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本編・アリスティアの新学期

断ち斬る一閃

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黄金の蝶に導かれたジークハルトは、扉を開こうとするも全く開かない。渾身の力で扉を叩く。

「アリス!無事ですか!!」

激しい音こそ鳴るものの、部屋の中からは一切音が聞こえず、今どうなっているかわからない。扉はがっちりと固定された様に、びくともしなかった。

「…ッ…扉が開かない…ならば…!!」

ジークハルトは腰に携えた剣を引き抜き、扉に向かって一気に振り下ろす。
扉に接触したジークハルトの剣。鈍い音を立ててその刃は弾かれた。

「ぐぅっ…ダメか…」

ジークハルトが扉を開ける事に四苦八苦していると、少し遅れてバーンとステラがその場へとやってきた。

「焦り過ぎだぞ、王子」

「どうにか…まだ間に合ったみたいね。」

二人はジークハルトの横に立ち扉を見ていた、するとステラはその扉にかけられた魔法を即座に理解したのか、静かに頷いた。
弾き飛ばされたジークハルトの剣を見て
ステラが周囲を見渡しながら言う。

「これは…闇の結界ね。それも、とびきり強力に作用するとっても厄介な奴ね…。王子様や私の魔力では破るのに一日はかかりそうだわ…」

「…そ、それでは…。アリスを助ける事が出来ないのですか…?私にはどうする事も出来ないと…?」

「ちょ…ちょっと、落ち着いて王子様。」

ステラの話を聞いたジークハルトは肩を落とし、自分の無力さに俯いた。

「…王子が姫を助け出す為に、その手助けをする為に俺が居る。」

項垂れるジークハルトの肩をバーンは優しく叩くと、力強い瞳でジークハルトを見た。

「そうそう、私の旦那はこう言う時の為に居る様な物だからね」

ステラも満面の笑みでジークハルトに微笑んでいる。目の前の二人がジークハルトにとってとても心強く感じていた。

「…俺が力を貸す。王子はその剣に、あの娘への想いと、内に眠る全ての力を込めろ。目の前の壁を、その手で撃ち破れ。」

「…ッ!…はい!」

「…さあ、いくぞ。」

バーンはジークハルトの剣に手を添え、静かに呪文を唱え始める。彼の周囲には魔力の奔流が巻き起こる。輝く魔力の粒子は様々な色で満ち溢れた。

─それは強く。それは鋭く。それは煌めく。汝が刃、あらゆる全てを断ち斬る一閃とならん。

輝く魔力の粒子たちは、バーンの掌の元へと集まって行く。そして、その輝きはジークハルトの剣へと吸い込まれて行った。
全ての魔力がジークハルトの剣に吸い込まれると、バーンは彼の往く道を示すかの様に、力強く扉の方向を指差した。

「…さあ、王子、目の前の壁を…その手で叩き斬れッ!!」

「…はいッ!!」

ジークハルトは大きく、上段に振りかぶり輝く剣を構えた。

「はあぁぁッ!!!」

そして、アリスティアへの想いと、渾身の力を込めて、全力で目の前の扉に剣を撃ち込んだ。
光刃煌めく一閃が。炸裂する衝撃音を響かせて目の前の闇を断ち斬り、扉を豪快に破壊する。珍しくバーンは何時もは見せない感嘆とした表情を見せていた。

「見事だ王子。」

「…素敵…これこそ愛の力ね…」

それは、ジークハルトの放つ一閃に向かって
つぶやかれた、彼を見守る恍惚な表情のステラ・ローゼンスフィアの率直な感想であった。

ジークハルトは破壊した入り口から部屋へと勢い良く飛び込んだ。
彼の鋭い視線の先で愛する人に狼藉を働く灰髪の女子生徒が見える。
見覚えの無い女子生徒がアリスティアの細首を掴み上げていたのだった。

「その手を離せッ!!」

ジークハルトは躊躇なく、女子生徒の右腕に輝く刃を振り下ろした。

「チッ…惜しかったわぁ…」

制服の袖を斬り裂いたものの、刃には手応えを感じない。
しかし、ジークハルトにとってそんな事よりも、女子生徒の手から解放されて、床へと落下するアリスティアを、無事に受け止める事の方が重要であった。
腕の中でアリスティアの、肌の温もりを感じたジークハルトは、一瞬安堵のため息を漏らした。

「アリス…生きていてくれて、良かった…」

「けほっ…けほっ…ジー…ク…」

苦しそうにするアリスティアにジークハルトは心配そうに見つめながら、安心させる様に微笑む。
アリスティアは無意識のうちにジークハルトの胸に顔を埋めると、彼はアリスティアを優しく抱いた。

「…忌々しいわ、二人まとめて今すぐ殺してあげる。」

サーラがジークハルト達に向かって手をかざす。ジークハルトはサーラを真剣な眼で見据えていた。すると教室にゆっくりとバーンが入って来た。ピリリと空気が張り詰めた。

「…お前の勝手もそこまでだ。…これ以上、王子達に手を出すと言うのならば、ここから先は俺が相手だ。」

「ローゼンスフィア公爵…!」

「…あなた…とっても嫌な感じがするわね…」

ジークハルトを守る様にして、サーラの目の前にバーンは立つ。彼女は目の前で不敵に笑うバーンを、大分警戒している様だった。

「お前ほどでは無いよ。"その身に何人居る"のか知らないが、だいぶ猿芝居も上手い様だ。」

「…何を言ってるのかわからないわ」

バーンは周囲を見渡す、ヴァルハイトやアリーシャ、他の中級生達が視界に入るとサーラを睨み付けた。

「随分、暴れたようだな、俺の知り合いも痛め付けられている…。その始末を付けさせてもらうぞ。」

「…ッ!!」

サーラは本能で危機を察知した。
バーンから無詠唱で放たれ、超高速の斬撃がX字に撃ち込まれた。
サーラは直感で真横に大きく跳び、間一髪の所でそれを避けた。

「例え、闇の力で無理矢理身体能力を強化しても、その身体では必ず限界が来る。さあ、お前は何時まで俺の攻撃を避けられるかな?」

「見積もりが甘かったわ…これじゃ一気に不利ね…。」

鋭い音を響かせると、バーンの視線の先にある、教室の窓や壁が一気に破壊されて、外から茜色の夕陽が差し込んだ。闇が掻き消されていく。

「…流石に、ここまでね、さようなら…ジークハルト王子、アリスティア姫。」

「そう簡単に逃すものか」

バーンは再度、鋭い一撃を放つが、それはサーラを捉える事が出来ず、虚しく空を斬り裂いた。
サーラは幻影となり、霧の様になって吹き込む風に煽られると、その場から消え去ったのだ。

「ふふ…また会える日を楽しみにしているわ…。」

サーラの言葉が反響する様に響き渡っていた。
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