隣の席の一条くん。

中小路かほ

文字の大きさ
3 / 28
隣の席で

3P

しおりを挟む
このままだと、チャイムが鳴るまで居座りそうな勢いだ。


どうしたものかと困っていると…。


――ふと、空気が変わったような気がした。

静電気が発生したかのようなビリッとした感覚が肌に伝わるような。


わたしと同じ感覚を三好くんも察知したのか、マシンガントークが急に止んだ。


そして、三好くんがおそるおそる振り返ると――。


「そこ、俺の席なんだけど」


三好くんの後ろに立っていたのは、なんと一条くんだった…!


驚いた拍子に、三好くんのメガネがずれている。


「いっ…いいい、一条…!?なんで…ここにっ」

「だから、お前が今座ってるその席…、俺のだっつってんだろ」


一条くんに見下ろされていた三好くんが、慌てて立ち上がる。

それは、今まで見たこともない速さだった。


「じゃ…じゃあ、ひらりちゃん!ま…またねっ…!」


三好くんは声を震わせながらそう言うと、あっという間に自分の教室へ戻って行った。


一条くんは、机の上に荒々しくカバンを置くと、さっきまで三好くんが座っていた席にドカッと腰を下ろす。


三好くんがいなくなって、また教室は元の静けさを取り戻す。


「…ねぇねぇっ。もしかして一条くん、ひらりのこと助けてくれたんじゃないの?」


彩奈が、一条くんには聞こえないくらいの声で、わたしにそっと耳打ちをする。


「…えっ?それはないよー。たまたまでしょ?」

「そうかな~?それにしては、タイミングよすぎだったんだけどなー」


またまた~…。

それは、彩奈の考えすぎっ。


自分の席にだれかが座っていたら、声くらいかけるでしょ?


一条くんは、その声のかけ方がほかの人よりもちょっとこわいだけ。

と、三好くんがビビリなだけ。


それに、一条くんに助けてもらうほど、わたしたちは仲がいいわけではないし。



そのあと、1限の数学の授業が始まった。


わたし、…数学って苦手。

授業を聞いているつもりだけど、ちんぷんかんぷん。


なのに、隣の席の一条くんと言ったら――。

心地よい寝息を立てて、爆睡中…!


ノートも取ってないみたいだし、そもそも教科書すら開いていない!


前までは席が離れていたから、普段の一条くんの授業態度なんて知らなかったけど、まさかこんなにあからさまに寝ているとは思わなかった…。


それなのに、当てられる問題はすべて正解。


1限目の数学も、2限目の英語も、3限目の社会も。


寝ているはずなのに、当てられても焦る様子もなく、冷静に答えている。


本当は起きてるのかな…⁉︎

と思って顔を覗き込んでみるけど、…やっぱり寝ているっぽい。


しかも、まるで日向ぼっこをしているネコのように気持ちよさそうな顔をしているから、なんだか起こす気にもなれない。


当てられた問題は、すべて答える一条くん。

だけど、彼にも欠点があった。



それは、4限の国語の時間。


「それじゃあ、一条くん。続きを読んで」


先生が当てたのは問題の回答ではなく、教科書の朗読。


寝起きの一条くんは、まだ完全に起きていないのか、目がとろんとしている。

もちろん、机の上に教科書はない。


すると一条くんは、ぼんやりとした表情でゆっくりとたしの方に顔を向ける。


「これ、借りるよ」


それだけ言うと、勝手にわたしの教科書を奪っていった。


その際に、読むところをシャーペンで指した。


「ありがと」


かすかに聞こえたお礼に、少しだけ胸がドキッとなった。



一条くんが読み終えると、先生はため息を吐く。


「一条くん、自分の教科書は?」

「…忘れました」

「はぁ…。じゃあ、悪いけど花宮さん。一条くんに見せてあげてくれる?」

「は…はい!」


わたしが返事をすると、頭の上に教科書が置かれた。


「ありがと。助かった」


一条くんはわたしに教科書を返すなり、また机に顔を伏しておやすみモード。


「…一条くんっ!教科書、見ないのっ?」

「いいよ、俺は」


…って言われても、先生に見せるように言われたんだけど。


でも、わたしと一条くんの距離は床のタイル2個分離れている。

その間に教科書を浮かせない限り、いっしょに見るには難しい距離だ。


だったら……!


わたしは机の両角を持つと、一気に一条くんの机に引き寄せた。


ピタリとくっつく、わたしと一条くんの机。

その振動で、伏せていた一条くんが顔を上げる。


そして、すぐ隣にいるわたしと目が合う。


「…なに?」

「教科書…。いっしょに見るために」

「だから、俺はいいって言ったじゃん」

「でも、こうして机くっつけたら、いっしょに見れるでしょ?」

「わざわざそんなことしなくていいのに。…変なの、花宮さん」


腕を枕にしながら、眠たそうな表情の一条くんが呟いた。


なにも、変なことはしていない。

ただ、国語の教科書を忘れた隣の人に、自分の教科書を見せてあげてるだけ。


…でも、なんだかちょっと嬉しかったり。


なぜなら、――昨日。


『…花宮ひらり?変な名前っ。…まぁ覚えておくよ。忘れるかもだけど』


って言ってたのに、わたしのこと…『花宮さん』って呼んでくれた。


名前…、覚えててくれていたんだ。


他人には一切興味なさそうな一条くんに、名前を呼んでもらえて…。

たったそれだけのことなのに、すごく嬉しかった。



一匹狼で。

金髪で、ピアスもしてて、不良で。

制服も着崩していて、校則違反だらけで。

無愛想で、こわい人だと思っていたけど――。


実は、聞いてなさそうで授業は聞いていて。

名前なんて覚えるつもりなさそうな言い方して、ちゃんと覚えてくれていて。


隣の席になってみて、わたしが知らない一条くんが少しずつ見つかっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@1/9新刊発売
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

黒地蔵

紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

処理中です...