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本編・アリスティアの新学期
捜索
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アリスティアに留守を任せたジークハルトは学園敷地内を奔走した。
休日を満喫中の学園生徒や学園教師、護衛者、そして従者達。学園の生徒会長として、そして、イスト王国の王子として警鐘を鳴らす。
それだけでも、皆が今後。違った対策を講ずる事ができるだろう、と彼は思った。
学園には自主学習の生徒達が居るが、帰宅してたら伝えれば良いと判断した。
ジークハルトが同棲寮の部屋に戻って来たのは、夕方手前の頃であった。
不可解な広告の件が頭の中にチラつく。
幾ら、外に出るのが心配だと言っても、アリスティアを一人にするべきではなかったのだと、ジークハルトは後に後悔する事となる。
魔導鉱石で設定された魔法の鍵を開ける。
人の中に眠る魔力は其々に色がある様で、寮の利用者しか部屋の鍵が開けられない仕様だ。
「アリス…?居ないのですか?」
つまり、部屋の中にその人がいないと言う事は、自分の意思で外に出たと意味する。
「アリスッ!?」
部屋の中の何処からもアリスティアからの返事がない。
魔導鉱石コンロに置かれた片手鍋の蓋を開けると、湯気と共に漂う料理の良き匂い。
先程までアリスが調理をしていた事を伺わせる。
しかし、人の気配は一切なかった。
ジークハルトの頬を汗が伝う。まさか誘拐なのだろうか…?
焦るジークハルトがふと見たテーブルの上には、布がかけられたオーブンのトレーと、一枚の書き置きが置いてあった。
「…これは…アリスの字…?」
ジークハルトは書き置きに目を通す。
─ジークへ。
ヴァルハイト様の生命に危機が迫っている為、アリーシャ様と助けに学園へと向かっています。
ジークハルトは困惑した。自分が居ない間に一体、何が起きているのだろうか。
「…しかし…これは…。」
彼の脳裏に嫌な予感が走る。
ジークハルトは自室に立て掛けておいた愛剣を、即座に腰にくくり付けると、学園へ向かう準備を整えた。
彼が昂る心を落ち着かせようとしたその時、扉をノックする音が響いた。
「こんばんは、王子様、姫様。」
ステラの声だった。
「今開けます」
ジークハルトが扉を開けると、ステラそしてバーンの姿があった。
「あら、お出かけ?」
「あ、ええ…これからアリスを探しに学園へ…ローゼンスフィア公爵夫妻はどうされたのです?」
「これ、二人に渡すの忘れちゃって。」
ステラの手元には、白金の地に陽光が当たると玉虫色の様に不思議な虹彩を放つ。
ブレスレットの様なものがあった。
「これは…とても素敵な腕飾りですね」
「お菓子の御礼よ」
「きっとアリスも喜びます。」
ステラは微笑む。
「姫様に直接渡したいのだけれど、私達も同行して良いかしら?」
ジークハルトはこくりと頷いた。
「実は、一人で行くのが不安でして…お二人が来てくれるなら心強い。」
「学園に行くのに不安とは…?何かあったのか?」
「ええ、実は…」
不思議そうに尋ねるバーンにジークハルトは広告を手渡した。
「む…?これは…。」
「酷い文章ね」
ステラの言葉にバーンは顔を顰めた。
「それはそうだが…そっちじゃない…。王子、学園へは急いだ方が良いかもしれん。」
「何故ですか?」
バーンの眼は真剣で鋭い。
「この広告から、微かに闇の魔力を感じる。このままでは姫達の身が危ういかもしれん。」
「…アリス…。」
ジークハルトはバーン達と共に学園へと向かい学園に到着するや否や、そこで残っていた生徒に片っ端から聞き込みを始めていた。
「アリスティアとアリーシャを見かけていないか」彼は眉間に皺を寄せた鋭い視線で生徒達に聞き続ける。
