思っていた。 だがそれは、私自身をすり減らすだけの“呪い”だった。 ──もう、我慢するのはやめる。 妻であることをやめ、母として生き直すために。 私は、自分の人生を取り戻す決意をした。 その選択は、家族を大きく揺るがしていく。 崩れていく夫婦関係。 離れていく娘の心。 そして、待ち受ける“ざまぁ”の行方。 それでも私は問い続ける。 母とは何か。 家族とは何か。 そして──私は、どう生きるべきなのか。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。