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隣の席で
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……………【30】。
歓喜する声が入り交じる教室。
仲のいい友達と手を取り合って飛び跳ねちゃったりなんかして、楽しそう…。
わたしはそんな様子を横目で見ながら、【30】の数字が書かれた紙切れを持ったまま、愕然として突っ立っていた。
今は、ホームルームの時間。
なのに、なぜこんなに騒がしい教室内かと言うと、それは席替えのくじ引きが行われたから。
初めの1ヶ月の間は名簿順だったから、中学3年生になってから初めての席替え。
だれと隣の席になるのかなっ?
と、わくわくドキドキしていたのだけれど……。
わたしが引いた30番の隣の席の相手は…なんとっ。
「ひらり~。何番だった?」
親友の島田彩奈がやってきて、わたしのくじ引きの紙を覗き込む。
「30番?…窓際の一番後ろの席じゃん!よかったね♪」
わたしの肩を叩く彩奈。
だけど、そんなことはないっ。
――なぜなら。
「え~と…。30番の隣の席は~…」
座席の番号が描かれた黒板を眺めていた彩奈が…一瞬固まる。
黒板には、座席表が描かれている。
くじ引きで引いた紙に書かれていた番号と同じ番号のところに、チョークで自分の名字を書いていく。
30番のわたしの隣の席の25番のところには、すでに名字が書かれてあった。
その名字とは、――『一条』。
本名、一条晴翔。
その整った顔は、まさにイケメン。
しかも高身長だし、パッと見はまるでモデルかと思うほど。
…だけど。
一匹狼で、クラスのみんなとワイワイするようなキャラではない。
それに、中学生なのに…金髪!
ピアスもしていて、校則違反だらけ。
話しかけてくるなオーラが出ていて、雰囲気は…こわいっ。
笑った顔なんて見たことがない。
そんな不良な見た目で、わたしは同じクラスになってからこの1ヶ月…話かけたことがなかった。
一条くんについては、「イケメン」と言って喜ぶ女の子と、「ぶっきらぼうでこわい」と言って近寄らない女の子との2パターンに分かれる。
わたしは、もちろん後者。
このまま、『クラスメイト』というだけの浅い付き合いで終わると思っていたのに…。
まさか、いきなり隣の席になるなんてっ。
「…どうしよう、彩奈!なに話していいのか、全然わからない…!」
「べつに、なにも話さなくてもいいんじゃない?ただ隣の席ってだけでしょ?」
「そんなこと言うなら、わたしと席かわってくれない!?」
「いやだよ~。アタシ、せっかく爽太と隣の席になれたんだから~♪」
いつもはサバサバしている彩奈が、嬉しさのあまり笑みがこぼれている。
爽太くんとは、彩奈の彼氏。
去年から付き合いだして、この3年生で同じクラスになれて喜んでいた。
「…そっか。それなら、しょうがないね」
ラブラブなカップルを引き離すわけにはいかない。
「まぁ、ひらりならなんとかなるって~」
「またそんな無責任なこと言って~…」
「だってひらり、自分の立場を忘れてるでしょ?たぶんここにいる男子みんな、ひらりの隣を狙ってたと思うよっ」
「それは…言い過ぎでしょ」
「なんでよ?同じクラスに、あの『PEACE』のひらりがいるんだよ?そりゃなれるもんなら、隣がいいに決まってんじゃん♪」
彩奈は、わたしの脇腹をツンツンと突付く。
彩奈の言う『PEACE』とは、女の子3人組の人気アイドルグループ。
去年、紅白に初出場し、今や若い世代だけでなく、幅広い年代への知名度も上がった。
…と、マネージャーが話していた。
そう。
わたしは、そのPEACEのメンバーの1人である、花宮ひらり。
ママが芸能界に興味があって、ベビーモデルとしてオムツのCMに出演したのがきっかけで、小学生のときには教育番組の子役としてレギュラーを務めていた。
そして、小学6年生のときにPEACEのメンバーとして新たにアイドルとして活動を始めた。
歌に恵まれたおかげで、PEACEの人気はデビューしてすぐに急上昇。
若い男性ファンが多いけど、同じ世代の女の子がメイクやファッションを真似してくれたりもする。
だからもちろん、同級生がわたしの存在を知らないわけがないわけで――。
中学に入学した頃は、「PEACEのひらりがいる!」ってことで、他のクラスや先輩たちが物珍しそうに教室まで観にきたりと大変だった。
中学3年生になって、ようやく同級生は慣れてくれたみたいだけど、新入生が入るたびにわたしの存在は噂されていた。
芸能人がいるなら、一目見てみたい。
…その気持ちは、わからなくもない。
だけど、見られる側のわたしにとっては、まるで見物客に見られる動物園の檻の中にいる動物のよう。
PEACEのひらりだからって、特別扱いなんかしてほしくない。
ただでさえ、芸能活動との両立で学校にこられる日が少ないんだから、わたしはただ普通の生徒として普通の学校生活を送りたいだけなのに…。
そんな淡い希望も虚しく、中学最後の年を迎えてしまったというわけ。
わたしを特別扱いしないのは、小学生のときから親友の彩奈だけ。
あっ、あとは彩奈の彼氏の爽太くんかな。
爽太くんはいい意味で空気が読めないから、初対面のときもわたしに気軽に話しかけてくれた。
それが、すごくうれしかったのを覚えている。
だけど、他の男の子はそうはいかない。
この前、隣だった男子だって――。
「ひ…ひらりちゃん!仕事、忙しいの?ボク、PEACEのCD全部買ってるんだ!」
いつまでたっても緊張しっぱなしだし、会えばアイドル活動のことしか聞いてこないし…。
わたしは、休んでいた分の授業内容を聞きたいのに…。
席替えして、今度はそういうのじゃない男の子の隣になれたらな~と思っていたのに――。
まさかの、不良の一条くんだとは想像もしていなかった。
「あの無愛想な一条くんだって、アイドルのひらりが隣ってわかったら、優しくしてくれるかもよ?」
「…ないないっ!絶対、そんなキャラじゃないって!」
「それは、隣になってみないとわからないんじゃない?とっとと行ったー!」
彩奈がわたしのかわりに、30番のところにわたしの名字をデカデカと書く。
隣同士に並んだ『花宮』『一条』の名前は、黒板で見る限りでは仲よさそうに寄り添って見える。
だけど、現実はそんなんじゃなかった…!
