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第2章ダンジョンの怪物
16消えない善意
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〈ブー!〉
〈プレイヤー『鮫島』は、『逃げる』を選択致しましたので実行します〉
不気味な機械音は絶望を告げた。
その残酷な現実を俺は飲み込むことが出来ない。
今も地面に膝と手をついて呼吸を整えようと必死だ。
そして、少しばかり息を出し入れ出来るようになると、ゆっくりと鮫島の方向を向いた。
先程まで苦悶の表情を浮かべていた俺が、呆気(あっけ)に取られている様子は滑稽(こっけい)だろう。
「え?……」
「奴隷君? そんなに驚いてどうしたのかな。ははは!」
笑う鮫島と、何が起きたのか理解できていない俺。
俺にいたっては、鮫島の方を向いたままずっと動けない。
ようやく出た声は震えたカスカスな声だった。
「ねぇ鮫島君。『コマンド』を押し間違えただけなんだよね? 早く『逃げる』を取り消してよ」
縋(すが)るような声。当たり前だ。
もし、この場で鮫島が抜けてしまったら、俺はずっと松尾を庇(かば)い続けるだけで時間が過ぎてしまう。そうすれば俺と松尾の死は確定する。
「なんか言ってよ!」
「………」
俺の悲痛な叫びにも似た懇願(こんがん)は、聞き入れられないようだ。
鮫島は、こちらに笑顔を見せて黙っているだけ。
何を考えているのか分からない。
結局俺の訴えに答えたのは、鮫島ではなく機械音だった。
〈『逃げる』を選択致しましたので、プレイヤー『鮫島』は戦闘を離脱します〉
これで鮫島の離脱が確定した。
俺の耳は、おかしくなったのか?
なんで鮫島が『逃げる』を選択してるんだよ。それも笑顔でさ。
もう我慢の限界だ。
俺はあいつが許せなかった。
憎しみが抑えきれずに、顔の筋肉が震える。
地面に這いつくばっている状態なので、まるで野良犬が吠えているように見えるだろう。だけど、それでも構わない。
「鮫島ぁ!」
ダンジョン内に響くような大声。生まれてこのかた、こんな大声を出した事はない。
俺はそれほど怒り狂っていたんだ。松尾と俺を見捨てた『王(キング)』に対して。
「ははははは」
対する鮫島はわらっていた。
「そんな怒るなって奴隷君。お前も次のターンに『逃げる』を選択すればいいだろ? 松尾の奴はしばらく目を覚まさないだろうし。逃げられるぞ」
「さっき言ってた、いい考えってそれだったのかよ……」
「あぁ、そうだよ。お前に言ったら面倒になりそうだったからな」
「………」
「どうした? 俺は先にダンジョンを出てるからな」
鮫島はそう言い残すと来た道を戻って歩いていった。後悔がないみたいだ。
軽い足取りで、後ろを振り向く気配すらない。
ふつふつと怒りがこみ上げた蓮は、その背中に向かって吠えた。
「ふざけるな! 俺は残るぞ」
「ひゅ~。カッコいいね」
馬鹿にしたような口調。鮫島は、後ろを振り向かずにそのまま歩いて行った。
本当に行ってしまった。おれはどうすればいい?
このまま、いつ目を覚ますか分からない松尾のために、化け物の攻撃を受け続けるのか。
正直もう嫌だ。勝てるか分からないのにあんな痛みに耐え続けるなんて、俺にはもうできない
鮫島の考え方も合ってはいる。
確かに今『逃げる』を選択すれば松尾以外は必ず逃げられるかもしれない。
そうすれば幼馴染の氷華にだって会えるのだ。
でも、そんな事出来るわけないだろう。
俺は覚悟を決めた。
眼を閉じてゆっくりとその場に立ち上がり、静かに呟いたんだ。ただ一言だけ。
「ごめん氷華」
って。
〈プレイヤー『鮫島』は、『逃げる』を選択致しましたので実行します〉
不気味な機械音は絶望を告げた。
その残酷な現実を俺は飲み込むことが出来ない。
今も地面に膝と手をついて呼吸を整えようと必死だ。
そして、少しばかり息を出し入れ出来るようになると、ゆっくりと鮫島の方向を向いた。
先程まで苦悶の表情を浮かべていた俺が、呆気(あっけ)に取られている様子は滑稽(こっけい)だろう。
「え?……」
「奴隷君? そんなに驚いてどうしたのかな。ははは!」
笑う鮫島と、何が起きたのか理解できていない俺。
俺にいたっては、鮫島の方を向いたままずっと動けない。
ようやく出た声は震えたカスカスな声だった。
「ねぇ鮫島君。『コマンド』を押し間違えただけなんだよね? 早く『逃げる』を取り消してよ」
縋(すが)るような声。当たり前だ。
もし、この場で鮫島が抜けてしまったら、俺はずっと松尾を庇(かば)い続けるだけで時間が過ぎてしまう。そうすれば俺と松尾の死は確定する。
「なんか言ってよ!」
「………」
俺の悲痛な叫びにも似た懇願(こんがん)は、聞き入れられないようだ。
鮫島は、こちらに笑顔を見せて黙っているだけ。
何を考えているのか分からない。
結局俺の訴えに答えたのは、鮫島ではなく機械音だった。
〈『逃げる』を選択致しましたので、プレイヤー『鮫島』は戦闘を離脱します〉
これで鮫島の離脱が確定した。
俺の耳は、おかしくなったのか?
なんで鮫島が『逃げる』を選択してるんだよ。それも笑顔でさ。
もう我慢の限界だ。
俺はあいつが許せなかった。
憎しみが抑えきれずに、顔の筋肉が震える。
地面に這いつくばっている状態なので、まるで野良犬が吠えているように見えるだろう。だけど、それでも構わない。
「鮫島ぁ!」
ダンジョン内に響くような大声。生まれてこのかた、こんな大声を出した事はない。
俺はそれほど怒り狂っていたんだ。松尾と俺を見捨てた『王(キング)』に対して。
「ははははは」
対する鮫島はわらっていた。
「そんな怒るなって奴隷君。お前も次のターンに『逃げる』を選択すればいいだろ? 松尾の奴はしばらく目を覚まさないだろうし。逃げられるぞ」
「さっき言ってた、いい考えってそれだったのかよ……」
「あぁ、そうだよ。お前に言ったら面倒になりそうだったからな」
「………」
「どうした? 俺は先にダンジョンを出てるからな」
鮫島はそう言い残すと来た道を戻って歩いていった。後悔がないみたいだ。
軽い足取りで、後ろを振り向く気配すらない。
ふつふつと怒りがこみ上げた蓮は、その背中に向かって吠えた。
「ふざけるな! 俺は残るぞ」
「ひゅ~。カッコいいね」
馬鹿にしたような口調。鮫島は、後ろを振り向かずにそのまま歩いて行った。
本当に行ってしまった。おれはどうすればいい?
このまま、いつ目を覚ますか分からない松尾のために、化け物の攻撃を受け続けるのか。
正直もう嫌だ。勝てるか分からないのにあんな痛みに耐え続けるなんて、俺にはもうできない
鮫島の考え方も合ってはいる。
確かに今『逃げる』を選択すれば松尾以外は必ず逃げられるかもしれない。
そうすれば幼馴染の氷華にだって会えるのだ。
でも、そんな事出来るわけないだろう。
俺は覚悟を決めた。
眼を閉じてゆっくりとその場に立ち上がり、静かに呟いたんだ。ただ一言だけ。
「ごめん氷華」
って。
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