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1巻
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しおりを挟む「いやいや、ちゃあんとお仕事もろたで~。俺らは道頓堀商店街に出向や」
「道頓堀商店街に出向?」
拓郎と華子は顔を見合わせた。
「そ。道頓堀に油田を掘るんやで。そら、地元住民の皆さんの多大なご協力を仰がなアカンやろ」
「はあ、そらそうですねぇ」
「地元住民の皆様の日々の生活を事細かにサポートする。それが俺らのお仕事や」
「はあ」
「俺らのために新しい分室を道頓堀に用意してくれるそうや」
「はあ?」
「たこつぼの二階が俺らの新しい部屋やて」
「はあああ?」
「課長、意味がわからへんのですけど?」
「ちっちっち。君達、鈍いねぇ」
広瀬は顔をしかめて右手の人差し指を左右に振った。
「要するに『お前ら邪魔やから出て行け。市役所の中に居ったら、また情報をリークするやろうから、とっとと失せろ』ってこっちゃな」
拓郎の口がカクンと開いた。
「それって、平たく言えば島流しって事?」
「そ。平たく言えば島流しって事。噛み砕いて言えば厄介払いって事。ついでに言えば帰ってくんなって事」
「わあああああ」
拓郎は思わず頭を抱えて机に突っ伏した。
「八丈島から沖ノ鳥島に遠島されたああああ」
「君ぃ、道頓堀商店街の皆様に失礼やぞ! 八丈島から沖縄本島に流されたんや」
訳のわからない例えである。
「ええやないか。オモロイやないか。同じやるなら市民の皆様と一緒におる方が面白いってモンやろ。一応給料も出るねんし」
「道頓堀油田かぁ。どうなんねんやろ~。ああ~ん、なんか楽しみ~」
机にめり込んで身悶えしている拓郎とは対照的に華子はうっとりとしていた。
「油田、油田、油田。ああ、おなかへってきた。おでんでも食べに行きましょか」
「なんでそこで油田がおでんになんねんっっっ! お前は食い気ばっかりか! この欠食児童があ!!」
拓郎が叫ぶ。原油の黒い汁に浸ったおでんを想像し、拓郎は思わずえずいた。
「おお、そうやな。さっそく引越し準備せなアカンし。これから道頓堀行って、下見して、ついでにおでんでも食おか」
広瀬は勢いよく立ち上がると足取りも軽やかに扉の方へ歩き出し、華子もバッグを持つと嬉しそうに立ち上がった。
「拓郎くん、ほら行くよ!」
「あううううううう」
半分死体になっている拓郎の腕を取り無理やり立たせると、そのままずるずると引きずるようにして広瀬の後に続いた。
道頓堀は相変わらずの騒ぎである。ディズニーランドの人気アトラクション並みの人混みを三人は掻き分け掻き分けしながら、ようやくたこつぼに辿り着いた。
扉を開けると、狭い店の中はお客で満員だ。行列に並び飽きた客が列から離れ、道頓堀に居並ぶ飲食店で休憩しているのだろう。どの客もぐったりと疲れた顔をしている。
やすえの一人娘の弥生がたこ焼きの入った皿を持って、右へ左へと飛び回っていた。弥生はまだ中学生だが、やすえよりも既に背が高かった。ぽっちゃりしてる母よりも若干細いが、顔立ちはよく似ている。
「あ、どないしょう課の……」
入口で空いた席を探していた三人を見つけると、厨房に向かって叫んだ。
「お母さん! 来はったよ~!」
奥の厨房からやすえが出てきた。
「ああ、三人さん! いらっしゃ~い」
まるでどこぞの新婚さん番組のようだ。思わず拓郎はぷっと噴き出した。
「あ~、今席満員やから、二階で待っててくれる?」
やすえは店の奥を指差した。どうやらそこに階段があるらしい。
「今、この通りで、手離されへんから。ごめんやで」
「いえいえ。じゃ、遠慮なく」
広瀬はへらへらと笑いながら奥へと進んでいく。華子は通りすがりに弥生とハイタッチをすると、堂々と後に続いて行く。拓郎は小さくなってコソコソと最後尾をついていく。何故二人がこれほど堂々としていられるのか、どうも理解出来ない。まるで自分の家だ。
隠し階段のような狭くて急な階段を上がる。体重をかける度に、ぎゅうっと低い音を立てながら蹴上がりの板がきしむ。いかにも古いですといわんばかりだ。
たこつぼの二階は縦長の和室になっていた。部屋の奥には座卓が三つ、積み重ねて置かれており、その手前には座布団が十枚程積まれていた。どうやら一応お座敷対応にもなっているらしい。
「おい、拓郎。そっち持ってくれ」
広瀬は早速、座卓を一つ下ろそうとしている。拓郎は慌てて座卓の縁を持った。
「エエんですか? 勝手に触って」