「隣だね!よろしく!」
「一番後ろの席でラッキーだよね!」
…なんて、第一声をなににしようかと考えながら荷物をまとめて、新しい席へと向かう。
いろいろ考えを巡らせてみたけど、一条くんから返事が返ってくる気がしない。
いっそのこと、無言で隣に座ってみる…?
…ダメだ。
どれがいいのかわからなくなってきた。
教科書を抱える手に、手汗が滲み出る。
変に緊張してきた。
やっぱり…「よろしくねっ」で、軽く会釈するくらいでいいかな。
よし、それでいこう!
そう思っていたのに――。
新しい席に向かって目に入ったのは、机に顔を伏せて寝ている金髪ヘア。
…でも、なにかがおかしい。
一条くんがいるのは、窓際の一番後ろの席。
そこは、30番である…わたしの席のはず。
なんと一条くんは、席を間違っているようだった…!
一条くんの席は、その隣。
「よろしく」云々の前に、席の指摘から声かけないとだめじゃん~…。
わたしは意を決して、口を開く。
「あ…あの~。そこ、わたしの席なんだけど…」
勇気を振り絞って、声をかけた。
…しかし。
「………………」
…無視されたっ!!
ちょっとくらいに声に反応してくれたっていいのに、まったく微動だにしない。
歓喜する声が入り交じる教室。
仲のいい友達と手を取り合って飛び跳ねちゃったりなんかして、楽しそう…。
わたしはそんな様子を横目で見ながら、【30】の数字が書かれた紙切れを持ったまま、愕然として突っ立っていた。
今は、ホームルームの時間。
なのに、なぜこんなに騒がしい教室内かと言うと、それは席替えのくじ引きが行われたから。
初めの1ヶ月の間は名簿順だったから、中学3年生になってから初めての席替え。
だれと隣の席になるのかなっ?
と、わくわくドキドキしていたのだけれど……。
わたしが引いた30番の隣の席の相手は…なんとっ。
「ひらり~。何番だった?」
親友の島田彩奈がやってきて、わたしのくじ引きの紙を覗き込む。
「30番?…窓際の一番後ろの席じゃん!よかったね♪」
わたしの肩を叩く彩奈。
だけど、そんなことはないっ。
――なぜなら。
「え~と…。30番の隣の席は~…」
座席の番号が描かれた黒板を眺めていた彩奈が…一瞬固まる。
黒板には、座席表が描かれている。
くじ引きで引いた紙に書かれていた番号と同じ番号のところに、チョークで自分の名字を書いていく。
30番のわたしの隣の席の25番のところには、すでに名字が書かれてあった。
その名字とは、――『一条』。
本名、一条晴翔。
その整った顔は、まさにイケメン。
しかも高身長だし、パッと見はまるでモデルかと思うほど。
…だけど。
一匹狼で、クラスのみんなとワイワイするようなキャラではない。
それに、中学生なのに…金髪!
