隣の席の一条くん。

中小路かほ

文字の大きさ
2 / 28
隣の席で

2P

しおりを挟む
「さぁ、みんな!新しい自分の席に着いて~!」


ほら、先生だってああ言ってる。

早くしないと、1人だけ立っていて目立っちゃうじゃん。


「ねぇ…!ちょっと…!」


思いきって、一条くんの肩を揺すろうとして…気がついた。


まるで、金の糸のような細くて柔らかい前髪からうっすらと見える…つむった目。

うらやましいくらいに、まつげが長かったのが印象的だった。


…寝てる。

あのこわいイメージの一条くんが、…こんな無防備な顔をして。


と、その美しい寝顔を眺めようとしたときには、わたしの手は一条くんの肩に触れていた。


夢現にゆっくりと開いた一条くんの目とわたしの目が、一直線に重なる。


「…なに?」


それが、一条くんがわたしに発した最初の言葉だった。


表情を見る限りでは、気持ちのいい昼寝を邪魔されて、…少し不機嫌なのかな。

ちょっと睨んでいるように見えて…こわい。


で…でも、こんなことでへたるものか…!


「そっ…そこ、わたしの席なんだけどっ」

「…ここ?」

「一条くん、こっちの席じゃない…?」


わたしが隣の席を指差すと、黒板の座席表に目を移す一条くん。


「席がそっちだったとしても、俺の席はここなんだよ」

とか、

「お前、俺に逆らう気?」

とか、そんな言葉が返ってくると思ったから、それに備えて身構える。


…しかし。


「…あ、ほんとだ」


とだけ呟いて、一条くんはすぐに自分の荷物をまとめると、あっさりと隣の席に移動した。


何事もなく、無事に席替えができたことに拍子抜けしてしまう。



さっきまで一条くんが座っていた席に着く。


窓から、心地よい光が差し込んできて、ポカポカしていてなんだか眠たくなってくる。

一条くんが寝ていた理由もわかる気がする。


「ねぇ」


窓の外を眺めていると、急に声がした。

見ると、それは隣に座る一条くんからだった。


初めて、一条くんに話しかけられた…!


驚きと、少しのうれしさが入り混じりながら相づちを打つ。


「な…なに?」

「さっきさ、俺の名前呼んだよね。なんで名前知ってんの?」

「…えっ?」


そう言われて、思わずポカンとしてしまった。


なんでって、…このクラスになって1ヶ月。

さすがに、クラスメイトの顔と名前くらい覚えてるでしょ。


わたしがそう説明すると、なぜか一条くんは困ったように頬をかく。

そして、わたしの顔を見て、首を傾げる。


「…ごめんっ。俺、あんたの名前、知らないや」


…なっ……!


こんなことは初めてだった。


1ヶ月も同じクラスにいて、わたしの名前を知らないだなんて…。

この感じだと、クラスメイト全員覚えていない可能性が高い。


そもそも、わたしは芸能活動もしているから、覚えてもらえないことなんてなかった。


わたしが知らない人でも、向こうはわたしのことを知っている。

それが、これまでの生活だった。


芸能人として特別扱いされるのは好きじゃないけど、まるで空気のように初めからいなかったかのような対応をされるのも、それはそれでちょっと傷つく。


「…あんた、名前は?」

「わ…わたしは、花宮ひらり!」


自己紹介をすれば、「えぇ~!?もしかして、PEACEのひらりちゃん~!?」と聞き返されるのが、いつものパターン。


だけど、一条くんに関しては…。


「…花宮ひらり?変な名前っ。…まぁ覚えておくよ。忘れるかもだけど」


それだけ言って、また寝てしまった…!


わたしのことなんて、まったく興味ナシ!


…なんか。

思っていた感じと全然違う。


これまで隣になった男の子は、やたらとちやほやしてきた。


他の女の子にはしないようなことまで、わざわざしてくれたり。

無駄に優しかったり。


そんなことで気を遣われて疲れたりしたけど――。

一条くんは違った。


芸能人のわたしに特別扱いなんてしてこないし、そもそもわたしが芸能人ってことも知らないんじゃないかな?