「何ゆうてんねん。ここがわしらのオフィスになるんやで? 自分らでせんでどうすんねん。大家の手を煩わせるんか?」
「……」
なんとなく騙されているような気もするが、道理と言えばそのような気もする。拓郎は首をかしげながらも、仕方なく広瀬の手伝いをした。
座卓を並べて座布団をその周囲に置くと、がらんとした部屋がちょっとした宴会部屋に変身した。
「ええやんか、ええやんか」
華子は嬉しそうに拍手する。
「そや、後で招き猫と福助とビリケンさん、持ってこなアカンわ」
「おお、そやな。引越し荷物はそんなに仰山ないから、拓郎、お前の自転車にリヤカーでもくっつけて運ぼか」
「やめてくださいよ! 僕の自転車でリヤカー引かんといてください!」
拓郎は悲鳴を上げる。拓郎は自転車好きで、出勤にも使っている。今の愛車は某有名メーカーのマウンテンバイクで、購入の際には結構な額だった。日傘をハンドルにくっつけて走っているその辺のオバ・チャリとは違うのだ。そんなものでリヤカーを引くなど以ての外である。
「そんな事するくらいなら、電車で往復しますっっっ!」
「ちぇっ、拓郎のケチ」
広瀬は口を尖らせて拗ねた。
「オッサンが拗ねても可愛くもなんともない。ダメですよ!」
拓郎の言葉に、隣の華子がピクリと反応する。
「拓郎くんのケチ」
華子も唇を尖らせて拗ねてみせる。ついでに白々しい瞬き付きだ。
「肉まんが拗ねても可愛くない! アカンもんはアカン!」
「誰が肉まんや!」
華子が手の甲で拓郎の胸を勢いよく叩いた。どすっと結構な衝撃がして、拓郎はげほっと咳をした。
「お待たせしてごめんねぇ」
その時、賑やかな声と共にやすえが上がって来た。手にはたこ焼きとお茶の乗った盆。
「いやぁ、机出させてしもて、ごめんね」
「いやいや、間借りさせてもらうんですから。これくらいはせんと罰が当たるっちゅうもんですわ」
広瀬にしては珍しくまっとうなセリフである。やすえはにこやかに笑いながら、三人の前に盆を置いた。
「たこ焼き屋やから、たこ焼きしかないで」
「小路さん、おでん屋さんってあります?」
「おでん? ああ、三軒隣にあるわ」
華子はどうしてもおでんが食べたいらしい。
「しゃあけど、びっくりしたわ。ゆうべ、広瀬さんから電話貰った時には」
やすえはお茶を三人に配った。
「は?」
拓郎は広瀬を見た。当の本人はしら~っとした表情で早速お茶をすすっている。
「……課長が電話したんですか?」
「そうや」
「あのぉ、もしかしてとは思うけど。僕らの出向って、追い出されたんですよね?」
「まあ、結果的には引き止められへんかったからな。そういう事やろ」
「引き止められへんかったって……。ええええ? ちょっと待ってくださいよ」
拓郎は素っ頓狂な声を上げた。
「か、課長? まさか、自分から出向するって言うたんですか! ちょっと! えええ?」
拓郎は思わずのけぞった。何故そんな事を言い出すのかさっぱり理解できない。元々理解できないオッサンだが、何を血迷ったのか自ら島流しを願い出るとは。
「どういうこと?」
華子はきょとんとして広瀬と拓郎とを交互に見比べている。
広瀬は相変わらず我関せずの涼しい顔だった。
「拓郎よ、よう考えろや。あんな役所の中に居ってもしゃあないやろ。これからあの大風呂敷に付き合わされるんやで? それも、あのせこい了見の連中の考えるような大風呂敷や。どないなモンかわかるかいな。そんなモン、ろくなモンやないわい。しゃあけどやな、同じ付き合わされるんなら、損はしとない。出来たら儲けたいやないか。それは公務員だけやない、大阪に住むモン全員の思いや。そのためにはあんなせせこましい、モグラみたいなトコに居って、ろくでもない雑用してるよりは出た方がオモロイに決まってるやろ。風呂敷の模様を眺めようと思ったら、風呂敷の中に突っ立っとってもなんも見えんわい」
「……」
拓郎は唖然として広瀬を見つめた。
「なんか、物凄くマトモな事、言ってます? もしかして」
「当たり前や。失礼やで、君」
広瀬はいつものへらへらした調子で答えた。
「お、それよりまずは腹ごしらえや。それが終わったら引越しの算段せんとな。三時から記者会見もあるから、見なあかんやろ? 館山のオッサンの冷汗かくとこ、見ものやぞ。早いこと色々片付けなあかんな。公用車借りなあかんわ。おい、拓郎、携帯や、携帯」
「あ? あ、はい」
拓郎は慌ててズボンのポケットに突っ込んであった携帯電話を取り出して広瀬に手渡してから、はっと気がついた。
「何で僕のなんですか……。自分の使って下さいよ!」