ピアスもしていて、校則違反だらけ。
話しかけてくるなオーラが出ていて、雰囲気は…こわいっ。
笑った顔なんて見たことがない。
そんな不良な見た目で、わたしは同じクラスになってからこの1ヶ月…話かけたことがなかった。
一条くんについては、「イケメン」と言って喜ぶ女の子と、「ぶっきらぼうでこわい」と言って近寄らない女の子との2パターンに分かれる。
わたしは、もちろん後者。
このまま、『クラスメイト』というだけの浅い付き合いで終わると思っていたのに…。
まさか、いきなり隣の席になるなんてっ。
「…どうしよう、彩奈!なに話していいのか、全然わからない…!」
「べつに、なにも話さなくてもいいんじゃない?ただ隣の席ってだけでしょ?」
「そんなこと言うなら、わたしと席かわってくれない!?」
「いやだよ~。アタシ、せっかく爽太と隣の席になれたんだから~♪」
いつもはサバサバしている彩奈が、嬉しさのあまり笑みがこぼれている。
爽太くんとは、彩奈の彼氏。
去年から付き合いだして、この3年生で同じクラスになれて喜んでいた。
「…そっか。それなら、しょうがないね」
ラブラブなカップルを引き離すわけにはいかない。
「まぁ、ひらりならなんとかなるって~」
「またそんな無責任なこと言って~…」
「だってひらり、自分の立場を忘れてるでしょ?たぶんここにいる男子みんな、ひらりの隣を狙ってたと思うよっ」
「それは…言い過ぎでしょ」
「なんでよ?同じクラスに、あの『PEACE』のひらりがいるんだよ?そりゃなれるもんなら、隣がいいに決まってんじゃん♪」
彩奈は、わたしの脇腹をツンツンと突付く。
彩奈の言う『PEACE』とは、女の子3人組の人気アイドルグループ。
去年、紅白に初出場し、今や若い世代だけでなく、幅広い年代への知名度も上がった。
…と、マネージャーが話していた。
そう。
わたしは、そのPEACEのメンバーの1人である、花宮ひらり。
ママが芸能界に興味があって、ベビーモデルとしてオムツのCMに出演したのがきっかけで、小学生のときには教育番組の子役としてレギュラーを務めていた。
そして、小学6年生のときにPEACEのメンバーとして新たにアイドルとして活動を始めた。
歌に恵まれたおかげで、PEACEの人気はデビューしてすぐに急上昇。
若い男性ファンが多いけど、同じ世代の女の子がメイクやファッションを真似してくれたりもする。
だからもちろん、同級生がわたしの存在を知らないわけがないわけで――。
中学に入学した頃は、「PEACEのひらりがいる!」ってことで、他のクラスや先輩たちが物珍しそうに教室まで観にきたりと大変だった。
中学3年生になって、ようやく同級生は慣れてくれたみたいだけど、新入生が入るたびにわたしの存在は噂されていた。
芸能人がいるなら、一目見てみたい。
…その気持ちは、わからなくもない。
だけど、見られる側のわたしにとっては、まるで見物客に見られる動物園の檻の中にいる動物のよう。
PEACEのひらりだからって、特別扱いなんかしてほしくない。
ただでさえ、芸能活動との両立で学校にこられる日が少ないんだから、わたしはただ普通の生徒として普通の学校生活を送りたいだけなのに…。
そんな淡い希望も虚しく、中学最後の年を迎えてしまったというわけ。
わたしを特別扱いしないのは、小学生のときから親友の彩奈だけ。
あっ、あとは彩奈の彼氏の爽太くんかな。
爽太くんはいい意味で空気が読めないから、初対面のときもわたしに気軽に話しかけてくれた。
それが、すごくうれしかったのを覚えている。
だけど、他の男の子はそうはいかない。
この前、隣だった男子だって――。
「ひ…ひらりちゃん!仕事、忙しいの?ボク、PEACEのCD全部買ってるんだ!」
いつまでたっても緊張しっぱなしだし、会えばアイドル活動のことしか聞いてこないし…。
わたしは、休んでいた分の授業内容を聞きたいのに…。
席替えして、今度はそういうのじゃない男の子の隣になれたらな~と思っていたのに――。
まさかの、不良の一条くんだとは想像もしていなかった。
「あの無愛想な一条くんだって、アイドルのひらりが隣ってわかったら、優しくしてくれるかもよ?」
「…ないないっ!絶対、そんなキャラじゃないって!」
「それは、隣になってみないとわからないんじゃない?とっとと行ったー!」
彩奈がわたしのかわりに、30番のところにわたしの名字をデカデカと書く。
隣同士に並んだ『花宮』『一条』の名前は、黒板で見る限りでは仲よさそうに寄り添って見える。
だけど、現実はそんなんじゃなかった…!
「隣だね!よろしく!」
「一番後ろの席でラッキーだよね!」
…なんて、第一声をなににしようかと考えながら荷物をまとめて、新しい席へと向かう。
いろいろ考えを巡らせてみたけど、一条くんから返事が返ってくる気がしない。
いっそのこと、無言で隣に座ってみる…?
…ダメだ。
どれがいいのかわからなくなってきた。
教科書を抱える手に、手汗が滲み出る。
変に緊張してきた。
やっぱり…「よろしくねっ」で、軽く会釈するくらいでいいかな。
よし、それでいこう!
そう思っていたのに――。
新しい席に向かって目に入ったのは、机に顔を伏せて寝ている金髪ヘア。
…でも、なにかがおかしい。
一条くんがいるのは、窓際の一番後ろの席。
そこは、30番である…わたしの席のはず。
なんと一条くんは、席を間違っているようだった…!
一条くんの席は、その隣。
「よろしく」云々の前に、席の指摘から声かけないとだめじゃん~…。
わたしは意を決して、口を開く。
「あ…あの~。そこ、わたしの席なんだけど…」
勇気を振り絞って、声をかけた。
…しかし。
「………………」
…無視されたっ!!
ちょっとくらいに声に反応してくれたっていいのに、まったく微動だにしない。
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