この様子だとっ。


おそらく、隣がわたしじゃなくても、一条くんは同じような態度を取ったことだろう。


だから、特別扱いされないことが…かえって新鮮に思えて。

なんだかうれしくなってきた。


「これから隣同士だし、よろしくねっ」


こわいという第一印象もどこかへ消えて、わたしは自ら一条くんに話しかけていた。


だけど、一条くんからの返事はなし。


聞き耳を立てたら、机に顔を伏せる一条くんからわずかに寝息が聞こえてきた。


マイペースすぎて、思わず笑ってしまう。


仲よくなれるかはまだわからないけど、この席はわたしが思っていたよりも居心地は悪くはなさそうだ。



次の日。

登校したら、いつものくせで前の席に座りかけてしまった。


…違った、違った。

昨日席替えをして、わたしは窓際の一番後ろの席になったんだった。


そして、その隣は不良の一条くん。


今日は、まだきていないみたい。



「ひらり~!おはよー!」


わたしが自分の席で1限の用意をしていると、彩奈がやってきた。


「おはよー、彩奈」

「で、どうよ?一条くんの隣は?」


彩奈は、小声で話しかける。


「さすがの一条くんも、ひらりが隣でびっくりしてたんじゃないの~⁉︎一条くんの驚く顔とか、想像できないんだけどー!」


彩奈は、一条くんがわたしがPEACEのひらりだと知っているていで話している。

…だけど、実際は――。


「一条くん、そもそもわたしのこと知らなかったから、べつに反応は普通だよ?」

「…は⁉︎PEACEのことも知らないのっ⁉︎」

「うん。というか、わたしの名前すら知らなかったみたい」

「…信じらんないっ。テレビとかネットとか見ないの!?」

「さ~…。どうなんだろうね~?」


わたしは、苦笑いする。


これでも一応、新曲を出せば歌番組には出演しているし、PEACEのメンバーでお菓子のCMにも出ている。

テレビをつければ、どこかしらでわたしを見る機会はあると思うんだけど。


「でも、わたしのことを知らない人に出会うのは初めてのことだったから、なんかちょっと新鮮に感じちゃった」

「そっか~。興味本位でいろいろと聞いてこられると、だれだって疲れるもんね」

「うん。だから、それに比べて一条くんは――」


と、彩奈と話していると…。


「ひらりちゃ~ん♪」


廊下から声が聞こえて、反射的に振り返る。

すると、そこにいたのは隣のクラスの三好(ミヨシ)くんだった。


隣のクラスと言っても、去年までは同じクラスだった元クラスメイトだ。


「おはよ、ひらりちゃん♪」

「お…おはよっ」


男の子なのに、猫なで声で話しかけてくるから、実は苦手なんだよね~…。


わたしが軽く手を振ると、呼んでもいないのに三好くんが教室の中へ入ってきた。


「ひらりちゃん、昨日のクイズ番組見たよ!」

「ありがとうっ…」


三好くんは、会ったときからわたしのファンだと言っていた。

だから、出演する番組は欠かさず見ていて、録画までしてくれているんだとか。


「でも、おしかったね~…。あとちょっとで優勝できたのに!」


…あ。

と思ったときには、すでに三好くんは一条くんの席に座っていた。


「あの問題は、中学生じゃ無理だよな~。番組側もそれくらいわかって、出題してほしいよね~!」


三好くんの一方的な会話。


…ある意味、なんだか懐かしい。


去年も、こうして席替えで隣の席になったときには、休み時間の間は延々と話をされた。

そういうときは、いつも彩奈が助けにきてくれていた。


「ちょっと、三好~!ひらりに近づきすぎっ!」


そう、こういう風に。


だけど三好くんは、ちょっとやそっとのことじゃ離れない。


わたしも同級生とはいえ、“ファン”だと言ってくれている人を無碍にはできない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@1/9新刊発売
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

処理中です...