「俺のは充電が切れかかってるから。ええやんけ、セコい事言うなよ」
「どっちがセコいんですかっっ!」
毎朝放送アナウンサー室に市役所からのファックスが届いたのは九時過ぎだった。業務開始と同時に市役所広報から送信されてきたようだ。そこには『道頓堀石油流出についての記者会見のお知らせ』と書かれてあった。
「麻生ちゃん、市役所で記者会見があるよ。行く?」
自分のデスクで道頓堀騒動のリポートを書いていた麻生直美はディレクターの柏原から声をかけられ、思わず飛び上がった。
「はい! 勿論です! 行きます!」
物凄い勢いで柏原の前へ移動し、机に手をつくと身を乗り出した。直美の勢いに柏原はたじろぐ。
「あ、そ、そう? でもさ、昨日も道頓堀だったし、疲れてるんじゃない? 夜、収録もあるし」
「大丈夫です! ドリンク剤、ケース買いしてますから!」
可愛らしい顔からは想像もつかないような鼻息の荒さである。
「柏原さん、報道に行きたいんです! 前から言ってますけど、私、報道が好きなんです! ぜひ、ぜひ、私に行かせてください! お願いします!」
「ま、まあ、君が体力的に大丈夫なら、いいんだけどさ」
柏原は苦笑いを浮かべると、手元のファックス用紙を直美に渡した。
「これ、さっき市役所から届いてたヤツ。じゃ、頼むよ」
「はい!」
直美はファックス用紙を手にすると小躍りしながら自分のデスクに戻った。わくわくしながら目を通す。
「三時からか。よし」
直美は一つ頷いた。
「麻生、いよいよ念願の報道へ進出?」
先輩の女子アナである水野が声をかけてきた。
「ええ! やっとチャンスが回ってきました、先輩!」
「良かったじゃない。貴女、ずっと報道志望だったもんね」
新人の頃から直美を気にかけてくれている先輩だけに、本人の意に反してバラエティー系で仕事が増えていくことを心配していてくれたようだ。
「でもこれでコケたら、一生バラエティーよ。頑張んなさいね」
「はい!」
水野は直美の肩をポンと一つ叩いて、その場を去った。直美は両手で自分の頬っぺたを叩いた。これからが正念場だ。
直美とテレビクルーは昼過ぎには市役所に辿り着いた。既に市役所玄関周辺には大勢のマスコミが駆けつけている。市役所の広報の職員が、集まった報道陣の確認を始めていた。時々喧嘩のような怒声が聞こえてくる。どうやら市役所が連絡していない三流紙やゴシップ誌のフリーライターなどは入れないようになっているらしい。
「さすがにたくさん集まりましたね」
カメラマンが直美に話しかけてくる。
「そりゃそうでしょう。道頓堀から石油が湧いてるなんて前代未聞だもの。お役所がどんな対処をするのか、誰だって興味が湧くってものよ」
そう、恐らく日本中が注目しているはずだ。そしてそのニュースを報道するという使命に直美は身体が震えるほど興奮していた。
「それでは中にご案内致します。皆さんにお願いがあります。庁舎内には市民の皆様が大勢こられておりますので、どうぞ混乱を招かないよう静粛かつ迅速に移動をお願い致します。また、庁舎内での取材は固くお断り致します。撮影も禁止です。職員や市民の皆さんへの取材を庁舎内で行った方がおられましたら、即退場していただきますので、ご了承下さい。では、こちらへどうぞ」
広報の声が響き、報道陣は職員通用口から庁舎内へと移動し始めた。
市長室では館山が記者会見用の資料を読み返していた。昨日の夜から関係者が徹夜でまとめ上げた資料だ。一晩で作成されたとは思われないような分厚さである。それだけ各部署の情熱がこもっているというものだ。何度も読み返してしっかりと内容を把握しておかなければならない。
市長に就任してから記者会見なんぞ数え切れない程経験してきた。そのほとんどが頭を深々と下げて謝罪をするような内容ばかりだった。自分のせいではないのに、これまでのふがいない市長や市の幹部どもが作った負の遺産の尻拭いばかりだと言うのに、なんで自分がこんなに謝り続けなければならないのか。緊張よりもやりきれない憤りで身体が震えるような記者会見ばかりだったのだ。
しかし、今回ばかりは事情が違う。これほど緊張する記者会見は今まで経験した事がない。
大阪再生プロジェクト・道頓堀油田開発計画。これは大博打だ。吉と出るか、凶と出るか。その結果は神のみぞ知る、といったところか。いや、なんとしても吉としなければならない。そのためには前進あるのみだ。間違いなく、館山修、一世一代の大舞台だった。
館山は額に滲む汗をハンカチで拭った。記者会見が始まる前からこの汗だ。本番になったらバスタオルが必要になるかもしれない。そんな事を考えてみたが、緊張はほぐれそうになかった。