彼の姿を見ていたバーンとステラは、ジークハルトのアリスティアに対する執着、或いは依存染みた想いに圧倒されていた。
しかし、ジークハルトの健闘も虚しく、結果的に決定的な情報は集まる事なかった。
学園内の生徒は夕方に近づくにつれどんどんと減ってゆく。ジークハルトに焦りが見えた。
「…何故見つからないんだ…。」
「ねえ、バーン…これもしかして…」
「ああ、隠匿の魔法が使われている可能性が高い。」
バーンとステラは情報と状況を冷静に精査する。
隠匿の魔法により隠したり意識を逸らしたりする魔法である。隠蔽から暗殺までその使用用途は多岐に渡る。しかし、高度な技量を有する為、生徒の中でもかなり優秀でないと扱えない魔法である。
「何か手掛かりは…。」
「…王子。姫の私物を何か持っていたりしないか?俺の魔法で探しだす。」
悩むジークハルトに唐突にバーンは尋ねた。
「私物…ですか…?」
「食器でも、文具でも、手拭いや衣服でもなんでも良い。ただ、彼女が肌身に付けていた物、或いは彼女の身体の一部を媒介にするならば精度は上がる。…それは消滅してしまうがな。」
「バーン…それ、もっと早く言っとくべきだったんじゃない…?」
ステラの言う様に同棲寮なら条件に見合うものが有ったであろう。しかし、こうなる事は彼も予想していなかったのである。
「…これなら如何でしょうか?」
ジークハルトは懐から、アリスティアから貰った、一房に束慣れた黄金の髪を取り出す。
それは彼が御守りとして常に懐に忍ばせている物だった。
「あら、王子様…どうして姫様の髪の毛を…?」
「野暮なことを聞くなステラ。…王子、本当にコレを媒介として使っても良いのか?王子にとってこれは大切な物なのだろう?」
ジークハルトは頷き微笑んだ。
「…アリスが見つかるなら、構いません。」
「…ならば俺も全力を尽くそう。」
バーンはジークハルトからアリスティアの髪を受け取ると、それに掌を合わせて念じはじめた。バーンの周囲で煌めく魔力の粒子が踊っている様に見えた。
─黄金の蝶となりて、汝の主人の元へ、導け
バーンがゆっくりと手を開くと、キラキラと輝く黄金の蝶が彼の掌から無数に飛び立った。
輝く魔力の鱗粉を振り撒きながら蝶達は同じ方向へと飛んで行く。
「急がなければ!!」
「王子様!?ちょっと、落ち着いて。」
ステラの静止も気に留めず、ジークハルトは黄金の蝶に導かれるまま駆け出していた。
「これが若さか。」
「老いも若いも関係ないわ。王子様は姫様の事で頭が一杯なのよ。」
二人はジークハルトを見失わない様に、彼の後を付いて行く。
休日を満喫中の学園生徒や学園教師、護衛者、そして従者達。学園の生徒会長として、そして、イスト王国の王子として警鐘を鳴らす。
それだけでも、皆が今後。違った対策を講ずる事ができるだろう、と彼は思った。
学園には自主学習の生徒達が居るが、帰宅してたら伝えれば良いと判断した。
ジークハルトが同棲寮の部屋に戻って来たのは、夕方手前の頃であった。
不可解な広告の件が頭の中にチラつく。
幾ら、外に出るのが心配だと言っても、アリスティアを一人にするべきではなかったのだと、ジークハルトは後に後悔する事となる。
魔導鉱石で設定された魔法の鍵を開ける。
人の中に眠る魔力は其々に色がある様で、寮の利用者しか部屋の鍵が開けられない仕様だ。
「アリス…?居ないのですか?」
つまり、部屋の中にその人がいないと言う事は、自分の意思で外に出たと意味する。
「アリスッ!?」
部屋の中の何処からもアリスティアからの返事がない。
魔導鉱石コンロに置かれた片手鍋の蓋を開けると、湯気と共に漂う料理の良き匂い。
先程までアリスが調理をしていた事を伺わせる。
しかし、人の気配は一切なかった。
ジークハルトの頬を汗が伝う。まさか誘拐なのだろうか…?