ノックの音がして扉が開いた。企画課の沢木が入ってくる。
「市長、記者会見の用意が整いました」
「うむ」
館山は老眼鏡を外すと胸ポケットに納め、資料を手にするとゆっくり立ち上がった。
「いざ、出陣じゃ!」
中会議室は既にたくさんのカメラと記者達で埋め尽くされていた。騒がしいという訳ではないが、ざわざわした落ち着かない空気が部屋の中を満たしている。
部屋の前の扉が開き、ぞろぞろと館山を先頭に市役所関係者が姿を現した。ガシャガシャと耳障りなカメラの音と、白いフラッシュが無数に弾ける。
部屋の前に設置された横長の机に館山、危機管理の芝、都市整備の岸本、近畿中央大学の太田が座り、企画課の沢木が会見用のマイクの置かれてある台の前に立った。
「時間になりましたので、そろそろ始めさせていただきます。企画課の沢木と申します」
端整な容姿の沢木が軽く会釈すると、それを合図のようにまたシャッター音とフラッシュが激しくなる。
「記者会見は一時間とさせて頂きます。質問は一通りの状況説明が終わりましたらまとめて受け付けますので、ご了承下さい」
沢木は落ち着いた声で会見についての説明を行いながら、時々カメラへと視線を送った。
「それではまず近畿中央大学地質学部准教授太田仁先生です」
マイクが沢木から太田に渡された。太田はおずおずと立ち上がった。小柄でぽっちゃりした太田はまだ三十代後半という事だった。
「え~、ご紹介に与りました太田です。まずは、道頓堀から湧いている物質について説明いたします」
太田は壁際に立っている職員に目配せをした。職員は照明のスイッチに手を伸ばす。会議室の前半分の照明が消えた。
太田が手元のパソコンを操作し、会議室の前の壁に化学記号と数字で埋め尽くされた表が現れた。
「これは現在道頓堀から流出している液体を採取し、分析した結果です。説明しだせばキリがないので、ざっと行きたいと思います。ご覧の通り、主成分は炭素、これで八割以上を占めています。残りは水素、硫黄、その他の元素で構成されてます。これらの成分とその割合を見まして、間違いなく道頓堀から出てきたのは原油であります。油なので密度は水よりも軽いです、約0・85という数値になっています。これは特徴的ですね。原油の性状には三種類ありまして、密度で分類されています。0・85という数値は軽質油に分類されます。特徴は沸点の低い成分が多く、常圧蒸留時に軽油、灯油、ガソリン、ナフサ、石油ガスが多く得られます。アスファルトや重油と言った成分が比較的少ないという事です。軽質油は世界的にもあまり多くない。日本ではかつて静岡県の相良油田で採掘されていました。相良の原油ほどではありませんが、かなり貴重な、良質の原油と言う事ですね」
専門的な話で部屋のアチコチから溜息にも似たうめき声が聞こえてくる。席に着きながら一生懸命メモをとっていた直美にとってもちんぷんかんぷんだ。だいたい日本で原油を採掘しているという話すらほとんど知らなかった。
太田はパソコンを操作した。前に映っている画像が切り替わる。今度は地層の絵が出てきた。
「え~、では何故道頓堀くんだりから、原油が流出したのか。そもそも原油と言うのは深さが数千メートルという地層の隙間、孔隙と言いますが、そこに存在しています。地下では原油やらガスやら水やら混在しているのですが、水に比べ原油やガスは比重が軽い。そのため地中の孔隙を通って浅いところへと移動していきます。そして、ガスや油が貯まりやすいトラップと呼ばれる地質構造の場所に集まるのです。よくあるのが、お椀を伏せたような低浸透性の地層。その下に貯まって、長い時間保存される事になる」
画像の中で通天閣の形をした矢印が地層の絵の中を行ったり来たりして、太田の話の補足を手伝っている。
「これはまだ推測の話ですが、恐らく道頓堀の地下深くにこのような構造の地層が存在していたのであろうと思われます。そして、先日の夜中に起こりましたあの地震。あれが引き金になったのであります。地震によって蓋の役割をしていた帽岩が破壊された。地下数千メートルと言うのは非常に高圧でして、蓋が破壊された事でトラップにあった原油が一気に地表に向かって噴き出した。で、その出口が道頓堀の真ん中だったという訳です」
ほおお~。感心したような声があちこちから聞こえ、ばらばらと記者の手が上がった。
「質問は最後にまとめて時間を取ります」
太田からマイクを渡された沢木がにこやかに、しかし断固とした口調で記者達を抑える。
「それでは館山市長、お願い致します」