焦るジークハルトがふと見たテーブルの上には、布がかけられたオーブンのトレーと、一枚の書き置きが置いてあった。
「…これは…アリスの字…?」
ジークハルトは書き置きに目を通す。
─ジークへ。
ヴァルハイト様の生命に危機が迫っている為、アリーシャ様と助けに学園へと向かっています。
ジークハルトは困惑した。自分が居ない間に一体、何が起きているのだろうか。
「…しかし…これは…。」
彼の脳裏に嫌な予感が走る。
ジークハルトは自室に立て掛けておいた愛剣を、即座に腰にくくり付けると、学園へ向かう準備を整えた。
彼が昂る心を落ち着かせようとしたその時、扉をノックする音が響いた。
「こんばんは、王子様、姫様。」
ステラの声だった。
「今開けます」
ジークハルトが扉を開けると、ステラそしてバーンの姿があった。
「あら、お出かけ?」
「あ、ええ…これからアリスを探しに学園へ…ローゼンスフィア公爵夫妻はどうされたのです?」
「これ、二人に渡すの忘れちゃって。」
ステラの手元には、白金の地に陽光が当たると玉虫色の様に不思議な虹彩を放つ。
ブレスレットの様なものがあった。
「これは…とても素敵な腕飾りですね」
「お菓子の御礼よ」
「きっとアリスも喜びます。」
ステラは微笑む。
「姫様に直接渡したいのだけれど、私達も同行して良いかしら?」
ジークハルトはこくりと頷いた。
「実は、一人で行くのが不安でして…お二人が来てくれるなら心強い。」
「学園に行くのに不安とは…?何かあったのか?」
「ええ、実は…」
不思議そうに尋ねるバーンにジークハルトは広告を手渡した。
「む…?これは…。」
「酷い文章ね」
ステラの言葉にバーンは顔を顰めた。
「それはそうだが…そっちじゃない…。王子、学園へは急いだ方が良いかもしれん。」
「何故ですか?」
バーンの眼は真剣で鋭い。
「この広告から、微かに闇の魔力を感じる。このままでは姫達の身が危ういかもしれん。」
「…アリス…。」
ジークハルトはバーン達と共に学園へと向かい学園に到着するや否や、そこで残っていた生徒に片っ端から聞き込みを始めていた。
「アリスティアとアリーシャを見かけていないか」彼は眉間に皺を寄せた鋭い視線で生徒達に聞き続ける。
彼の姿を見ていたバーンとステラは、ジークハルトのアリスティアに対する執着、或いは依存染みた想いに圧倒されていた。
しかし、ジークハルトの健闘も虚しく、結果的に決定的な情報は集まる事なかった。
学園内の生徒は夕方に近づくにつれどんどんと減ってゆく。ジークハルトに焦りが見えた。
「…何故見つからないんだ…。」
「ねえ、バーン…これもしかして…」
「ああ、隠匿の魔法が使われている可能性が高い。」
バーンとステラは情報と状況を冷静に精査する。
隠匿の魔法により隠したり意識を逸らしたりする魔法である。隠蔽から暗殺までその使用用途は多岐に渡る。しかし、高度な技量を有する為、生徒の中でもかなり優秀でないと扱えない魔法である。
「何か手掛かりは…。」
「…王子。姫の私物を何か持っていたりしないか?俺の魔法で探しだす。」
悩むジークハルトに唐突にバーンは尋ねた。
「私物…ですか…?」
「食器でも、文具でも、手拭いや衣服でもなんでも良い。ただ、彼女が肌身に付けていた物、或いは彼女の身体の一部を媒介にするならば精度は上がる。…それは消滅してしまうがな。」
「バーン…それ、もっと早く言っとくべきだったんじゃない…?」
ステラの言う様に同棲寮なら条件に見合うものが有ったであろう。しかし、こうなる事は彼も予想していなかったのである。
「…これなら如何でしょうか?」
ジークハルトは懐から、アリスティアから貰った、一房に束慣れた黄金の髪を取り出す。
それは彼が御守りとして常に懐に忍ばせている物だった。
「あら、王子様…どうして姫様の髪の毛を…?」
「野暮なことを聞くなステラ。…王子、本当にコレを媒介として使っても良いのか?王子にとってこれは大切な物なのだろう?」
ジークハルトは頷き微笑んだ。
「…アリスが見つかるなら、構いません。」
「…ならば俺も全力を尽くそう。」
バーンはジークハルトからアリスティアの髪を受け取ると、それに掌を合わせて念じはじめた。バーンの周囲で煌めく魔力の粒子が踊っている様に見えた。
─黄金の蝶となりて、汝の主人の元へ、導け
バーンがゆっくりと手を開くと、キラキラと輝く黄金の蝶が彼の掌から無数に飛び立った。
輝く魔力の鱗粉を振り撒きながら蝶達は同じ方向へと飛んで行く。
「急がなければ!!」
「王子様!?ちょっと、落ち着いて。」
ステラの静止も気に留めず、ジークハルトは黄金の蝶に導かれるまま駆け出していた。
「これが若さか。」
「老いも若いも関係ないわ。王子様は姫様の事で頭が一杯なのよ。」
二人はジークハルトを見失わない様に、彼の後を付いて行く。
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