沢木はマイクを館山に回した。館山はゆっくりと立ち上がり、マイクを手にした。
「太田先生、ありがとうございました。え~、太田先生には今後も我々のブレーンの一人としてご協力していただけるという事で、宜しくお願い致します。さて、道頓堀から原油が流出しているという事実については科学的に裏づけが取れました。では今後、どうするか。早急に対応していかなければなりません。こうしている間にもどんどん原油は流出しつづけているのです」
館山はポケットからハンカチを取り出すと、てらてら汗ばんで光っている頭全体をくるりと撫でて汗を拭いた。大きく息を吸い、丹田に気を溜める。意を決したように館山は口を開いた。
「昨夜、市役所を挙げて徹夜で討議いたしました結果を報告させていただきます。私どもは『道頓堀油田開発計画』なるものを立案致しました!」
怒涛のようなざわめきが部屋を駆け抜ける。フラッシュの勢いが増し、シャッター音は激しい雨音のように響き渡った。
「道頓堀油田開発計画?」
「市長! 詳しい説明を!」
質問時間もクソもあったものではなく、誰もが口々に叫び始めた。沢木が何度かマイクを通して静かにするように叫んだが、興奮した記者達の耳には届いていない。
「お静かに! 内容については説明いたしますが、一度会見を中断致します! 十五分後に再開致します!」
沢木の叫びにも似た声がワンワンと議場に響き、記者達は一斉に動き始める。廊下に飛び出す者、その場で中継を始めようとする者、慌ただしく携帯電話を耳に当て怒鳴る者。
その大騒動を見ながら館山は手元のグラスの水を飲んだ。
「これからが本番やっちゅうのに……」
話の腰を折られてしまい、思わず苦い顔になる。マスコミというヤツはいい加減なもので、こちらの言葉尻を捕まえて都合のいいところだけを放送するのだ。こんなところで打ち切られてはこちらの予定も狂う。この分では道頓堀油田開発計画という言葉だけが独り歩きしそうだ。
「明日の新聞の朝刊の見出しは決定ですね」
芝が館山の耳元で言った。
「市長のアップがで~んと載って、デカい文字で『道頓堀油田開発!』って。この分じゃ号外も出るでしょうかね」
芝の言葉に、館山は紙面を飾る自分の姿を想像した。演説中の毅然としたところなら、男っぷりも上がるし、支持率も上がるに違いない。思わずにやけながら頭を撫で、呟く。
「アップになるなら、朝のうちに散髪屋に行っておけば良かったかな……」
それ以上光らさなくてもいいでしょう。とはさすがの芝も口には出せなかった。
3
「暴挙か? 快挙か? 大阪市の大博打!」
「道頓堀油田開発計画 発動!」
そんな見出しが一面に載せられた号外が一斉に大阪の主要ターミナル駅で配られた。勿論、当の道頓堀にも号外が運ばれてきた。
「号外だよ、号外! 道頓堀に油田が出来るよ!」
乾物屋の息子が手にメガホンを持って叫びながら心斎橋筋を練り歩くと、砂糖にアリが群がるように人々が寄ってきた。
「わあ、油田やて?」
「えらい大博打に出よったなぁ、館山はん」
「最後や思うて、引っ掻き回して終いとちゃうやろな」
「しゃあけど、オモロイやんけ。ここに油田が出来るねんで? 中東の国みたいに一気に石油成金やで。わはははは」
妙に浮かれた人々が声高に喋っている。
拓郎は号外を手にすると、人混みにもみくちゃにされながらたこつぼへと戻った。
「ご、号外、出てましたよ」
ぜえぜえ言いながら店に入ると、華子が飛んできてその手から号外を奪い取る。
「お疲れさん! わあ、ホンマや。『道頓堀油田開発計画発動!』やて。これ、記念にとっとかなアカンな」
拓郎は倒れこむように椅子に腰掛けた。
「やすえさん、水下さい……」
「はいよ。ご苦労さんやったね」
やすえがガラスのコップに水を入れて持ってきてくれた。
店内のテレビには夕方のニュースの映像が映っている。スタジオには年配の男性アナウンサーと、麻生直美が座っていた。
「ちゃんと説明してくれるんやろか」
やすえがテレビを見上げながら、拓郎の前に座る。
「三時の中継は、途中からメチャクチャで放送が中断してもうたからなぁ。何がなにやらさっぱりわからんかったわ」
「そうですねぇ。ちゃんとまとめて解説してもろたら助かるんですけどね」
拓郎は身体を捻ってテレビを見た。
「あんた、市役所の職員さんやないの。ニュースに頼ってどうすんの」
やすえがあきれた。
「だって、やすえさん。只でさえ、縦組織で動くお役所やのに、ゴマメの僕らがそんな重要なプロジェクトに直接関われると思います? 課長自ら家出するような部署ですよ? 普段からろくな仕事させてもらわれへんのに、そんなん、仕事が回ってくる訳ないやないですか。どないしょう課ですよ?」
「ふうぅぅぅ。なんでそう自虐的なセリフが簡単に言えるんやろか。最近の若い子は覇気がないねぇ」
やすえは両手を挙げて肩をすくめて見せた。
「こういう時にこそ血湧き肉躍るってモンとちゃうのん? それにな、仕事なんてのは与えられるのを待ってるようではあかんの。出来ることを自分から探す。待ってて来んのやったら、探しに出る。せやから、広瀬さん、出て来はったんちゃうの。……って、まあ、宮仕えの人にはピンとこんかもしれんけどね」
やすえの辛辣な言葉に拓郎は眉を八の字にした。そんな事言われても……と、口の中で言葉をごにょごにょとこねくり回す。
テレビでは記者会見の映像が流れている。頭をてかてか光らせた館山のアップがでかでかと映り、華子がくすくす笑っている。
画面がスタジオに切り替わり、麻生直美が映った。
「議場が騒然となりまして中継はそこで終了になりましたが、その後、道頓堀油田開発計画の詳細について説明がありました。内容についてはこのようになっています」
直美は手元にボードを取り出した。
「まずは既に流出している原油の回収です。道頓堀から原油が流出し始めて五日が経ちます。最初の頃に出た分は既に川を下って大阪湾まで流れだしているため、早急に回収をする必要があります。既にオイルフェンスが張られており、これ以上湾内に油が拡散しないよう対処しているとの事です。今後の大まかな流れとしましては、石油採掘プラントを道頓堀に建設し、そこからパイプラインにより大阪湾内に点在している民間石油会社へ運び、そこで精製、石油関連商品を作るという事です。館山市政になってからもっとも大掛かりな計画と言えます。大阪市の最終的な目論見としては、大阪ブランドの石油関連商品の開発、販売による収益を苦しい財政の救世主としたいというところでしょう」
店の中の全員からほお~っという声が出た。
「壮大な計画やなぁ」
「市役所内では道頓堀油田開発委員会が設立され、各方面の専門家が召集されたという事です。一週間以内に具体的な計画が提出されます。館山市長はできる限り早く石油開発のためのインフラ整備にかかりたいと意気込んでいました」
会見中の館山の映像が映る。
「猶予は無いと考えております。市役所職員はもとより、関係者が一丸となり突き進む所存です。かつて太閤はんが墨俣城を一夜で建てたように、我々もかつてないスピードでの関連施設の建設を行う所存でございます」
「また、大きく出たなぁ。太閤はんを引き合いに出しますか~」
やすえが苦笑いした。画面がスタジオに戻る。
「まさに前代未聞の壮大な計画が発動したという訳ですが、この計画についての問題点はありますか?」
キャスターが身を乗り出すように直美にふった。
「はい。問題は山積と言っていいと思います。まず、石油採掘プラントの建設と一口に言っても、法律的に色々と制約があります。それらを早急に解決しなければなりません。またその管轄省庁が多岐にわたっているため、関連する省庁への根回しなどにどれくらい時間がかかるかが問われます。もう一つは道頓堀油田の埋蔵量です。通常試し堀のための井戸を掘るのには数十億円という膨大な資金がかかります。今回は自然に流出してきた原油ですので、試し掘りは必要ないものの、埋蔵量の調査が出来ていません。調査は今後プラント建設と同時進行で実施するとの事ですが、プラント建設にかかる費用に見合うだけの埋蔵量があるのかどうか。その点を考えると、今回の建設は大阪市の大博打であると言えます」
「おいおい、そんなエエ加減な」
客の一人がテレビに向かって突っ込む。
「しかし同時に今回の石油流出の経済効果は、財政難に悩む大阪市にとって大きな魅力であるのです。この五日間だけでも、十数億円になると言われています。また、納期の短い施設建設という事で労働力が必要になってきます。そのため必然的に建設業者を中心に雇用を拡大しなければなりません。それによって失業率の低下も期待できるでしょう。深刻なホームレス問題を抱える大阪市、大阪府にとっては画期的な公共事業と言えるでしょう。また、間接的なビジネスなどの動きを考慮すれば、大阪経済全体の活性化に繋がると館山市長は考えているようです」
直美の流れるような解説に店内から感嘆の溜息が漏れる。拓郎はぽ~っと画面に見とれていた。
「才色兼備って、この人の事やなぁ。バラエティーもエエけど、ニュースも似合ってるなぁ」
「そこに食いつくか」
やすえが呆れたように拓郎を見た。
「何にせよ当面の間、大阪経済から目が離せないのは確かですね。麻生さん、これからも取材宜しくお願い致します。では次のニュースです」
ニュースのトピックが変わると店の中の興味も一斉にあちらこちらに散らばっていく。拓郎もテレビから目を離すと改めて店内を見回した。
「あれ? 課長は?」
普通なら店の真ん中で陣取っているであろう広瀬の姿がない。姿は見えなくても、どこかからイビキが聞こえてきそうなものだが、気配すらなかった。
「課長は荷物取りに一度市役所へ戻りましたよ」
華子がエプロン姿になって拓郎の前に現れた。
「……何やってんの、アンタ」
「見てわからんか、手伝いや、手伝い」
拓郎はまじまじと頭の先から足の先まで華子を眺めた。どうみてもやすえの娘である弥生よりも年下に見える。
「二人目の娘みたいやろ? それも下の子」
やすえがカウンターの中でけらけら笑った。
「華子、中学生バイトと間違われて補導されんど」
「大きなお世話や」
華子はぷうっとふくれた。
「拓郎くんも手伝いよ、ぼーっとしてんと。これから新製品のたこ焼き作るんやから、アイデア出して!」
「新製品?」
「そや! 道頓堀油田を記念して、どお~んっと目立つたこ焼き作るんやから!」
「……要するに便乗商法ってヤツやな」
「その通り」
華子はえへんっと胸を張る。
「公務員は市民の皆様のために働くのがお仕事なのです。市民の皆様の懐が温かくなるために、山本華子は頑張るのです!」
ここ数日で、華子はだんだん広瀬に似てきたような気がする。誠に広瀬の感染力は凄まじい。拓郎は頭痛がしてきた。
「よっ! ええぞ、華ちゃん! 公僕の鑑!」
店の客から声援が飛んだ。
会見から一週間が過ぎた。
館山は市長室の窓のブラインドを開けると、差し込む朝日に目をしょぼしょぼさせながら一つ大きな欠伸をした。先日の会見の直後から道頓堀油田開発委員会が招集され、連日ほとんど徹夜でプランを練っていたのだ。今朝の七時に一応終了して、二時間ほど市長室のソファーで仮眠を取った。
「徹夜なんて久しぶりやなぁ」
館山は伸びをした。寝不足には違いないが、意外にすっきりしている。ランナーズ・ハイというヤツだろうか。
ノックの音がして秘書の篠原が入ってきた。三日ほど前に急遽秘書として起用した男である。会見後、マスコミ対応や委員会への参加などで急激に公務が立て込んできて自分一人では裁ききれなくなってきていた。館山のあまりの混乱ぶりを見かねて、道頓堀油田開発委員会が「秘書として採用してはどうか」と推挙してきた。
「おはようございます。少しは眠れましたか」
「ああ、眠れたよ。案外すっきり目が覚めた」
「朝食を頼んでおきました。もう十分ほどで届きます」
「おおきに」
篠原匠はまだ三十歳を少し過ぎたところだが、なかなか気の利く男のようだった。無口で無愛想ではあるが、仕事に関しては非常に有能で館山の動きを正確に把握し先に先に動いてくれる。企画の沢木のような甘い顔立ちではないし、どちらかというと地味で目立つことはないが、冴えた顔立ちの男前だ。大阪に本社のある商社に勤務していたが、英語と中国語を使いこなすという語学力が買われて道頓堀油田開発委員会に採用された。今後、海外との交渉も増えるだろうと言う事で、秘書兼通訳という役割を担うことになりそうだった。
「一時間ほど前に知事から電話がありました。今回の件でお話があるそうです。電話ではなく直接お会いしたいという事でしたが、どうされますか」
「富田さんかいな。早速来たな……」
館山は苦笑いを浮かべながら席に座った。大阪府知事の富田幸一である。大阪府と大阪市は「大阪」という言葉を共有しているからか、なんとなく府民や市民からは同一視されている節がある。しかし、全く別の自治体なのだ。よくある構図なのだろうが、強力な連携を必要としつつも、なんとなくよそよそしい空気がいつも両者の間を流れている。「協力」と「対立」という相反する言葉が微妙な距離を保ちつつ同居しているといったところだった。
「会わん訳にもいかんやろ。空いてる時間はあるか?」
「昼食の時間ぐらいですね」
館山は顔をしかめた。
「仕事しながら昼飯食うたら消化不良になるわ。……しゃあないな、今日は富田さんと会食する」
「では先方にはそのようにお伝えします」
篠原は胸ポケットから電子手帳を出すと、素早く入力した。
「市議会からも説明会を開けと催促が来ていますが、どうされますか」
「そんなモン、後回しや。今の段階で議会に内容を出す訳にはいかんやろ。どこそこの建築屋を使えやの、誰々の顔を立てろやの、いらん注文ばかりつけるに決まっとる。ちーっとも埒あかんわい」
苦々しい顔で館山はぼやいた。今回ばかりは議会に振り回される訳にはいかないのだ。間違いなく市会議員からはブーイングが出るだろう。しかし、ブーイングが出ようが、バッシングされようが、議会の賛成は必ず取り付けてみせる。館山にはその自信があった。市議会は利に聡い大阪人の集団だ。本当に儲かるという話になら、必ず乗ってくる。
「では今回は適当にあしらっておきます」
篠原は眉一つ動かさず、冷ややかにそう言った。「あしらっておく」とはまた失礼な言い草だ。この男は時々とんでもなく冷徹な表情を見せる。有能ではあるが、どことなく心を許せないような気がした。とは言いながら、今のところはどっぷり頼るしかない。それほどまでに忙しいのだ。
篠原の携帯電話が軽やかな音楽を奏で始めた。篠原は携帯を出すと、耳に当てる。短いやりとりを交わすと館山に目を向けた。
「市長、朝食が来ました」
朝食後、館山はすぐに公務についた。道頓堀油田開発計画だけが自分の仕事ではない。山のようにたまった書類に目を通し、承認印を押しまくっていく。その間にもひっきりなしに電話が鳴る。最初は篠原が応対し、どうしても館山でなければならない用件だけが転送されてくるのだが、それでも十五分おきには電話に出ていた。
飛ぶように時間が流れていく。
「市長、お時間です」
篠原の声に館山は力なく頷いた。徹夜の後遺症が今頃出てきて、目がとろけて落ちてしまいそうだ。油田の事でアドレナリンが過剰に出ている気がするが、身体は正直なものだ。六十代も半ばになると無理はきかない。
「休憩や、休憩。死んでしまう」
青息吐息で館山が机に突っ伏した。篠原の冷静な声が頭上から降ってくる。
「富田知事との会食です。ニューオカムラでセッティングしました。移動時間に少し休んでください」
「ニューオカムラやったら移動言うたかて十五分くらいやないか」
館山は恨めしそうに篠原を見た。篠原の顔からは微塵の同情も憐みも見えてこない。民間の有能なサラリーマンとはかくも非情なものなのか。このアンドロイドめ! 館山は心の中で毒づいた。
篠原に引きずられるようにして館山は席を立ち、五分後には車中の人となっていた。後部座席に腰を下ろした瞬間、眠りに落ちる。篠原は助手席からわずかに身をひねり、前後不覚で眠りこける館山を見た。
「他愛ない……」
その言葉の中には僅かながら嘲笑の響きがあった。
ぴったり十五分後、館山はたたき起こされた。ふらふらしながら車を降りると、ホテルの玄関に入っていく。
最上階にある懐石料理「風月」の個室に通された。落ち着いた和風の内装でコーディネートされた六畳ほどの広さの部屋にはテーブルと椅子が置かれており、そこには既に富田幸一が座っていた。
「おお、館山さん。今日はお疲れさんのところすまんな」
ブルドッグ系のいかつい顔に満面の笑みを浮かべ、富田が立ち上がって手招きする。
「いえいえ」
館山はいつもの愛想笑いを浮かべ、軽く頭を下げると自分の席についた。
「えらい疲れてはるみたいやなぁ。目の下にクマが出来てるで」
「タコにクマが出来てまっか?」
自虐ネタでひとしきり富田の笑いを誘ってから、館山は冷たいおしぼりで顔を拭き、お冷を一口飲んだ。少しずつ頭がすっきりしてくる。
「見たで、テレビ。えらい事になっとるな。大変やろ?」
ほら、早速来たで……。館山は心の中で呟くと、もう一口お冷を飲む。
「えらいご心配かけて、すんません。緊急会議やなんやかやでご報告が遅れまして。今、委員会を立ち上げて計画を練ってる最中ですわ。たたき台が出来たらすぐにまたご相談にあがりますよって、またよろしくお願いします」
館山は丁寧に頭を下げた。富田は館山より年上で、最大政党であり与党である自由民権党の中でも最大派閥、それも筋金入りの保守派で鳴らしている。知事になる前の参議院議員時代には強行採決の時にテレビ画面の中でかなり派手な大立ち回りをして話題になった事もある。府知事に就任してからはさすがに議会で大暴れしたりはしないが、党の力をバックに府議会ではその存在感を誇示していた。市役所の助役上がりの、お情けのような与党推薦で市長の座についた館山とは格が違うことは館山自身がよく知っている。味方につけると重宝だが、敵とみなされると厄介なのだ。富田と会う時にはいつも神経がピリピリする。
粋な和服のウェイトレスが二人分の膳を運んできた。丁寧な手つきで二人の前に膳を置く。
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